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命がけのロッククライミング







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三徳山三佛寺は、三朝温泉から車で5分ほど山を登ればすぐにたどり着けるんだけど、それよりも本堂の先にある奥の院、別名投入堂がすごい。


めっちゃ山の奥にあるらしいんだけど、写真で見る限り、巨大な断崖絶壁の途中にぽっかり開いた窪みに寺がスッポリと埋まっている。


こんなのどうやって作ったんだ?


国宝にもなっていて、そこにたどり着くまでにも重要文化財の寺などがたくさん点在していて、めっちゃ面白そうだ。


ウキウキで参道の階段を登る。




「こんにちはー!!奥の院に行きたいですー!!」



「あのですねー、今日は雪がまだ残ってるので、閉山になってるんですよ。だから本堂までしか行けませんので。投入堂はすみませんけど見れません。」



「あぁ………そうですか…………はぁ…………まぁせっかくだから本堂だけでも見ていきます。」




ガックリ…………


残念すぎる…………





仕方なく参拝料400円を払い、石畳の階段を上がる。

お堂が両側に並び、その向こうに本堂が現れた。


まぁまぁ立派。


確かに立派。



でもこんなんで諦めたくない。


ここまで来てノコノコ引き下がれるか!!








投入堂への入山の門は本堂の裏にあった。


固く閉ざされていてどうしても通れない。


こうなったら、とキョロキョロしながら森のほうへ回り込み、木につかまりながら斜面を突破し、難なく門の向こう側に出てきた。




へへへ、よゆーだぜ、とか思ってると、目の前に凄まじい坂が立ちはだかった。


なんだこれ。


まず道じゃねぇ。



よく見ると、木の根やカズラの皮が剥げてツルツルになってる所がある。



「おいおいこんなとこ登るのかよ…………」



カズラに掴りながらぬかるんだ道を一歩一歩登る。


でも屋久島の宮之浦岳はこんなのが2時間続いたし、どうってことねぇ。










ていうかこのルート作った人、よっぽど最短で行きたかったんだろうな。


本当に斜面に沿って一直線に道らしきものが伸びている。





ハァハァ言いながらしばらく登ると、坂の上に立ちはだかるようにひとつめの寺、文珠堂が見えてきた。


ミニ清水寺みたいな造りで、何本も伸びた足が巨大な岩の窪みについてある。





岩をよじ登り、お堂の周りの回廊をそろりと一周する。


手すりなんかなく、下はめまいのするような高さ。


きしむ床板。

でも景色は最高。








またしばらく登ると、同じ造りの地蔵堂、その少し上に鐘楼堂。


そこには2tもある鐘が設置されていた。


こんな重いもの、どうやってこんな上まで持ってあがったんだ?


謎過ぎる。












雪の残る山道をザクザク踏みしめながら登っていると、しばらくして坂がそんなにきつくなくなってきた。


ピョンピョン先に進み、さらに3つほどお堂を通り過ぎ、角を曲がった瞬間だった。


すごいものが目に飛び込んできた。




なんじゃこりゃ…………










ものすごい断崖絶壁に寺がくっついてる。


建物の半分くらいは穴に入ってるんだけど、あと半分は外にはみ出していて、長い木が何本も伸びて崖の途中に足をついてる。


706年に役の行者さんが、山の麓で作ったそのお堂を法力で「とりゃー!!」とこの穴に投げ込んだらしい。



見ると、そのお堂の正面に舞台がある。






好奇心の虫が疼く。



「あそこから眺めてぇ。」



しかしお堂に続く道なんかなく、ただ絶壁。


どう行こう…………と思いながらも、とりあえず近づくと、有刺鉄線を巻きつかせた柵が立ちふさがってる。


軽くそいつを乗り越えると、そこからは本当にもう何もない。





気合いで拳ぐらいの窪みや、親指くらいのでっぱりにつかまりながら崖にしがみついた。


上から滝のように流れ落ちてくる雪解け水が、寺の穴への浸入を遮る。


下を見ると、どこまでも崖が続いていて、雪の残る森に消えている。



途中でどうしてもそれ以上進めなくなり、片手片足でブーツを脱ぎ、窪みに詰め込んで、さらに厳しい場所に体重をかける。



裸足はいい。

絶対行ける。







やっと、本当にやっと、寺の下に回り込み、舞台によじ登った。


おっしゃ!!こんなところまで来た人そうそういないぜ!!!



「やったぜー!!!あ、あれっ?」



よく見てみると、床や柱や天井、いたるところに文字が刻んである。



S.28 岡山~
S.23 6月XX日~



どうやらここまでたどり着いた人が記念に削っていったようだった。


昭和初期のものとかもある。


いつの時代もみんな考えること一緒なんだなぁ。




しかしまぁ、よく国宝の建物にこんな傷をつけるな。


相合傘とかもあるやん。

まぁここまで来て床板を踏んでいる俺も似たようなもんか。





それにしても、絶景絶景。


連なる山々、霧のかかった谷…………



さぁ写真を撮ろうかなーとデジカメを取り出すと、


ハイ、電池切れ。



なんなのもう…………

こんな大事な時に限って…………








のんびり景色を堪能したいところだったけど、このままだと夜になってしまうので、すぐに下山することに。


冷や汗かきながらまた崖を下り、ブーツを窪みから取り出し、やっと有刺鉄線のところまで戻ってきた。



というところで雨が降り出す。


マジかよ!!

勘弁してくれよ!!!!




デジカメをかばいながら大急ぎで坂を下る。


降りだした雨は勢いを増し、カズラの根の下を小川のように流れ出している。





猿のように山を駆け下り、やっとこさ本堂の石畳に戻った頃には、服ビショビショ、ズボンもブーツもドロドロだった。


寒すぎる…………


持っていたパンフレットに、投入堂までの参拝料は600円と書いてあったので、受付に差額200円を払いに行った。



「あ、あのー、実は投入堂まで登っちゃったんですけど…………」


「え!!行っちゃったんですか!!だめですよ!!」



怒られながら200円を払った。













あまりにも寒いので、ちょいと車を走らせ三朝温泉に行き、ちょいと路駐して、ちょいと服を脱いで、ちょいとドボン。



「ギャー!!」



昨日と同じようにお湯から飛び出る。

熱すぎる。


橋を歩いてる浴衣の人たちから見ると、裸の男が河原で小躍りしてる状態。


でもたまらなく気持ちいい。


冷たい雨がハラハラと降り、肌に心地良すぎ。












それから三朝の観光案内所「陣所の館」に行き、三朝の5月のお祭り「陣所」で使われる網引きの大綱や、日本各地の網引き祭りに関する展示を見学した。



「あらまー!!それはよくご無事でー!!」



管理人のおばさんにさっきの話をするとすごく驚いてた。

話によると、俺みたいなことをしようとして、崖を転げ落ちて死ぬ人が後を絶たないらしい。


つい最近も事故があり、山自体登るのを禁止にしたら、という声が出てるらしい。



しかし逆に、この山を世界遺産にしようという声も上がってるらしい。


もし登録されたら世界中からいろんな人がやってきて、この山間の、のどかな温泉街の情緒や風情は踏み荒らされて消えていくはず。


沖縄がそうだった。


観光収入をとるか、昔ながらの景観をとるか。


世界遺産に登録されるのも考えもんだな。









三朝温泉を出発し、鳥取市の近くまで行き、港の駐車場に車を停めた。


風がものすごく強く、車がぐわんぐわん揺れている。


おしっこしたくて外に出ると、ものすごい吹雪だった。


暗闇から迫り来る白い粒は、ビー玉くらいの大きさ。



冬の日本海。


予想通り手強い。






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