4月29日 月曜日
【フランス】 ランス
哀れな姿だなぁ。
なんでこんなに歪んでしまうのかな。
最初のころに面倒くさがって、周りの引っ張りをしなかったせいで風にあおられまくって竿が折れたんだよな。
今はすべての紐を使って引っ張って固定するようにしている。
エントランス部分の簡易的だけど、水が漏らない張り方も見つけた。
ここに来てようやくこのテントの正しい張り方を見つけたみたいだな。
ランニングや犬の散歩をしているのどかな公園の中、テントをたたんで街へ向かった。
ここの公園水場があって完璧!!
上のハンドルをグルグル回すと水が出てくる。
身だしなみを整えてレッツゴー。
フランスって物価高えんだよー………
ヨーロッパの中でもトップの先進国だからね、ある程度は覚悟していたんだけど、それにしても高え。
どんなに安くても1食5ユーロはする。
今、1ユーロが約120円。
スーパーで食材を買って節約しようとしても、食材自体高くて、結局ケバブに足が向かう。
コーラのペットボトルも1.7ユーロとかだからね。
どんなに節約しても1日10ユーロはかかる。
タバコなんて6.7ユーロとかだから、もちろんパイプを吸っている。
5ユーロのケバブを食べて、早速路上開始だ。
たくさんの人が聴いてくれ、ボチボチお金も入るが、物価の高さに比例するほどではない。
これじゃなかなかキツイんだけどなぁ…………
そのとき、1人の日本人のおばさんが声をかけてくれた。
ここは世界遺産のある街。
そして知らなかったんだけど、シャンパンの産地。
シャンパーニュ地方ってやつか?
なので日本人観光客の姿もまばらに見かける。
「あらまぁー、1人で旅してるのー。頑張ってね。いやー、嬉しいわー、こんなとこで日本の歌聴けるなんてねぇ。」
長崎出身の麗子さん。
シャンパンを飲んですでに軽くほろ酔いになっているお上品なマダム。
彼女のリクエストの歌を歌っている間、麗子さんはバッグから何かを取り出し、立ったまま何かを作り始めた。
そして完成したそれをギターケースの上に置いた。
折鶴だった。
「日本から紙を持ってきたのよー。何かあるかなと思ってね。」
そう言いながら何羽もの鶴を折ってくれる麗子さん。
しかもその折り紙が、桜の柄の色鮮やかなもの。
とても綺麗な、日本らしさが詰まった鶴がギターケースの上に並んだ。
「欲しいって人がいたらあげていいからね。じゃあ元気でね。」
上機嫌で次のシャンパンを飲みに行った麗子さん。
それからも歌い続ける。
曲が終わったところで、小さな子供が親に渡されたコインを持ってトコトコ近づいてきて、ギターケースにポロリと入れてくれた。
その子供に、麗子さんが折ってくれた鶴を渡した。
驚いた顔でそれを受け取り、マジマジと見つめている子供。
両親が満面の笑顔で、ありがとう、と言ってくれた。
こ、これ、いいんじゃねぇか?
ふと、パリの伊藤親分が言っていた言葉を思い出した。
「路上でパフォーマンスするだろ?みんなお金くれるだろ?その時君は何をする?」
「ありがとう、って言うだけです。」
「そうだよな。みんなそうだ。でもそれだけじゃなくてさ、もらったら少し返すということをやらなきゃいけない。」
「それは、1ユーロもらったら10セントくらいを返すという感じですか?」
「それでもいいし、何でもいいんだ。もらうばかりでなくて、何かを返すという気持ちが大事なんだよ。」
俺は路上で歌う。
良いと思った人がその対価としてお金を落としてくれる。
そこまでしか考えていなかった。
伊藤親分にこの話をしてもらったときも、俺がさらに何かを返す必要があるのか?って思った。
今、小さな子供が俺にお金をくれた。
その子供に何かを返した。
そこでさらに大きな笑顔が生まれた。
お金に対してお金を返すんじゃなく、折り紙という金のかかっていないものというところが絶妙。
相手の負担にならない上に、日本的なギフトだ。
路上で歌ってた旅の日本人がくれた折り鶴、なんてすげーロマンチックな思い出じゃん。
コインをくれた子供に鶴をあげる場面を見て、周りにいた人たちもみんな笑顔になり、お金を入れてくれる。
鶴を欲しそうにしている子もいる。
こりゃ、いいアイデアだ。
俺はいつも普通の服で普通に歌う。
もし着物やサムライのカッコウをして歌えば、もっと注目を集めることができるはず。
筆を持って墨汁で漢字なんか書けば、下手くそでも人を集められるはず。
でも奇をてらうのは嫌い。
あからさまな日本アピールはしたくない。
やればもっと稼げるはずだけど、したくない。
やっぱり歌で稼ぎたいし、歌の純度が下がるから。
この折り鶴ってのはいい。
お金をもらった時の小さなお返し。
でも子供限定。
うん、それがいい。
おーし、これやっていこう。
路上で歌い始める前に10羽くらい折れば間に合うはず。
世界中の子供たちの心に平和の鶴を飛ばすんだ、なんてカッコいいことは痒くて言えねぇけど。
ほんのちょっとしたギフト。
日本のことをちょっと良く思ってくれればそれでいい。
麗子さん!!!!
素晴らしいアイデアいただきました!!!
ありがとうございます!!
調子良く歌っていると、今度は1人の中国人が話しかけてきた。
この街には大学があって中国人の学生も多い。
「僕今日暇だからどこか行きたいとこあったら、この街案内するよ。」
爽やかな好青年、シンロン。
俺たちアジア人の名前は欧米人からすると発音しにくいことが多い。
俺の名前も、クミ、とか、チュミ、とか、フキ、とか言われてまぁ苦労する。
ので、外国ではクリスとかジェイとか欧米人風のニックネームを名乗るアジア人が多い。
そんなの嫌いな俺。
シンロンもそんなニックネームを持っていたけど、同じアジア人同志、チョウ・シンロンなんて覚えやすくて発音しやすい名前だよ!!
あっという間に意気投合した俺たち。
ギターを片付けて一緒に歩いた。
今日のあがりは39ユーロ。
2人ともあんまり英語が上手くないので、まごついてしまうんだけど、日本人と中国人だもん。
なんとなく中国っぽいかなって言葉でしゃべれば通じてしまうからすごい。
iPhoneで漢字を見せれば、まず間違いなく通じる。
「俺たちコミュニケーションしやすいね!!」
と笑いながら歩いた。
と、笑っていたら笑えない事態が。
最近キャリーバッグの車輪がぐらついてて、常にブレーキがきいたような状態になっていて引っ張るのがものすごく大変になっていた。
転がす時もグラングラン傾いて、もういい加減ヤバイかなぁと思っていたんだけど………
ついに車輪がはずれやがった。
「げー、マジかよー………」
「アイヤー、これはまずいね………」
2人でなんとか戻せないか試みるが、もうどうもならない。
オーストリアで120ユーロだったかな?
大奮発して買ったこのバッグ。
思えばガッタガタの石畳だらけのヨーロッパをガンガン引き回し、土砂降り雨の日も、ドカ雪の時も、カバーもかけずに濡らし放題。
そんな状態でまたガッタガタ道。
そりゃ1年もたねぇか…………
うわー、どうしよう………
修理しなきゃ。
車輪だけ買うか?
新しいバッグ?
いやいや、修理だよ。
「よし、フミ、僕の家に行こう。僕に考えがあるから。」
そう言うシンロン。
バスに乗って彼の部屋へ。
小さな部屋。ここで中国人の彼女と一緒に住んでいる。
2人とも大学生。
「フミ、お腹空いたかい?これでよかったら食べる?」
そう言ってカップラーメンを出してきたシンロン。
お湯をわかして作ってくれた。
「はい、これもよかったら飲んで。」
ビールを出してくれる。
「ちょ、シンロン。どうしてこんなにしてくれるんだい?中国人はみんなこうなのか?」
「ん?別に普通のことじゃないか。友達が家に来たらもてなすだろ?それよりこれ観なよ。カンフー映画。すごいんだぜ。」
シンロンの飾らない優しさにジーンと感動しながら、インターネットサイトの映画を一緒に見る。
えーっと、1分間で30本くらいの骨をへし折り続けるという骨を折ればいいと思ってるようなアクション映画でした。
すげえ。
ストーリーが秀逸で、田舎に住んでる青年が親子の象を飼っていたんだけど、ある美食家マフィアがその象をさらってしまい、キレた青年が象を探しに旅に出るという斬新なものです。
マフィアの経営するレストランを発見し、単身殴りこみをかけて、そこで雑魚たちの骨を1分間で30本へし折ります。
ボスの間にたどり着いたのはいいんだけど、そこで青年が目にしたのは、哀れ、骨のみとなって宝石で飾りつけられたお母さん象の姿。
キレますね。
キレるときのカメラの動きがいいんですよね。
握りしめられる拳、筋肉が浮き上がる上半身から上にあがっていって顔アップ。
斜め45度、決め台詞!!
お前ら殺す!!みたいな中国語。
その瞬間、横で一緒に観ていたシンロンが、クール、とつぶやきました。
うん!!クール!!
最終的にお母さん象の骨を鈍器がわりにして敵をタコ殴りにしてました。
いいの?!
まぁでもやっぱり中国映画のアクションはすごいね。体張ってる。
格闘シーンの目にも留まらぬ攻防は手に汗握るよね。
「いやー、シンロン、面白かったよー。やっぱり中国のカンフー映画はすごいね。こんなアクション他の国にはないわ。」
「あ、これタイの映画なんだ。」
タイて(´Д` )
ウケる(´Д` )
なんで今タイ見せた?
覇拳2ってやつでした。
気になった方はどうぞ。
映画を観ながら色んな話をした。
お互いの国の食べ物のこと。
観光地のこと。
呼び方がわからなくても、漢字を書けば理解しあえる。
「外国にいる中国人は金持ちって聞くんだけど、シンロンの家は金持ちなの?」
「そんなことないよ。普通だよ。ミドルクラス。うちの大学にいる中国人たちもみんなミドルクラスだよ。そんな金持ちはいないよ。」
パソコンの中の中国のインターネットサイトを見て思う。
広告もCMも、綺麗で先進的なもの。
サプリメントみたいな健康食品のCMをやっている。
そこにあるのは、日本やヨーロッパと変わらない当たり前に近代的な社会。
外国にいる中国人は金持ち。
今までよく聞いてきた話。
もちろん格差はひどいだろうし、貧困層は他の先進国よりも深いと思う。
でも、シンロンは自分たちのことをミドルクラスと言う。
まだ中国に行ったことがないからわからないけど、中国人である彼の感覚こそが今の中国の経済を表していると思う。
「フミ、日本人は中国人のことが嫌いなのかい?ホントのところを教えてよ。どう思う?」
「正直に言うけど怒らないでね。嫌いだよ。嫌いじゃない人もいるけど、見下している。テレビを見ていれば完全にそう洗脳されるんだよ。」
そんなことないさ!!なんて口が裂けても言えない。
俺たちの親の世代以上は、中国人はシナ人で、劣っていて恥知らずで………とまぁ完全に嫌ってる人がほとんどだろう。
バカチョンカメラとか言うくらいだもん。
俺たち若者の世代はどうだ?
中国製品はモノが悪くて、
中国人はすぐ日本のマネをして、
中国人はすぐ暴動して、
そんな、見下してバカにしてるようなニュースばっかりやってる日本のテレビを見て育った若者が、中国人に対して平等に友好な心を持てるだろうか。
少なくとも俺の周りにはほとんどいないな。
今俺は世界を旅している。
日本にいたころに持っていた各国に対するイメージ、先入観ってやつをなるべく捨てたニュートラルな状態でその国を感じるようにしている。
なので、いいことがあればその国はいい国だし、やなことがあればその国には嫌な国というレッテルを貼る。
それでいいと思ってる。
俺はまだ中国に行ったことないけど、これまでヨーロッパで会ってきた中国人のことを振り返ると、あんまりいい印象じゃないなぁ。
もちろんめちゃくちゃいい奴もいた。
けど無礼で無愛想な奴の方がはるかに多かった。
今はまだ中国人のこと大好きとは言えない。
「中国人も日本人のこと嫌いなの?よく反日の暴動やってるじゃん。」
「んー、たしかに日本を嫌いな人は多いかな。でもあの暴動はみんながやってるわけじゃないからね。90パーセントの人はあんな馬鹿なことはしないよ。」
10パーセントは過激な反日主義ってちょっと多くねえかと思った。
まぁとにかく、今目の前にいるシンロンはまったく気負わずに、友達として話せるいい奴。
同じアジア人だと、欧米人といるよりもリラックスできるもんだ。
いつの間にか時間は22時を回っていた。
そろそろ帰ろうとすると、シンロンが部屋の片隅に置いてあったバッグを持ってきた。
「これ、フミのバッグと交換しようよ。」
床に置かれたそのバッグは、ほとんど使われた様子のない新品同然のカッコいいキャリーバッグだった。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!!新品じゃんかそれ!!ダメだよ!!俺のぶっ壊れてるから!!」
「いいのいいの。俺ほとんど使わないから。荷物入れとく箱くらいにしか使ってないからさ。使う人が持ってたほうがいいよ。」
はい、中国人大好き。
ナンボ単純だって言われてもいい。
中国人大好き。
ついさっき会ったばかりなのに、こんな新品のバッグと車輪の取れたボロボロのバッグを交換してくれるなんて、優しさを超えてる。
完全に無償の愛。
今までの中国人に対する悪いイメージ、すべて消滅。
マジかああああああああ!!!!!!
ずっとバッグどうしようって考えてたのにいいいい!!!!!!
シンロンって言うだけあって願い事叶えてくれたああああああああ!!!!!!
ちょっと、良すぎるんだけど、このバッグ!!!
今までのよりひとまわり大きく、外にくくりつけていたブーツも野宿マットも全部中に収まってしまった。
ポケットも多くて収納バッチリ。
しかもメインのチャックにはロックもついている。
おまけに俺好みのシックなデザインときてる!!!
なんてこったーーーーーー!!!!!
「入れ替え終わった?よし、彼女迎えに行くから一緒に出よう。」
バイトを終えて帰ってくる彼女をバス停まで迎えに行ってあげる紳士、シンロン。
こいつホントに優しさに満ち溢れた男だなぁ。
彼女もまた笑顔のキュートな可愛い子だった。
なんにもできないけど、せめてこれだけでも、と俺のCDを受け取ってもらった。
お世話になった人に渡してきたCDも、あともう残り1枚だ。
2人に手を振って別れ、俺は昨日と同じ公園へ。
おー、キャリーバッグの車輪の調子がいいとこんなに早く歩ける!!
最近ずっと、ほとんど回らない車輪を引きずるように歩いてたもんな。
テントの中で寝袋にくるまる。
今日もいろんなことがあったなぁ。
路上は出会いに溢れてる。
明日もキッチリ稼ぐぞー。