こんにちは!神田です。
いやーー実家の安心感、半端ないですね。
懐かしいお母さんの味、家族みんなで何かたわいもないことを話しては大笑いするこの感じ。
やっぱり自分の場所はここなんだなーって改めて感じる瞬間がたくさん。
旅中でも、帰国しても、自分て幸せって感じられる私はやっぱり幸せ者なんだろうなー。
おわり
2018年3月24日(土曜日)
【日本】 福岡 ~ 宮崎
目がさめると同じ2等部屋の韓国人たちが慌ただしく荷物をまとめていた。
船の動きが止まっている。
振動が感じられない。
ということはもう到着しているのか?
部屋のカーテンを開けた。
そして目に飛び込んできたのは、福岡という文字だった。
うおおおおお…………
つ、着いた…………
もうここは日本なんだ…………
とうとう長い長い旅から帰ってきた。
「うわー、私船で帰国とか初めてだからなんか新鮮ー。」
「俺は船でしか帰国したことないなぁ。これが2度目の帰国かー。」
「それ逆にすごいわー。人生2度目の帰国なのに87ヶ国行ってるんやねー。あー、それにしても緊張するー!!日本に入国とかドキドキして手汗かくー!!」
そんな話をしながら、昨日釜山にいるうちにゲットしておいたキンパと辛ラーメンで朝ごはん。
うん、めっちゃ韓国っぽいご飯やな。
これが日本入国前の最後のご飯だ。
日本に入国したら、もうそこにはラーメンもカツ丼も生姜焼きもちゃんぽんもなんでもある。
今まで恋い焦がれ続けたホンモノの日本食がそこら中にある。
だってここ日本だもん。
日本食を毎日食べる人たちの国だもん。
そう考えたらすごい!!
でも、宮崎に帰るまではそれらの食べ物は全部お預け。
恒例のアレですね。
旅の終わりはいつも実家のスキヤキです。
まだ旅は終わっていない。
これから宮崎に向かって、実家にたどり着いてからスキヤキを食べるまでが俺たちの世界旅だ。
移動手段はもちろんヒッチハイク。
実家のスキヤキを日本帰国最初のご飯にしたいので、どんなにお腹が空いてもそこらへんで長浜ラーメンなんか食べたらダメ。
もちろんコンビニのオニギリもダメ。
福岡からなら上手くいけば19時くらいには宮崎までたどり着けるはずなので、それまで空腹を我慢しなければいけないといういつもの最後のミッションだ。
「宮崎までちゃんとたどり着けるかなー。お腹空いて動けんなるかもしらやん!!」
「大丈夫大丈夫!!こんだけ旅してきた俺たちからしたら日本でヒッチハイクなんて楽勝!!福岡から宮崎なんてお茶この子サイサイですよ!!もうなんなら足の親指立てていても乗せてもらえるかもしれないね!!俺たちほどになると!!」
宮崎までの空腹耐久ヒッチハイクに向けてご飯を食べ終え、俺たちも荷物をまとめて船を降りた。
船を降りて建物の中を歩いていくと、ものすごい人で溢れかえるイミグレーションスペースに出てきた。
降りてきた人たちでめっちゃくちゃ大混雑しており、長蛇の列ができている。
うおお…………こりゃ結構時間かかりそうだな…………
と思ったら日本パスポート所持者はこちらのカウンターですーと案内され、そっちは2~3人しか並んでいなかった。
長蛇の列を作ってる外国人たちの横をスーッと歩いて、あっさりすぎるほどあっさりとパスポートにスタンプが捺されイミグレーションカウンターを通過。
これだよこれだよ、今まで世界中のイミグレーションで、並んでいる俺たち外国人の横を地元の人たちがスイスイーっと通過していったもんだった。
今回だけは俺たちがその特権を使える番。
この国でだけ、俺たちは自国民なんだ。
俺たちにも帰ることができる国があるんだなぁ。
そんな感動に少し戸惑いながら荷物チェックゲートを越え、お帰りなさいも何もないままゲートを越えた。
あああ、日本だ。
2年前1ヶ月前に離れた日本。
何気ない売店、円表記の商品棚、看板の日本語、歩く人々の顔、
2年1ヶ月、様々な国に行って様々な風景の中で暮らしてきたけど、あのはるかな旅路から一瞬にして日本の感覚に引き戻された気がした。
一瞬にして、あの日本の生活感が体を染め上げていくような、そんな感じ。
俺って日本人なんだなぁ。
生まれた時からひとつのグループに入ってたような感覚だ。
あぁ、それにしてもあっさりしてる。
大喝采も、労いの言葉も、表彰状も、何もない。
ただ、イミグレーションを越えて歩いていたらいつの間にかそこは日本って感じ。
ゴールテープなんかない。
俺やったんだよー!!2年1ヶ月、世界を旅して無事日本まで帰ってくることができたんだよー!!って大声で自慢したくなる。
昔から目立ちたがり屋で、人と変わったことがしたくて、人にすごいねーって言われるのが好きで、でも人にけなされるとめっちゃ傷ついて、そんなどこにでもいる普通の人間だ。
この達成感を誰かに分かってもらいたい。
って、今回はそこまでソワソワしていないんだけどね。
だって俺の隣にはカンちゃんがいる。
世界で1番達成感を分かち合える人がいる。
全てを隣で見てくれてた人がいる。
カンちゃんにすごいねって言ってもらえたらそれでいいのかもしれない。
だから、これからもずっとカンちゃんに対してカッコつけていよう。
最近ゆるゆるだけど。
ヤバい!!パンツ1枚で変な体勢でキャンディークラッシュしてるところとか見せてたらどんどんダメになってしまう!!!
オシッコしてるところとか普通にカンちゃん見にくるし!!!
油断しすぎ!!!
でもオナラはお互い絶対にしないようにしてます。
ずっとカンちゃんの前でカッコつけていられるよう頑張らないとな。
とりあえず記念撮影。
「よっしゃそれじゃあ気合い入れてヒッチハイクかますぞコラアアァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!分かってんのかこのウーパールーパー!!!ヒッチハイクの極意を言ってみろコンチクショウ!!!!!」
「はい!!笑顔で明るく元気よく手を伸ばして、車が止まれるスペースでやることです!!」
「オラアアァ!!!!その通りだバカヤロウ!!!!もう俺が教えることはなにもねぇ!!!免許皆伝だチクショウ!!!!この2年間よく俺の修行を耐え抜いたな!!!よし!!!じゃあ卒業の証としてお前にこいつを贈ろう!!!はい!!コンドーム!!!」
「あ、こことかええんちゃう?ここスペースあるしイケるんちゃう?よーし、やっちゃおー、止まってー!!」
「そう!!!その積極的な姿勢がヒッチハイクの大事なポイント!!!!」
いやー、僕いつも場所選びに慎重になりすぎて、納得いくスペースがあるまで歩き続けてしまうところがあるんですよね…………
前回もこの博多港から10キロくらい歩いた気がする…………
そんな遠慮がちな俺をよそにガンガンそこら辺で親指を立て始めるカンちゃん。
度胸ある!!!
が、そう簡単にはつかまらないですよね。
看板なしヒッチでいこうかと思ったんだけど、さすがに厳しそうなので一応刻み表示で進んでいくことに。
まずは鳥栖表示で!!!!
国道3号線の道端で!!!!
うひょおおおおおおおおおおおいいいいい!!!!!
早く進まねぇと宮崎までたどり着けんぞおおおおおおおおおおお!!!!!
宮崎まで着かんと一生飯食えんぞおおおおおおおおおおおおお!!!!!
全然止まらん…………
え、こ、こんな感じだったっけ…………?
日本のヒッチって、もっとこうスパッと止まってくれてスムーズに進むもんじゃなかったっけ……?
もうさっきと合計して親指を立て始めて1時間半くらい経ってるやん…………
すでに10時回ってるやん…………
こ、これマジでヤバいんじゃないか…………
宮崎で日本での初ご飯を食べるっていうのはもう決めてることだから、このままだったら干からびて死んでしまうんじゃないか?
ダメええええええええええええ!!!!!
気合い入れて親指立ててえええええええええええええええええ!!!!!!
どっこいせ、つって。
「ちょ!!ふみ君!!やる気!!」
「あへあへあへ~。勇次郎強いなぁ。あ、これ浦安か。まぁいいや、あへあへあへ~。」
「もうー!!ホラー!!車いっぱいきたよー!!」
「よっしゃオラアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!親指脱臼するくらい親指伸ばせええええええええええ!!!!ああああああああああああアアアアああああ!!!!止まったああああああああああああああああ!!!!止まった!!!!」
「おーい、鳥栖までは行かんばってん乗りんしゃいー。」
止まってくれたのはお仕事中の大工さん!!!!
博多弁丸出しの九州男児カッケェ!!!!
午前中の現場が終わって事務所に戻るところなんだそう。
「どこまで行くとね?鳥栖ね?」
「あ、実は最終目的地は宮崎なんです。」
「へー!!宮崎!!まぁスムーズに行けば夜には着くやろうけど、遠かねー。どこからスタートしとると?」
「さっき日本に帰ってきて、博多港スタートでこれが1台目なんです!!ありがとうございます!!」
「ありがとうございますー!!」
「え?日本に帰ってきて?え?海外から?」
海外からたった今帰ってきたということを伝えると驚いている大工さん。
別に自慢するつもりは一切ない。
前回の一周から帰ってきた時も、こうやってヒッチハイクして宮崎に帰ったんだけど、その時最初の車の中で全然世界一周の話題について盛り上がらなかった。
ドライバーさんは、俺がたった今2年4ヶ月ぶりに海外から帰ってきたということよりも、ヒッチハイクで宮崎に帰ろうとしていることに対して、すごいですねーと言っていた。
ええ?!そっち!?って正直思ったけど、興味のない人からしたらそんなものなのかもしれないって思って、なるべく海外の話は控えていた。
なので今回もそうするつもりだ。
ただ、軽くだけ触れてみて、大工さんからそうした反応をもらえたことは少なからず嬉しかった。
「へー、そりゃあ面白かねー。外国ではどげんご飯ば食べるとね?口に合わんもんもあろうもん。」
「そうですねー。でもだいたいは美味しく食べられます。もちろん日本食が1番美味しいんですけどね。アフリカはキツかったです。」
「はははー。アフリカはキツかろうねー。」
なんかもう、なんだろ。
大工のおじさんすっごい優しい。
やっぱり職人で現場仕事をしてる人って、荒くれ者が多い。
今までそういう人をたくさん見てきた。
でもこのおじさんはめっちゃくちゃ穏やかで、気遣いがあって、優しい。
俺たちはもう同国人。
外国人だから、っていう優遇もないし、外国の人だから特別優しく感じるってこともない。
それを差し引いたとしても、めっちゃくちゃ優しい。
そして言葉が全部通じる。
当たり前に日本語が全部通じる。
俺自身、聞いた瞬間に頭の中で直感的に理解できる。
当たり前だ。だって同じ日本人なんだから。
でもそれに感動できていることがすごく嬉しい。
ここは俺たちが生まれ育った国なんだなぁ。
世界中にある190以上の国が、それぞれの人たちの母国であるように。
「じゃあ、俺はここから事務所に戻るけん、ここなら高速に乗る車のおるけんが頑張って。」
「お仕事帰りにありがとうございました!!」
「いやいや、こちらこそただの帰り道に楽しい話ば聞かせてもらって楽しかったよ。美味しいスキヤキ食べられるとよかね!!」
太宰府インターチェンジの乗り口まで乗せてもらって、そこで大工のおじさんのワンボックスカーを見送った。
見えなくなるまで手を振って、さぁ、次いってみるぞ。
が、ここでもめっちゃ苦戦。
高速の乗り口なので一旦乗ってしまえばかなりの長距離を期待できるんだけど、なかなか止まってもらえない。
車の交通量はすごくたくさんあるのに、みんな素通り。
俺はまぁ慣れてるけど、カンちゃんは今日が初めての日本でのヒッチハイクなのでヤキモキしてる。
みんなこっち見て行くけど止まってくれやんー!!って言ってる。
でもそんな雲をつかむような時間の中でも、さっきの大工さんのようなステキな人との出会いが必ず訪れるんだということを俺はよく知ってる。
そんなこんなで、ここでもアッサリと1時間が経過してしまった。
腕を上げ続けるのも長時間やってると結構疲れてくる。
それでも上げ続けなければ止まってはもらえない!!!!
信じて笑顔で親指を立て続けるのみ!!!!
「あー!!また笑顔でこっち見てたけど止まってくれやんかったー!!宮崎たどり着けないよー!!お腹空き始めてるのが怖いよー!!フミ君大丈夫かなー!?」
「う、うーん、さすがになかなか捕まらないね…………この調子だったら夜中になってしまうかも…………」
「えええええー!!夜中になったとしてもご飯は食べたらダメなのー!!」
「ま、まぁ人間3日くらい食べなくても死なないし、高速のサービスエリアなら24時間の休憩スペースがあるからとりあえず寝られるし、って止まったあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
黒いエックストレイルが止まった!!!!
運転しているのは若いお兄さん!!!!
「どこまで行くんですかー?」
「キエエエエエエ!!!!宮崎方面なら2センチでもいいです!!!」
「そうなんですね。僕大分まで行くのでどうぞー。」
にへえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!
一撃大分カモンベイべエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!
「すげぇ!!!すごすぎる!!!!一撃大分パナすぎる!!!半分くらい進むし!!!!やっぱり唐揚げに対する愛情とか半端なかったりするんですか?」
「ははは、県外で食べる唐揚げは唐揚げじゃないですね。」
こだわりパネすぎるやろって思いながらエックストレイルでドライブ最高おおおおおおおおお!!!!!
高速道路スンスン進むううううううううう!!!!!
日本の高速道路、ドイツみたいに200キロとかでカッ飛んでる変人とかいないいいいいいいい!!!!
またこのお兄さんがすごくイマドキのお兄さんで、最近の日本事情についてたくさん教えてもらえた。
窓の外に土砂で埋まった町が見えたんだけど、あれは朝倉で、1年くらい前に大雨による土砂で埋まってしまった町ということ。
その時にJRの線路も流されてしまったんだけど、元々赤字路線だったので修復されることなく廃線になってしまったんだそう。
最近は日本でもヨーロッパでよく見ていたような電子タバコが流行っていて、その中でもプルームテックという種類のものがかなりの人気とのこと。
このプルームテックは福岡発信の商品らしく、品物があまり出回っていなくて、福岡では8000円のものが東京では3万円するんだということ。
電気自動車の普及も今急速に進んでいて、日産リーフっていう車がすごい人気らしい。
フル充電で400キロ走るらしく、そうした電気自動車のための充電スタンドもあちこちに作られていってるそうだ。
さらには自動運転もどんどん進化していて、今では自動ブレーキは当たり前、ハンドルを握らなくても車線をはみ出さないようにコントロールしてくれるし、設定をすればアクセルを踏まなくても80キロキープで走り続けてくれるみたい。
めっちゃすげぇ。
ただ日本の法律上、運転中はハンドルを握っていないと違反になるらしく、あくまで補助というものにとどまっているとのこと。
他にもたくさん、日本の現在の状況について話を聞かせてもらえた。
兄さんからしたら、こんなこと誰でも知ってる当たり前のことなのかもしれないけど、とにかく浦島太郎の俺たちからしたら新鮮で新鮮でたまらなかった。
ヨーロッパに長いこといて、やっぱりヨーロッパって進んでるなぁって思っていたけど、そこはハイテク大国日本。
そりぁもう世界トップクラスのテクノロジーで溢れてる。
日本すげぇなぁ。
アジアすげぇなぁ。
技術力にしても経済力にしても、アジアは世界のトップクラス。
この国に生まれたことを誇りに思うよ。
「海外から帰ってきたところなんですか!すげー!アメリカとか行ったんですか?俺アメリカ行ってみたいんですよね。」
そう言う兄さん。
ざっくばらんに俺も質問を返す。
「どうしてアメリカ行ってみたいんですか?」
「アメリカ行ったら勝ちじゃないですか。それ言うために行ってみたいっすね。」
兄さんのその答えが、今の旅終わりの俺にはすごく真っ直ぐで爽やかに思えた。
兄さんが降ろしてくれたのは、別府湾を臨む高台にある別府サービスエリア。
とても広いサービスエリアで、たくさんの車が止まって賑わっていた。
飛び交っているのは当たり前に日本語。そして懐かしい九州弁。
子供が走り回り、おじさんたちが喫煙スペースでタバコを吸い、お爺さんお婆さんが屋台で軽食をしている。
高台から臨む別府湾の海がとても綺麗だ。
向こうに見えるのは大分市の町並み。
ほどよく冷たい気持ちのいい風が吹き上がり、体の隅々までなでていく。
様々な戸惑いや、これからの日本での不安や期待を落ち着かせて、フラットにしてくれるようだ。
気持ちいいな。
俺はここで育ったんだよな。
「よっしゃ!!カンちゃん続きいくぞおおおおおおおおお!!!!」
「フミ君、高速道路でのヒッチハイクはどこでするの?この駐車場の中?」
「サービスエリアヒッチは駐車場から本線に出る出口前でやるのがポイントになります!!!!まだみんなスピードが出ていないので目にとまりやすいし、難易度は相当低めに設定されております!!!さぁどうぞ!!!」
「いやっふううううー!!止まってええええ!!!!ひあああああああああ!!!もう止まったあああああああああああああ!!!!」
手を上げてわずか5分!!!!
ソッコー目の前に1台の大きなワンボックスカーが止まった!!!
すげええええええ!!!!
「どこまで行くとですかー?え?日向!?おいおい、今から日向に行くとこよ!!乗って乗って!!」
ぎえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ………………
絶叫が四国まで響き渡りました。
人間とは思えない顔で車にヘッドスライディング!!
広々ワンボックスカー最高!!
「いやー、今から先輩のところに行くところやったとよー。すごい偶然だよー。」
乗せてくれたのは看護師をされているSさん。
見た目はちょいワルな雰囲気なんだけど、話してみるとものすごく腰が低くて柔らかくて、すごく親しみやすいお兄さん。
まさかまさか、たったの3台で日向まで行くことができてしまうなんて…………
なんてスムーズさだよ…………
スムーズすぎて怖い…………
実はこれでSさんが人身売買の親玉で、いきなり車の中になにかのガスが充満して気を失い、目が覚めたらイランあたりに飛ばされていたらどうしよう。
そしたらイラン行ってないのでトータル88ヶ国目になって末広がりで縁起いいような気がするようで全然しない。
まぁ、もちろんSさんはそんなことをするような人ではまったくなく、とても楽しいドライブ。
話が絶えず、笑い声が絶えず、窓の外に南九州の風景が飛び去って行く。
「本当はあんまりよくないことやけど、今から行く日向の先輩は元々患者さんやとよ。特定の患者さんと看護師が仲良くなるのはダメなんやけど、当時その先輩とすごく仲良くなってね。それからずっと長いことお付き合いさせてもらってたとよね。」
看護師と患者さんの枠を超えて仲良くしていたというSさんと先輩。
家族ぐるみでお付き合いしていたそう。
が、ある日その先輩が亡くなってしまった。
しかしその後もご家族とのご関係は続いているようで、今もこうして先輩のいない日向のお宅に年に数回、福岡から通っているんだそうだ。
「いやー、行くたびにお母さんに怒られるとよねぇ。あの人には頭が上がらんったい。はははー。」
その話を聞きながらすごく胸が暖かくなっていく。
人情味があって、人生の儚さがあって、人と人との真心の通じ合いがある。
今も世界のあらゆる場所で、こうした人々の何気ない物語が紡がれていっている。
旅をしなくたって、知らない場所に行かなくたって、人と触れ合い、心を通わせることはできる。
今この瞬間にも、目の前の人との時間を敬い、心を開き、人生を交わらせることができる。
それこそが人生の喜びであって、きっと俺がずっと旅の中で求めていたもののはず。
窓の外に過ぎ去る景色が、馴染みのあるものに変わっていく。
フロントガラスの向こうに、宮崎という看板が見えた。
「あ!!あそこです!!あそこの奥の家です!!」
「あれやね!!ここを入ればいいとや!?」
車は細い田舎町を進み、石垣の隙間を抜けていく。
通い慣れた通学路、いつもの里帰りの風景、何度も何度も歩いたこの道。
車は実家の目の前に止まった。
車を降りると、胸が高鳴る。
2年前と何も変わらない春の庭に、菜の花が咲いている。
黄色い花々と、向こうに見える水平線。
穏やかな空気がここだけに充満しているような、そんな感覚だ。
世界にひとつの、ここにしかない故郷。
帰ってきた。
2年1ヶ月の世界旅の軌跡を、円で結ぶことができたぞ。
でも不思議なのは、正直そこまで興奮していないこと。
あまりにもあっさりとここに立っているような気がする。
無理やり心を鼓舞して、俺はやったんだ!!やり遂げたんだ!!っていう達成感を湧き上がらせようとしてみるけど、そこまで込み上げてくるものはない。
日本一周の時もそうだったはず。
最初の一周はそれはそれは達成感に包まれていた。
でも2周目3周目は、どんなに前回よりも色んなことに頑張ってチャレンジしても、最初を超えることはできない。
踏み固めた道を歩くのはとても簡単なこと。
そして俺たちは旅が日常になりすぎたのかもしれない。
もう、世界のどこに行ったとしても、きっと地球の中にいる以上、そこは地球の中でしかなくて、あの震えるような旅の孤独は味わえないと思う。
旅がもう旅じゃないはず。
俺たちには次の大きな旅が待っている。
日本での生活、定住して仕事をして、もしかしたら子供ができて、地域の人たちと関わりながら生きていく。
ずっと旅してきた俺たちにとって、あまりにも新鮮すぎるチャレンジ。
上手くやっていけるかなかなか不安だけど、でも踏み固めていない道こそ進み甲斐があるってもんだ。
目の前にある実家の玄関。
これは紛れもなく今回の旅のゴール。
そして紛れもなく次の旅のスタートだ。
「楽しいドライブだったったい!!あっという間だったよ!!また今度会った時はゆっくり飲みながら話しをしような!!じゃあ!!」
Sさんの車を見送る。
別府からこんな日向の田舎の、しかも家の前まで送っていただいて本当に本当にありがとうございました。
Sさん、ご縁を大切にするという言葉の意味を改めて教えていただきました。
Sさんと先輩ご家族のような真心の繋がりを、これからたくさんの人たちと持っていけるよう、真摯に生きていきます。
ありがとうございました!!!
「よっしゃあああああああああ!!!カンちゃん!!!家に入りますよ!!!」
「うわああああああああああ!!!ゴールやね!!ていうか旦那さんの実家、緊張する!!!はしたない嫁にならないようにしやんと!!!」
「大丈夫大丈夫!!うちの親はどっちもカンちゃんのこと大好きだから!!よし行くぞおおおおお!!!ガチャ。ただいまああああああああああ!!!!!」
「お、なんかお前、早すぎるわ。まだなんも用意できてないぞ。散歩行ってこい。」
「あらー、文武ついに帰ったねー。ナオちゃんいらっしゃいー。よかったねぇ、無事帰ってこられてねぇ。」
家に入ると、今日は土曜日なので2人とも家にいてくれていた。
帰ることを伝えていたので、お父さんも家着じゃない綺麗な服を着ていて、俺たちのことを待ってくれていたようだった。
ただ予定では18時か19時くらいに帰るはずだったのに、あまりにも順調に行き過ぎてまだ16時になったばかり。
晩ご飯の準備なんかもちろんできていない。
そして俺たちもアドレナリンが出ていたせいか、朝から何も食べていないのにそんなにお腹は減っていない。
最後の最後まで、本当にスムーズで順調な旅だったなぁ。
まだ晩ご飯まで時間があるので、先にお墓まいりに行った。
ぷらぷらと歩いて坂を下って行く。
美々津の町は相変わらずの過疎っぷりで、見渡す限りまったく人がいなくて、車も通らない。
大阪出身のカンちゃんからしたら、そりゃあまぁ人生トップクラスの田舎だと思う。
それが旦那の故郷なんだからすごいよなぁ。
カンちゃんはそれをラッキーって言ってくれるけど。
田舎が大好きなカンちゃん。旦那さんがこんな素敵な田舎出身だということはカンちゃんには幸運なことに思えているよう。
「あー、いいなぁ、静かで歴史があって港町で、いいとこだなぁ。それにしても人がいないね。」
「え?これ多いほうだよ?ホラ、あそこにお婆さんがいるよ。」
「あ!第1町民発見!!」
「こんにちはぁぁぁあ~。」
「こんにちはー。」
「こんにちはー。」
挨拶してくるお婆さん。
向こうから歩いて来たおじさんも、こんにちはと挨拶してくれる。
少し戸惑いながら返事をする。
いかんいかん、田舎の作法を忘れかけてる。
ここは小さな美々津の町。
思い出そう、子供のころから町の中ではすれ違うときに必ずみんな挨拶をしていた。
町の人たちみんなが家族のような、そんな場所だった。
知らない人に挨拶をして、なんだこいつは?と不審がられる都会に染まっていちゃいけない。
俺はここに帰って来たんだ。
玄関先で植木をいじっていたおじさんに思い切ってこんにちはーと挨拶すると、おじさんはさも当たり前のことのように、はいこんにちはーと返してくれた。
心がじわりと暖かくなる。
久しぶりの美々津はとても綺麗だった。
白漆喰、連子格子、バンコなど、よく保存された町並みが今も残っている由緒正しい港町だ。
俺の爺ちゃんはこの美々津の町並みを残していくために、町並み保存会を立ち上げ、初代の会長として尽力した人。
今こうして町の中を歩いてみて、爺ちゃんが頑張って残そうとしていた風景がどれほど素晴らしいものだったかがよくわかる。
日本中、世界中にこうした歴史的な町並みはたくさんあるけども、美々津もなかなか負けてない美しさだ。
桜が満開で、その向こうに神武天皇お船出の碑が見える。
厳かな神社、子供の頃にお神輿の熱気を見上げていた石段、石畳の通り、
全てに思い出が染みついている。
カンちゃん以上に、俺自身この町で育ってラッキーだったと思う。
こんな素敵なところが故郷だなんて、世界中の友達に自慢できることだよ。
「なんかこうしていると、この町も今までカンちゃんと行ってきた世界のどこかの町のような気がしてくるなぁ。」
「ねー、色んなところに行ったね。まだ旅の延長のような気がしてくるもん。実感湧かないなぁ。」
「これから日本で暮らしていくんだね。この国なんだなぁ。」
「あー!本当太らないように気をつけてないと一瞬でブーデーになってまう!!!夜中のラーメンマジで禁止令が発令されましたのでよろしくお願いいたします。」
確かにあんまり美味しくてラーメンとかトンカツとか食べまくってたらソッコーでおじさん腹になってしまうそう。
これまでずっと細かったんだから気をつけないとな。
金丸家のお墓に行き、お爺ちゃんお婆ちゃんに手を合わせ、浜辺を歩いた。
流木が散らばる砂浜に沿ってテトラポットが並んでいて、その向こうにポツリと灯台の島が浮いている。
美々津の風景。
子供のころ、台風が来たら友達と浜に来て、ザバンザバーン!!と砕ける波を浴びて遊んでいた。
今考えたらすごく危ないけど、何もない田舎の子供にはいい刺激だった。
穏やかな海、潮騒がざーざーと耳に残る。
前回の旅を終えた時にこの海を見て作った歌を久しぶりに口ずさんだ。
子供のころ台風の朝
家を抜け出し海岸へ
荒れ狂う海を1人眺めていた
テトラポットに砕ける波
吹き荒れる風によろめいて
学校は休み、町は窓を閉め切って
あの興奮を今も覚えているから
どこからか流れついたガラクタを拾い集めた
今はストーミーサイレント
できるだけ遠く
繋留ロープをちぎり荒れ狂う海へ
今はストーミーサイレント
漂流を恐れず
一陣の風が吹いた、嵐の前の静けさに
そう、今もきっと嵐の前の静けさ。
もっともっと、人生を賑やかに華やいだものにしていこう。
家に戻り、ゆっくりとスキヤキを食べた。
ビールを飲み、ワインを飲み、焼酎を飲み、両親とたくさん話した。
旅の話、美々津の話、これからの話。
カンちゃんが一緒で、お父さんがご機嫌でお酒を注いでくる。
カンちゃんももうだいぶウチの親に慣れてくれているので、お母さんとすっかり楽しそうにペチャクチャお喋りしている。
テレビから流れてくるのは日本語の番組。
慣れ親しんだ実家の味。
まだ帰って来たという実感がない。
俺は旅に出ていたのかな。それともただ遠出をしていただけなのか。
本棚に俺たちの子供のころの写真が少し増えていた。
酔いが回り、コタツに倒れるといつのまにか眠りに落ちていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
台湾のホテルをアゴダでとってくださったかたがいました!!
台湾で食べたもので1番印象に残ってるのはトンカツですね。トンカツ好きすぎ。
やっぱり日本食が1番です。味覚ってのは染みついてるもんですね。
どうもありがとうございます!!