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M浦さんがやってきた








2006年8月13日 【三重県】





「あ、金丸?俺やけど。遊ぼーぜぇー。」



その電話はいきなりだった。


当時19歳のいたいけな少年だった俺に夜の遊びを教えてくれた男、その名はM浦さん。



旅を始める前に資金作りのために働いていた鳶会社の先輩だったんだけど、キャバクラやラウンジなんかに連れてってもらい、おかげで金が全然貯まらなくて旅に出るのが遅れたのはM浦さんのせいというか俺の自制心の無さ。


よく俺とユウキとM浦さん3人で夜の街をうろついてたもんだった。


そのM浦さんが今仕事で三重県にやってきているという。



「こっち来た瞬間9連休やじ?盆なんて嫌いだ……………というわけで金丸、俺を旅に連れて行ってくれ。」




えええええ………………


M浦さんといたら絶対飲みに行くことになるから金がソッコーでなくなってしまう………………



でもしょうがない。

知り合いも足もなく1人で9連休はかわいそうだ。


これからの長野県にちょこっと付き合ってもらおう。







三重県まで一旦戻り、いなべ市の田舎にやってくると、アパートの前で待っていたM浦さん。



「おう!!金丸!!!宮崎の心忘れちょらんやろな?!!」



いきなりテンションの高いM浦さんの大荷物を車に積み込んでいく。



「そんないっぱい要らないですよ。」



「ばか、旅なめんなよ!!?」



そんな感じで2人旅が始まった。










「あ、M浦さん。言っときますけどこの車エアコン効かないですから。」



「えーー!!暑いよーー!!クーラーガンガン効かせて快適がいーよおおおおお!!」



「あと風呂も毎日は入れないですから。」



「…………………………」



「旅なめたらいけませんよ。」





名古屋市内を抜け、順調に長野に向かっているところでM浦さんがいきなりとんでもないことを言いだした。



「カネヤン、俺の夢はのぉ…………江戸に行くことや。」



「…………はぁ、そうですか。」



「よし、行くぞ。」



「……………………は?」



この人は一体何を言ってるんだろう?



「行くぞーー!!!!ユウキの野郎が宮崎の心を忘れちょらんか確かめんといかん!!」



………………………ああああ!!!


もう行くか!!







もうヤケクソでハンドルを東に切り、夜明け前の国道1号をかっ飛ばしていく。


この前ここ走ったばっかなのになぁ。



「金丸さん、あのー、コーヒーが飲みたいんですけどぉ…………」



「さっき飲んだばっかじゃないですか!!ダメです。」



「コーヒー飲みたいーー!!お腹空いたーー!!」



「M浦さん、旅ですから。」



「おい、旅なめんなよ?」





夜が明け始めたころファントムは静岡市を通過。


せっかくだから富士山見せてあげよう。

俺が知る限り1番きれいに富士山を望めるスポット、静岡県由比のミカン畑の丘の奥にある穴場へ。










ちょうど朝日が水平線から昇り始め、しかも運よく雲一つかかってない。


初めての富士山がこのコンディションってめっちゃラッキーだ。



「うおー……………すげー………………」





若い頃に悪さという悪さを全てやり尽くしてきたような元不良のM浦さん。


感動する心などとうの昔に捨ててきたわい、と言う彼だけど、さすがに立ち尽くしていた。



2人でしばらく目の前の壮大な光景を見つめていた。



 












翌日。






「あああ……………………ああああああ…………………ぅぅぅうるせええええええ!!!あちいいいいいいい!!!!」




目を覚ますとそこは箱根のパーキングエリア。


すでに箱根の山は観光客で大混雑だ。



「おーおー、何やこれ?ようこんな人多いとこ来るわ。」



山の中だというのにあまりの人の多さに驚いてるM浦さん。









観光もそこそこに箱根の山を降り、神奈川に入ってからも湘南への海水浴客で大渋滞。



何とか横浜に着いたころにはすでに夜になっていた。



「これが横浜か!!ユウキの野郎こんな小洒落たとこ住んじかいよー、九州ば忘れちょりやる!!」



「あらすーぐ夜景やら見に行きよりやっですわ。」



「なんだとおおおおおおおおおおおおおお!!宮崎には夜景が見れるとこがない!!てか、うわぁ……………人おりすぎやろ……………コンクリとアスファルトだらけじゃ…………………ようこんげなとこに住むんじょるのおお。」








ようやくユウキの家に到着。


アパートの1室のピンポンを連打する。


暗い窓に明かりがともりドアが開いた。



「わら!!なんばしよっとか!!都会モン気取りが!!」



「ちょ、すんません、う………う……………オロロロロロ!!」



ドアを開けた瞬間いきなり玄関にゲロを吐き散らかすユウキ。


え、ど、どうしたぁ!?!?



「大丈夫!!?」



「薬局連れてって………………」



どうやら持病の偏頭痛で苦しんでたみたい。


しかし薬局で薬を飲むとウソのように元気になった。





「久しぶりっすねー!!さっ!!キャバですか!?ヌキですか!?うひょい!!」



「どーれーにーしーよーおーかーな!!ぐひょひょ。」



「M浦さん、今日は早く寝ましょう。」



「あ、すみません………………ユウキ、カネヤン怒っちょって。」



「いや、お前、よーここまで運転したね。」



ろくに寝ないで関西から走って来たのでさすがにめっちゃ疲れてる。


3人で居酒屋へ行き、この日は早めに爆睡した。








リアルタイムの双子との日常はこちら





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