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あの日夢見た対岸

9月4日 水曜日
【アメリカ】 ロサンゼルス





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夢のような場所。

目を覚ましたら薄い青の水平線。
空の青と海の青が交わり、直線で伸びている。

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真っ白な砂浜。優しい風。

心まで遠く飛ばされてしまいそう。
こんな風に吹かれると、遠い昔を思い出す。

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昔、車に乗り始めた十代の頃。
高校生のころからギターを持ってヒッチハイクで九州中を動き回っていたんだけど、自分の車を手に入れてからはさらに自由に色んなところに行っていた。

そんなある日、大分県のネオン街を流しで回っていたとき、綺麗な海沿いの田舎を走っていた。臼杵で路上をやって、佐伯に向かう道。

ふと脇道に入って、海岸線をずっと走ってみた。
漁村がところどころに寄り添い、潮風にボロボロになったバス停のベンチが防波堤に取り残され、大きな波が来ると、しぶきが道を濡らしていた。

ゴツゴツした人力でくり抜いたようなトンネルをいくつかくぐると、寂しげな岬に出た。

天気のいい日でとても気持ちよかった。

有料道路になっていて、何百円か払ってさらに進むと駐車場になり、そこに車を止めて遊歩道を歩いた。


そこには管理人のいない、ほぼ廃墟と言っていいような建物があり、中にはなにかの展示物があった。

屋上に上がると、水平線が広がっていた。


鶴美崎という場所だった。


ずっと1人で海を眺めていた。
この向こうに知らない国があり、知らない人々が暮らしていて、自分たちと同じように喜びや悲しみがあり、戦争があったり、恋があったり、別の宗教があると思った。

そこは宮崎の田舎町で育った俺には到底行けるはずのない、はるかな場所だった。

テレビの中でしか見ることのない、現実のものとは思えない場所だった。


あの時も海風に吹かれながら、遠くへ行きたい、と思っていた。
知らない場所に行き、知らない物を見たいと思っていた。

それまで漠然と思っていた旅をしたいという願いを、やろうと決意した日だったかもしれない。

その2年後に俺は沖縄に渡り、旅が始まった。






あれから10年以上経った。

俺は今、あの日眺めた水平線の向こうにある対岸に座っている。

人生はどうなるかわからないと言う。
でも願ったことが現実になるのも人生。
これからも、あー、あの日こう思っていたなぁと願った先に、必ずたどり着いてやる。










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ぼーっとしているところにカッピーの電話が鳴った。
テレビディレクターのマックスからだ。
どうしたんだ?



どうやら先日なくした俺のカポタストが見つかったらしい。
わざわざ車を飛ばして持ってきてくれたみたい。

駐車場に取りに行くと、そこにはマックスがいた。


「ハーイ!!昨日はどうだった?え?120ドル!?すごい!!今日も頑張ってね!!はい、これ。」


マックスはカポタストと一緒に3人分のお水とバナナとリンゴを渡してくれた。

マックス………ああ、出る前に必ずなにかお礼をしなきゃな。

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荷物を片付けてピアに向かった。
海の上に遊園地があるというサンタモニカの有名観光地であるこの桟橋。

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レストランやカフェ、ジェットコースターや観覧車なんかがあり、たくさんの観光客が歩いている。

さらに、知らなかったんだけど、どうやらここがシカゴから始まるルート66の終点なんだそうだ。

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中学生のころに一生懸命コピーしたローリングストーンズバージョンのルート66。
美々津の浜でいつも練習していたなぁ。





そんな有名観光地なので日本人の女の子の多いこと!!
みんな地球の歩き方片手にキャッキャ言いながら歩いている。




あひいいいいい!!!!
な、仲良くなろうよおおおおおお!!!!

一緒に写真撮ろうよー!!











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こんなパンツ1枚でウロウロしてるやつには目も合わせてくれませんね。

あ、シャワー浴びた後なのでね。



あああ………あの日思い描いた水平線の対岸でパンツ1枚でウロつくことになるとは夢にも思わなかった(´Д` )











そんな最高に雰囲気のいい桟橋のベンチに座るカッピーとユージン君。
ツーリストインフォメーションのおばちゃんが水が必要なら言ってねーと笑顔で声をかけてくる。

カッピーたちは昨日のプレイですでにここの人たちに受け入れられていた。



1個5ドルという観光地値段のハンバーガーを食べてから、早速カッピーたちが路上開始。

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パラパラと人だかりが出来て拍手が起こる。
んー、とてもいい雰囲気。
こんなロケーションで路上出来るなんて最高だな。

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と、思っていたら………


警備員さんがやってきた。

この桟橋でプレイするにはライセンスが必要とのこと。


マジかー………

どこでやってもライセンスが必要って、サンタモニカはいい街だけど俺たちにとってはやりにくいなぁ。



「どうする?」


「んー、俺たち他の町攻めてみるよ。ここから南に行ったところにロングビーチって町があるからそこ行ってみようかな。」


「じゃあ俺はこの辺りで探してみるよ。」


夜にどこかで落ち合うことにして別れた。









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サンタモニカのビーチには人があまりいない。
ポツポツはいるけども、ベニスみたいな活気はない。
そんな海岸線を、歌える場所を探して歩き続けた。






そしたらいつの間にかベニスまで戻って来ちまった。

さっきまでのサンタモニカの洗練された空気が一気に変わる。

ヒッピーや変なオッさんの多いこと。
ずっと1人でクネクネ踊ってるオッさん。
音楽を爆音で流しているスピーカーをリアカーで引きながら歩いてるオッさん。
めちゃくちゃな装飾の謎の格好をしたオッさん。



昔、どの町にも1人は必ず変なおじさんがいたよな。
頭に花をくくりつけて人形抱えて歩いてる、みたいな名物オッさん。

あのクオリティの変なおじさんがわんさかいるのがこのベニス。
もはや変なおじさんの聖地と言ってもいい。

そこらじゅうにいるので、もういちいち驚かない。
それがベニスであり、彼らもこのビーチの景色の一部だ。

そしてどこからともなく漂ってくるマリファナの香り。

ここは自由と開放の浜辺。

やっぱりこっちのほうが人間臭くて好きだな。










今日も遊歩道でパームツリーに背をもたれて歌う。
この前までのあの物凄い混雑は連休だったからみたいで、平日はそんなに人通りは少ないようだ。

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のんびりと歩いているまばらな人々に向かい、俺ものんびりと歌った。

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あがりは50ドル。


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路上を終えてからぶらぶらと歩き、少し離れたところにある中華料理屋さんで晩ご飯。
これで6ドル。

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それからWi-Fiを拾いに行き、カッピーたちにメールした。

しばらくしてバスに乗って2人がやってきた。


「おーい、もうさんざんだったよー。ハリウッド全然ダメ!!」


どうやらロングビーチは遠すぎるということでハリウッドに狙いを変えたそうなんだけど、あがりはわずかに3ドル。

そ、それはキツイ………

やっぱりベニスがコンタクトに稼げるみたいだな。










ベニスはさっきも書いたように変なおじさんがウヨウヨいる場所なので、まぁ一般的に見て治安は良くは見えない。

でも彼らはいたってピースフル。
臭い以外は害はない。
今夜もここで寝よう。











物陰の砂浜の上に寝袋を敷く。
湿気が多く、夜露が寝袋を濡らす。

黒人のカップルが歩いてきて、塀の上から俺たちを覗いたけど、そのまま去って行った。




砂浜の上に寝転がると今日も流れ星が見えた。
ロマンチックだな。


あの日、岬の先端で夢見た旅路は今も続いている。
思い描いた通りの、いやそれ以上の旅の中だ。

諦める。そんな選択肢どこにもなかった。
行きたい道をなにがなんで進んで行けば、必ずたどり着ける。

これからもそうだと信じたい。



また流れ星が光る。水平線のすぐ上で消えた。
願うことなんてない。
やりたいことは分かってる。

この海の向こうに、帰るんだ。






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