2006年8月9日 【長野県】
大平峠を越えると古びた宿場町跡が目に入る。
長野の山の旧道には、いたるところに宿場跡が残っている。
地図上で国道を反れた細い道があるとついそっちに入ってしまう。
国道が通ったためにほとんど交通量のなくなったさびれた街道が歴史をとどめているからだ。
庶民的な生活のあとが藪に埋もれている。
信州、木曽の国、長野県。
夏は高原に爽やかな涼しい風が吹き、ファミリー向けのレジャー施設がにぎわい、登山家が大喜びする名峰だらけ、スキー場だらけ、そんなイメージの県だ。
旅人に結構ウケがよく、県内のあちこちにヒッピーが隠れ住んでいるというのも色んなところで聞いてきた。
さぁ、どれだけこの県を掘り下げられるかな。
まずはめっちゃ金がない。
とにかく歌うぞと、峠を降りたところにある飯田の町にやってきた。
うおー、長野らしい町並み。
山に張り付くように建物が敷き詰まっており、平地がほとんどない。
坂の向こうには果てしない山並み。
美しい町だ。
図書館でパソコンをいじって作業し、夜になって飲み屋を探した。
飯田は町の割には飲み屋がやたらと多くて、そんな中、1丁目スクランブル交差点でギターを構える。
いい調子で人も集まり13000円までいった。
「おーい!!やっとるかー!!」
そこにやってきたのは、鈴鹿のトラック運ちゃん山口さんとヒッピー赤塚さん。
わざわざこんなとこまで見に来てくれたのか!!
「やっぱええなぁ文武の歌は。売れてくれたら俺マネジャーやるからよ。そんでビッグマネー掴んで最高の女とベッドでドンペリニヨンや!!」
「でも欲しいものは全てブラウン管の中ですね。」
「ハハハハ!!」
山口さん面白いなぁ。
翌日。
いつものようにコンビニでマップルを買い長野の情報収集から。
まずは飯田以南の南木曽を攻めるぞ。
と、いっても南はこれといったものがないみたいだ。
天竜峡の川下りはまあまあ有名だけどそれくらいのもん。
なんか面白いもんないかなぁと愛知の県境まで下り、茶臼山高原に上がっていく。
田舎道ばっかりだなぁ。
その時だった。
ガガガ!!!!
ガガ!!!!
プスン…………………
ガ、ガス欠……………
う、嘘だろおおおおおおおおお!!!!
こんなとこでガス欠ううううううううう!!!!!
山の中にポツリと取り残される。
山の中すぎてケータイなんてヨユーで圏外。
急な登り坂の途中で動かなくなったので、今ヘタにサイドブレーキ切ろうもんなら滑り落ちていってしまう………………
ぐうううう…………しょうがない、どっか燃料を買いに行くしかねぇか……………
500メートルくらい歩くと山の中に町営グラウンドかなんかを発見し、事務室にいた爺ちゃんに話しかけてみた。
「あー、この先にスタンドあるぞ。3キロほどダニ。」
送ってってやろうか?を期待したがそんなうまいことはいかんな。
でもスタンドの人が持ってきてくれるかもしれないとのことで、事務所の電話を借りた。
「JAF入ってないのかい?行ってやってもいいけど出張費で5000円もらうでー。」
たった5分走るだけで5000円かよ!!
足元みやがって!!
その手には乗るか!!
ムキに40分くらいかけてスタンドまで歩いた。
そしてスタンドでポリタンクにガソリンを入れてもらい、また車へ向かって歩く。
8リットル入ったポリタンクが重い…………
くそ暑くて汗ボタボタ…………
親切を期待しすぎたりそれに頼ったりはしたくないけど……………
ちょっとくらい乗っけてくれてもいいじゃんかよおおおお………………
なんとか車まで戻り、ガソリンを入れ、スタンドにポリタンクを返しに行って、この日はテキトーに山の中で眠った。
あー、汗臭い。
翌日。
ダッシュで飯田に戻り、図書館に避難した。
やってらんねー暑さだ。
おととしの青森でも夜一睡もできずにいつも図書館に逃げ込んで本読むふりして爆睡してたな。
図書館はいい。
この建物の中から世界中にトリップできるし何百年前の時代にもワープできる。
星の数ほどいた人間たちの頭脳が本棚に並んでいる。
市内の温泉旅館『ミヤモト』で外来入浴360円というすばらしい安さの温泉に入り、きれいになって今夜も1丁目スクランブルへ。
今日もいい調子!!
「お兄ちゃん明日時間あるか?うちの会社のバーベキューパーティーがあるんだけど来て歌いなっしょ。」
歌ってると地元のゴツいお兄さんが声をかけてくれた。
もちろんOKです!!
今日のあがりは19000円。
飯田サイコー!!
翌日。
「おーい、金丸君おはよー。」
飯田のインターの待ち合わせ場所にやってきたのは、ゆうべ路上で声をかけてくれたごついお兄さん、ハヤトさん。
ハヤトさんの車に乗り込むと、後部座席に怪訝そうな顔の奥さんと息子2人。
「……………どちらさんなの?」
「ん?昨日会ったミュージシャンだよ。」
「………………ウソでしょ?ねぇ、ウソでしょ?…………誰なの?」
「だから昨日スクランブルで会ったんだよ。」
俺が横にいるのにめっちゃハヤトさんを問い詰めている奥さん。
気まずさが臨界点を突破。
ぎえええええ!!!!
ハヤトさん先に言っといてよおおおおおお!!!!
嘘でしょ?ねぇ嘘でしょ?ってこの世の終わりみたいな質問目の前でするのやめてええええええ!!!!
でも人なつっこい子供たちは昆虫のゴム人形を見せてきてすぐに仲良くなった。
車を走らせ1時間ほどで到着したのは岐阜の森の中にある広大な工場。
今日はこの新築の工場の家族見学会を兼ねたバーベキューパーティーだという。
蝉の大合唱に包まれている。
まだ機械も入ってなくガランとした工場の中に40人ほどのファミリーが集まってきた。
「みなさん、今日は休みの暑い中集まっていただいてありがとうございます。この度は盟和産業岐阜工場のうんたらかんたら…………」
俺、信じられないほど部外者。
「はーいヤキソバできましたよー!」
そして1時間後にはすっかり会社の人たちと馴染んで肉を運んでる俺。
盟和産業は東京に本社を持ち、日本各地に工場のあるかなり大きな会社。
自動車の内装を造る仕事らしい。
和やかな雰囲気の中、ついにこの謎の侵入者の出番が来た。
ギターを抱えると、みんなワクワクした目で周りに椅子を持って来て座ってくれる。
どっかのドサ周りの演歌歌手かなんかと思っているようだ。
ヘタなライブよりよっぽど緊張したけどなんとか数曲歌いきると、一応持ってきていたCDが飛ぶように売れ、しかもおひねりまで出て13000円までいってしまった。
重役さんと一緒に歌ったりして、とりあえずこの正体不明の俺の役割はなんとか果たせたかな。
誘ってくれたハヤトさんありがとうございました!!
片づけを済まし飯田の町に戻ってきた。
さぁ、このまま路上だ。
うお!!
スクランブルの角にある銀座ラーメンのミソ、めちゃくちゃうまい!!
そして路上では13000円のあがり!!!
いやー、飯田ほんといいとこだ。
これでしばらくお金の心配はなくなったかな。
さぁ、明日から本格的に信州編スタートだ!!
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