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天国で地獄の苦しみ



2017年4月10日(月曜日)
【マラウィ】 ンガラ ~ ドワンガ





夜中、何度も何度もトイレに起きた。



お腹が絶えずグルグル鳴っており、水を出してはベッドに倒れ、脱水になったらいけないので水を飲み、またトイレに行く。



お尻をこすりすぎて触れないくらい痛い。



トイレが室内にあって囲いもないので真横にいるカンちゃんに音を聞かれてしまうのが恥ずかしくてしょうがないけど、どうしようもない。










そうして何度目かわからないくらいに起きたとき、外が明るくなっていた。



また水を出し、ふらふらしながらドアを開けると信じられないような景色があった。






目の前に広がるマラウィ湖。


その水平線に真っ赤な太陽がのぼっていた。



真っ直ぐな雲が水平線の上に引かれて、その隙間で燃える太陽。



砂浜が淡く照らされ、湖が紺碧に沈み、オレンジの線が道をつける。







「カンちゃん、ヤバい……………ヤバいよ……………出てきたほうがいいよ…………」



「うーん…………むにゃむにゃ………どうしたのー…………」





ああ、綺麗だ…………綺麗すぎる……………


ここは本当に天国だ…………


こんなところを見つけられるなんてな…………




目の前にあるこの世のものとは思えない地球の営み。


でもこれは宮崎でも、東京でも、ニューヨークでも、太平洋の孤島でも、テロの地でも、ヨーロッパの古都でも、同じように繰り返されている地球の営みだ。



今日も今日が始まり、昨日が終わり、明日が近づく。




人々は目を覚まし、食べ物を口に入れ、新しい希望と絶望を胸に、生きていく。


美しいな。


人生ってすげぇなぁ。




しばらくその景色を堪能し、またカンちゃんとベッドに戻って目を閉じた。


















なんとか少しは眠れたものの、下痢と寝不足でひどい体調だ。


起き上がるのもしんどい。



でも今日は食材と薬を買いに近場の町まで出ないといけない。


根性振り絞って行くか…………




「大丈夫?早く治そうね。はい、水たくさん飲んで。」



「うん…………ありがとう…………ラーメン食べたい…………」



「そうだねー、食べたいねー、でも今はもっとお腹に優しいの食べようね。」



カンちゃんが優しく介抱してくれる。

カンちゃんいつもありがとうね。













気合いを入れて宿を出発したんだけど暑い!!
















今日はめちゃくちゃ天気が良くて太陽が照りつけ、おまけにマラウィ特有の高湿度なので汗がダラダラ流れてくる。



この体調でこの暑さは拷問だ…………

一歩一歩が重すぎる……………



一瞬病院の文字がちらつくけど、今の所熱もないし、おそらくこれはただの食中毒。


安静にしていればそのうち治るはず。



治る、はうう!!




宿を出て100メートルくらいで草むらに駆け込む。





前回の旅の悪夢がよみがえる…………


1ヶ月半もの間続いたあの下痢地獄。


梅肉エキスをなめたり、ヨーグルト飲んだり、いろんな薬を飲んだりして頑張ったけど、しまいには血も混ざってきてマジで死にかけていた。



本当よくあんなエネルギーが枯渇した体調で路上に立ち続けてたよなぁ…………


気合い入ってたわ……………





草むらの間から空を見上げて、またあんなふうに長いこと続くのかと思うと怖くなる。


早く治ってくれたらいいんだけど…………



水を出して立ち上がってズボンのベルトをしめると、もうグルグル言いだすお腹。


はぁ………辛い……………































あぜ道を抜けて車道に出たらそこでやってきた乗り合いバンをつかまえて乗り込んだ。


そうして20キロほど走ったところにあるドワンガという町までやってきた。


値段は500クワチャ。75円。



この辺りでは1番大きな町と聞いていたんだけど、美々津から川南に行くようなもんだ。

めっちゃ田舎。




















でもまぁ一応それなりにお店は色々あるので、まずは薬を買いに行った。



棚の商品の置きかたがルイビトンのお店くらい贅沢にスペースをとってるっていうか商品がなさすぎてスッカスカの薬屋さんで下痢の薬をくださいと言うと、何かの錠剤を出してきてくれた。



さすがに薬屋さん。学歴が必要そうなお仕事なのでお店の兄さんは英語が堪能で、これも飲んだほうがいいよとオレンジ風味の粉末も出してくれた。

これを水に溶かして糖分と塩分とビタミンを摂取するようだ。



ゆうべ宿のおじさんが言ってたのと同じことだ。


錠剤と粉末で値段は1700クワチャ。250円くらい。安い。
















それから薬屋の兄さんにお腹に優しいものが食べたいので路上の揚げ物じゃないちょっといいレストランはどこですかと尋ね、場所を教えてもらって向かうと、確かにそこには周りのボロボロの建物よりは若干マシなレストランがあった。



よかった、ここならなんかサンドイッチかスープかなんかが食べられるはず……………


色がかすれてほとんど読めないメニューを見ると、サンドイッチの文字がある。




「あ、すみません、このエッグサンドイッチをください…………」



「ないわ。」



「…………じゃあ、このブレックファーストメニューは…………」



「ないわ。」



「わかりました。じゃあ逆になにがありますか?」



「エッグとシマよ。」



「さようなら。」





メニューの大半ねぇじゃねぇか………………




マラウィではマジでいつもこんな感じだ。


どこの食堂に入っても、あるのは焼き魚かビーフシチュー、それとライスかシマ。


マジでこればっかり。



まずメニューがなくて、フィッシュとビーフどっちにする?っていう聞かれかただ。選択肢はこれのみ。



メニューを置いてる店ですらこんなんだもんなぁ…………


本当物資があんまりないんだろうなぁ。






先進国のような無限の食べ物の選択肢、子供に買い与えるおもちゃ、パチンコとかカジノとか競馬みたいなアミューズメント、そんなもんここには欠片もない。


あるのは地域で作られたものと、コカコーラくらいだ。



あ、あとポールモールのタバコもあった。

1パックが650クワチャ、100円くらい。




そして水がちょっと高くて500ミリのペットボトルで250クワチャ、37円。


1.5リットルが500クワチャ70円。



これならヨーロッパのほうが安い。

生活用水をほとんど湖の水でまかなってるこの国では逆に真水は贅沢品なのかもしれないな。












暑さと下痢でふらふらしながらなんとか別のレストランを見つけ出し、すぐにトイレに行ったんだけど、裏手の小屋に連れて行かれ、中に入ると壮絶な臭い。


下に小さな穴が開いてるだけで、気絶しそうなほど臭い。





なんとか頑張って用を済ませて外に出ると、待っててくれてたカンちゃんが驚いた顔をしてる。


いきなり女の人がやってきて、カンちゃんのことを気にすることなくそこの角でスカートをまくりあげて立ちションしたらしい。



「女の人の立ちション初めて見た…………」




いやぁ、TIAだなぁ…………









レストランのおばちゃんにお腹壊してるから優しいスープ食べたいとお願いしたら、それは大変ね、任せときなさいとコーンスープを作ってくれた。





このうだるような暑い日中にアッツアツのスープが体に染み渡る。



あぁ、少しでも体に養分をくれー……………

エネルギー補給してくれー……………





そんな俺の目の前でたらふく食べてるわんぱくカンちゃん。

気持ちいいくらいの食欲ですね。健康そのもの。








神港園さん、マラウィで車頑張ってます。
















それから卵や水を買ったんだけど、なかなか野菜が見つけられず、炎天下の下を歩いているのが耐えられなくなってきた。



マジで倒れそうだ…………



お腹にウシガエルでも飼ってるのか?ってくらいグルグル鳴っていて、途中何度もトイレに行った。


座りながら水を飲んだらそのまま直通で下から出るくらいバカになってる。




「フミ君、どっか日陰に座ってて。私買ってくるから待ってて。」



本当はアフリカでカンちゃんを1人になんてしたくない。


でもマジで倒れそうでお願いすることにした。


マラウィは他の国に比べて治安は良い印象だし、特に田舎では人々はみんな穏やかだ。


まず危険なことはない。




ごめんねカンちゃん…………










日陰に座り込んでフゥフゥと息をつき、カンちゃんの帰りを待った。


そうしてしばらくすると、ビニール袋をぶら下げたカンちゃんが茹でタコみたいな顔して戻ってきた。



「はい、これ飲んで。冷たいからね。」



こんな暑い思いしたのに、冷えた炭酸ジュースを買ってきてくれたカンちゃん。


マジで優しい。

本当ありがとう。




早く帰って横になろうと、すぐに車をつかまえてンガラに戻った。









運転席のスペースに4人+子供1人乗るの術。



























ンガラに着き。気力を振り絞ってあぜ道を歩き宿に帰ってくると、相変わらずここは天国みたいに美しいな。


エネルギーが底をついて抜け殻みたいになってる俺の目の前に、外界から隔絶されたビーチと水平線がある。










静寂、潮騒、風の音、静寂、


近くの漁村の子供たちの遊ぶ声。




そのど真ん中に一棟貸しの俺たちの部屋がある。



世の中の煩わしさはここには微塵もない。

最高級のロケーションだ。


療養するならこれ以上ない場所だよ。






外のベンチに座ってタバコを吸ったら、そのまま水シャワーで体を冷やしてベッドに倒れた。























夕方に起きると、カンちゃんが頑張って1人で晩ご飯を作ってくれようとしていた。


でもカンちゃんは1人では火をおこせない。


それなのに俺を気遣って1人で頑張ってくれている。





ごめんと思いながらも起き上がれずにいると、そこに宿のおじさんがカンちゃんの手伝いにきてくれた声が聞こえた。



こうやるんだよ、彼は大丈夫?と俺のことを気遣ってくれるおじさん。


火をおこしてくれ、裏の井戸からバケツに水を汲んできてくれたみたいだった。



なんて優しいおじさんなんだよ。






そう、今朝もそうだ。




ゆうべご飯を食べてから、明日また洗おうと汚れた鍋を水につけて表に置いていたんだけど、朝起きて外に出るとその鍋が綺麗に洗われていた。



ススがついて真っ黒になっていた裏の部分までピカピカになっていた。



さらにまき用の木も横に置いてあって、本当何から何までしてくれていた。




最高のロケーションにこんなに優しいオーナーのおじさん。

この体調でこの宿にたどり着けて本当にラッキーだったよ。


おじさんありがとう。


ていうかみんなありがとう。





「フミ君ー、できたよー。食べようかー。」











夕焼けに燃えるマラウィ湖を眺めながら、カンちゃんの作ってくれた洋風雑炊を食べた。


米、芋、トマト、玉ねぎ、それに溶き卵。


味付けは塩とチキンスープの素、それに本出しだ。






美味しい。

優しい味付けにホッとする。


体はしんどいけど、その優しい雑炊は食べることができた。








「熱がないならマラリアではないよ。でももし明日少しでも良くならなかったら明後日病院に行くべきだ。それで全部チェックしたほうがいい。」



オーナーのおじさんが心配してそう言ってくれる。


信頼できる頭のいいこのおじさんの言うことはちゃんと聞いといたほうがよさそうだ。



明日良くならなかったら病院に行こう。

ここはアフリカ、なめたらいかんよな。







あぁ、月が綺麗だなぁ。





どこからか歌が聞こえてくる。



子供たちが手を叩きながら合唱してる。




知らない言葉のその歌をなぜか知ってるような気がした。


ふと、そんなデジャブの感覚を覚えた。







まるでデジャブ
この道をいつか歩いた気がする
たどり着いた知らない町の
この風景に見覚えがある
寂れた駅のプラットホーム
遠く沈む暑い夕日
黒い肌の少年が歌う
そのメロディを知っている気がする

帰り道はどこにあるんだろう
もう決して会うことのない人たちに問いかける
前に進み続けることだけが
帰り道になるんだよ

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