8月8日 木曜日
【アメリカ】 ナッシュビル
無限に続くかのような夜。
テントの中はドンドン水が染み込んでくる。
ひたすら耐えた。
ボーッと膝を抱えて、ずっと雨の動きを見つめていた。
あれから雨は朝方になってようやく勢いを弱め、日が登るころには完全に止んでくれた。
着替えの服で雨漏り部分を拭きながらなんとか少しは眠ることができた。
9時ころに外に出ると、カッピーとユージン君が寝不足の顔して、濡れた荷物を広げて乾かしていた。
寝袋やバッグから染み出た水でアスファルトに水たまりができてる。
衣類も、譜面も濡れている。
一晩中、雷の轟音と雨漏りに追い詰められて、体力も気力も疲弊しきった顔をしてる。
こりゃ相当やられたみたいだな。
俺は今までの経験から、どうやれば雨漏りを軽減できるか少しは分かっているので、被害はほとんどない。
テントが良いやつってのもあるだろうし。
バッグの中身をすべてひっくり返して乾燥させてる2人。
俺はキャリーバッグが壊れたので、中身をリュックのほうに移す作業。
「ね、ねぇ、あの雲………ヤバそうじゃない?」
ユージン君が指さす空を見ると、絵の具で描いたような真っ黒な雲がこちらに向かってきていた。
「あ、あれはヤベエと思う………」
「ちょ、急ごう。どっか屋根のある場所に移動しよう。」
「うん、向こうのガソリンスタンドに………うわー!!きたー!!」
なんの前触れもなく滝のような雨がドバーッと降ってきた。
うぎゃあああああ!!
蟻みたいに3人で慌てふためく!!
荷物をバッグにぶち込んでダッシュしてそこらへんにあった建物の軒下に逃げ込んだ。
せっかく少し乾いた荷物がまたびちゃびちゃ…………
雨はまったく止む気配がない。
軒下でボーッと座りこむのみ。
建物のスタッフの方がやってきて、俺たちが広げている荷物の間を歩いて中に入っていく。
さすがにこの雨の中、どっか行けとは言わないみたいだ。
「はぁ……どうする?これから。」
ヒッチハイクもできない。
バスキングもできない。
そもそも動くこともできなければ飯も食えない。
どうする?
雨が降ったらどこまでも足止めを食うヒッチハイク旅をこのまま続行するか?
それともとっととバスで移動して、気分を入れ替えて新しい町で稼ぐか?
こだわる必要はない。俺の目標はあくまで世界一周。他のミッションで無駄に時間を費やすわけにはいかない。
もうすでにここで3日も動けずにいる。
完璧に時間の無駄だ。
チクショウ。
でも、一度やろうと決めたことを諦めるのは嫌なんだよなぁ。
どうしよう………
カッピーたちも簡単に弱音を吐く男じゃない。
もういいじゃーん、楽に行こうよー、ってそこらへんの奴なら言うと思う。
っていうかブチ切れられてもおかしくないレベルだと思う。
なのに2人は何も言わずに俺の意思を尊重してくれる。
ユージン君なんて初海外旅行でいきなり初野宿と初バスキングと初ヒッチハイクやらされてるからね。
こんな目に遭ってるというのに、文句ひとつ言わない。
ほんと、このメンバーで良かった。
雨が小雨になってきた。
悩んでも仕方ねぇ。
なんとしても先に進むぞ。
ガソリンスタンドの売店でサンドイッチを買い、口に詰め込んだらすぐにヒッチハイク開始。
必ず捕まえる!!
今日中にメンフィスに行ってやる!!
なんとしてもおおおおおおおおお!!!!!!!!
2時間後………
道路脇でがっくりと肩を落とす3人。
ダメだ………
どうしても捕まらない………
もう諦めよう。
これ以上やっても時間が過ぎていくだけだ。
悔しい。
悔しいがバスに乗ろう。
近くのガソリンスタンドでネットに繋ぎ、ナッシュビルからメンフィスまでのバス代を調べる。
30ドルくらいだといいんだが………
43ドル。
黙って腰をあげる。
そして道路に戻ってもう一度手を上げる。
高い。
3人で130ドルもする。
なんとしても、なんとしてもヒッチハイクで………
さらに2時間。
虚しく立ちつきすのみ。
もう糸が切れた。
バスだ。
ダウンタウンへ戻る市バスに乗り込んだ。
くそ、上手くいかねぇ。
今日もせっかく夕方から雨は止んだんだから、そのせっかくの時間を路上にあてていればバス代くらい稼げていたかもしれない。
野宿場所ももう少し吟味していれば、あんな最悪な朝にならないで済んでいたかもしれない。
あの悪い知らせから俺のパワーも落ちてしまってるのかな。
でもそんなことを理由にしてはいけない。
運を引き込むのも、逃がすのも、全部自分の力次第なんだから。
グレイハウンドのバスターミナルにやってきた。
チケットもインターネットで購入した。
窓口買いだと55ドルくらい。
ネットだったら43ドル。
クレジットカードを持った仲間がいるとこんなに助かる。
夜中の3時。
ゆうべは雨に襲われたせいで体力も気力もすり減っている。
やってきたバスに乗り込む。
そして寝袋に包まって一瞬で眠りに落ちた。
アメリカ横断ヒッチハイク、断念。