2006年11月26日 【宮崎県】
ゆうべの大牟田での路上は楽しかったな。
「当たり前やろーも!!九州人はギャン熱かったい!!」
大盛り上がりで歌い、16000円のあがりを持って車に戻り、そこから夜の山の中を走り続け睡魔に襲われたのが朝の5時。
テキトーに車を止めて眠り、9時に目を覚まし、どしゃ降り雨の九州山地を越えて、故郷宮崎県、日向の町に戻ってきた。
銭湯に入り、身だしなみを整えて美香の実家に到着。
家の庭で洗濯物を干していた美香が見えた。
「久しぶり。」
「久しぶり。美香なんも変わらんね。」
「文武も………………髪薄くなったね。」
「……………知ってます。」
11ヶ月ぶりの再会。
いつもの美香の匂いに、一気に縮まる会えなかった時間と数々の軋轢。
それは俺だけか。
勝手に俺だけが期待しているのか。
いや、ふと見ると、美香のケータイにはいつかテディーさんに作ってもらってプレゼントした、
『mika☆joe』
と彫られたストラップがぶら下がっていた。
あんなに色んなことがあったのにと胸が苦しくなった。
この世イチうまいうどん、天領うどんを食べ、花を買いに花屋さんにやってきた。
そういえば美香は花屋でバイトしていた時もあったんだよな。
ほんと色んなことがあった。
美香の肩、手首、指、かぼそいそれらを見ていると長かった時間が1つずつ蘇ってくる。
おじさんの入院している病院についた。
エレベーターに乗り、話し声の聞こえる廊下を歩き病室へ入る。
プレッシャーに高鳴る胸。
おじさんのベッドに近づく。
そこには、俺に彼女の父親としての威厳をいつも示してくれていたあのおじさんが、ずいぶんと小さくなって横になっていた。
付き添っているおばさんもどことなくやつれた気がする。
「あらー、わざわざありがとうねー。」
「いえ、ちょうどライブの打ち合わせがありまして。入院されたと聞いたものですから。」
2人に余計な気を遣わせないように努めて明るく振舞う。
たわいもない世間話に意外なほど会話がはずむ。
「温泉いいわねー。お父さん、早く元気になって行きましょうね。」
「……………そうだな。」
告知はまだしていないようだった。
30分ほどして病室を出た。
美香との今後のことについて触れる言葉は一切なかった。
それから少し美香の家に寄った。
「誕生日おめでとう!!」
「うわー!!」
誕生日を2日後に控えた美香へのプレゼントを渡した。
今日まで美香のために買いに買いまくった日本全国各県のご当地キティをテーブルにばらまく。
これであと美香が持ってないのは佐賀キティと熊本キティだけだ。
「気をつけてね。」
「ああ、24日に帰ってくるから。ご飯でも食べに行こうな。」
軽く手を振り合うだけでファントムを走らせた。
実家には寄らず、友達にも会わずに宮崎を出る。
このまま福岡だ。
音楽もかけず、夜の国道を走っていると、しばらくして美香からメールがきた。
「今日はありがとう。あのね、文武君いい男になったな。ってお父さん言ってたよ。あんなに楽しそうなお父さん久しぶりに見た。」
嬉しさとプレッシャーと申し訳なさが入り混じり体の奥が痺れる。
しっかりしろよオレ。
どうなっちまうんだよ。
無音の車内、筑紫野の到着したのが22時だった。
翌日。
ザーザー降りの博多天神を走る。
懐かしの福岡。
何も知らない18歳のころ、専門学校にこの博多に来た。
世間知らずの田舎もんがこの大都会の冷たさに打ちひしがれてたな。
夜の博多駅、天神、警護公園。
なんて無防備で弱かったんだろう。
フロントガラスの雨粒に散らばるまばゆいネオン。
クリスマスの文字に群がる色とりどりの傘たち。
キャナルシティのまばゆいイルミネーションが、4年前の俺と美香を映し出している。
あのクリスマスツリー……………
これから続く果てしない旅に心震える日々だった。
お、懐かしい顔がキャナルから出てきた。
浜ちゃん、今日はとことん飲むぞ。
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