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防水屋さんのバイト







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瀬戸大橋を渡っていると、ちょうど太陽が昇ってきた。


少しもやのかかった内海にたくさんの島が浮かび、その間をいくつもの船が動いている。


橋の上はビュンビュンと車が行き交い、これから1日が始まるという慌ただしさを海の上から眺めていた。


全てがオレンジ色に包まれ、本当に映画のワンシーンみたいだった。









叔父さんの会社でバイトすることが決まり、早速今日から現場に出勤させてもらった。


初日の仕事は香川県高松市にできる高速道路の建設現場。

橋脚と道路のつなぎ目の部分のコンクリートの少し浮いてるところに、接着剤の「エポキシ樹脂」を注入し、隙間を塞ぐという作業。


ミッションインポッシブルみたいに、クソ狭いところを這いつくばりながらほふく前進する。



会社のメンバーは叔父さんを入れて4人。


でも1人は営業なので、実質3人で中国・四国を飛び回っているという。


他の2人は22歳と23歳で、どっちもすごく親切に教えてくれて、すぐに馴染めた。









そうして始まった叔父さんの会社での防水屋さんバイト。


ホント防水屋さんってよくわからん。


岡山大学の現場では、耐震工事で既設の校舎にぶっとい鉄骨とブレスを取り付けてるんだけど、その鉄骨と校舎の間にモルタルを流しこみ、完全にくっつけていくという仕事。


なんじゃそりゃ?


このモルタルっていうのがちょっと特殊なモルタルで、無収縮モルタルという。

文字通り縮まないモルタルで、普通のセメントと比べると15倍くらい高値。


しかも水との割合が3対1なので、もうドロッドロのピッチャピチャ。


自分たちで型を組み、自分たちでモルタルを流し込み、自分たちでバラす。






また別の日は、マンホールの中のコンクリート部分の止水作業。


もちろん俺はど素人なので何もできないんだけど、少し前にマンホールの蓋を開けて作業をしている際に通行人が落っこちるという事故がどこかであったらしく、マンホール内での作業をする際は必ず1人が地上で通行人を見てなきゃいけない、というルールができたらしい。


俺はその見張り役。


ずーーっと、1日中マンホールの脇に立っとくだけ。






現場が少ない時は、会社の倉庫で高圧注入用のプラグの再生作業をしたりもした。

使用済みで樹脂まみれのプラグをひとつひとつ分解して、使う部分だけを選り分けていく。


1人でせっせと手にマメを作りながら頑張った。








泊まらせてもらってる叔父さんの家ではひたすら毎日飲み会の日々だった。


基本は叔父さんと2人で飲み。


でも現場が忙しくて応援がたくさん来た時は、家の中で足の踏み場もないくらい男たちにまみれて飲んだくれ、雑魚寝した。

タコ部屋ってこんな感じなのかな。



お酒好きの叔父さんはいつも絶好調。


でもいくら飲んでも次の日にはシャキッと仕事しているからさすがだ。


俺はいつも二日酔いになってる。





あと家ではひたすら「恋のチカラ」が流れてた。


ちょっと前にやってた深津絵里のこのドラマが叔父さんは大好きで、ひたすらエンドレスで流れてて俺もセリフまで覚えてしまった。


深津絵里めっちゃ可愛い。













休みの日にはみんなで叔父さんが持ってる船に乗って、瀬戸内海タコ釣り大会にも出かけたりした。


朝の6時半から目をショボショボさせながら出港し、恐ろしく寒い瀬戸内海を飛び跳ねながら島の間をかいくぐり、みんなで釣竿を垂れる。


船の上からの釣りなんてこれが初めてですごく新鮮だった。



俺の釣果。





ヒトデ1匹。




でも叔父さんはヒトデすら釣れなくて、結局スーパーでイイダコを買って煮てくれた。


歯ごたえがあり、すごくおいしい。











週末の夜には倉敷駅に歌いに行ったりもした。


しかしやっぱり倉敷にはこれといった飲み屋街がなく、人通りがまばらで、1時間ほど歌ってもまったく反応はない。


岡山は岡山市ぐらいしか歌うところはないって聞いてたけど、マジでそうなのかなぁ。



そんな倉敷の町の中に「波照間」という居酒屋を見つけ、沖縄料理が食べられる!!!と興奮してお店に飛び込んだ。


中に入ると、そこはマジで沖縄。





オリオンビールののぼり、

並ぶ泡盛のビン、

流れる島唄に、ウチナー顔のご主人。



ウキウキしながら席に着くと、ママが親しげに話しかけてくる。



「お兄さん、旅の人?」



「はい、この前まで沖縄行ってたんで。あ、ソーキそばとオリオンジョッキください。」


  
幻の泡盛「泡波」がカウンターに置いてある。

まさか内地でお目にかかれるとは。





貝の灰皿、唐辛子の泡盛漬け…………


あぁぁ、沖縄懐かしいよおおおお…………






が、残念ながらちょっとガッカリだった。


やっぱ料理がナイチャー向けの味付けになってるし、材料を空輸してるもんだから、どれもこれも高すぎる。


ゴーヤチャンプルーにポークが入ってないもんなぁ。



いやもちろん美味しかったんだけど、やっぱ郷土料理ってのはその土地に行って食べないとダメだなって思った。




福山市の中華料理店「バンバン」のタンタンメンはめちゃくちゃ美味しかった。












空いてる時間はひたすらギターを弾いたりヘンプの編み物に没頭した。


ヘンプで初の平面に挑戦。


今まではブレスとかネックレスとか、線状の編み物でしかなかったのを色々と研究し、ライター入れという立体的なものを作ってみた。


なかなかいい感じ。


よーし、これでまた幅が広がったぜ。





でも編み物がいくら上達したって肝心なのはギターだ。



もうずーっと前から俺の一番悩みの種。


もっとうまくなりたい、と思って弾いていれば少しずつうまくなってはいるんだろうけど、他にもっと効果的な練習があるんじゃないかと不安になる。


美香にこのことを話すと、



「今は「魔女の宅急便」で言うと、飛べなくなっちゃったところなんだよ。」



と言っていた。


だったらいつかまた飛べるようになったとき、俺はどんなギターが弾けるんだろうな。


もっともっと、もっとギターうまくなりたい。


ちゃんと練習しなきゃな。


人生は短い。


1分1秒をすべて有意義に。












あと、ファントムの修理代は4万5千円だった。


まぁ予想してた通りで、叔父さんに前借りして車を取りに行き、これでまた旅が続けられそうでホッとした。



ていうかこの防水屋さんのバイト。


叔父さんに仕事をさせてもらう条件として、「徳島での仕事が終わるまで」と言われているんだけど、日程がズレ込んでてこのままだと2月の10日くらいまでかかるみたいだ。


丸1ヶ月もバイトすることになる。


お金が貯まるのは嬉しいんだけど、早く先に進みたいという焦りもある。




それに、これ以上延びると困る理由が他にもある。



2月15日に行われる日本3大奇祭と呼ばれる、西大寺会陽、通称はだか祭りに参加したいからだ。



この祭りは岡山市内の西大寺っていう町で開催されるもので、お寺の住職が何日間も祈りを込めた御神木と呼ばれる木の枝を屋根の上から放り投げ、それをふんどし一丁の男達が奪い合うというもの。


ボッコボコ殴り合いながら。


そんで見事御神木を取った男がその年の福男になるということで、参加する男たちも毎年約9千人とハンパじゃないらしい。


流血、骨折、意識不明って人が毎年出るイカれた祭りなんだけど、せっかく岡山にいるならこれはもう出るっきゃないだろー!!


絶対御神木取って、その日のニュースに出てやるぞ!!!















バイトの休みの日。


今日は久しぶりにファントムに乗り込んで海沿いを走った。


沙美海岸というところに行き、汚い海をボーッと眺める。


水平線にそびえる巨大な工業地帯。












  

砂浜で一緒に写真を撮る恋人たちがいる。


野球のアンダーシャツでランニングしてる部活生。



夕日に染まる畑の中でお喋りしてるお婆ちゃんたちの方言はどこか懐かしい。


岡山の方言は、まさに田舎って感じの言葉だ。



こんな知らない土地でも、人の暮らしは同じように営まれている。


俺が宮崎で過ごしてた、あれと同じ時間がここでも流れていた。













半ズボンで元気よく走り回ってた子ども時代、あの日々にも今日と同じような夕日が町を染めていた。


紙飛行機だったか、ゴムでプロペラを回す零戦の絵がプリントされた飛行機だったかは忘れたけど、すごく昔、川原でそれを飛ばして遊んでたら中州の島の方に飛んでいってしまい、悔しげに眺めていたのを微かに覚えている。


夕焼けのせいか、記憶がおぼろげなせいか、頭の片隅に残っているあの光景は確かに夕日に染まっていた。



あの飛行機はどこに飛んでいってしまったのかな。










今なら追いかけていける。


川を越えて、中島まで取りに行ける。


夕日の中に消えていった飛行機を追いかけていけるだけの勇気が、今の俺にはある。












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