9月23日 日曜日
夜中なのか、明け方なのか、
遠くの方で叫び声が聞こえる。
酔っ払いが大声でわめいているようだ。
こっちのほうに近づいてくる。
テントは道から見えにくい暗がりに張ってるので、見つかることはないだろうと思い、そのまま眠っていた。
どんどんわめき声が近づいてくる。数人いるようだ。
寝静まった住宅地に響く迷惑なドイツ語のわめき。
かなり近づいたところで声が消えた。
あ、どっか行ったかなと思って寝返りを打った瞬間だった。
テントがバサバサ!!と揺れた。
びっくりして飛び起きた。
笑い声が薄いテントのビニールの外で回っている。
囲まれている!!
固定の杭が抜かれたみたいで、テントがひっくり返されそうになる。
あー!あー!と声を出すが止まらない。
エントランス部分が倒され、笑い声は動き回る。
金属音がアスファルトに散らばる音。あ、杭を放り投げられた。
怖くて怖くて仕方なく、怒鳴ることもできない。
ナイフを持って入ってこられたらお終いだ。
永遠に続くかと思える恐怖。
このままじゃエスカレートする。
意を決して外に出た。
真っ暗な空き地。
10mくらい向こうで黒い人影が2つ、こっちを見ている。
向こうも警戒しているようで近づいてこない。
その距離を保ったまま、10分くらいかな。
頼むからどっか行ってくれという願いも虚しく、こっちに歩いてきた。
先手必勝。
文武
「ハロー。」
ドイツ人
「ソーセージソーセージヒトラー。」
文武
「English please.」
ドイツ人
「? Where are you from?」
文武
「Japan」
ドイツ人
「Oh!! Japanese!! ガンバオオサカ!サンフレッチェヒロシマ!!」
サッカー好きな兄ちゃん、いきなり笑顔に。
さっきまでの暴挙を知らないふりしてフレンドリーに接してくる。
ドイツ人
「I hope you safe travel.」
ドイツ人
「You must be carefull.」
なにが安全な旅をだ。
てめーら頭おかしいのか?
今まで何してやがったんだよ。
チャオと笑顔で手をふって彼らはどこかに消えて行った。
とにかく危機は乗り切った。
あー、怖かったとタバコをふかした。
喉が痛い。
どうやら風邪のひきはじめのようだ。
寒い寒いと、半分崩れたテントの中に潜り込んだ。
眠りに落ちそうになってる時に、テントの外で金属音がしたが、気にせずそのまま夢の中へ。
ひどい夢を見た。
地元の友達と遊んでいたら、みんなの様子が変で、ケータイを捨てられ、足を切られそうになった。
みんなドラッグでおかしくなっていた。
怖い体験と風邪のせいだったんだろうな。
目が覚めると、喉が腫れ上がっていて、ツバを飲み込むだけで痛みが顔をおおった。
完全に風邪だ。
あー、俺こんな体弱かったっけなぁ。
しかしボンヤリしてるわけにもいかないので、外に出てテントを畳もうとしたら、入り口の脇に抜かれたはずの杭がまとめて置いてあった。
あいつら、集めてきてくれたんだな。
これからはマジで寝る場所を吟味しないとな。
次の町に移動するため中央駅へ。
きつい。
肩に食い込むバッグ。
テントが加わって重さが半端じゃない。
体が衰弱してるのがわかる。
なんとか駅にたどり着き、次の目的地であるフュッセンへの電車に乗りこんだ。
今日はとてもいい天気。
のどかな牧草地の緑がまぶしい。
ゆるやかな丘に牛や山羊の姿。
その時、草原の向こうに巨大な山脈が見えた。
あれがアルプスか。
有名なだけに感慨深い。
あの切り立った山脈の向こうはオーストリアだ。
そんな風景に見とれていて、また電車は目的の駅を通りすぎた。
俺のせいじゃねえ!!
なんでだ?
なんで止まらなかったんだ?
え?バスみたいに降りますボタンを押さないといけないシステムなの?
おかげで一本先の駅で降りてしまった。
フュッセン行きのバスの時間までは30分あるので、歩いてもどれば間に合わないこともないが、せっかくなのでヒッチハイクをしよう。
のどかな田舎道で指を立てる。
風邪がきつすぎて、腕を水平にあげとくのもしんどい。
あー、きつすぎる。
芝生の上にへたりこみ、やっぱりバスで行こうか考える。
いや、諦めたら面白くない。
必ずつかまると信じて指を立てる。
そうして目の前に車が滑り込んだ時の嬉しさったらない。
見事フュッセン行きの車をゲット。
地元の兄さんに乗せてもらい、オーストリアとの国境の町、フュッセンに到着。
そして、見えてしまった。
あれか。
あれがノイシュバンシュタイン城か。
見えるかな?写真のちょうど真ん中あたり。
俺たちがヨーロッパのお城って言われて、想像するそのまんまのイメージのお城だ。
アルプスの荒々しい山の中腹に、タイムスリップしたような巨大なお城があった。
なんとかあそこまで行きたいんだけど、体がきつくて動けない。
ベンチにへたりこんでうなだれてる姿を散歩のおじさんおばさんが見て行く。
休み休みしながら、フュッセンの中心部にまで歩いてきた。
田舎の小さな町。
やはりここも城壁が町を囲っており、その中に町並みが密集している。
昔は城壁の外はなんにもない草原だったんだろうな。
城門をくぐると、古びた中世の町並みが残っている。迷路のように入り組む路地。
大きな教会やカフェ、レストラン。
流行の洋服屋さんとかもあるが、やはり、骨董品や土産物屋さんが多いのは観光地だからだろうな。
こいつは稼げる匂いがプンプンしやがる。
それにしても、
アジア人だらけ。
アジア人こういうお城好きなんだろうな。
ここはドイツなのに通りを歩いている人はアジア人のほうが多い。
日本人もめちゃ多い。
大学生風の女の子のグループとか。
めっちゃウキウキなんだろうな。
よーし、明日ここで歌うから声かけてやる!と言いたいところだけど、こんな体調じゃとても歌えないな(´Д` )
夕闇迫る城壁をあとにして、寝床を探した。
おぼろ月がアルプスの上で光っている。
頭痛い、喉痛い、服が肌とこすれて痛い。
ふらふらと歩いて芝生を見つけ、そこにテントを張った。
アルプスから流れる川で足と靴下もチャパチャパ洗った。
いい加減そろそろネットつなぎたいな。
植松さんやマメサワさんにお礼のメールも出来ていない。
お母さんも心配してるだろうなぁ。
Facebookの友達申請とかがすごいことになってるはず。
あと2~3日でミュンヘンに戻れるはず。
あー、きつい。
頼むから明日は元気になっててくれ。