2月16日 土曜日
【イスラエル】 エルサレム
ガヤガヤという声で目を覚ました。
寝袋を開けると、目の前ですでにカオルさんが火をおこしてコーヒーを楽しんでいた。
コーヒー好きなカオルさん。
キャンプの旅をしていても楽しむところは省かない。
山登りをする人もわざわざ重いセットを持って山に登って頂上で料理を作ったりコーヒーを飲んだりするよね。
そんな街から離れて自然の真ん中に行くというのに、やっぱりそこでも街と同じものを求めるのか、と若いころは腑に落ちないでいたけれど、今ではそのこだわりに楽しみを見つけることにこそ、特別な喜びあるのかなと思えるようになった。
特別な場所で、いつものことを楽しむ。
なんて贅沢なことなんだろう。
ガヤガヤとした声の主は、オールドシティーに行く西洋人の観光客たちのものだった。
俺たちのキャンプ場所から少し行ったところにライオンズゲートというオールドシティーへの門がある。
そこへ向かう団体さんだ。
彼らからは塀があるのでこちら側は見えない。
さてえええええ!!今日は金曜日!!
思いっきり稼ぐぞおおおおおおおおおらああああああああああああああーーー!!!!
って人いねえええええええええええ!!!!!!!!
なにこれ?!ゴーストタウン!?
すっからかんのメインストリート。
お店もすべて、完璧に閉まっている。
もちろんトラムも動いていない。
こ、これがシャバットか………
ユダヤ教の安息日。
仕事をしてはいけない日。
機械類に触れてはいけない日。
ここまで見事に町の機能が停止するか………
昨日路上で聞いた話では、このシャバットは日没まで。
そこから一気に人々が街に繰り出しものすごい賑わいになるというのだど、この光景を見る限り、にわかには信じ難い。
仕方ないのでマクドナルドは開いてるだろうと、行ってみたが見事にクローズ。
マジでどこもやっていない。
朝飯(´Д` )
どうしようもないので、公園に行き、日記書きに没頭。
カオルさんは隣で今夜のための商品の作り置きを作っている。
「ホントは作り置きはダメなんたわけどね。やっぱり目の前で作るライブ感があるからこそパフォーマンスになるわけだからね。」
彼はこの路上パフォーマンスで世界を10年旅するツワモノ中のツワモノ。
最近で日本に帰ったのが5年前。
そんな彼に、2年くらいで日本に帰るんですと言うとビックリされる。
短いよー!!と。
彼と話していると、旅というものの価値観が本当に様々であると感じる。
旅が人生であるカオルさん。
縛られることもなく、人生を謳歌している。
それはそれでもちろん素晴らしい。
むしろ、俺が憧れるウディガスリーなんかのホーボーソングの主人公たちは旅を人生として放浪している。
俺はどうだ?
いつも旅をしていても社会との接点を確保し、リアルな旅人たちと一線を置いているようにしている気がする。
旅はあまりにも強い麻薬。
ハマってしまえばとことん行くとこまで行ってしまう。
そこに対する恐怖が常にあるんだろうな。
そんなどっちつかずの俺は、マクドナルドの前に行き、Wi-Fiをゲットして久しぶりに彼女に電話した。
「ロシアに隕石落ちて怪我人がいっぱい出てるけど大丈夫!?ホント気をつけてね!!」
ごめん、隕石落ちてきたら死ぬわ(´Д` )
ひたすら日記を書き続け、ブログも3日ぶりにアップ。
宣伝部長マサさんの、金もらってんのか?並の絶賛コメントが功を奏したのか、日本一周をした時の放浪記の注文がたくさん来ていた。
みなさんありがとう!!
日本でかかってくる携帯代や年金などの引き落としに使わせていただきます!!
それらをすべて手配し、かろうじて開いていたカフェに転がりこんで充電なんかをしていると、16時を過ぎて少しずつ人通りが増えてきはじめた。
シャバットが終わりに近づいている。
しかしまだお店は99パーセント閉まっている。
いい加減お腹空いた………
少し歩くが、仕方なくアラブ人地区のほうに行ってみた。
ユダヤ教なんて関係のないアラブ人地区。
歩いて行くと、急に街の様相が一変し、ムスリムの人々でごった返していた。
そこで7シェケルのファラフェルで腹ごしらえ。1.4ユーロ。
ファラフェル最高!!
そろそろ人出も増えてきてるかなー、と夕闇が迫る新市街に戻ってみると……………
すげえ………
トラムストリートにはうじゃうじゃと物凄い数の人々がひしめいていた。
うおー!!
気合い入る!!
やるぞコノヤロー!!
「カオルさん!!なんですかこれは!!!」
「すごいよ!!フミ君!!トゥナイトは勝負だよ!!!」
お互いいい路上しましょう!!と別々の場所に行き、バトル開始!!!
ギターを鳴らせばすぐに人だかりができて、人々は踊り、歌い、トラムにひき殺されそうになってる。
き、気をつけて(´Д` )
お金もドンドン入り、シェケル以外にもアメリカドルが舞う舞う。
イスラエルはアメリカ人観光客や、アメリカからの移住者がとても多い。
ありとあらゆる人種の人々とお話し、ついでに物乞いにもたかられながら歌い続ける。
イスラエルは物乞いめちゃくちゃ多い。
あ!!逆ナンもされたよ!!
若くて可愛い20歳くらいの女の子なんだけど、いきなりフレンドリーに話しかけてきて、俺の髪を触ってビューティフルとか言ってきやがる。
お!!イスラエル人とのチョメチョメですか!!
若いころ以来!!
「今日リトアニアから来たところで、着いてすぐにアラブ人にバッグを全部盗まれたの。とっても困ってるの。リトアニアに帰るために10シェケルくれない?」
お化粧バッチリの可愛い顔で言ってきた。
おめえ新手のたかりか(´Д` )
バッグ盗まれて外国人に金くれとか言うやついねえよ(´Д` )
体で払いな、とは言わずに大使館に行けばいいよ!!と紳士に助言しておきました。
いやー、あんな可愛い、普通そうな子に言われたら払う人いるよ。
やるな!!
3時間以上歌い続け、22時になっても人通りは勢いを増すばかり。
さっきまで閉まっていたお店はほとんどが開店し、ガンガン音楽を流して通りは喧騒に包まれている。
すげえ!!
シャバットの鬱憤を一気に晴らすかのような凄まじさ。
さすがに疲れてきたんだけど、カオルさんがやって来ない。
先に終わったほうがお互いのところに行こうと言ってたんだけどな。
こりゃカオルさんもえらいことになってるな。
ギターを片付けてマクドナルドの通りに向かう。
メインスクエアでは爆音を流しながら火のついたバトンをくるくる回すファイアーパフォーマンスをしている人。
通りを埋めつくす人並み。
5mおきに陣取る様々な路上ミュージシャン。
さっきまでのゴーストタウンが嘘みたい。
真ん中のあたりでひときわ爆音を流している集団がいた。
なんだなんだ?
覗いてみると、そこではあのユダヤ教の黒ずくめ紳士、超正統派の人たちが気が狂ったように踊りまくっていた。
イヤッホオオオオオオオオオオ!!!!!
ウッヒョオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
あんたたちそんなに弾けるのね(´Д` )
いつもあんなにクールなくせに(´Д` )
あまりの騒ぎに今度は騎馬隊まで出動!!!
馬なんて知らねえよおおおおおお!!!!
ヒョッホオオオオオ!!!!!!
さぁ踊ろうぜ!!!
ユダヤ人怖え(´Д` )
バシャー
そんなイカれた通りで人だかりを作っているカオルさんを見つけた。
お客さんの相手をしながら忙しそうに手を動かしている。
騒がしい通りでそこだけがほのぼのとした空気。
カオルさんの作る薔薇に大喜びして何度もサンキューと言っている女の子。
それを見て微笑む男性たち。
いいパフォーマンスだなぁ。
「もうダメだ。ネタがエンプティだよ。」
あんなに大量に仕入れてきていた葉っぱがほとんどなくなっていた。
お互い、いい路上が出来た!!!
人の洪水は増す一方なので、やればやるほど稼げるんだろうが、2人とも疲れていたので23時で切り上げて街を背にした。
今日のあがりは260シェケル!!
カオルさんは170シェケル!!
2人とも充実感に包まれながら、いつもの寝床に到着。
ビールで乾杯しながらカオルさんは豆ご飯。
俺はゆうべの野菜のあまりを使って野菜炒めを作る。
夜中の静かな林の中に2人の笑い声。
ああ、いい夜だな。
カオルさんと2人のバスキングトリップをはじめてから、毎晩楽しくてしょうがないよ。
「シェンゲンでオーバーステイで捕まった?罰金払ったの?あー、多分その罰金の大半はポリスたちの懐に入ってるだろうねー。警察も結局マネーだからねー。」
世界のことをたくさん知っているカオルさん。
話がとても刺激的で、そしてこれからの旅の勉強になる。
そんな話をしていると、向こうの方で足音がした。
あ、この前のジャンキーか………
塀の向こうから顔が出てきた。
警察だ。
「何してるんだー。」
「ご飯作ってるんです。」
「おー、そうかー。」
その3人の兵隊たちは、塀を迂回してこちらにやってきた。
3人とも巨大な銃を抱えている。
やべえ………
こういう時は俺の必殺技。
先手必勝、フレンドリー。
笑顔で怪しい者ではないことをアピールする。
「どうしてホテルに泊まらないんだ?」
「お金の節約です。」
「そうかそうかー。ところで日本語教えてよ。アイラブユーって何て言うの?」
「アイシテルって言うんですよ。」
「アイシ?難しいよ!!日本語!!アッハッハー!!」
「えへへへ。」
ほのぼのとした空気。
林の中、焚き火に浮かび上がる5人。
3丁の銃が鈍く光る。
「じゃ、そろそろ行くね。イスラエルを楽しんで!!」
「はいー。お気をつけてー。」
「じゃあねー。アイシテル!!」
にこやかに去っていった兵隊さんたち。
パスポートのチェックもなかった。
こんな夜中に火を焚いている野宿のアジア人2人組なのに。
これがイスラエル。
さっきの街での乱痴気騒ぎにしてもそう。
とっことん自由。
彼らはテロと戦っている。
そんな兵隊さんたちからしたら、路上のパフォーマンスも、爆音の踊りも、そしてキャンプも、取るに足らないことなのかな。
渡航者に厳しい国だなんて誰が決めつけた?
最高に自由な国じゃんかよ。
これほど旅をしやすい国が他にあったか?ってくらい。
カオルさんやたくさんのキャンプバッグパッカーが長いこと滞在してしまう理由はこれなんだな。
寝袋に包まり夜空を見上げる。
宗教の聖地の上にポッカリと浮かぶ月。
城壁が夜空に線を引く。
イスラエル、懐の深い国だぜ。