この日もバイトに行っていると、午前中に雪が降り出した。
「こーーりゃダメだっぺぇー。」
キモイマンがわざとらしくそう言う。
キモイマンとは俺が行ってるバイト先で、親方と呼ばれてる先輩。
この会社では1番仕事ができるとのことで親方と呼ばれてるんだけど、あまりにもキモイからキモイマンと呼んでいる。
「あー、ダメだっぺぇー。戻るべ戻るべ。」
「そうだなぁー、最近風邪気味だがらなぁ。」
「そーりゃ飲みが足りないからだっぺよぉー。」
「そーだっぺなぁー。そういうっぺよなぁー。」
酒屋でビールをしこたま買い込むオッさん2人。
そして会社に戻り、次の現場の指示をもらう電話もせずに勝手に酒盛りを始めやがった。
「おう、金丸も飲め。」
「いや、仕事中ですから。」
「もーう、こんな雪じゃできないっぺよぉー。金丸、お前1人でやるか?」
「やってきましょうか?」
「もうタイムカード押したっぺよー。お前の分も。」
「はぁ!?!?」
このボケダメ人間どもがああああああああああ!!!!!
怒りで発狂しそうになりながら俺1人でトラックに乗って待機していると課長が帰ってきた。
向こうで怒られてるボケども。
「金丸!!次行くことになったからお前運転しろ。俺たち酒飲んでるがらなぁー。運転できるっぺか?」
「酒飲んでる人よりはマシですよ。」
出発してもずっと横で酒を飲んでるオッさん2人。
「今から行ったら18時過ぎちゃうっぺよぉー。もっと早く言えってんだよぉー。」
「んだんだ。」
あまりにもムカつくからわざとゆっくり走ってやる。
「なーんだ金丸ー?怖いんだっぺかぁー?運転教えてやろうかー?ヒャヒャヒャ。ホラ、酒飲むか?」
「いりません。」
「だーいじょうぶだっぺよぉー。金丸は慎重すぎだっぺぇー。ゲーーーーップ!!!」
思いっきり横でゲップするキモイマン。
ゲップはするわ、平気でおならするわ、飯食う時はニチャニチャ音立てるわ、ぐえええ!!って常に痰からんでるわ、いつも股間触ってるわ、触った後に手の臭いかぐわ、ヘルメットは洗わないから真っ黒だし、仕事しないし、酒ばっか飲んでるし、運転してて女子高生がいたら必ず振り返って見るし、女子中学生でも振り返るし、マジで吐き気しかせん。
現場に着いたけど何にもしやがらねぇから俺1人で足場を組む。
下からあーだこーだ言ってくるウジ虫ども。
「金丸先生がいるから楽だっぺぇー。柱ちゃんとおこせよー。わかるか?こうやって手すりを打ち込む時にだな…………」
「わかりますよ!!!」
「金丸ー、ウチはアットホームな会社だがらなぁー。仲良くやってかなきゃなぁー。ハッハッハー。」
もうマジで毎日こんな感じでキモくてキモくてしょうがない。
次の日にもキモさ全開。
午前中に、キモイマンと一緒に1件目のバラしを終え、資材置き場に戻る。
するとそのタイミングでパラパラと雨が降り出したので、早いところ次の現場のバラしに行かなきゃと、トラックの荷を下して空にしようとしていたら、資材置き場で整理をしていた古谷さんていう人のいいおじさんが言った。
「おーう、この車の荷下ろし俺がやっとくから、あっちの空の車で行けばいいっぺー。」
時間は11時半。
古谷さんにお願いしますと伝え、空き車に乗り込もうとしていると、キモイマンがキモい顔して言ってきた。
「おう、こっちのトラックの荷下ろしするぞ。」
は?何言ってんだ?
古谷さんがやっとくって言ってるやん。
ていうかアンタ今まで車乗り換える時に荷下ろしなんかやったことないやん。
いつも人任せで。
「いやいや、古谷さんに任せればいいじゃないですか。」
「あああ!?!!なんだっぺぇー!!!」
「いや、だから早くバラしに行きましょうよ。」
「お前先輩にやらせるってどういうつもりだっぺやぁ!!!ったく、口のききかたも知らねぇんだっぺかあああ!!!」
「いやだから、僕たちの最優先は現場終わらせることでしょう。」
「先輩にやらせるとか何様だっぺやああ!!」
このゴミ野郎!!!!
自分はいつも周りの人間にばっか仕事やらせて酒飲んでるだけのくせに何ほざいてやがんだ!!!!
鉄パイプで頭ぶん殴りそうになった。
はっ!!!そうか!!!!
今11時半。
このトラックの荷をチンタラ下ろせば12時になる。
このままここで飯を食って、その間に雨が激しくなるのを待つって寸法か!!!
このクソカス人間が!!!!そうはいくか!!!!
ダッシュでトラックに行き荷下ろしを終えると11時50分。
さぁ行きますよ!!とトラックに乗り込む。
「おう金丸、メシだ。1人で行くのか?」
さっさと休憩所に入っていくキモイマン。
まだみんな雨の中、置き場の整理をしているのに。
さっきの言葉どの口が吐いたんだボケ!!!!
するとそこに課長がやってきた。
「金丸、今日はもう上がっていいっぺよ。この雨だがらなぁ。」
はぁ……………キモイマンの思惑通りやん…………
「でもまだバラし残ってますよ?」
「え?ホントだっぺか!?だったら行かなきゃいけないっぺよ!!」
向こうで聞いていたキモイマンの顔色が変わる。
ボケが。
もうついでだから書くけど、キモイマンはいつも9時くらいに現場に着いて、それから朝ごはんのコンビニパンを食べ出す。
早く仕事にかからなきゃいけないのに、金丸慌てるなぁー、一服しとけーと言ってムシャムシャとパンを食べてる。
個人住宅の足場って、現場監督も他の業者もいないのでいくらサボってもバレることはない。
しかしその日は会社の専務が見回りに来た。
「あ!!ダーメだっぺよぉぉ!!今頃飯なんか食べてぇー!!お客さんに見つかったら大変だっぺよぉー!!」
「あ、はい、わかりました。」
すぐに仕事に取りかかるキモイマン。
しかし専務が帰ると、また車に戻ってプカーっとタバコを吸い始める。
ゴミすぎる。
仕事を終えて資材置き場に戻ると、俺とキモイマンが専務に呼び出された。
別室に呼ばれて座らされる。
「今日のアレなぁ、ダメだっぺよぉ。8時前とかに着いてるんだったら食べてもいいけど9時だっぺよぉー。あれはまずいがらぁー。」
なんで俺までこんなこと言われなきゃいけないんだと思いながら横を見ると、うつむいて神妙な顔をしてるキモイマン。
「いつもあんなのやってるんだっぺか?」
「はい。」
「い、い、いや!!!違うっぺよ!!いつもじゃないっぺよいつもじゃあ。行く途中食べる時も………」
うろたえながら嘘つくなよみっともねぇ。
毎日やってるだろうが。
ていうかなぜか俺ばっかり見ながら説教してくる専務。
俺が顔を上げてるから俺に言うしかないみたいになってる。
キモイマンは相変わらずうつむいてる。
10分くらいダラダラと俺ばっかりに説教し続けた専務。
そしてスッととキモイマンのほうを見た。
「親方も気をつけてよー。」
はあああああああああああああああ!!!!?!?!?
お、や、か、た、も!?!?!?!???
え!?何!?
俺主犯!?!?!?
ちょ、待って!?!?
なんでなの!?!?
わからんの!?!?
仕事態度とか見てたらわからん!?!?
ていうか先輩って後輩かばうもんじゃねぇ!?!?
後輩に責任なすりつける!?!?!?
なんなの茨城?
いや茨城は悪くないか。
でもこんな会社がやっていける茨城の環境ヤバいわ。
次の日に会社辞めますと社長に伝えた。
まぁもちろん、もともと予定していた日まではやるけどね。
ムカついて仕事ほっぽりだして辞めるなんてしたくないから決めてたところまではしっかりやろう。
はぁ、ストレスだわ…………
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