11月6日 水曜日
【メキシコ】 サンクリストバル
ゆうべはケータ君と2人で芋焼酎でぐでんぐでんになりながら語り合い、夜中に眠った。
宮崎県民の絆に芋焼酎は欠かせないな。
出来ることなら黒霧島。
部屋の外から話し声が聞こえる。
ケータ君の他に2人の日本語の声。
お、この寂しい宿に誰か日本人が来たのか?
このサンクリストバルには、カサカサという有名な日本人宿がある。
なのでたいがいの日本人はそっちに行くはずなんだけど、珍しいな。
のそのそとベッドを出てキッチンスペースに行くと、そこにいたのは見覚えのある顔。
あ、メキシコシティーの日本人宿ペンションあみーごで少し話をしたエビさんとヨシコさんのカップルだ。
「あー、どうもお久しぶりですー。あ、1杯どうです?」
ものすごく腰が低く、最高に柔らかい笑顔をするエビさん。
昼前からビールを飲んでいる。
さっきこの町に着いたところで、今日はゆっくりするんですという。
俺ももうこの町では歌いたくない。
今日はとことんゆと町をブラブラしようと思っていた。
「あ、じゃあ1杯だけ………」
で、おさまるはずもなく、そのままケータ君とスーパーに行き、ビールと食材を買ってきて、料理を作って宴会スタート。
「あ、これもどうですか?」
「これも食べてください。」
自分の荷物の中からテキーラとかジャガリコとか、大事な秘蔵アイテムを出してきてくれるエビさん。
その駆け引きのない空気がとても心地いい。
そして彼女のヨシコさんはバッグパッカーなのに綺麗にお化粧をする美意識の高い方。旅してる女の子ってほとんど化粧しないからね。
冷たそうなほど美人すぎるんだけど、ほんとは女の子みたいに無邪気な人だ。
「今日あれですよ、サッカーのチャンピオンズリーグで、バルセロナ対ミランですよ。」
「やべえ!!!」
というわけで4人でレセプションの横のテレビスペースでお酒を飲みながらご飯を食べた。メッシすげえ。
お2人の居心地のいい空気にほだされ、すっかり酔っ払ってしまった。
まだなんにもしてないな。
今日はちょっと行きたい場所がある。
このサンクリストバルに来た日本人がまず100%行くという場所。
その名も道草カフェ。
文字通り日本人経営のカフェ。
こんなメキシコのど田舎に日本人がカフェをやってる?
もうその時点でなんか臭う。
ちょっとネットで調べてみた。
やはり………
古民家というか廃屋を改装したような一軒家で、タイパンツを履いたヒッピー風の人たちがオーガニックな食材でランチやケーキなどを提供しているとのこと。
麻ひもで編んだアクセサリーなども販売しており、とにかくゆるそうな場所だ。
このサンクリストバルという町自体、旅人の中でもなかなかコアな人が立ち寄る場所。
そんな人たち、まさにございー系の人たちの溜まり場といった雰囲気。旅人でございー系の。
別に毛嫌いしてるわけじゃない。日本でもこういったヒッピー系の人とたくさん関わってきた。
友達もたくさんいるし、親友と呼べる人もいる。
でもなんか、入って行きにくいんだよなぁ。
すぐ原発の話するし。
というわけで別に行く気はなかったんだけど、ゆうべアジアを回っているサックス吹きのカッピーからメールが来た。
「サンクリストバルにいるなら道草カフェってところにいるコウタさんがすごい素敵な人だから会ってみてねー。」
まぁカッピーが言うなら行ってみようかってなわけで、ケータ君と2人で歩いて道草カフェに向かった。
場所はとにかく分かりづらい。
なんか森の中にあるという情報なんだけど、全然わからない。
木で出来たサックス。これすげえ。
ほんとに道わかんない。マジで迷路。
途中、犬たちがものすごい勢いで交尾してて、マジスゲーって写真撮りまくっていたらさらに迷子になりました。
「ここどこだろうねー。」
「ここあれですよ、飫肥ですよ、飫肥。」
「いやー、どっちかって言ったら小林じゃね?」
そんな話しながらだいぶさまよい続けて、なんとかたどり着いたら、ささっき犬たちがものすごい勢いで交尾してたすぐ横でした。
看板わかりづれぇ(´Д` )
雑木林の柵から中に入ると、そこには廃墟みたいな小さな家がある。
恐る恐る近づいて行く…………
「あー!!どうぞー!!いらっしゃーい!!」
めちゃくちゃ元気な声でお出迎え。
やべぇ、めちゃくちゃございー系だ………
ターバン、インドみたいなストール、タイパンツ、ヒゲが胸につくくらい長くて、長い髪をくくっている。
石鹸とかマジ余裕で作れますけど?といったオーラばりばりのオーガニックマスターたちばかり。
流れてる音楽は内田ボブさん。
本棚には原発関連の本。
超わかりやすい。
店内は基本、江戸です。
地面は土間で、ヒビの入った土壁やむき出しの梁に趣きがある。
そして飾られてるセンスある小物たち。
「あー!!元気ー!?来ないかと思ったー!!」
そんなカフェのテラス席にいたのは………
オアハカでも会ったあの美女軍団たちだ。
べ、別に追っかけて来たわけじゃないもん!!(´Д` )
ヒトミちゃんとケイコちゃんはここからグアテマラに向かい、ナオコちゃんはパレンケ遺跡に向かうという。
それなら俺たちも明日から行くので一緒に行く?ってことになったわけだ。
この美女軍団がやっていたのは、麻ひもの編み物のワークショップ。
このカフェでたまに開いているんだそうだ。
先生は世界中を旅しながらアクセサリーを作って売ったり、ファイヤーパフォーマンスをしているタクちゃん。
「2人もやるー?教えるよー?」
基本みんなタメ口です。あるあるですね。
俺は旅を始めたころ、沖縄でヒッピーに麻ひもの編み方を教えてもらい、アクセサリーから小物入れのポーチまで作っていたことがある。
今はやってないけど。
「いやー、今日の日替わりチキン南蛮だったんだよー。美味しかったー。」
……………な、な、な、な、な、な、な、なんだとおおおおオラァァァァァアあああああああああ!!!!!
マジかあああああああいああああああああらはあうううううえ!!!!!
宮崎県人にチキン南蛮とか、波紋と呼吸法くらい切っても切り離せない存在のものをつい今しがたここで食ってただとおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!
あああ!!!サッカーとか見てる場合じゃなかったあああああああ!!!!!!!!
ああ……チキン南蛮とミアミスだなんて…………
悲しんでいると、店内の音楽が変わり、トムウェイツが流れ始めた。
えー、この店好き。
チキン南蛮作ったりトムウェイツ流したり、マジ好きなんですけど。
「カッピーとはどこで会ったの?ゆうべ彼からメール来てさ、ギター持って旅してる人が明日行きますからーって。」
「エジプトとフランスとアメリカです。」
「へー、俺はトルコで会ったんだよねー。」
店長さんのコウタさん。
とても物腰の柔らかい方。
俺のいけないところなんだよな。
いつも色眼鏡をかけて見てしまう。
まぁ外見にその人となりは表れるものだから、完全ヒッピーみたいな格好をしていればそういう風に見てしまうが、もう少し踏み込まないとその人の本当の人柄や魅力は見えてこないもの。
「今夜ここでボチボチ飲んでるからよかったら遊びきてねー。」
お店を閉めてから飲んでるというので、後で顔出してみようかな。
それからワークショップを終えた美女軍団と向かったのは、彼女たちが泊まっている日本人宿、カサカサ。
町から結構歩いた、外灯もほとんどないような寂しげな路地裏にあるこの宿。こりゃ怖いな。
宿の中は綺麗に掃除してあり清潔感があるし、日本の漫画が揃っていたり、旅情報もかなり豊富に手に入る。
いつもの日本人宿の雰囲気。
なんで別の宿に来たのかと言うと、なにやら今カサカサには料理の上手な旅人が滞在しており、毎晩のシェア飯で腕をふるっているんだという。
お金を払えば別の宿の人間でもいいということだし、今晩はカツ丼ということなので、参加させてもらうことにした。
「はじめましてー。何かお手伝いできることありますか?」
「あ、じゃあタマネギを5ミリ幅で切ってもらっていいかなー。」
はい、基本タメ口^_^
なんか自転車で旅してる人らしく、昔和食の修行をしてた方みたいで、すごい料理の鉄人みたいなピリピリしたオーラを放ちながら料理してる。
俺の独壇場だぜい!!って感じで。
「美味しい肉の揚げ方ってのさ、はじめ高温で表面を熱してからそれから中温で中まで火を通すんだよね。で温度は指ではかるんだよ。」
ふーんって思いながらとりあえずタマネギを切ってると、あ?それサラダ用のタマネギ?太くね?と言われて若干イラついたけど、そこまで鉄人レベルのオーラのカツ丼を食べさせていただけるんだからと我慢して、食べたカツ丼はひたすら固かったです。
せ、繊維が逆の切り方のほうが良かったんじゃないかなぁ(´Д` )
ご飯を食べ終わっても彼の独壇場っぷりがうっとおしかったのでシェア飯代の54ペソ、410円を払ってカサカサを後にした。
ご馳走様でした。
トロントで食べたナオトさんのカツ丼、ハイパー美味しかったなぁ。
ビールを持って夜道を歩き、さっきの雑木林にやってきた。
木々の中から話し声が聞こえる。
お、まだやってるな。
「おーい、来たねー。入って入ってー。」
道草カフェの中では、コウタさんとタクちゃんが2人でいい感じに酔っ払っていた。
淡い電灯が土壁の凹凸に影をつける。
ゆったりと流れる内田ボブさんの飾らない言葉たち。
あー、いいなぁ、ここ。
「シェア飯食べて来たんだ、うーん、まぁお店をやってる立場としてはシェア飯が盛り上がっちゃうとお客さん来なくなっちゃうのもあるからねー。え?54ペソ?!うちの日替わりと同じ値段じゃん!!マジかー。」
「まぁまぁコウタの料理は素人のもんじゃないねんから、心配せんでええよ。」
それからも4人で大笑いしながら話した。旅人だからといって旅の話をほとんどしないってのがまた楽しい。
俺も気分がよくなってお店にあった小さいガットギターでポロポロと2曲歌った。
俺はオーガニック系の友達が多い。
自然と共に生きる彼ら。
とてもフレンドリーで、でも意見をとてもしっかり持っており、自分というものを楽しんでいるように思える。
あまり強くカテゴライズされるのを恐れる俺は、彼らと遊んでいてもそうはならないようにしてるつもりだけど、きっと俺は彼らが大好きなんだと思う。
最初はとっつきにくいけど、それは自分が彼らに壁を作っているだけのことで、彼らは自分というものをしっかり認識しているので、さっきの独壇場の兄さんみたいに自分を大きく見せようというようなみすぼらしさがない。
服はボロボロのものを着ているけど、彼らの個性はとても輪郭がはっきりとした輝いたものに見える。
飾らず、等身大で話す彼ら。
すっかり2人のことが、道草カフェが大好きになってしまった。
「明日、ちょっと予定ずらしてランチ食べに来ますよ。」
「お、そりゃあシェア飯に負けないように頑張るよ。」
日本人にもいろんな人がいる。
結局は好き嫌いでしかないけどな。