2006年3月8日 【和歌山県】
いつものように車の中で目を覚ますと、助手席で寝てる人がいる。
昨日たまたま出会って路上まで一緒にやったカズさんだ。
泊まるとこないっていうので俺の車に招待して助手席で寝てもらったんだけど、これも縁ってことで、今日も2人で行動することになった。
とりあえず昨日の稼ぎでオートバックスに行き、パンクしていたタイヤの修理をすることに。
「ああ、ここに穴が開いとりますねぇ。じゃあチューブほりこんどきましょか。」
「え、ええ?なんですか?」
「いや、このチューブをですね、ここにほりこんどきましょか。」
「え?な、なんですって?」
タイヤの穴になんか小さなゴムの詰め物を差し込んで空気漏れを止めようって言ってるようなんだけど、放り込んどく、っていう表現がマジ謎だし、さらに訛もあいまって、ほりこんどく、って独特すぎるやろ。
詰め込んどく、やん?
ほりこむ、て。
関西弁すげええ…………
てなわけで、ほりこんでもらったおかげでたったの2000円と安くパンクも直り、今日の行動スタート。
まずやってきたのは日本一の規模を誇る紀州梅の里、南部町の大梅林。
そりゃ紀州といえば梅干しだよな。
目的地に近づくにつれ梅の香りが鼻をくすぐる。
梅林には遊歩道が整備されており、満開時には山一面が真っ白に染まり、それはそれは美しいらしいのだが、残念ながらもうほとんど散ってしまっていた。
これシーズンだったらものすごく綺麗なんだろうなぁ。
売店に行くと試食のハチミツ梅ってのがあったので食べてみると、マジで引くくらい美味くて度肝抜かれた。
紀州の梅干しのクオリティーやべええええ…………
これ白ご飯に乗せて食べたら他なんもいらんな。
紀州といえば梅干だがもうひとつ有名なのが備長炭。
梅が咲き乱れる山里を走り、備長炭振興館にやってきた。
ここの職員さんのお話がとても面白かった。
「昔、弘法大師が唐に渡った際、炭焼きの技法を持って帰ってきて高野山からこの地に広めたんです。そして江戸時代にウナギブームがおこって人気爆発。炭の需要がものすごく高まります。その時に紀州の炭を広めた人が、炭問屋の備中長佐衛門。だから紀州の炭を備長炭というようになったんです。」
「炭は調味料。いい炭で焼くとその煙で食材の香りが良くなり、うまみが凝縮され殺菌効果もあり、とてもおいしくなるんです。」
なるほどなぁ。
聞けば聞くほど炭業界の奥深さに感心する。
中には作家ものまであるらしく、あの人の焼いた炭がいい!!っていうほど人気に差があるんだそうだ。
技術職なんだな。
観光はこの辺にして田辺に戻り、今夜も白浜で温泉に入ってカズさんと路上に繰り出した。
もはやだいぶ息も合ってきて、俺が演奏を始めるとピタリとピアニカでソロをあわせてくれるほど。
コンビの慣れに比例してチップの入る確率も上がっていった。
すぐに1万円ほど溜まり、そろそろ引き上げようかというところに、ゆうべのミキさんがやってきた。
「兄ちゃんら!!飲み行くで!!」
あんまりお金使いたくなかったが、しょうがないのでちょこっとだけ行くことに。
バーでしばらく飲んでると、相方のマユミさんもやってきて4人で乾杯。
すでにだいぶ飲んでたのか、すぐにグデングデンになってしまいカウンターに突っ伏して寝始めたミキさん。
「もう…………あかん……………帰るわ…………送ってってーな………………」
いや、誘ったのそっちやん…………
それをすぐに寝て送ってけって…………
なんてわがままな人だ。
しょうがなく、ろくすっぽナビもできないミキさんを担いで部屋まで送っていった。
「いやー!!路上って面白いね!!」
笑顔でそう言うカズさん。
連日のはちゃめちゃな展開が旅人としてすごく楽しいみたい。
俺はまぁ3年以上いつもこんな感じの旅をしてるので普通のことだけど、それにしてもミキさんとマユミさん2人はかなり面白い。
田辺っていう町もすごく気に入ってるし。
明日はどんなことがあるか楽しみだ。
この夜は近くのコンビニに車を停めて寝た。
翌日。
コンコンコン………………
コンコンコン……………
車の窓を叩く音が聞こえる。
なんだよもう……………
もっとゆっくり寝たいのに誰だよ……………
「ほらー!!もう昼やでー!!起きやー!!」
窓の外で大声で叫んでる人がいる。
うるせぇなぁ………と思いつつ顔を見るとミキさんだった。
昨日あんだけ泥酔して迷惑かけまくりだったくせに……………
もっと寝たい……………
「出前たのんだるさかい飯だけ食っていき!ほら!!うち上がりよし!!」
あまりの強引さに寝ぼけたまま部屋に上がらせてもらい、ぼーっとテレビを見る。
そんな感じで出前を待っていると、いきなり相方のマユミさんが怒鳴り込んできて、寝転がってるミキさんのケツに蹴りを入れた。
「バカミキー!!あんたゆうべ人のことさんざん待たせといて、なんやねんあれー!!」
「マユミちゃーん、ごめんなぁ、飲みすぎてん。」
「ていうかこのとうちゃんらは何やねん!?くさっ!!このハゲチャビン臭いで!!シャワー浴びてきぃ!!」
シャワー室に追いやられるカズさん。
カズさん、風呂は入ってても服洗ってないし…………
出前がくると昼間っからチューハイを飲みだしたミキさん。
カズさんもそれにつられて飲み始める。
うん、俺も飲むか。
結局この日は夜までそこで4人でウダウダしていた。
知らん町で、知らん女の人の部屋で、知らん男の人と酒飲んでる。
これって旅してる身からしたらめっちゃ刺激的なこと。
この堕落した空気もまた、刺激的なこと。
きっと沈もうと思えばどこまででも沈める。
色んなことを投げ出してここに沈めばどんなに楽なことだろう。
でも部屋を出た。
こんな堕落、性に合わない。
何かやってないと頭おかしくなる。
4日間一緒にファントムで寝起きしたカズさんとも明日でお別れだ。
早く進まないとな。
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