2004年 6月15日
大学生風の若者50人を乗せたバスが2時間かけてやってきたのは山形県。
田んぼと山に囲まれた中にポツンと建ってる工場。
その駐車場に並ぶ俺たち。
何をさせられるのかと思っているとこに、フォークリフトでダンボール箱が運ばれてきた。
中にはブレンディ。
あのコーヒーのブレンディ。
このペットボトルのパッケージが破れていないかを1本1本チェックしろという。
炎天下の下で、50人の若者がブレンディをただ見つめている。
ほとんどのブレンディは破れてないので箱に戻すだけ。
でもたまーに、ごくたまーに破れたやつがあるので、それを見逃さないようにブレンディを見つめる。
なにこれ?
炎天下の駐車場でやってるからものすごく暑い。
みんな黙って箱に群がって、イカれた光景だったな。
8時から19時までやって日当8750円。
でも仙台から片道2時間かかるので拘束時間15時間。
それで8750円。
恐るべし派遣…………
ていうかしばらくブレンディ見たくもない…………
マジで仙台でのバイトはこんな変なのばっかりだった。
段取りもめっちゃ悪い。
次の日は集合場所の花京院スクエアからバスに乗って岩手県の一関市へ。
到着した工場ではたくさんの人が様々な器具を使って基盤をいじっていた。
ケータイ工場だ。
服を着替え、空気が噴射される小部屋で全身にブシャァアア!!っとやられて、別の部屋で待機。
「ちょっとここで待っててください。」
何かトラブったらしく、リーダーの人たちが慌てて奥の部屋に入っていく。
「えーーーーっとですねーーー……………今日仕事ないみたいです。これから帰ります。あ、給料は1日分出ますので。」
ラッキー。
そのままトンボ帰りで仙台に戻る。
翌日も同じ岩手の工場にやってきた。
「えーーーーーーっとですねーーーー……………今日も仕事ないみたいなんでこれから帰ります……………」
いや、だから段取り悪すぎじゃない?
俺たち50人だよ?
昨日と合わせて100人分の日当を無駄に払うって、マジでアホなの?
まぁこっちは働かないでお金もらえるからラッキーではあるけども。
連日、だいたい同じメンバーでバスに乗っているので、すでにあちこちで3~4人のグループが出来上がり始めている。
ギャハハハ!!と大声で笑ってるイケてるグループ。
サエないオタクのグループ。
まだ友達を作れてなくてソワソワしてる奴ら。
俺はお前らとは違うとクールぶってる奴ら。
50人もいるとバスの中には色んな集団心理が働く。
俺は1人で黙って日本酒の本を読んで勉強。
隣では、東京ってさー!!って東京に行ってた自慢をしてるダサい金髪の大学生たち。
電車の乗り換え楽しいよねー!!って周りを意識しながらデカい声で喋ってる。
みんな田舎もんだ。
そんな感じで段取りの悪い会社だからか急にバイトが休みになることもあり、ポッカリ時間ができた時は仙台周辺を観光した。
この前疲れすぎた行かなかった堤焼きの工房では、たくさんお話を聞かせてもらった。
西の伏見、東の堤と呼ばれる土人形の産地であるこの地には、正統な伝承を続ける工房はここ一軒のみだという。
「おー、入って入ってー。」
中には見たこともないほど鮮やかで品のある人形が並んでいた。
奥に通されると、そこにはまだ絵が描かれていない真っ白な人形たちがわんさか。
人形たちに色付けをしているお爺さんの目の前に座り、お話を聞かせてもらった。
顔料でもって何度も重ね塗りをして色をつけていくんだそうだ。
「伊達政宗は小田原攻めの時、ろくに加勢しなかったためにだいぶ領地を削られてしまったんです。」
2時間くらいゆっくりとお喋りさせてもらった。
江戸時代から先祖代々伝わる型や、奥にしまってある何百年も前の人形を見せていただいたりと、とても親切で上品なお爺さんだった。
現当主の芳賀強さん、大変勉強になりました!!
その芳賀さんに教えてもらった銭湯に行ってみると、とても小さな、いかにも銭湯っていうところで360円。
安い!!!!
スーパー銭湯なんか行ってられっか!!!
街中にある勝山酒造は、最近SMAPの草薙君がテレビでいつも飲んでると言ったことでたくさんお客さんが来ていた。
「今年は山田も五百万石も不作で少ないんですよね。だから結構他の一般米で代用してる蔵も少なくないと思います。」
20代半ばの若い蔵人さんに案内してもらったんだけど、ぶっちゃけた裏話とか色々聞かせてもらえて勉強になった。
仙台の横にある塩釜市がかなり面白いところだった。
東北で1番古く、1番人々の信仰を集めてきたという塩釜神社。
小高い丘の上にある神社は敷地も広く、建物も立派で神宮レベルだ。
東北歴史博物館では旧石器時代からの東北の歴史について様々なことが展示してある。
エゾ・エミシとの争いは700年代から起こっていたようだ。
製塩法をこの地に伝えた神様と、その神様が塩を作るのに使用したという鉄釜が祀られている御釜神社にも寄り、地元のお婆ちゃんとお喋り。
んー、塩釜市ってその名の通りの歴史がある町なんだなぁ。
そしてこの町でのメインはやっぱり「浦霞」の酒蔵。
現在の吟醸ブームの火付け役であるかなりメジャーな蔵元だ。
ウチは見学やってないんですよねぇ、と言うのを強引に食い下がってお話だけ聞かせていただくことになり、古めかしい陶器屋や茶屋が並ぶメインストリートの真ん中にある蔵に到着。
「お待ちしておりました。」
丁寧に案内していただき、通されたのは奥の綺麗な部屋。
テーブルと椅子が並んだ個室だ。
おいおい、天下の浦霞だぞ。
こんな個室だなんて恐縮すぎる…………と緊張していると、そこに1人のおじさんが入ってきた。
日夜、日本酒の研究をしている研究室の室長、横山直行さん。
ぐおおおおおおお…………
こんなすごい人にお時間とってもらえるなんて…………
静かな室内で1対1のお話を1時間。
酵母の様々な組み合わせで香りや発酵速度を調べたり、麹との相性を調べたりしてるんだそう。
酵母ってのは絶えず変化をしているらしく、その中からいい部分だけをより分け培養したりと、まぁ気の遠くなるような研究をしているとのこと。
「それではお酒を用意します。」
運ばれてきたのは未開封の4合瓶2本、お茶、バケツみたいな缶、そしてオシボリ。
こ、これはまさか、あの有名な利き酒ってやつか…………!!!
「普段利き酒はしていないんです。いい状態のお酒を味わっていただきたいので。だからといって毎回その場で封を切ってたんじゃ大変ですからね。でもまぁあなたは非常に熱心なようなので特別に。」
利き酒ではお酒は飲まずに吐くもの。
このバケツはそのためのもので、ここまで本格的な利き酒は初めてだ。
めっちゃ緊張するけど、一通り、型通りの利き酒をしてみる。
「どうです?」
「んんん………………………こちらの純米は少し後切れが良すぎて物足りない感じが…………」
「あああ、少し若いと思います。」
いやいや、天下の浦霞の研究室室長にこんな22歳の金髪ロン毛のクソアホのクソ貧乏人が何を生意気なことを…………
利き酒めっちゃ難しい。
地方の風土でも味が違う、杜氏の流派でも味が違う、米でも水でも醸造工程でも変わる。
2℃~3℃の温度でも表情変わるし、器でも全然味が変わってくるんだそう。
マジわかんねーーーーー。
協会12号酵母の元となった浦霞酵母で醸す純米吟醸で吟醸ブームを巻き起こし、吟醸といえば浦霞ってほどの知名度を持つこの蔵。
こんなどこの馬の骨とも知れん俺にもものすごく丁寧で紳士的に対応してくださって、とても気持ちよく勉強させていただいた。
俺だけのためにお酒の封開けてくれるなんて、申し訳ないくらいだった。
浦霞、横山さん、本当にありがとうございました!!!
そうそう。
福島からヒッチハイクして北海道に向かったユウキは、あれから無事富良野に到着し、ペンションで順調に働いてるみたいだ。
みんないい人ばかりだし、仕事はシーツ交換や草刈り、配膳の手伝いとか楽で楽しいものばかりらしい。
空き時間には富良野の大自然を満喫し、朝はパンとヨーグルトとベーコンとポテトサラダ、昼はチャンポンとか焼きそば、そして夜にはなんとスキヤキや焼肉、ゆうべはサバの竜田揚げ、ベーコン豚巻き、アスパラサラダに具沢山ミソ汁と白ご飯という貴族のような食事。
俺はというと昨日のバイトで差し入れでもらった賞味期限切れのおにぎりをチビチビかじって極限まで空腹を満たそうという貧民コース。
「北海道サイコーだぞー。早く来いー。」
残るは岩手と青森かー。
あー、北海道楽しみだ。
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