2016年3月30日(水曜日)
【バングラデシュ】 ダッカ
ビュウウウ!!と風がバスの中に吹き荒れる。
さむ!
真っ暗なバスの中、シートで身を縮めた。
バスは猛スピードで暗闇の中を駆け抜け、道が悪いのでドガンドガン!と揺れまくり、とても寝られたもんじゃない。
それでも疲れているのでなんとか眼をつぶるんだけど、さらに夜風が吹き込んできたら眠れるわけがない。
誰がこんな寒いのに窓開けてやがるんだボケ!!俺!!
よし!!俺!!
ち、違う!!開けてない!!
さっき閉めたのに!!!
そう、かつてボリビアでも遭遇したバスの揺れで自動的に窓が開いていくポルターガイストバスにまた乗ってしまうとは…………
窓をしっかりと閉める。
隣のシートに座っているおじさんが前に小さな子供を抱えていて、その子供の味が俺の太ももに乗っかっている。
可愛いな。
お父さんのお腹の上で安心しきって眠っている。
窓の外、真夜中のバングラデシュはどこまでも暗闇が広がるのみだ。
途中、パッドマ川という大きな川にぶちあたり、そこでバスごと渡し舟に乗り込んで対岸へと渡ったんだけど、ウトウトしていてほとんど記憶にない。
そうしてうつらうつらしているうちに、やがてバスは町の中に入っていき、夜が明けたころに首都のダッカに到着した。
バスを降りるとふらふらと足がよろめく。
夜行バスはやっぱり疲れる。
とりあえず階段に座ってぼんやりタバコをふかした。
さすがに首都なだけあって、それなりに高いビルや広い道路がある。
まだ早朝なので交通量もあまりなく、ゴミが散乱して昨日の残骸がアスファルトにこびりついている。
バングラデシュって本当、何があるんだろう。
そのまま道路際に並んでいるバス会社のオフィスを回り、コルカタへの帰りのバスを予約することに。
帰りはもう国境も心配ないので直通で帰ることにしよう。
コルカタからダッカまでの直通バスは2000円だったので、ダッカからコルカタまでも同じかなと思ったんだけど、しかしそうじゃない。
1700タカ。2500円だと言う。
おい、それはちょっと高いな。
ちなみに国境経由で刻めば、
コルカタからボンガアンまでが電車で30円。
ボンガアンからボーダーまでがオートリキシャーで100円。
ボーダーからバス停までがリキシャーで100円。
バス停からダッカまでが720円。
1000円しない。
確かに乗り換えの手間を考えたら1000円くらい払ってもいいところだけど、今はなるべく節約したい。
別に刻むのも苦ではないので、また国境までのバスを予約した。
500タカ。720円。
出発は水曜日の夜。
たったの5日しか滞在できないけど、バングラデシュは今はあまり長居したくない。
そして路上もやらないつもりだ。
目立つ行動はなるべく避ける。
いくら地元の人がバングラデシュは平和な国だよと言っても、ここはイスラム教国。
そしてISによる事件が起きている以上、警戒レベルはマックスにしておくべきだ。
カンちゃんからも路上はお願いだからやめてね、と言われてる。
でも超行きたいよー!!なんで1人で行くのー!!ズルイー!!って言ってくるカンちゃん。
本当カンちゃんも相当な旅好きだなぁ。
入国のときにバングラデシュでの滞在先を聞かれるので一応事前にホテルの情報は調べておいた。
バングラデシュ自体、バッグパッカーがあまり行かないので情報が少ないんだけど、そんな中からいくつかの安宿を見つけている。
運良く今いるモティージール地区からそのホテルまでは歩いて15分ほど。
人に道を尋ねながら朝のダッカの町を歩いた。
信じられんくらいズタボロのバスにビビりながら歩き、結構簡単に宿を見つけることができた。
ガニーズインターナショナルというホテル。
値段いくらだろ?
ともかくホッと一息ついてタバコを一服。
すると、少し離れたところに若い男たちが何人かいてこちらをチラチラ見ているのに気づいた。
5人ほどの若者で、みんな頭にターバンを巻いてあご髭をもっさり伸ばしたいかにもといったムスリム。
ただそれだけのことなのに、むくむくと猜疑心がわいてくる。
(やつらは俺のことをつけてるんじゃないだろうか。)
この前、イスラミックステイトに対する批判や、ヒンドゥー教徒の迫害の事実なんかを書いていた社会派の外国人ブロガーがこのバングラデシュで殺されている。
宿で寝てるところに男たちが押しいって刃物で殺されたらしい。
事件後にISの犯行声明も出されている。
俺は大丈夫だと思う……………
ただのラーメンブログだし……………
下ネタばっかりだし………………
ISの人が読んでも、なにこいつ?アホなの?ってなってスルーしてくれるはず。
でも、そんな話が頭にちらついて、向こうからチラチラ見てくる男たちのことが気になる。
本当はただ外国人が珍しくて見てきてるだけなんだろうけど、バカみたいに気になって、一度ホテルへの階段を少し登って、パッと引き返してまた道路に出たりしてみた。
もしこっちに近づいてきてたらダッシュで逃げる!!
と思ったけど、普通に男たちはタバコを吸いながら談笑していた。
ふぅ、でもこれくらいでちょうどいいか。
宿のスタッフはとてもフレンドリーで優しかった。
レセプションの兄さんはこのバングラデシュではかなり珍しく流暢な英語を喋り、すごく親切。
「値段は400タカだよ!2泊しかしないの?バングラデシュはたくさん見所があるから残念だなー。」
シングルで部屋にシャワーとトイレもついていて580円。
泊まってるのはほとんどバングラデシュ人みたいで、部屋もたくさんあってビジネスホテルのような雰囲気だ。
「部屋はどうだい?」
「あ!すぐに掃除してあげるからね!!」
みんなやっぱりなにかと世話を焼いてくれる。
いい宿だ。
ちなみにワイファイはなし。
さすがに疲れていたので、ドアを閉めて固いベッドに横になると、張り詰めていた緊張がゆるんで少しずつ眠りに落ちていった。
14時に目を覚まし、手ぶらで散歩にでかけた。
とりあえず今日はこの辺りを歩いてダッカの町の雰囲気を見てみよう。
町の人々の服装はだいたいムスリムのものだ。
頭にカポッとはめる帽子を乗っけており、膝丈まであるムスリム独特のシャツを着ている。
あご髭をモシャモシャたくわえており、いかにも敬虔そうな表情。
昨日話した地元のやつらの話ではバングラデシュでは80パーセントがムスリム、15パーセントがヒンドゥー、あとの残りが仏教徒やクリスチャンらしい。
完全なるムスリムカントリーだ。
そしてどこからともなく聞こえてくるのは懐かしのアザーン。
モスクから流されるお祈りの時間を告げる神聖な歌だ。
中東のあの砂煙がよみがえる。
町並みはいたってインドと同じようなもんだけど、インドよりもさらに路上の物売りの数が多いように感じる。
ボコボコの地面にズラリと並んだ品物の山。
そしてそれに群がる人たちのおかげで歩道が狭められ、車道に人が溢れ出る。
そこにクラクションを鳴らしながら突撃してくるバイクや車やトラックやバス。
その隙間をぬって進撃してくるリキシャーの雨あられ。
ムスリムの国なのでまだ牛がいないだけマシだけど、とにかく交通がひどすぎて、よくこれで事故とか起きないなと思った瞬間、バスと車がぶつかった。
「オラァ!!ふざけんなよコノヤロウ!!」
「うるせぇボケ!!帰ってママのオッパイしゃぶってろ!!」
「たくよー!ボケが!!」
そして車に戻って走り去った。
え!そ、それで終わりでいいの!?
だってこれだもん…………
これなんですか?
ハガー市長の仕業ですか?
昔、ファイナルファイトっていうゲームがあったの知ってる人いますか?
ハガー市長の娘がさらわれて、ハガー市長自らチンピラをブチのめしながら娘を助けに行くゲームです。
敵に囲まれたらボタン同時押しで手をグルグル回して吹っ飛ばす無敵技があるんだけど、それ使うと体力が少し減ります。
とっておきです。
とても市長という地位にある人間とは思えない技の数々を持っています。
あれのボーナスステージで、鉄パイプ使って時間以内に車をスクラップにしろ!!っていうやつがあるんだけど、もうこのバス、完全にハガー市長がヤッたやつですよね?
人生でここまでボロいバス、初めて見たわ………………
そりゃ警察の交通整理もただの枝ですよ。
枝て……………
クラクション地獄だし、ちょっと油断したらひき殺されるし、汚水が溢れて悪臭がひどすぎるし、ラーメン食べたいし、あああああ!!!!もう!!!
バングラデシュ結構好き。
うん、これくらいならもうインドで慣れてる。
バングラデシュを好きになっている理由は、人が優しいってのもあるけど、飯が美味いってのが大きい。
そこらへんで普通に鶏肉や牛肉の料理屋さんを見つけることができるので、かなり口に合う。
お昼ご飯にテキトーに入ってみたんだけど、ペプシとフライドチキンとかなり独特な味のチキンピザ。これでお会計145タカ。210円。
店員さんもキビキビしてナプキンをサッと出してくれるし、水もサッと継ぎ足してくれるし、インドよりもかなりサービスがいい。
ムスリムの人たちの気配りが素晴らしくて大満足!!
それからモティージールエリアをぶらぶら歩き、面白そうな裏路地があったので入り込んでみた。
そこは完全なる下町のエリアになっており、細い路地が縦横に入り組み、おびただしい量の電線が頭上を乱れ飛び、濃厚な生活の匂いが充満していた。
もっと奥まで行ってみたくて、どんどん細い、ひと気のない路地裏に曲がっていく。
あの角の先には何があるだろう。
あの商店のおじさんの朝ごはん、あのおばちゃんが飲んでるチャイ、あの2回の窓の洗濯物、
このズタボロの生活路地で裸で遊んでいる子供たち。
ムスリムの帽子を頭に乗せたおじさんの笑顔。
飛び去るカラス。
若者の視線。
あの角の先には何があるだろう。
と、いかんいかん。いつもの悪い癖だ。
このハラハラを楽しんでる自分がいる。
この辺にしておかないとな。
バングラデシュでは目立つ行動は厳禁だ。
それからもしばらく町中を歩きまった。
夕方になると帰宅ラッシュの時間帯になり、町の活気は一気に沸騰する。
バスやトゥクトゥクだけでなく、改造した軽トラみたいなやつ、そしてリキシャーなど、様々な交通の足が道路に入り乱れ、人々は怒号を叫び散らし、クラクションが道路に隙間なく響き渡り、もう何がなんだか全然わからない。
ぐっちゃぐちゃにもほどがある。
そんなイカれた状況を見ながら、道端のチャイ屋でチャイを飲む。
午前中にいいお店を見つけておいたのだ。
ここはチャイが美味しくてオッちゃんが渋いだけでなく、なんとワイファイが飛んでいる。
ズタボロのチャイ屋がワイファイ飛ばしてる!??!なんてことはもちろんあるわけなくて、どこからか迷い飛んできてる野良ワイファイだ。
ダッカは結構この野良ワイファイが充実してて、そこらへんで繋ぐことができた。
人々が叫び、無秩序という名の秩序が支配する町をのんびり眺めながらチャイをすすってタバコを吹かした。
今日1日いたけど、アジア人どころか欧米人観光客すら1人も見なかった。
確かにバングラデシュなんてマイナーな国に来る人なんてかなりのもの好きだ。
さらに今のイスラミックステイトの状況もあって、そんなもの好きたちも足が遠のいている。
今の所、俺はかなりいい国だと感じてる。
インドに疲れたら、とてもいいリフレッシュができると思う。
飯は美味いし、物価も安いし、なにより人が観光客ズレしてないので優しい。
こうした、あまり観光客のいないところに来ると、旅してる実感がわいて嬉しくなってくる。
俺はどこにでも行けるぞって冒険心がムクムクわいてくる。
でも油断はしない。
自分でも危険察知能力は高いほうだと思ってる。
大事をとって19時前には宿に戻った。