2006年9月13日 【富山県】
富山県。
富山………………
富山?
んー…………………
マジで何も浮かばない。
あ、黒部ダムがあるな。
黒部ダムと………………一体どんな県なんだ?
北陸のマイナーな県、富山。
探検開始だ。
宇奈月温泉に流れる黒部川を源流まで遡っていくと、日本屈指の大峡谷、黒部峡谷となる。
V字に削られた谷間にはいくつもの水力発電所があり、大正時代から昭和の高度経済成長、そして現在まで日本の電力を支えてきた場所だ。
そのダム・発電所の建設の際に資材運搬用に整備されたトロッコ道、全長20キロが、現在は観光用として走っている。
これは乗っておきたい。
ルーシーさんにわがまま言ってトロッコの旅に付き合ってもらうことに。
「ルーシーさん………………トロッコ乗りま……………オロロロロロロロロ!!」
はい、今日も二日酔い。
俺胃腸弱すぎだよな……………
トロッコは結構便数が出ているのですぐに乗りこめ、壁のない開放感のある車輌を選んで座った。
1人往復3000円だ。
V字の窮狭な谷間を駆け抜けるていくトロッコ。
いくつもの小さなトンネル、古びた発電所が、昭和時代の泥まみれの作業員の姿を連想させる。
ウキウキ!!
ウキウキ……………
……………とても長い。
………………そしてとても寒い。
ふきっさらしのトロッコでオシッコ漏れそうだしゲロ吐きそうだしマジで景色どころじゃない。
1時間20分でようやく終点の欅平に到着した瞬間トイレに猛ダッシュした。
そして青い顔して雨の中、まずは足湯で温まりに。
この欅平からさらに川を遡っていくと、S字峡や仙人温泉などの人を寄せつけない秘境の名所があり、さらに登り続けるとあの黒部ダムに至る。
黒部ダムにはもう1つアルペンルートから行く道があるのでそちらから行くとしよう。
ほんとはもっと奥まで探検したいとこだがこれ以上ルーシーさんを引っ張り回すのも気の毒だ。
猿飛峡だけ見て、早めに切り上げてトロッコ駅に戻り、今度はちゃんと壁のある車両にプラス500円払って乗り込んだ。
帰りはトロッコ車両に乗り込んでいる人は誰もいなかった。
宇奈月温泉に帰ってきて、黒部川電気記念館で建設に関わった男たちの苦難の歴史をお勉強し、それから車を走らせ黒部市、魚津市とぶらつく。
魚津は蜃気楼の見える全国でも有数のスポットで、シーズンは初夏。
発生したら花火で知らせてくれるんだって。
富山は狭い。
新潟の半分くらいしかない。
そして東部はほとんど名所がない。
というわけで一気に富山市まで走り、富山市の名物、富山ブラックを食べにルーシーさんと一緒に元祖の『西町大喜』というお店に行ってみた。
富山ブラックって写真ではよく見るけどどんな味なんだろうなぁと思ってて出てきた中華そばは………………
マジ真っ黒。
何だこりゃ?と思いながらスープを飲む。
うぎゃ!!
しょっぱ!!
なんだこれ!!!!
完全に味付け間違ってるやん!!!!
メンマで中和させんと!!
ぎゃっ!!!!
メンマさらにしょっぱ!!!!
塩の塊にガシガジかじりついているかのようなしょっぱさ!!!!
「人生の中で2番目にからかったわ……………」
ルーシーさんげっそり。
俺も後頭部ジンジンする……………
でも富山では行列が出来る店なんだよな。
なんでも汗をたくさんかく建設作業員のためにご飯に合うしょっぱいラーメンを作ったのが始まりだというけど、これは逆に体に悪いよ。
謎だわ……………
それからルーシーさんを送っていき、1人で寝床を探して走った。
明日から1人でガンガン富山攻略だ。
翌日。
どう考えても富山・石川を8日間で回るなんて無理だ。
どんなに飛ばしたとしても1県で1週間はかかる。
それでも終わらせないと予定がめちゃくちゃになるんだよなぁ。
3歩以上はダッシュ!!って感じで気合いで動き回るぞ。
さて、富山といえば薬売り。
風車の弥七も薬売り。
弥七が背負ってるあの木箱には実は薬が入っているのだ!!
詳しく知るべく富山市の民族村にある売薬資料館にやってきた。
1690年、江戸城にて大名の腹痛をたちどころに治したと評判になった富山の薬。
どんどん生産量が増えていく中で人気を決定付けたのがその売り方。
今もたいがいの家庭にある配置薬。
薬屋さんが薬を置いていき、次に訪れたときにどれだけ減っているかで料金をもらうという『先用後利』の商法を江戸時代から始めていたそうだ。
性善説の日本らしい商法だよな。
遠くは北海道にまで持っていってたらしい。
行商に歩くのは出稼ぎから帰ってくる春、収穫のある秋と、家にお金の入る頃。
現在もその時期に回るのが主流らしい。
あとはオマケも人気だったようだ。
紙風船ってのが定番だけど、昔は色鮮やかな錦絵がもらえたそう。
秋の収穫や風光明媚な名所の風景のものなど、コレクターとかいただろうなってほどどれも粋なものばかり。
医学も科学もない江戸時代によく薬なんて作れたよな。
長年の知恵の中で作り上げられていったんだろう。
いろんな伝統が息づいてるな。
次に八尾の町へ。
坂の町として美しい田舎の風景が残るこの八尾には、もう1つ北陸を代表する美しいものがある。
それが全国的にも有名な、越中おわらという盆踊りだ。
500円払っておわら資料館へ。
大型スクリーンで祭りの映像を見てみた。
顔が隠れる編み笠をかぶった男女が、狭い八尾の民家の間を踊って歩いている。
大きな動きはなく、なんとも上品なのだが妖艶でもある。
地方(じかた)と呼ばれる演奏隊の中には、日本の民謡には珍しく胡弓が用いられており、晩夏の宵に切なく流れる。
25歳までの未婚の男女によって踊られるらしく、その艶やかさは日本のつつましい美を感じさせるものだ。
こりゃあいつか必ず見たい祭りだなと思い浮かべながら、山を走りぬけ次に五箇山へ向かった。
岐阜県に隣接するこの地方には、白川郷と同じ茅葺き合掌造りの集落がある。
実は世界遺産には白川郷だけでなく、富山のこの2つの集落も合わせて登録されているのだ。
まず先にやってきた菅沼集落は3つの中で最も小ぢんまりとしている地区。
おかげで観光地化がほとんどされておらず、日本昔話のジオラマのような原風景が見られる。
残りの1つ、相倉地区へ急ぐ。
ここもまた素晴らしい。
段々の田んぼが広がり、あぜ道の向こうにポツポツと合掌屋根の民家が散ばっている。
9月も半ばにさしかかりずいぶん日が沈むのも早くなり、まだ18時なのにこの山あいの集落には夜の闇が訪れている。
当たり前に合掌民家にともる生活の灯り。
流れていく時。
ここには都会の目まぐるしさは微塵もない。
あー、こんなところで暮らしてみたいな。
さて今夜は富山市で歌うとしよう。
結構にぎわっている街中を走り、ネオン街の桜木町にやってきた。
やれそうな場所を探して歩き、居酒屋『ichizu』の前で歌う。
ぼちぼち入り12000円くらいのところで作業服のいかつい3人組の兄さんたちがやってきて、じっくりと聴いてくれる。
「いいちぁー兄ちゃん。よし、飲むがー。」
それぞれが社長をしているというこの3人。
高級焼肉屋に連れて行ってもらいたらふく食べさせてもらった。
うまい!!
「今日ぉこのマー君の家泊まればいいにがぁあ。家広いしヨメさんかわいいがよぉ。襲えばいいちゃ。」
「ダラ!!」
この会話を瞬時に理解できるようになるとは、俺もいっぱしの旅人だな。
ありがたいことにマー君こと、まさしさんの家に泊めてもらうことになり、代行で帰宅。
うおー、でけー……………
立派な家。
「ミュージシャン連れてがきたちゃー。」
「えー!!聴きたいちゃー。」
寝巻きスッピンの嫁さんとまさしさんの姉さんが2人でくつろいでいた。
3人を前にして夜中の家の中で熱唱。
それからスーパー銭湯並みのお風呂も貸していただいた。
「好きに寝たらいいにがー。おやすみ。」
なんかめっちゃ地元の先輩みたいなまさしさん。
テキトーにやってーって感じで、過度に気を使わずにいてくれるのがすごく心地いい。
電気を消して布団にもぐりこんでしみじみ思う。
こんな見ず知らずの怪しい男を家に泊める人ってハンパなく隣人愛の心があるよなぁ。
まさしさんには奥さんもいるし、小さな子供もいる。
守るべきものがあったら、さっき知り合ったばかりの何するかわからない男を家に入れるなんて相当警戒するようなことだと思う。
俺にできるか?
こんなに綺麗な布団を貸してくれて、みんなすごく優しくて。
変なことするような奴じゃない、と思ってもらえたのがすごく誇らしかった。
リアルタイムの双子との日常はこちら