2004年 11月16日
朝、家の外に出ると、サクッと脛の半分くらいまで足が埋もれた。
ついに始まった。
北海道雪地獄。
もうすべてが真っ白。
辺り一面全ての角がなくなり、こんもりと雪が覆いかぶさっている。
ファントムの雪をドサドサと落として出勤。
スタッドレスではあるがやっぱりこんな雪道を走るのは怖い。
何の音も立てずにハラハラと限りなく振り続ける雪ん子たち。
家の前では人々が手馴れた様子で雪かきスコップを振っている。
歩道で子供たちがはしゃいでいて転んだ。
ランドセルがなかったら頭打ってたなぁ。
雪道の歩き方ってのがちゃんとあるんだそうだ。
山田工務店での仕事も残り2日。
今やっているのは富良野市内にあるアパートの壁の補修工事。
塗装がメインなんだけど、これほど気温が下がってくると塗料が固まらなくなってしまうため、建物に足場をかけ、ブルーシートでスッポリと覆い、その中にジェットヒーターというロケットエンジンみたいな暖房器具を突っ込んで温度を上げる。
大工仕事だけでなく、土木から塗装までなんでもやる山田親方。
すごい知識と経験だ。
「文武が辞めるまでに終わらせるべし。」
16時くらいには暗くなり始め、18時にこの日の作業は終了。
噂には聞いていたが雪の夜はホントに明るい。
都会の繁華街のように、夜空が赤く染まっている。
仕事を終え、中田さんちに行って宮崎行きの飛行機チケットを受け取った。
知り合いの結婚式でどうしても宮崎に戻らないといけないんだけど、中田のおじさんがコネを使って1番安くチケットを取ってくれた。
「文武、お前カニを家に送るって言ってたべ?あれもう送ったからな。この前宮崎のもの送ってもらったから。」
えええ!!!
いや、俺のお父さんお母さんがカニが好きなので北海道から送ってやろうと思ってたんだけど、おじさんがすでに送ったという。
この前、宮崎の俺たちの親から色々送ってもらったお礼だという。
はぁぁぁぁ、お世話になりっぱなしだよ…………
「ホラ!!文武君、作ってたセーター、完成したから着てみて!!気にいるといいけど。」
おばちゃんがこのところずっと手編みのニットセーターを編んでくれてたんだけど、完成品がヤバすぎる!!!
あ、この写真はまだ仕上がり前。
めちゃくちゃカッコいい!!!
そしてめちゃくちゃあったかい!!!
おばちゃんは編み物の結構すごい資格を持ってる人で、自分で教室もやっている。
どんな衣類を見ても1発で編み方がわかるんだそうだ。
毛糸の編み物は末代物。
こんな立派なニットコート、一生大事にするよ。
おばちゃん本当に本当にありがとう。
ご飯をご馳走になり、外に出ると、いつもの地面が20センチほど高くなっていた。
静まり返った町。
雪には吸音効果もある。
御陵線を山部に帰る途中はまさに命がけだ。
すさまじい吹雪でまったく何も見えん。
白線はおろか歩道の段差まで完璧に埋まっているので、道が全然わからない。
先に走った人のわだちの上を走るしかない。
家に着き、一安心してしばらく外で降りしきる雪を見ていた。
幻想的だけどこれが日常なんだよな。
嫌だと言っても止んでくれない。
どこまで行っても逃れることはできない。
この大きな北海道、空から見たら真っ白な島だよ。
翌日。
今日で山田工務店の仕事はラスト。
なんとかギリギリ壁の補修工事も終えることができ、最後に山田親方の作業場でビールを飲んだ。
仕事を終えた林親方とユウキも戻ってきて、みんなで乾杯。
3ヶ月、早かったな。
今までの仕事で1番早かった気がする。
それだけやりがいがあったんだよな。
雪にはまった林親方のトラックをみんなで助け出し、そのまま雪合戦をした。
エゾ松の枝にごっそり積もった雪をスコップで払うと、重さでしなっていたのでグイィィーーーンと上に跳ね上がり、キラキラと粉雪が舞った。
白い息がいつまでも残る。
板金屋根からドサッ!!と塊が落ちた。
わずか3ヶ月。
富良野はすでに第二の故郷と呼べるほどにやすらぎをくれる町になっていた。
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