2006年3月27日 【岐阜県】
「あー、基本的に見学は土曜だけなんですけどねー。宮崎からですか……………………わかりました。どうぞ、お越しください。」
朝イチ、そんな電話のやりとりをしてやってきたのは多治見市だった。
どこだろなーと探していると、国道から1本脇に入った目立たない場所にでっかい看板を発見した。
『ヤイリギター』
そう!!!
ここは俺が愛用しているギター、K.yairiの工場!!!!
来たぞおおおおおおおおおおおお!!!!!
って、これ!?!?
これが日本が誇るギターメーカーの工場?!?!
この前行ったYAMAHAの工場が巨大すぎたこともあるからか、想像してたのよりはるかに小さい。
駐車場がマジで5台くらいしかスペースがない。
え?
マジで?
世界中の超ビッグアーティストたちがこぞって使用しているメーカーだぞ?
それがどこにでもある町工場のような外観。
とにかく突撃するぞと、ビビりながらも事務所に入ってみた。
「あー、どうぞ。それじゃ行きますか。」
フレンドリーな笑顔で迎えてくださったおじさんにラフな雰囲気で敷地内を歩いて案内してもらう。
ボディ材の倉庫にはスプルースなどの部材、表にはマホガニーのネック材が積み上げてある。
こうして10年、15年、長いものでは20年も寝かせ、乾燥させ、そして雨風にさらす。
そうすることにより分子レベルで変化が落ち着き、日本の風土に馴染ませるのだという。
工場、いや工房といった方がいいか。
建物の中では少人数の職人さんがほとんど手作業でネックを削ったり、サンドペーパーをかけたりしていた。
おいおいマジか。
世界中に流通している1流メーカーだぞ?
もっとマシーンがガチャコンガチャコンいってるかと思ってたのに、めちゃくちゃ手作業やん。
k.yairiって手作りの受注生産とは聞いていたけど、まさかここまでとは。
出来上がったギターはある部屋の中に入れられる。
クラシック音楽を大爆音で流している部屋だ。
爆音をかけてギターを振動させ続け、ある程度馴染ませ、鳴りのいい状態にまでもっていってから出荷するという流れ。
すごいこだわりだ。
リペアルームに入ると、毎日日本中から送られてくる修理品が無数に並んでいた。
k.yairiは永久保証。
1本1本最後まで面倒を見てくれる。
「へー、日本一周してるんだ。よし、ちょっとギター持ってきなよ。診てあげるから。」
やった!!
壁には誰もが知ってるような有名ミュージシャンのギターがズラリと調整待ちで並んでいるというのに、俺のギターを先に診てくれたクラフトマンの松尾さん。
何年も前からボディの力木が剥がれていて表板が反り、音がビビっていたんだよな。
過酷な路上の中でボロボロになっていたギターが、高校3年生のあの買ったときの姿に戻っていく。
「弦も替えとくよ。心配しなくても代金なんてとらないから。」
なにー!!
町のギターショップでやってもらったら3万以上はするようなリペア、しかもここでしか手に入らないレアピックを5枚もいただいてタダ!!!!
奇跡!!!
奇跡的親切さ!!!!!
「これサイズ合うかな。」
なにいいいいいいいい!!!!
『k.yairi』の刺繍の入ったジャンパーもいただいた。
「ギターケース、蓋が取れてるじゃない。直してあげるね。」
うそぉぉぉおおおおおあお!!!!!!!!
ギターケースまでピカピカに……………
マジで親切にも程がある……………
何度も何度もお礼を言って工房を出て、最後に事務所に挨拶に行った。
ん?あれ?
中にいたのは1人のお爺ちゃん。
スタッフの身内の方かな。
「あ、あの、見学のつもりがリペアまでしていただいて…………」
「そうかい、そうかい。」
そうかい、そうかいと言いながらパンフレットやらステッカーやらピックケースなんかをもさもさ持ってきて、おまけに自分の着てるロゴ入りジャンパーも脱いで渡してきた。
やけにフランクな人だな。
会社の人気者のお爺ちゃんなんだろな。
「兄ちゃん、これも持ってけ。」
おもむろに酒の1升瓶を2本、ズンと渡してきた。
な、なんやめっちゃくれるお爺ちゃんやな……………
………………はっ!!
「あの、も、もしかして…………………カズオさん…………………ですか?」
「そうだよ。」
「シ、シツレイシマシタ!!」
マジかああああああああ!!!!!
この人こそ『k.yairi』の生みの親、矢入一男その人!!
ただの爺ちゃんとか言ってすみませんでした!!!!
そんな偉大な人が俺のために外にまで出てきて手を振って見送ってくれた。
「気をつけて行ってこいよー。」
なんて客と距離の近い会社なんだろう。
世界中が認める名ギターメーカーだってのにこんなにも庶民的。
ポール・マッカートニー、リッチー・ブラックモア、桑田圭祐などなど、歴史的なミュージシャンのギターを俺が作ってますから、みたいな偉そうな素振りなんて微塵もない。
職人さんたちにとっては自分たちのギターを大事に使ってくれれば、スティブン・スティルスも金丸文武も変わらないという心なんだろう。
宇宙と地底くらい違うけど!!!
k.yairi最高!!
これからも愛用させてもらいます!!!!
すごい経験をさせてもらって興奮さめやらないその夜。
日記を書いていたら美香からメールが入った。
長文だ。
悪い知らせだな……………
「昨日は正直に言ってくれてありがとう。でももう会わない。顔も見たくないし、声も聞きたくない。恋愛の辛さ、もう一生分もらったよ………………」
頭が真っ白になり、ケータイを閉じて天井を見上げる。
高校生の時から付き合い、初めて美香に対して何一つウソのない状態になれた。
そして別れか。
今まで何度も美香から別れようと言われた。
でもそのたび思ってたのは、「またか」という言葉。
いつも、しばらくすればすぐ元に戻っていたから。
でも、今回は本当に最後のような気がする。
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