平尾台には、たくさんの名所がある。
カルスト台地になっており、石灰石がボコボコと飛び出してる丘の連なりや、その他にも鍾乳洞や色んな施設があり、1日かけても回っても難しいくらい。
昨日のとんだハプニングのせいでろくに見てまわれなかったので、今日もう一度平尾台へ向かった。
WOODSTOCKというロッジですごくおいしいランチを食べ、まず1発目に牡鹿洞。
国内でもめずらしい縦型の鍾乳洞らしく、入り口から螺旋階段で約30mも下に降りていく。
この鍾乳洞からナウマン象やオオツノジカの化石が発見されたそうだ。
この巨大な竪穴に落ちて死んだんだな。
美香を驚かしてやろうと、待ってよー!というのを聞かずに洞窟の中をタッタッタッと先に走っていき、くぼみに身をひそめて美香が歩いてくるのを待った。
ヒヒヒッと思いながら息をひそめ、美香を待つ。
その時、何か嫌な気配を感じてふと上を見た。
「ウギャァアアアアアアアアアア………………」
「何!?なに!?」
走ってくる美香に抱きつき、天井を指差した。
「キャー!!いやーーー!!!」
「うわー!!ギャー!!!」
2人で後ろに倒れ、這いつくばるように逃げ、離れたところから息を殺して振り返る。
高さ2mほどしかない天井にぶらさがる、黒いホシガキの群れ。
そう、コウモリ…………
「無理!!絶対無理!!!」
「俺もいやだー!!でもここで引き返したら受付のおじちゃんになめられるよ。」
「えー、もーどうしよー…………」
5分くらいその場で悩んだ。
「これはきっと試練なんだよ、受付のおじちゃんの。この先にもっとものすごいものがあるはずだよ。」
マジで気絶しそうになりながら、中腰でうつむき、そろりそろりと歩き、やっとこさ群れをくぐる!!!
はぁはぁ…………
マジで勘弁してくれよ…………
こんな洞窟の中でコウモリとか、刃牙の特訓じゃねぇんだから…………
が、しかし、群れを通り越した後も至る所にポツポツとぶらさがっているのが見える。
もうパニック。
「ひー!!もういやぁーーー!!」
錯乱している美香をなんとかなだめて先に進んだが、結局これといったら鍾乳石はなく、ダッシュで外に出てきた。
もー行かん!!もううううう絶対二度と行かん!!
洞窟最悪!!!!
そしてその足で次の千仏鍾乳洞へ。
「ええええ………またああああ…………」
めっちゃ嫌な顔をしてる美香。
そ、そうだよね………
でも懲りない男なんです………
受け付けに行くと、おばちゃんが今入るのはやめといたほうがいいよと言ってくる。
なんで?って思いながらも、思っただけで言うことを聞かずに1人800円の入場料を払って突入。
おばちゃんがなぜ止めたかというと、この鍾乳洞は足元が水だから。
裸足になって水の中を歩かないといけないので、夏は観光客が多いが、こんな真冬にここに来る人はほとんどいないらしい。
でもひんやりとはしていたけど歩けないほどではない。
サンダルを履いてジャバジャバと進んでいく。
牡鹿洞とは違って千仏鍾乳洞の中は広く、光りゴケのせいで明るく、しかも暖かい。
逆に人がいないので、美香に吉田拓郎の「結婚しようよ」を教えたりしながらゆっくり鍾乳石を見てまわった。
さすがに国指定の鍾乳洞ということで、立派な鍾乳石もあり、神秘的で美しかった。
そして今日も田川で路上をやることにした。
柿下温泉というところで温まり、それから気になっていた鍋屋さん「三幸」に行った。
最後くらいちょっと良いものを食べようと、豚しゃぶを食べたんだけど、これがものすごく美味しかった。
たらふく食っても5千円いかず、すごく安くて美味しかった。
でもこんな美味しいもの食べてるとなんか切なくなってくる。
「俺らはこうして贅沢してるけど、クリスマスにショートケーキ1個しか買えん母子とかおるとよ。わぁ、イチゴだ~とか言って喜ぶちっちゃい女の子とお母さんが、ささやかでも幸せなクリスマスパーティーしてたりするとよ。」
そんなことを話していると美香が泣き出した。
それでまた悲しくなった。
何も考えずに食べればいいのに、なんかそんな気分になってしまった。
今日はちゃんとコインパーキングに車を止め、田川の飲み屋街、栄町へ。
年末の金曜日。
やっぱり人も多い。
マレーシア人のマリーは美香を見つけて抱きついてきた。
いろんな人と会った。
忘年会が終わってグループを離れ、1人俺の前に座って黙って歌を聴き、お金を置いていったおじさん。
恋の相談をもちかけてきた若い男の人。
「さむかろー。」って言って暖かいコーヒーを買ってきてくれたカップル。
顔を覚えてくれて、目の前を通るたびに手を振ってくれたタクシーの運転手。
「この曲、教えてくれませんか。」と楽譜を持ってきた高校生。
「これいらなくなったから食べて。」と、買ったばかりのピザとワインを置いていった男の人。
自分の店をほったらかして「コレカッテー。」と道行く人に俺たちのヘンプを売ってくれたマリー。
きっともう二度と逢えない人たち。
美香がこの数日かけて初めて作った麻のブレスレットをマリーの細い腕に結ぶと、マリーは何も言わずに美香を抱きしめた。
田川、いいところだったな。
今日の稼ぎは6千円ぐらい。
みんなに別れを告げ、車を走らせた。
今日が美香との最後の夜だなんて信じられなかった。
翌日、チャチャタウンに行き、BEGINのCDを買って車で聞いた。
懐かしい三線の音。
小倉駅近くのパーキングに車をとめ、2人で歩く。
時間がせまり、改札口をくぐる美香。
意外にも泣かずに、振り向かずに角を曲がっていった。
俺はそのまま改札口の横の手すりにつかまって、その角を見つめていた。
5分経ち、電車の発車時刻。
それでも動かずにいた。
曲がり角から美香が笑いながら出てくるのを密かに期待していた。
そんなわけないんだけど。
たくさんの人が行き交う。
走ってる人。
ケータイで話してる人。
発車時刻を過ぎ、しばらくしても美香は出てこなかった。
手すりをガシャンガシャンと揺らし、出口へ歩いた。
次はいつ美香に会えるかな。
早く茨城に行かなきゃ。
そしてソッコーでストリップ劇場へ。
「うひゃほおおおおうううううううううう!!!!」
「女女オンナオンナうっきょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
ストリップ最高おおおおおおおおおおおおおお!!!!
とは叫ばずに真面目に鑑賞。
そして真面目にステージに上がって現役AV女優の黒◯愛と記念撮影。
うん、めっちゃ浮かれてる。
いやいや、ストリップ劇場ってマジで良かった。
エロい意味ではなく、文化として。
ゴキブリが這い回ってそうな立ち呑み屋と風俗店の並ぶゴミゴミした路地裏の一角にあるA級小倉。
ものすごく古びた建物で、切れかけのレトロなネオンがジージーと音を立てている。
戦後そのままっていうレトロな感じがめっちゃたまらん。
高校時代の友達の山田君と久しぶりの再会をしてこのストリップ劇場にやってきたんだけど、入場料は1人6千円と結構高く、山田君がおごってくれた。
入場料を払い、ボロくて重いドアを押す。
鳴り響く音楽。
客の中の数人がタンバリンを叩いている。
ミラーボールと安っぽい照明。
奥のステージで踊ってる女の人。
昭和の場末感がすごい。
中は思ったより狭く、100人も入ればギチギチくらいの広さ。
20人分くらいの席しかなく、いい席にはやっぱり怖そうな人が座ってるのかと思いきや、フツーのオヤジが陣取ってる。
七三分けでチェックのシャツをだらしなくズボンに突っ込んでる。
若そうなヤツがいたかと思えば、オタクくせーブサイクばっかり。
音楽が緩やかなやつになると、奥のステージから客席に伸びている花道をライトアップされたダンサーがゆっくりと歩いてくる。
ゆっくりと服を脱ぎ、ポーズをとる。
激しい動きですごく暑いんだろう、胸元に光る汗。
悲しげな瞳。
ダンサーがポーズをとると、客席からスタッフらしき私服のオヤジがテープを投げた。
テープの先が床につく直前にシュッと引き、手元に戻して陰でクルクル巻いて、またステージに投げる。
破れた座席、タバコや空き缶の散らばった床。
節目節目に司会の人が「拍手!!」とマイクで呼びかける。
全部が安っぽいんだけど、それがまたいい。
次々と交代で1人ずつダンサーがステージに出てくる。
和服やラテン系、お姫様など、いろんなコンセプトのステージ。
合間合間で、お触りタイムやポラロイドカメラ撮影コーナーなど色々と工夫を凝らしており、すごく楽しめた。
撮影コーナーでは、1枚千円で女の子と写真を撮れるんだけど、おっさん達は恥ずかしがって、女の子だけの写真を撮ったり、ツーショットを撮るにしてもモゴモゴしながら控えめにピースをしたりしてる。
「次、撮られたい方いらっしゃいますかー?」
「はい、はいはーい!!」
思いっきり手を挙げ、スタスタと前に歩いていき、ブーツを脱ぎステージに上がった。
「すいません、このGジャン着てもらえますか?それで片方めくってから………」
さんざん注文をつけ、山田君と交代で写真を撮った。
現役AV女優の黒◯愛さんが目の前で裸で笑ってる。
周りのお客さんたちもみんな笑ってくれて、おまけに、
「こだわりの1枚、どうもありがとうございました~!」
なんてマイクまで入った。
暗くて怖いイメージだったストリップ。
結構いい雰囲気だったな。
それにしてもだけど…………
笑顔で目の前で足広げて、さらに指で広げられたら胸ヤケもするよ。
その後行ったロイヤルホストではあんまりご飯食べられなかった。
それから山田君と山田君の友達数人と、居酒屋、クラブを回り、大衆浴場にも行った。
いろんなギャンブルをやり、今はスロットに落ち着いてるみたいで、凄まじく羽振りがいい山田君。
デザイナー物の高そうな服に身を包み、黒髪で華奢で背が高く、光るほど肌が白い。
この妖艶な魅力は高校生のころから変わらない。
「小説を書こうと思ってる。そして写真も一緒に本にしたい。」
最近30万円くらいかけてカメラの道具一式を揃えた山田君。
突拍子もないことだけど、山田君が言うと全てがかっこよく見える。
「金丸君は俺の友達の中で1番アクティブだからね。一緒に遊ぶと俺もなんかしなきゃっていい刺激になるよ。」
「俺も山田君と遊ぶともっと裏の闇的なことがしたくなるよ。」
「俺は普通の人間だよ。」
山田君の後輩の家に転がり込み、そこに2泊お世話になった。
ボロボロのアパート、散らかり放題の部屋、退廃的な空間。
ぼーっとしながらタバコの煙を吐いた。
【福岡編】
完!!!
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