12月18日 水曜日
【コロンビア】 メデジン
よっしゃあああああああ!!!!!!
朝イチでカオリさんと一緒にいいいいいい!!!!
昨日の市役所に路上のライセンスを取りに来たのだよおおおおおおあお!!!!!
書類を書いて感じのいいおばさんに提出だぜええええええ!!!!
(書いてるのほとんどカオリさん。)
さぁ、ライセンス取れ次第、今日からでもソッコーで歌いまくって稼ぎまくってオッパイ女子と仲良くなって………
「残念だけど、2日前に定員が埋まってしまってね。これ以上許可を出せないのよ。ごめんね。だから家帰って飯くって屁こいて寝てね。」
ははははははー
面白いなぁ、ははははははー、
ははははははああああああ!!!!!!!!
2日前だとコノヤロオオオオオオ!!!!!!
あああああ!!!!いっつもこんなんだよおおあお!!!!!
彼はここに住んでいるわけではないからほんの数日だけの許可でいいんです、とカオリさんがなんとかお願いしてくれるがやはりどうにもならない。
でもカオリさんの熱意に押されて、ここでならやってもいいわよと近々市内で行われるイベントの情報を教えてくれた。
単発のイベントではきついんだよなぁ………毎日稼げないと………
でもこの情報が入っただけでもよしとしないとな。
結局この日も歌うことができず、することもなくなったのでカオリさんの用事に同行させてもらうことに。
カオリさんはもともとソーシャルワークのプロ。
海外派遣員として様々な国の児童問題に関わってきた人だ。
今はメデジンの大学に雇われて日本語の先生をいる身だけど、今も空いている時間を利用して積極的に地域の子供たちと交流をしている。
そんなカオリさんとやってきたのは、閑静な住宅街の中にある小さな家だった。
どっからどう見てもただの一軒家。
でもここは、とある問題に巻き込まれた子供たちのための児童養護施設だった。
玄関の呼び鈴を鳴らすと、すぐにドアが開いた。
開けてくれた子供がカオリさんの顔を見るなり、パッと笑顔になってカオリー!!と抱きついた。
その声を聞きつけて家の中からドンドンと子供たちが出てきて、すぐにカオリさんを取り囲んだ。
5歳くらいの小さな子から小学校高学年くらいの子供たち。
全員が女の子だった。
子供たちはカオリさんだけでなく、一緒にやってきた俺とサキちゃんにも1人1人全員が丁寧にチークを合わせて挨拶をしてくれる。
子供の柔らかい肌と匂いがとても愛おしい。
家の中は広いスペースになっており、俺たちへの挨拶を終えた子供たちが急いでテーブルに戻っていく。
どうやらビンゴゲームの最中だったみたいで、みんな次の数字をソワソワしながら待っている。
もちろん大人のおばさんもおり、みんなで一緒にビンゴをしている。
俺たちへの余計な詮索などひとつもしてこない。
誰でもウェルカムといった具合だ。
この子たちはなぜ、児童養護施設にいるのか。
親がいないのか?
いやそうではない、親はいる。
週末に親御さんのところへ帰るらしい。
では単なる託児所か?
いやそうでもない。
この施設はもっと深刻な問題を抱えた家族にのみ適用させるものらしい。
中南米にはゲリラがいる。
この辺りを旅していればゲリラという言葉をよく聞く。
ゲリラがいるから危ないよって。
さて、ではそのゲリラとは一体なんなのか。
俺はイマイチよくわからない。
なのでカオリさんに教えてもらった。
ゲリラとは、反政府組織のこと。
格差社会が生み出す貧しさの中で、低所得層の人々は不満を抱く。
「どうしてこんなに苦しいんだ、どうしてこんなにお金がないんだ。全ては政治のせいだ。」
そんな貧困問題を抱えた人々が、キューバの革命家、チェゲバラの思想に共鳴し、社会主義国家の建設を目指して組織を作る。
これがゲリラ。
彼らは政府への抗議、圧力のために外国人を誘拐したり、バスを襲撃したりして、強引に要求を突きつける。
過激は過激だけれども、昔はまだ純粋な思想にもとずいた行動をしていたようで、国民の中にもゲリラを支持する人は多かったみたい。
しかし今はゲリラも腐敗し、ただの脅しや嫌がらせで金をふんだくる堕落した組織になってしまっているらしい。
一例として、うちの会社には手を出さないで下さいとゲリラにみかじめ料を払っているバス会社もあるそう。
もちろん、そんなゲリラを政府もほっておかない。
鎮圧のための内戦も行われている。
ゲリラ集団は活動拠点を転々とし、田舎の村や町を訪れては、そこの住民たちを追い出して自分たちのものにしているそう。
そこで生まれるのがゲリラ難民。
そう、この児童養護施設にいる子供たちがそうなのだ。
家を追われた人たちが仕事を求めて都会にやってくる。
そして様々な事情で子供の面倒が見られなくなる。
そんな彼らの受け皿としてのこんなシステムがあることに、問題の根の深さがある。
彼らはまだ親がいる。
中には内戦に巻き込まれて孤児になった子供もいるだろう。
教育も受けられず、貧困という汚水にまみれて育ち、彼らが選ぶのはおそらくゲリラへの道だ。
コロンビアは豊かな国だ。
街中の高層ビルは南米屈指の経済力の象徴。
ショッピングモールでは幸せそうな家族がアメリカ並みの物価の商品を買っている。
でも、ひとたび裏通りやスラム地区に行けば、バラック小屋が立ち並ぶ貧困地区になる。
コロンビアはエストラートという6段階のエリア分けが決められているそう。
公共料金や教育にかかる費用の優遇などの違いがあるそうで、6のエリアが1番高級な地域になる。
もちろん富裕層しか住めない。
5、4、3と中流階級の地域があり、2と1になると完全なスラムになる。
公共料金はとても安く、大学へ進学させるお金も優遇されるんだけど、まずこのエリアに住んでる人で大学に行こうとする人なんていない。
貧困は犯罪の温床。
金を得るために暴力という手段がもっとも手っ取り早いことを学び、彼らはゲリラを目指す。
コロンビアは経済成長を続けているけど、光が強くなれば影も濃くなる。
格差による貧困という影が形をなしたようなゲリラはまだまだ活発に活動している。
この刹那的な生き方を求めるラテンアメリカで、ゲリラがなくなるような日ってあるのかな。
「やったー!!ビンゴー!!」
「ムイビエーン!!エスタビエーン!!」
ビンゴが揃って無邪気にはしゃいでいる子供たち。
こんな純粋な目をした彼女たちがもしかしたらゲリラへの道を選ぶのかもしれないと思うとふと怖くなる。
駆け寄ってきた小さな女の子の体をぎゅっと抱きしめた。
用事はもう1件。
カオリさんの生徒の家でホームパーティーをやってるらしく、そこにお呼ばれしている。
タクシーに乗り、山の手の高級エリアへと坂を登っていく。
道の入り組んだ住宅地の中に生徒の家はあった。
こ、これか………
鉄の門を抜けると、大きな犬が飛びかかってきた。
巨大な家の中に入ると、部屋いくつあるんですか?っていう迷路。
まぁただの豪邸です。
その中で、まだ10代後半、20歳そこそこの子供たちがワイワイと喋っていた。
「オラー!カオリー!」
「カオリ、コンバンワー!!」
みんなが笑顔で迎えてくれ、柔らかいソファーに腰を下ろすと、料理やスイーツが運ばれてくる。
日本語はまだまだカタコトだけど、当たり前のように英語はペラペラ。
みんなまだ学生で、なに不自由なく暮らしてますって感じだ。
「みんな将来何になりたいの?」
「僕は航空エンジニアの勉強をしているよ。」
「僕は~~、」
もはやエリート街道まっしぐらの彼ら。
輝かしい未来。
ショッピングモールで家族でお買い物をする側の人間だ。
こんなパーティーなのに、お酒が用意されていない。
コロンビアでは18歳から飲酒OKなのだが、みんな全然飲まない。
そしてタバコも吸わない。
なんて健全で、絵に描いたような好青年たちなんだろう。
するとみんなが中庭に出始めた。
そしていきなり陽気なラテンの音楽が流れ始める。
サルサだ。
当たり前のようにみんなカッコいいステップを踏み、クルクルと回っている。
キチンと基本を勉強してる踊り方だ。
そんな中でひときわ目立ってるのがサンティアゴ君。
男前で背が高くてモデル業もやっててダンスも上手い。そして家はお金持ち。
幸福な人生しか待ってねぇな。
「彼、咲ちゃんの本に乗ってる人だよ。」
そう教えてくれるカオリさん。
なるほどな、咲ログの咲さんは世界イケメンハンターってのやってたけど、この彼も見事咲さんのお眼鏡にかなったんだそう。
そんなサンティアゴ君が、カオリさんに何かを作ってあげていた。
なんだこれ?
ドライフラワーのブーケの上に吊るされているのは…………
サナギだ。
蝶々のサナギだ。
なにやらこのサナギ、正真正銘本物らしく、このサナギに願いをかけ、羽化した蝶々が窓から外に飛んで行けば願い事が叶うんだそう。
ドライフラワーの飾りつけも全部自分でやってるサンティアゴ君。
外国人のキザなカッコつけって別に気にならないんだけど、ここまでくるともはやムカつくレベルですね。
俺もその蝶々のやつやりてぇ!!!
さて、どちらが幸福な人生なのか。
幸福を感じているのか。
ゲリラにより家を追われた子供たち。
金持ち家族のお坊っちゃんたち。
幸福の価値観は世界共通だと思う。
金は確実に人生を豊かにする。
でも、そうじゃない場合だってもちろんある。
何に幸福を見出すのかは、育った環境が左右する。
経済成長は必ずひずみを生む。
そのひずみを修正し、両者の子供たちがお互いに憎み合わないような国になる日はくるのだろうか。
社会主義か、資本主義か。
日本はいい国だ。
いや、そうでもないか。自殺率半端じゃないし。
死ぬか、奪うかの違いだな。
幸福な人生とはなんだろうな。