5月17日 金曜日
【ドイツ】 ケルン
~ 【フランス】 ストラスブール
……………はっ!!!!
寝袋から体を起こす。
真っ暗な夜の中。
ひと気のない駅のプラットホームはガランと静まりかえっている。
ここはまったく知らない町の駅。
もしかして…………と恐る恐るiPhoneを見ると、
あーあ、だよなぁ、俺が乗るはずだった電車は1時間も前に出発していた。
そ、そうさ…………
間違ってノンアルコールビールを買ってしまったあたりからこんなことになるんじゃないかって気がしてたんだよ………
もう約束に間に合わないな………
よし、もうこのままこの名もなき町で可愛い女の子みつけてソーセージ食べながら一生を送ろうかな。
ホームのベンチの上。
寝袋に下半身を突っ込んだまま、ぼーっと線路を見つめる。
あああ、眠いなぁ………
動きたくないなぁ………
もうひと眠りしようかなぁ………
と思ったけど、ちょうどそこへストラスブール方面の電車が来たから仕方なく寝袋をバッグに突っ込んで乗りこんだ。
切符は持ってる。
ここからどうやって行くかまったくわからんけど、まぁなんとかなるさ。
そこからさらに4本、様々な電車を乗り継いで行って、結局元々の予定時刻とあんまり変わらずに目的地のストラスブールに到着した。
睡眠不足と夜中に動き回ったせいで、疲れがドッと体にのしかかる。
重たい荷物をかかえて、とりあえず街に向かった。
どんよりとした曇り空。
小さな橋をいくつも渡りながら歩いていく。
フランスでも有数の美しい街と評判のこのストラスブール。
期待していた通り、古い家並みが町を囲むように流れる川沿いに並んでおり、歴史ある佇まいを残している。
建築物も特徴的で、たくさんの木造の美しい家が素朴に並んでいる。
ひなびた、とても落ち着いた雰囲気。
カフェやレストランがひしめく町の中心部には、これまた壮大な大聖堂がそそり立っていた。
もう、巨大教会マニアだよ。ここまで来ると。
どこに行ってもあるんだもん、こんなのが。
まぁ日本も至る所に大きなお寺や神社があるもんな。
それにしてもヨーロッパの教会はすげえ。
建てるのに300年かかった、とか頑張りすぎだよ。
設計士、欲張りすぎ(´Д` )
その大聖堂の周りが蜘蛛の巣のようなショッピングストリートになっており、オシャレな小さいショップがわらわらと並んでいる。
ただ、有名観光地ってのもあるだけに、物乞いの数が半端じゃない。
ほんとに10mおきに地面に座っている。
西欧の物乞いの特徴としては、みんな犬を活用してるってとこやね。
犬の餌代を下さいってやり方。
犬は可愛い。
犬のためなら、と人はお金を入れるんだろう。
みんな犬を連れてるから、実際その方が稼ぎがいいはず。
路上ミュージシャンでも、ギターケースに犬が座らせていたりする。
犬に食わせてもらっているコジキたち。
タバコを吸いながら横柄にお金を要求してくる20代のコジキ。
いかに金をもらうか。
いかに同情してもらうか。
そこに手段なんてまったくない。
プライドなんて、彼らにはゴミでしかない。
俺も同じ、路上で生きる者。
ギターというアイテムを使って、いかにお金を落としてもらうか。
同情か?
憐れみか?
いやいや、感動だ。
明るい気持ちになってもらうためのポジティブなパフォーマンスだ。
小雨の降る中、歌を響かせた。
順調に稼いでいると、20分ほどで警察がやってきた。
はいはい、どんな路上ルールがあるんですか?この町は。
お巡りさんが言うには、15分以上同じ場所で演奏してはいけないそう。
15分ごとに移動して、周りの家やお店の人に迷惑にならないようにしないといけない。
15分て(´Д` )
ケルンでは30分だったけど、それよりもはるかに短い。
たった4曲歌ったら場所変えて、めんどくせえにも程がある(´Д` )
しょうがなく、4曲歌うごとに10mほど横にずれ、また4曲歌って10mずる、ということを7~8回繰り返す。
ギターを抱え、ハーモニカをつけたまま荷物をかついで町を歩くと、俺もいっちょまえの路上ミュージシャンみたいだ。
最後の場所で目の前のお店の店長さんが出てきて、君は素晴らしいからずっとここでやってくれというお言葉を頂戴したので、そこでしばらく歌わせてもらう。
この町に住んでいる日本人の女の子とフランス人だけどイスラム教徒である兄ちゃんに声をかけてもらい、仲良くなったので路上を切り上げてみんなでマクドナルドへ行った。
今日のあがりは44ユーロ。
明日この町で落ち合う約束をしている人とは、以前ドイツでたまたま出会った日本人の社長さん。
まぁとんでもない大社長さん。
俺が全然知らないだけで、誰もが知ってるようなとある大きな会社の社長さん。
普段なら俺なんか口もきけないような世界の人だ。
今回もお仕事でフランスに来ているその社長さん。豆沢さん。
そんな人が、お忙しい中、時間をとってくれ、わざわざパリから電車に乗って会いに来てくださる。
うーん、緊張する。
というわけで、少しでもスムーズに町を歩けるように、前日にこのストラスブールに入ったというわけなんだけど、路上をして地元の人からレストランやバーの情報も手にいれておけば、迷子にならずに豆沢さんを案内できる。
という狙い通りに、この日本人の女の子とイスラム教徒の兄ちゃんから町の情報をいろいろゲットした。
アスミちゃん、~~~、
ありがとうね!!
物価の高いフランスで、4ユーロで残念すぎるスカスカのケバブを食べ、寝床を探して歩いた。
駅裏の森の横を歩いていたら、何やら学校みたいな施設でイベントをやっていた。
田舎の縁日のような、バザーのような、盆踊りの音頭が聞こえてきそうなローカルなイベント。
なんとなく入ってみて、人ごみに混じってビールを飲んだ。
夜の森の中、静寂の芝生の上に霧が立ち込める。
ゴロゴロとバッグを引っ張って、暗闇の奥へと入っていく。
遠くで外灯が光っている。
芝生をサンダルで歩くと、濡れて冷たい。
芝生の上にテントを張った。
寝袋にくるまる。
俺はなんにも持っていない。
お金も地位も名誉も。
安いご飯を食べ、地面に寝転がり、夜露に濡れて眠る日々。
かたや明日会う豆沢さんは、それらを全て持った立派な大人ってやつだ。
清潔で、人から信頼され、世の中に欠かすことのできない人。
そんな、俺からしたら雲の上のような人が、ヨーロッパで遊ぶ相手に俺を選んでくれる。
日本で豆沢さんのこと知ってる人だったら、なんで?ってなるだろうな。
大社長と放浪の旅人。
とても可笑しな関係だと思った。
気取らずに、背伸びせずに、俺は俺のままで明日社長と遊ぼう。