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山田親方のとこで働けてよかった







リアルタイムの双子との日常はこちらから






2004年 11月4日~






美瑛の農家さんの大きな現場が終わってからというもの、細かい現場を回る日々が続いていた。


多少、電動工具にも慣れてきたし、寸法の取りかたのコツとかもわかってきた。



でもやっぱり当たり前に難しい。


民家の天井ボードの張り替え仕事に行った時、あまりの自分の下手さにイラつきすぎて頭おかしくなりそうだった。


キチッと寸法測ってるつもりなのに隙間ができてしまうし、釘を打てばクニャクニャ曲がるし、ああああ!!!もう!!!下手すぎてムカつく!!!!



そんな俺の横で山田親方は軽やかに天井を張っていく。


当然なんだけど、俺の100倍早いし、100倍綺麗。



今までどんな仕事でもそつなくこなせる自信があったのに、大工さんはどうしても上手くできない。


もちろんそんな数ヶ月で仕事ができるようになるなんて甘すぎるんだろうけど、こんなにできないと情けなくなってくる。








それでも少しでも山田親方の力になりたくて自分の出来る限りに頑張った。


この日は中富良野にある民宿の新築現場で束石の据え方。


建前は民宿のオーナーさんが自分でやるらしい。




北海道に入植してくる人ってのはみんなとにかくエネルギーがある。


現代人は何か必要になった時、まず買うことを考えるし、設置も業者さんに頼む。


でもこんな雄大な自然の中で生きていると、何かが必要になった時、まず自分で作れるかどうか考える。


北海道にある民宿やライダーハウスはその多くが手作りだ。




ありのままであること。

人間らしさ。

人間の暮らし。


何かに特化して生きていくのもいいけど、いろんなことができるオールマイティーな人間でありたいなとも思えてくる。



「ふぅ、なかなかキツイな。ユウキがいればなぁ。」



ユウキが林親方のほうに応援に行き始めてから1ヶ月が経った。


最近は俺と山田親方の2人で動いている。


林親方もユウキを頭数に入れて現場を組んでいるので、忙しくなってきたからこっちに戻してくれってのはきかない。



「2人はしんどいな。まぁボチボチやるべや。」



山田親方、あんまり役に立たなくてすみません。















それから数日。


この日は山田親方の大工仲間、大西さんの応援で民家の新築工事に行った。


これまでの経験を活かして、建前の作業をガンガンやっていく。


そしてお昼時間。


お蕎麦の振る舞いが出て、俺はコンビニで買ってきた弁当と一緒に蕎麦をいただく。


うん、美味しい。



その時、ふと気づいたんだけど、なぜか山田親方が自分の弁当は出さずに蕎麦だけを食べていた。


どうしたんだろ?

お腹空いてないのかな。



蕎麦を食べ終わると、昼寝してくるわーと車に入っていった山田親方。


俺も日記を書くために車に入る。


すると車内でお弁当箱を開けていた山田親方。






仕事、家事、子供のこと、すごく忙しい山田親方。


それだけじゃない。


3ヶ月富良野で大工さんのお手伝いをして、少しだけこの町の建設業界のことが分かってきたけど、まぁ色んな事情があるみたいだ。



ここには書けないんだけど、山田親方は曲がったことが大嫌いで、自分の信念を貫いて独立し、今こうして工務店をやっている。


頑固一徹、職人気質で、不器用だけどまっすぐな人だ。




この話を知り合い伝いに聞いた時、マジで胸が熱くなったし、山田親方カッコいいって思った。


俺だって、きっとそうするって思う。


ふざけんな!!って思う。



「文武すまんな、肩身の狭い思いさせて。」



「何言ってるんですか。僕は胸張って言いますよ。山田工務店で働いてますって。」



「ありがとな。ホラ、一服するべし。」



いつもおごってくれるセイコーマートの缶コーヒーを飲む。


この人にだけは迷惑かけちゃいけない。












翌日。



昨日で棟木が上がり、今日はバタバタと屋根張り作業を進めていく。


鳶の時の経験を活かし、長い木材を気合いで屋根まで引き上げまくっていく。


重いだろう!!無理すんなよー!!と言われても、弱音は吐きたくない。


大西親方の手前、山田親方に恥をかかすわけにはいかない。

ぶった切った指も、もうほとんどくっついて痛みはさほどない。








15時になり、屋根板も張り終えたころに近所の人がわらわらと集まってきた。


神主さんもやってきて、家主さんたちが2階でお祓いを受ける。





「よし、文武、行くぞ。」



柱を打ち込む際に使う大きな木槌、かけやを持って山田親方と屋根に上がる。



「棟締めだ。神主さんが合図出したらオー!!って掛け声出して棟木を2回叩く。大工の見せ場だからな。ホラ、文武目立つほうで叩け。」



ヤベェ、こんな責任重大なこと、俺みたいなやつがやっていいのか。



下に群がってる近所の人たちが俺を指差す。


めっちゃドキドキする!!!



その時、神主さんが声を上げた。






「センザイトー。」



「おーーー!!!」



ドン、ドン!!



「バンザイトー。」



「おーーー!!」



ドン、ドン!!



「エイエイトー。」



「おーーー!」



ドン、ドン!!




うーーー、こんな神事をやらせてもらえるなんてめちゃくちゃ緊張したわ。


すごい貴重ない経験させてもらえた。






それから餅撒きもやらせてもらった。


投げるとこ投げるとこに群がる人たち。


ババアの気迫に負けておずおずしてる子供に、持ってる袋を開かせるジェスチャーをして、その中めがけてポンポン投げ込んでいると、感づいたババアが子供を跳ね飛ばして餅を奪った。


俺も小さいころババアにタックルされて泣いてた記憶がる。

たかが餅なのになんで餅まきの時ってみんなこんなに必死になるんだろなぁ。




 


餅撒きが終わると蜘蛛の子散らすようにあっという間に誰もいなくなった。



「いやー、山田さんより良い条件出してウチに来てもらおうかな。ハッハッハ!!!」



大西親方からこれ以上ない褒め言葉をもらえて、山田親方の面目も多少は保てたかな。






ツーバイフォー、プレカット技術が進み、大工はもはや組立工と名を変え、お客さんはカタログの家を買い、完成まで1~2度くらいしか見に来ない。


餅撒きなんて昔話。



「そんなんじゃ寂しいよな。」



しみじみと言う山田親方。


古き良き風習を守るということも、職人の大事な仕事のひとつ。


山田親方のとこで働けて本当によかった。








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