12月13日 金曜日
【コロンビア】 カプルガナ ~ メデジン
幻の夜が明ける。
カリブの海は鋭い刃物のように姿を変え、朝日の中に光っている。
その明かりに立ち向かうかのように、桟橋には男たちが集まっている。
勇ましく、虚しく、
人々の生活は時間の流れの奴隷。
まだ夢の中にいるかのような、錯覚。
一生のうちにあと何度このカリブの楽園に来ることができるだろう。
そう思うと、生の不確かさと自由さをとても力強く感じる。
カリブは全てを包んで解放してくれるよう。
生をどこまでも見つめられる時間をくれる。
ほうっておけばずっとここに住んでこの解放の空気を吸っていたいけど…………
行くしかない。
行くぞ、今日中にメデジンまで着いてやる。
朝の桟橋に行くと、すでに慌ただしく人々が行き交っている。
欧米人のバッグパッカーの姿も多い。
船の出港は7時15分。
こいつでまずは対岸にある地方都市のトゥールーボに向かう。
代金は15ドルくらいだと思ってたんだけど、予想外の30ドル。55000ペソ。
ドルで払うこともできるけど、換金してペソで払った方が少し安い。
高くついたなぁと思いつつ桟橋で船を待つ。
朝っぱらからスピーカーを持ってきていつもの陽気なラテン音楽をかけてる若者たち。
いやっほー!!と海に飛び込んでる黒人たち。
海は最高の遊び場だな。
すると桟橋の入り口あたりで呼び止められる。
原始的なバネのはかりで何やらみんな荷物の重さを測っている。
おいおい、こんなチケット高いのにさらに荷物代までむしろうっていうのかよ。
「はい!!お前は5000ペソ!!お前は8000ペソ!!お嬢ちゃんは1万ペソだよ!!早く払って!!」
なめてやがる(´Д` )
高すぎ(´Д` )
どういう計算方法だよ。
みんなで渋々お金を渡す。
ちなみに1万ペソで5ドルくらい。
まぁこれだけたくさんお金払ったんだ。
それはもう立派な大きい船に乗れるんだろうな!!
トイレ付きで、ソファーとかあって、デッキでタバコ吸えるやつだよね!!
ふと気づく。
どうして周りのみんなは荷物にビニール袋をかぶせているんだろう?
何もしてないのは俺たちの荷物くらい。
水しぶき?
いやいや、大きい船なんだから水濡れ対策なんてしなくていいだろ?
大きい船でさ、デッキでタバコ吸えるような感じの船なんだからさ………
うん、ちょっとデカイね。
いやー、ちょっとデカイわ。
はぁ………もう嫌。
また小舟。
荷物に綺麗にビニール袋をかぶせてるおっさんに聞いてみた。
「ん!!トゥールーボか!?それはこの船だぜ!!濡れるかだって?おいおい、なにバカなこと言ってんだよ!!ずぶ濡れ祭りに決まってるだろう!!」
も、もうやだよ………
またこんな小舟で海渡るとか勘弁してくれよ………
あああ……船が動き出した………
お願い、お願いだからゆっくり行こう………
波がはねないように丁寧に行こう…………
ああ……早く彼女に会いたいなぁ。
彼女と一緒に爛漫のチキン南蛮食べて、きむらのラーメン食べてゆっくり家でコタツに入りながら映画見て一緒にお風呂入って暖かい布団と毛布を首までかぶって、
ビッッッシャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!
ドグシャアアアアアアアア!!!!
ベコン!!ドカン!!ゴガガン!!!
「いいいいいあああああああ!!!!!」
「ギャアアアアアアアアアアアア!!!!」
「アハッ!!アハハハ!!アハハハハハハハハハハ!!」
一緒に乗ってた白人笑いすぎ。
もう笑うしかないくらいの水しぶき。
水しぶきっていうかドリフ。
「あああああ!!!もう嫌だあああああああ!!!!」
「帰りたいよおおおおお!!!彼女に会いたいよおおおおおおお!!!!」
「あ!!サメだ!!サメ!!あそこほら!!背中のヒレが出てる!!」
「きゃああああああああ!!!」
「アヘヘヘー、またパンツまで濡れてるだやー。エヘヘー、スガキヤ食べたいでやー。」
ナオコちゃん、崩壊。
「うう、ううう………なんで私こんな辛い思いするためにパナマ来たんだろ…………ああ、お尻痛いよぉ………」
マユコちゃん、崩壊
もうさすがに船も3回目になると、楽しいとかそんなの微塵もなくて、俺たちは何をやってるんだろう?という根本的な疑問しか頭になくなる。
こんな海原の中で、海水まみれになって、俺たちは秘宝でも探しに行くんですか?毎日毎日塩まみれで?
バカなの?
もう二度と経験したくない地獄の時間。
お尻と背骨と精神が崩壊しそうになりながら、船は2時間の航海でようやく、
ようやく!!
ようやくううううううううう!!!!!
コロンビアの地方都市、トゥールーボの港に滑り込んだ。
うおおおおお!!!もう10年は船乗りたくねええええええ!!!!
トゥールーボの港はとても臭い。
生ゴミというか腐敗臭というか、物が焼ける臭いというか。
カリブの澄んだ水から一変、ゴミとオイルまみれの公害祭りみたいな港を進んでいき、船は桟橋に着いた。
その瞬間、群がってくる警察と客引きたち。
もうギラギラしすぎ。
久しぶりだな、こんな客引き。
警察のパスポートチェック、そして猛烈な客引きたちをなんとかかいくぐって船着き場の外に飛び出す。
そこはもう、バイクとタクシーがこれでもかってくらいかっ飛ばしており、さらに馬車まで走っており、砂っぽい道路を活気が埋め尽くしていた。
おお、こ、これがコロンビア。
ていうかこれが南米!!
そうだ、俺もう南米にいるんだ!!
めちゃ強引な客引きたちにワラワラと群がられ、メデジン行きのバス乗り場に連れて行かれる。
5万ペソだってカプルガナでは聞いたんだけど、6万ペソだった。31ドル。
客引きの懐に入ったかな。
でも何人かに聞いても同じ値段だったし、無事メデジン行きのバスに乗れたことで良しとしないとな。
エアコン付きで足元のスペースも広々とした快適なバスは勢いよく走り出した。
バスはとんでもない山の中を突き進んでいく。
周りは広大なジャングル。
幅の狭い未舗装道路はガタガタに荒れており、今にもひっくり返ってしまいそうに傾く。
すぐ横には崖が切りたち、はるか下に川が流れている。
ただの秘境。
ただの白神山地。
落ちたら一発死亡のオフロードをゆっくりゆっくり進んでいく。
都市間を結ぶ道なんだからもっと立派な道が通ってるもんだと思ってたのに。
こりゃあ時間かかるわ。
日が沈み、バスはドンドン標高をあげていく。
そして21時を過ぎたころだったかな。
走っていたバスの窓の視界が開けた。
まるで宇宙船の中から見下ろすかのような、ダイナミックな夜景が眼下に広がった。
とてつもなく広域な範囲に広がる街明かり。
盆地になっており、周囲の山の斜面に規則的に夜景が散りばめられて、あまりにも迫力がある。
盆地の山の上から見下ろしているので、その圧倒的なまでの標高差とオレンジの粒が、メデジンが大都会だということを教えてくれる。
ドキドキしてたまない。
新しい街、
新しい国、
新しい大陸、
あー!!ついに南米だぞおおおおお!!!!
バスはメデジンの北バスターミナルに到着。
ここから俺とケータ君はついにこの中米旅のゴールであるカオリさんの家に向かう。
カオリさんとはメデジンで日本語教師をしている女の方で、旅をしている日本人たちをご自宅に招いて宿泊させてくださるという神のような方。
ただそこは本当にただのカオリさんの1人暮らしの自宅なので、誰でも行っていいわけではない。
俺は前々からご連絡をいただいており、そして今回改めて宿泊させていただけませんか?とお願いをしている。
ケータ君のことも話しているので問題ないが、ナオコちゃんとマユコちゃんは完全にカオリさんの知らない2人。
友達ですー、って勝手に連れて行くわけにはいかない。
Wi-Fiを繋いで安ホテルを調べ、住所をゲットしたらすぐにタクシーを捕まえて街に向かった。
何もわからない大都会の街の中、無事ナオコちゃんとマユコちゃんを宿に送り届け、俺たちはそのままタクシーでカオリさんの家に。
「あ、忘れてた!!何も手土産買ってねぇ!!」
「ああ!ヤバいっちゃー!!」
ホステルではなくご自宅にお邪魔するのに手ぶらはヤバい。
タクシーの運ちゃんに聞くが、すでに時間は23時近いのでどこも開いてないとのこと。
仕方なくカオリさんの家の目の前にあるピザ屋でピザを買う。
女の人の家に夜中にお邪魔して、しかも手土産が時間無視でピザとかマジごめんなさい………
教えていただいてた住所の団地へ。
団地といってもゲートとレセプションがあり、綺麗に整備された場所。
ドキドキしながらレセプションに行き、カオリのアミーゴですと言うと、警備員のお兄さんがニコリと笑ってコンバンワと言って通してくれる。
カオリさん、一体どんな人だろう。
少し前にブログランキングに「バッカスを探して」っていうバーテンダー旅人さんが書いてる大好きなブログがあったんだけど、彼が長いこと滞在していたカオリさんのお宅。
あのブログを通してカオリさんのことは知っていたんだけど、まさか実物のカオリさんにお会い出来る日が来るとは。
ドキドキしながらアパートの呼び鈴を鳴らす。
そしてついに対面…………
「あー、来た来たー。さぁ入って入って!!」
思いっきり寝る寸前のパジャマ姿の女の人が玄関を開けて待っててくれていた。
「申し訳ありません!!こんな遅くなりまして!!」
「いいのよいいのよー。疲れたでしょー。そこ座って。冷たいお茶でいい?」
「カオリさんだー!!」
バッカスを探してのブログに出てきてたマンマのあのカオリさんは、とっても柔らかくて無邪気に笑う可愛らしい人だった。
「好きなようにくつろいでね。中米大変だったねぇ。船旅はどうだった?あ、お腹空いてる?」
清潔な部屋、清潔なキッチン、清潔なトイレ。
まるで日本のアパートのようにオシャレな家具が配置され、ピカピカに手入れされている。
ああ…………着いた…………
中米南下の旅、ついにゴールにたどり着いたぞ…………
そして同時に南米の始まり。
カオリさんの全てを包み込むようなニコニコした笑顔に張り詰めていた緊張が一発でゆるんだ。
幻のようなカリブの朝から、幻のような日本人のお家。
とにかく今夜は………もうおやすみ…………
中米編 完了!!!