11月5日 火曜日
【メキシコ】 サンクリストバル
この時期は観光客の数も少ないのか、俺たちが泊まっている宿、フベニールには客が1人もいない。
俺たちだけ。
静まり返っている。
まるで自分たちの家みたいですごくリラックスできる。
最近ずっと日本人がたくさんいる宿に泊まってたらからな。
さて!!!今日は路上かますぞ!!
この欧米人に人気の観光地なら間違いなく稼げる!!
そして昨日軽く町を見て回ったんだけど、歩行者のみのショッピングストリートが何本もあり、歌う場所にはことかかない!!
1000ペソいってやるぞ!!!
ケータ君と宿を出て中心部へと向かう。
昨日見た迷路のような路地が入り組む町は、明るい時に見るととてもカラフルな色彩に溢れていた。
中南米ではこうしたヨーロッパ風の建物に色鮮やかなペイントがされた町がたくさんあるみたいで、それらをコロニアルと呼ぶそうだ。
周囲を山に囲まれた深い森の中にポツンと寄り添うこのカラフルな町。
まさに御伽話の中のよう。
適当にその辺でタコスを食べ、ショッピングストリートを歩く。
とても綺麗で爽やかな空気に包まれた高地の町の雰囲気が旅してる実感を与えてくれる。
通りはものすごい数の人で溢れていて、もうどこでやってもよさそうなんだけど、この人通りは全部観光客ってわけではない。
マジで通行人と同じか、それ以上の数の物売りたちがウロウロと歩き回っている。
そしてその物売りたちは、みんなインディアンだ。
写真で見たようなカラフルな民族衣装を着たずんぐりむっくりした黒髪の人たちが、織物やアクセサリーなどの売り物を体いっぱいにくくりつけて売って回っている。
観光地によくいるような、先住民であることを売りにして派手な伝統衣装を着ているって雰囲気ではない。
マジの、普通の生活着が民族衣装というマジのインディアンたちだ。
おばちゃんたちに混じって、子供の姿もある。
10歳にもなってないような女の子が汚れた顔で赤ん坊を背中に抱えてアクセサリーを売って回っている。
楽しそうにじゃれあってた幼稚園児くらいの子供たちが、俺たちを見つけた途端走り寄ってきて、買って買ってーと見上げてくる。
マジで5歳にもなってないような子が、地面に膝まづいて大人の靴を磨いている。
物乞いはそこまでいない。
彼らは懸命に商売をしている。
大丈夫大丈夫、これが彼らの暮らしなんだ。
ここが観光地である以上、これが彼らの生きる道なんだ。
学校に行けないのかとか、もっと綺麗な服を着られないのかとか、そんなのは余計なお世話だ。
だから俺も歌って稼ぐぞ。
通りの真ん中でギターを鳴らす。
チラホラと立ち止まり、物珍しそうに俺のことをジロジロ見ている。
ジロジロ見て、そしてそのまま歩いていく。
みんなそう。目の前で歌を1曲最後まで聞いても、お金を入れないで歩いていく。
おっと、これはどういうことだ。
反応が悪いにもほどがあるぞ。
なんとかチラホラとお金を入れてくれる人もいるが、それらは全員観光客。
地元の人はまず入れてくれない。
そして足元のわずかなコインを恨めしそうに見ている。
こ、こいつはやりづらないな………
でもこれをやっていかないと、これからの南米では飯を食えないんだ。
するとそこにおじさんがやってきて注意を受けてしまう。
警察ではなく、町の見回りの役人さんといったところか。
この通りではやったらいけない、向こうのソカロなら歌っていいぞ、とのこと。
ソカロというのは、町の真ん中にある広場のこと。
そういうことならと荷物を抱えてソカロへ移動。
暇そうな男たちがベンチでたむろして、女たちがウロウロと物売りをしている広場の端っこに立ち、気合いで声を張り上げる。
ボチボチと人だかりができる。
向こうのベンチにいた男たちが寄ってくる。
メキシコシティーのペンションあみーごで会ったナオヤ君が、前にこのサンクリストバルの路上で、墨で漢字を書くパフォーマンスをして結構稼いだという話を聞いたんだけど、その時、帰り際に男たちに襲われて金を奪われたのだそう。
それを聞いていたからか、柄の悪そうなオッさんたちの視線から、敵意を感じなくもない。
それでも少しずつお金は入る。
目の前で靴磨きの台を持った幼児が、靴墨で真っ黒になった手でコインを握りしめている。
物乞いをしている盲目のおじさんが、俺の歌を邪魔するようにすぐ近くにやってきて大声を張り上げている。
大丈夫、大丈夫だ。
歌わなきゃ。
そこに警備員がやってきた。
ソカロでは歌ったらダメだと言う。
すぐにギターを置いた。
ソカロでなら歌っていいよと言われたんだよ、と抗議もしなかった。
もうすっかりエネルギーは空になっていた。
ここでは歌えないよ。
あがりは1時間半ほどやって200ペソ。
宿に戻って日記を書いていると、散歩に行ってたケータ君が帰ってきた。
「え、止められたとですかー。そっかー、僕も散歩してきたっちゃけど、まぁこんげなもんかってとこですねー。」
なんだか元気がなくなってしまって2人で晩ご飯の食材を買いに出かけた。
ケータ君は観光にまったく興味がない。
ウユニエンコ?何それ?どっかの国ですか?とか言う奴だ。
彼は人と出会いその国をリアルに感じたくて旅してるんですと言っている。
ヒッチハイクも野宿も、現地の人になるべく近づくための彼の作戦だろう。
俺といることで、彼の趣旨が乱れなければいいんだけど。
ちょ、ゆるキャラ(´Д` )
宿に戻り、2人で料理。
コンソメスープと野菜炒め。
かなり美味い。
そして、この前ケータ君がメキシコシティーで調達してきた芋焼酎を飲みながら、色んな話をした。
「ケータ君、一気にブログランキング上がってきたねー。もう7位やん。」
「そうやとよねー。ところで金丸さんはブログランキングの中の誰に会いたいですか?」
「そりゃあもう、旅するラブレターさんに決まってるやん。」
「あー、あの人はいい人やろうねー。」
「いい人で可愛くて料理ができて三歩後ろを歩いてコタツの中で寝ちゃうような子供っぽさがあって浴衣の君はススキのカンザシって感じやね。ケータ君は誰に会いたい?」
「んー、佐々木舞さんかなー。どんな人やっちゃろかなーって。」
「佐々木舞さん、気が強くて怖そうだよね。タビジュンさん会いたいな。」
「タビジュンさんは会いたいですねー。あの人、相当いい人って評判やとですよ。」
ランキングのブロガー同士の話で盛り上がり、酒が深まっていくと話題は真面目な方向へと進む。
ケータ君は旅の前は日本で理学療法士をやっていた。
俺のいとこで一緒にばちあたりもんってバンドをやってた大輔も、いつもドクロのTシャツ着て病院に行ってたけど一応理学療法士なので、どんな仕事なのかは少しは知ってる。
若い志のある新人は、病院という地域密着の組織に入ると、その現実の汚さ、馴れ合い具合に吐き気を催すものという風に、今まで出会った医療従事経験者たちは言っていた。
ケータ君もやはり、その理想と現実の違いに打ちのめされたんだそう。
「金丸さんにとって歌ってなんやとですか?ありきたりな質問やけど。」
「考えたこともねぇ……………あ、これ知ってる?バキの中でね、範馬勇次郎っていう………」
「いやー、俺にとって理学療法ってなんやろうって考えてしまうとですよー………」
「バキがね、親父である勇次郎に戦いに1番必要なものってなんだ?って聞くシーンがあるんやわ、そこで勇次郎が答えるとよ、考えたこともねぇ……って、やべくねぇ?マジヤベー。」
「医療って人を救うためにあるとですよ。やかい俺は人を救うって決めてこの世界にも入ったとです。でも患者さんがどんどん亡くなるとです。これが半端じゃないんですよ!!だからたまらなくなって旅に出てきたとです。現実逃避やと思います!!でも俺はもっとたくさんの人に会って、色んなことを感じたいとです!!」
「勇次郎ってのは地上最強の生物って言われててホッキョクグマとかを素手で…………」
「あー!!もっと出会いてー!!」
芋焼酎は心を吐露するのに1番のお酒だ。
宮崎県民の魂。