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東京の片隅で琵琶法師のライブへ







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2005年 9月 【関東後半】






国道4号線を北上していたら、偶然道沿いでなにかのイベントをやっていたので、ひょいっと行ってみると、人混みの中で『いつもここから』がライブをやっていた。


おお、さすが関東。

有名人がそこらへんにいる。





それにしてもあんな喋りっぱなしのネタ、よく忘れないなぁっていつも思っていたんだけど、なるほど、近くで見てみたら手の内側にカンペ貼ってるのね。





ついでに我が家もいた。



















今夜は宇都宮で路上をしようと車を走らせ、夜に餃子の街に到着し、早速飲み屋街の真ん中にある小さな橋の上で歌っていると、すごくかわいい女の人が話しかけてきた。


だいぶ酔っ払ってる感じ。



「かっこいー!!」



そう言って抱き着いてきたがなんとか逃げる。


だって3日風呂入ってないんだもん…………


臭いって思われたくなくてあんまり近づけない。









まぁ、連れのおじさんがいたのでなんもできないんだけどね。


姉さんがいつまでも俺のところから動こうとしないもんだからおじさんだいぶ機嫌が悪くなってきて、最終的に強引におじさんに手をひかれ帰って行った。







それからも色んなお客さんを相手に歌う。


宇都宮、なかなか反応いいなぁ。





すると、1時間くらいしてまたさっきの姉さんがやってきた。


今度はおじさんがいなくて1人だ。



「ねぇねぇねぇ!!!このあと終わったらどうするの?」



かなり酔っ払ってる。



おお、これって誘われてるよな………?


え?ホテル行くパターンなのか?




行く!!!!



ヨユーでイク!!!!!



今すぐギター片付けホテルに直行!!!!!





と思っていたら向こうから鬼のような顔で連れのおじさんがやってきて、来るなり姉さんにローキックをかました。


えええ!?!?

ちょ、ちょっと!!!

暴力はやめましょうよ!!!



「何か言うことないか!!」



姉さんボロ泣き。



「こいつ、いつもこうなんだよ!!帰る時にウダウダやってよー!!」



酔っ払ったらいつも他の男のとこにフラフラ行ってしまう女の人なのね…………


そんな人の彼氏なったら大変だわ…………



でも暴力はどう考えてもダメだけど。



泣きじゃくる姉さんの手をグイと引っ張っておじさんはネオンの中に消えていった。





あー、久しぶりに女の人に誘われたのになぁ。


なんかいいことないかなぁ。




ホテルとか。






ホテルとか。






エロい人とホテルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!












はい、というわけで翌日は栃木のセンジ君の家にやって来た。


相変わらず飾りっ気のない古ぼけた貸家の玄関に、薄気味悪いお守りみたいのがぶら下げてある。


好きやなぁ、こういうの。


小さな庭には茶色い栗が散乱していて秋に染まっていた。



「よし、まずは天狗のとこ行こうか。」




2人でやってきたのは古峰神社。





なかなかの古刹で、茅葺き屋根の本殿に歴史の重厚さが漂っている。


ここの何がすごいかというと天狗の面。









江戸時代に作られたものから新しいものまで無数の面がウジャウジャと飾られている。


天狗とは諸説あるが、山にこもった修験者の人間離れした姿を見立てたものといわれている。






「天狗って絶対エロティシズムからきてるよ。」



なるほどあの鼻。

そう見れば間違いなくそういう用に作られたものだよな。








次に鹿沼市にやってきた。


町がにわかに活気だっているのは、来週末に天下の鹿沼秋祭りが行われるから。


日光東照宮を造るために日本全国から召集された名工たちが、東照宮を造り終えた後もそのまま日光周辺に居つき、暇を持て余して造ったのが鹿沼の人形屋台。


すさまじく精密な彫刻が施された人形屋台を曳いて町を周り、他の町会の屋台とお囃子合戦を繰り広げるという。



そりゃ絶対見たい。


来週必ず来よう。






この鹿沼にあるセンジ君お気に入りのオーガニック喫茶店『響茶庵』へ。


これ以上車では入っていけませんってくらい細い住宅地の奥にそのお店はあったんだけど、表で日傘を立て2人の女の人が何やら売っていた。





化粧もせず、香水もつけず、無農薬育ちです!!って感じの2人がラフな格好で売っていたのは手作りのパンとお菓子。


もちろんオーガニック。


喫茶店の中には様々なアートイベントのチラシが並んでおり、お客さんもインテリっぽいメガネをかけた人たちだったり、まゆ上ぱっつんの奇抜な髪型だったりとそれっぽい人たちばかり。


喫茶店の隣には完全オーガニックベジタリアンのレストランもあり、歴史ある鹿沼の古い住宅地に、この一帯だけ面白い空間が出来上がっていた。





でもなんとなくオーガニックな人たちって苦手だな。


女の人で眉毛の手入れもしてないのってなんかすごい違和感感じてしまう。


カレー美味しかった。











さて、喫茶店で一息ついたら2人で東京に向かって走った。


中央線の西荻窪駅からすぐ近くの小さなライブハウスに入ると、民族系の小物があしらわれた店内に教養のありそうなおじさんおばさんたちが座っている。



センジ君が挨拶に行ったのは塩高さんというかた。


日本を代表する琵琶奏者さんらしく、最近この人のライブに足しげく通っているそうだ。


邦楽器界期待の新人ってことで打ち上げとかにも参加させてもらってるらしい。




もう1人の演者さんが後藤さん。


同じく日本屈指の琵琶奏者で、元はブルースマンという経歴。


今日はこの琵琶界の2大巨塔の共演という贅沢すぎるライブだ。



いやー、琵琶の演奏なんて生で聞くの始めてでめっちゃワクワクしながらライブが始まった。






ミヨーーーーン………………バチン!!



ピヨヨヨ~~~~イン……………






「ぎおんしょーーーじゃのぉぉぉーーーかねのこえぇぇぇぇぇぇ」




すごい。

なんだこの空気。


今まで見てきた音楽のライブとはまったくかけ離れた空間。


ロックやフォークとか、俺が知ってる音楽の『間』とは全然違う。


こ、これが琵琶の間。


語り部の間。


すげぇ……………





「えー、次は誰々の弟の誰々が一の谷の合戦で源氏の誰々に追い詰められたシーンを…………」



耳無し芳一が夜な夜な幽霊に聴かせるあの平家物語ってものすごく長い長い物語なので、全部やろうと思ったら耳無し芳一みたいに何日もかかってしまう。


ので、その中から自分の得意な部分を抜粋して演奏するのがこの琵琶の世界では一般的なんだそう。





みよよぉぉぉ~~~ん……………バチンッ!!!







塩高さんは正統派といった感じ。

背筋がピンと伸びて、流れるような手の動きで、ほんの細かい音までキチンと弾くといった雰囲気だ。


後藤さんは異端といった感じで、ブルースマンの土臭さが漂う演奏だったと思う。





そして今夜、この場にもう1人のビッグネームがやってきていた。


琵琶職人の石川さん。


日本に数人しかいない琵琶を作れる人の1人で、塩高さんの琵琶も石川さんが作っている。


面白いエピソードで、塩高さんが今日使ってる琵琶は、石川さんのところにヴァンヘイレンのCDを持って行って、


「この音に近づけてください。」


と言って作ってもらったものらしい。


塩高さん、実はロック大好きなんだって。




そんな日本琵琶界のビッグ3が集う夜に、幽玄な音色が800年の歴史を越えて響き渡る。


んー、これがほんとの弾き語りだな。


弾き語りって鎌倉時代からあったってことだ。







ライブ後、センジ君の顔で打ち上げに参加させてもらったんだけど、緊張して何喋ったかあんま覚えてない。


 
「伝統は守るものではなくて創るものだよ。」



塩高さんのその言葉が強く印象に残っている。



琵琶触らせてもらえたし!!!




こんな貴重な琵琶とかマジで光栄です!!!!




今日もセンジ君のおかげでとてもとても充実した1日になった。


ホント、センジ君みたいに新しい刺激をくれる友達って絶対必要だな。


持つべきものは友だ。









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