7月9日 火曜日
【アメリカ】 ボストン ~ ニューポート
この日起きたことが未だに信じられない。
俺は出会いをとても大切にしたいと思っている。
そのおかげか、この旅の中でわずか1年というのに凄まじい数の人々と交流し、触れ合ってきた。
出会いのひとつひとつすべてが奇跡だったと思う。
袖振り合うも多生の縁。
すべてに意味があったと思う。
最近ではその出会いがとどまることを知らない勢いで続いている。
まるで滑走する飛行機が飛び立つために速度をあげているように。
この数ヶ月の助走は、まさに今日、この日のための滑走だったと思う。
さぁ、日記いってみよう。
「ヤバイ、起きて起きて!!あと30分だよ!!」
カッピーの声で目を覚ました。
ここはてっちゃんがとってくれたホテルの部屋。
時計を見ると11時30分だった。
この時間まで誰も起きねーとか夜更かしして飲み過ぎ(´Д` )
猛ダッシュでみんな支度をし、ちょっと時間オーバーしつつもチェックアウト。
それからバーガーキングで腹ごしらえ&Wi-Fi。
「そろそろ路上行こうかー。」
「そうだねー。今日はせめて50イーチはいきたいねー。」
「いやいや、100イーチいっちゃうでしょー。」
「そうそう、俺たちが本気出したら150イーチくらいいっちゃうよね。」
「そうだよねー。」
「あ、眠くなってきちゃった………寝ようかな。」
「うん、眠いね、俺たち本気出せば稼げるから明日からやろうか。」
だ、ダメだ(´Д` )
このメンバーお気楽すぎる(´Д` )
結局バーガーキングを出て、それぞれに別れて演奏場所を見つけて路上を開始したのが15時30分。
その分遅くまでやるぞ!!と気合い入れて、街の真ん中にある交差点の横でギターを鳴らす。
ボストンは田舎だ。
いや、田舎なんかじゃない。
ニューヨークから来たからそう思うだけで、日本でいったら福岡くらいの規模だ。
でもあの摩天楼に比べると建物が低く、空が広い。
道路も広々としていて、緑も多く、馬鹿でかい原色の看板がギラついているニューヨークと違い、とても落ち着いた雰囲気が漂っている。
アメリカでもかなり最初のほうに作られた街みたいで、由緒ある古い建物が多く残っており、そこここにこの新しい国の原型を見つけるようだ。
人もフレンドリーで暖かい。
これといった名所はないけども、すっかり気に入ってしまった。
気分よく歌い、疲れてギターを置いたのが20時。
あがりは70ドル。
よっしゃあ!!!
充実感を持ってカッピーたちのところへ行くと、教会の脇の芝生で2人が演奏していた。
20時を過ぎて人通りも少なくなっているが、稼ぎが不満みたいでもう少しやりたいと言う。
じゃあ近くで日記でも書いてようかなと、トイレに行き、プラプラ歩いて戻っていると、カッピーたちのとこに仕事を終えたてっちゃんが来ていた。
そしてなぜかカッピーたちが急いで荷物を片付けていた。
「どうしたの?もうちょっとやるんじゃなかったと?」
「ポポポ、ポ、ポー、ポールが、ポールが今そこのスタジアムでライブしてるんだってあばばばばばば!!」
ポール?
ポールマッカートニー。
「………ぬおおあおあああぁぁぁぁ!!!!!お前ら急げえええええええええええ!!!!!」
ここボストンはボストンレッドソックスの本拠地。
街の中に大きなスタジアムがあり、1年に一度、ビッグアーティストを招いてライブを行うそうなのだが、それが今日。
それがポールマッカートニー。
「スタジアムだから屋根もないし、音聴こえまくりだから!!外で充分聴こえるよ!!」
オシッコちびりそうなくらい興奮しながら、車を飛ばして街中を走る。
ビルの向こうにスタジアムの照明が見えてきた!!!
や、やべえええ!!!!
あそこにポールがいる!!!
あのビートルズの!!!
あのビートルズの!!!
あのビートルズの!!!
び、びぴ、ぴぴび、ビートルズのおあおおおあおおおあああああ!!!!!!!
ロングアンドワインディングロードを聴けたら、もし聴けたら………マジでオシッコ漏らしてしまうぞ…………
ビップのリムジンがどこまでも並ぶスタジアム前の通りに到着。
車を降りた。
ぐおおおおおおおおお!!!!!!!!!!
めちゃくちゃ聴こえるんですけどおおおおおおおお!!!!!!!
目の前のスタジアムからライブの臨場感そのままに曲が聞こえてくる!!!!
すでに周りにはたくさんの人たちが路上に座り込み、スタジアムの外でライブを楽しんでいた。
俺はもちろん、ビートルズが好きだ。
というか好きとかそんな次元ではなく、もはやビートルズはロックやってるやつなら神でしかない。
誰が疑うこともなく、神でしかない。
でも解散後、ポールがソロになってからのウィングスとかの音楽はそんなに聴いていない。
でもそれでも、やはり俺の中では神でしかない。
その神の声が聞こえてくる。
喋っている。MCだ。
つ、次の曲はなんだ…………
「ザ ローングアーンドワインディングロード……………」
うんこ漏れた。
耳を疑った。
あの、あのポールの声。
ピアノ、ストリングス、
もう70歳か?いや超えてるはず。
それなのに、この伸びやかな声は、小学生の頃から聴いていたポールのものだった。
「あ………もうダメ………」
「あひ………もうダメだ………」
カッピーとユージン君。
ジャンルは違えど、音楽をやってる者にとったらもちろんポールは神でしかない。
3人で微動だにできず立ち尽くした。
そこからはもうウンコ漏れっぱなしだった。
生レディーマドンナ
生サムシング
生ブラックバード
生オブラディオブラダ
生レットイットビー
も、もう勘弁して…………
そして最後の曲が生ヘイジュード。
音楽史に刻まれる宝石のような名曲たち。
学校の音楽の教科書に載ってた曲。
体育の時間にダンスで踊らされたあの曲。
あれが今、目の前で、ポール本人によって歌われている。
信じられない!!
たっぷり2時間のライブが終わると、もちろんアンコールがかかる。
俺たちもスタジアムの外から手を叩き続ける!!
そしてもちろん出てきてくれるポール。
熱狂ですごいことになっている中始まったのは、生デイトリッパーに、生アイソーハースタンディングゼアー。
もうダメだああああああああ!!!!!
爆音が鳴り、興奮で涙が出そうになってる俺たちの頭上に、花火が上がった。
ああああああ!!!!
ポール!!!
神すぎる!!!!
そして2度目のアンコールがかかる。
もうお爺ちゃんなんだからさすがにないだろうと思ったんだけど、ポールは出てきた。
そして…………
ギター1本で…………
生イエスタディ…………
あああ…………奇跡超えてる。
これ以上のことはないよ。
アメリカ旅してたら、偶然ポールマッカートニーのライブに出くわして、ポールの生歌聴いちゃいました?
奇跡超えてる。
こんな世界一周ねぇ。
こんな偶然誰も経験できねぇ。
俺は出会いの達人だ。
偉そうな言い方だけど、誰にも否定出来ない。
あの神の歌聴いちゃったんだぜ!!
持ってる?いや!!持ちすぎだよ!!
ああああああああ!!!!!!
今!!心から思う!!!!!
ヨーロッパ強制退去になって良かったああああああああああ!!!!!!!
ライブが終わり、みんな脱力して歩く。
スタジアムの中からポツポツと人が出てくる。
今から雪崩のように人が出てくるんだろうけど、まだスタジアム周りにはほとんど人はいない。
「いやー………よかった………」
「良かったね………」
「てっちゃん……ライブのこと教えてくれてありがとうね…………」
「いやー、喜んでもらえてよかったよー。みんながそう言ってくれると嬉しいからさ。」
「もうさ、アレだね………旅終わってもいいね………」
「よし、もう日本にゲットバックしようか…………」
「それはダメだよ。」
「いやー、みんなが喜んでくれて嬉しいなぁー。あ、バスが来るよ。ああいうのにスタッフとか乗ってるんだよね。」
向こうのほうからバスが来た。
俺たちは曲がり角にいる。
バスが俺たちの前をゆっくり曲がって行く。
あれ?なんか運転席の横で立ってる人がいるな…………
あれ?
…………あれっ!!!!
ポールマッカートニーとの距離、
3m。
俺たちの周り、誰もいない。
思いっきり手を振った。
あの、CDのジャケットの中のポールが俺たちに、笑顔で、両手で、手を振った。
「うわ!!うわ!!!うわああああ!!!」
「あひゃひいいいぃぃぃぃぃ!!!!」
全員で狂喜乱舞してハイタッチ。
いまだに信じられない。
あのポールと手を振ったなんて。
毎日が奇跡の連続。
まだアメリカ入って8日だぞ?
これからどんなことが起きるんだよ?
ポールを超えるような音楽の神なんて、現代にいるか?
あああああああ!!!!!
旅出て良かったああああああああああ!!!!!
ヨーロッパ強制退去になって良かったああああああああああ!!!