2006年12月15日 【熊本県】
ゆうべの稼ぎのおかげでやっとこさエンジンオイルを交換することができた。
これがラストの交換だな。
エンジンオイルを替えても相変わらずボロボロなファントム号でやってきたのは、天草の玄関口大矢野島にある天草四郎メモリアルホール。
うーん、600円もするだけあってかなり充実した設備だ。
メガネをかけての3D映像なんて初めて見た。
島原の乱やキリシタンの歴史を一通り見て、最後の部屋に入った。
瞑想の部屋というとこで、中に入ると虹色にうねる照明とヒーリング音楽が流れ、香が漂っており、その真ん中でクッションに身を沈めた。
あー、いいなここ。
深く自分の中に沈んでいくようだ。
いつか家を建てたらこういう部屋を作りたいな。
おっと、結局天草四郎はどんな男だったんだろう。
あの狂気の大殺戮に向かうことになった島原の乱は止めることはできなかったのだろうか。
伝説では四郎はこの天草から海の上を歩いて渡り、長崎の島原半島にやってきたという。
天気を予測したりと不思議な力を持っており、キリシタンたちは彼を神の遣いとあがめる。
そして乱に突入していくわけだが……………
結局のところ詳しいことはわからなかった。
神秘の男、天草四郎時貞。
真実は歴史の闇の中だ。
天草を抜け出し、一路山方面へ向けアクセルを踏む。
しだいに細く険しくなってくる道。
九州山地の奥深く、平家落人の伝説が息づく秘境、五家荘を駆け抜ける。
ちょっと前までは道も通っておらず、五家荘という名前では地図にも載っていないこの隠れ里。
百名瀑のせんだん轟の滝を見上げ、茅葺き屋根の古民家を眺めながらハンドルをきる。
そして山奥の町、人吉市に入った。
道路看板には宮崎の文字。
1時間も走ればそこは宮崎県だ。
薄暗くなっている山を走り、これまた百名瀑の鹿目の滝へ。
静寂の森に響き渡る豪瀑の地鳴り。
切り立った絶壁から飛び出す雄々しいその姿を前に立ち尽くしていたら、もうすっかり真っ暗になってしまった。
人吉市内に戻ってきた。
有名な人吉温泉は郊外ではなく町の中に湧いており、格安の銭湯がそこら中にある。
その中でもひときわ風情を漂わせている木造の屋敷、新温泉へ。
中もすごい。
マジで山奥の一軒宿のような年季の入った造りで、シャワーも水道もなく、2つのごつごつした浴槽があるのみ。
まろやかな湯が全身に染み渡る。
番台の婆ちゃんの話によると、ここは昭和6年からやっており、昔ながらの上総掘りによって湯を掘り出しているんだそうだ。
上総掘りとは、やぐらを組み、竹のしなりをきかせ大人3人で槌を振り下ろし穴を掘っていくという昔ながらの掘削方法。
最近は周りの旅館が機械掘りでもっともっと深いとこから湯を引っ張っていくもんだから、ずいぶん湯量が減ったんだそうだ。
そんな先人の戦いを思い浮かべながら浴槽に身を沈める。
最高だ。
明日は福岡の飯塚でイベントが入っている。
前に飯塚で歌ったときに誘われたものだが、結局行くことに決めた。
事前に電話があって、イベントでクリスマスプレゼントの交換をするから500円以内のプレゼントを用意してきてくださいとのこと。
プレゼント交換て…………
うーん……………そんなハッピーな空間に馴染めるかな。
さて、路上行くか。
翌日。
ゆうべの人吉での路上はよかった。
13000円のあがりプラス、焼き芋を山のようにもらって車に戻った。
焼き芋そんなに食えん。
八代の町で目を覚ましたら、ひたすら3号線北上。
途中、熊本に多くある弁当チェーン店『ヒライ』の店内でうどんを食べる。
安くて結構うまい。
そして夕方17時に福岡県飯塚市に到着した。
会場のカフェに向かい、中に入ると、んー、女の子が好きそうなあまーい雰囲気のオシャレな店内。
俺以外ほとんど知り合いみたいで、みんな楽しそうにお話してる中で1人でギターのチューニングをする。
もうこんなシチュエーションに気まずさも感じない。
リハが始まった。
他の3組は『キャンディーボックス』、『まりも』、『ミホちゃん』。
名前からしてめちゃくちゃラブリーやんと思ったら演奏もめっちゃ甘いポップな曲。
今日のイベントのテーマは、夢に向かって頑張ってる人たちのアツいハートに触れよう的なことらしく、他にもみつをチックな慰め格言を書いてる詩人さんやカメラマンなんかが自分の作品を持ってきている。
ぞろぞろとやってくる大学生ファッションの真面目そうな女の子たち。
チンチン出したら怒られるかな……………
どうにもこの雰囲気に馴染めないまま本番が始まった。
2人組テシマ君とみきちゃんのコンビ、『キャンディボックス』のかなり完成度の高いラブソング集が終わり、次にプロ歌手になりたいという『ミホ』ちゃんの歌。
だいぶ緊張してたな。
そして3番手が『まりも』。
高校生2人組の若さ溢れるパフォーマンス。
「みんな最近笑ってますかー！！」って爽やかだな。
そしてトリが俺。
ってなんで俺がトリ！？！？
おかしくねぇ！？！？
こんな見ず知らずのやつをイベントのトリにしたらいかんくない！？！？
まぁいいや。
こんなラブリーな雰囲気だからこそ逆に妙にテンションが上がってしまい、いつも以上に絶叫。
「チンチンーーーー！！！！！」
「仏説摩訶般若波羅蜜多！！！！！」
下ネタは叫ぶは般若心経叫ぶはで、愛が1番キャピ！！みたいな女の子たち、みんな笑えるくらいドン引き。
声をかけてくれた主催者さんも路上での俺しか知らないから、こんな人だったのかよ……………と複雑な表情になってる。
でも中には痺れたって言ってくれるやつもいたな。
1人を殺せればそれでいい。
ライブが終わると定番のビンゴゲームが始まった。
テーブルにはスタッフの女の子たちが作ったサンドイッチ、おにぎり、シチュー。
めっちゃアットホーム。
みつを格言のお兄さんが純情系の女の子たちに群がられてたから俺も見させてもらったが、『君はそのままでよかとよ！！』なんてよくあるパターンが博多弁になっているだけというものだったので、買わないで戻したら失笑されてしまった。
そんなほがらかパーティーは22時に終了。
キャンディのテシマ君とは仲良くなれたが、他の人は近づいてこなかった
見事に馴染めなかったな。
ていうか俺がそうしてるだけか。
俺は周りとは違う、そう思っていた10代の頃。
今もまだそう思ってるかな。
俺は誰にもできんことをやってやる、流されんぞ、自分だけの道を行ってやるんだって、ずっとナチュラルに思ってる。
それでいい。
それでいいと思う。
反骨がなければ何も生み出せん。
でも素敵なものは素敵だと無邪気に笑える心が好きさって、これは佐野元春か。
まだまだ、自分を貫くどころか、その貫く自分すら定まっていないんだから、それを探し続けないと。
熊本に向け車を走らせた。
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