2006年6月17日 【愛媛県】
34日目。
56番・泰山坊、57番・栄福寺、58番・仙遊寺、59番・国分寺と打ちまくる。
そんな中、59番の門前でタオルのお土産物屋さんを見つけた。
今治はタオルの町だからな。
ここはその名物のタオルに好きな言葉をその場で刺繍してプレゼントしてくれるというお接待で有名な場所。
じゃあなんて刺繍してもらおうかなーと考えてやってもらったのは……………
『人類はもうすぐ滅びる』
うん、我ながらひねくれてるなぁ。
今日も1日中歩き、その夜に電話で親父と話した。
滅多に誉めてくれない親父だけど、「頑張れよ。」と言われたのが妙にうれしかったことを記憶している。
肩に食い込む荷物をかつぎなおし、行くぞオラー!!と叫んで夜の道を歩きつづけた。
35日目。
伊予三芳駅のベンチで目を覚ますと、周りにたくさんの学生たちがいた。
めっちゃいる。
ちょうど通学時間に目を覚ましてしまったみたいだ。
いきなり起きて慌てながら荷物をまとめたら、なんか恥ずかしいことしてるみたいになるので、あえて堂々とゆっくり起きて、いやー爽やかな朝ですねみたいな顔で、マジでめっちゃ臭い。
な、なんだこの臭さ!!!
一体誰だこんな臭いの!!!
俺だ!!!
学生のころにこんな汚いヒゲボサボサの不審者が駅で寝てたらめっちゃ怖いよな………………
四国すげぇ。
この日は『お遍路道五大難所』の1つ、60番・横峰寺を目指す。
照りつける太陽の下、臭い白衣をさらに汗でズブズブに濡らしながら山道を登っていく。
道の脇に流れる冷たい湧き水を頭からかぶる。
いたるところに無縁仏の念が固まってできた自然石が苔むしている。
行き倒れた過去の遍路さんたちの跡を踏みしめながら山を歩く。
チリンチリンと杖の鈴を鳴らしながら。
山を降り、61番・香園寺、62番・宝寿寺と打って今夜も公園のベンチに陣取る。
暗闇の中、蚊取り線香を焚いてカッパをかぶる。
昼間は暑いが、まだまだ夜は寒かった。
36日目。
63番・吉祥寺を打ち終え64番・前神寺。
この日のコースはずっとストレートの国道だった。
新居浜あたりだったかな。
ホカ弁の前を通ると店の人が声をかけてきた。
どうやらここでは歩きお遍路さんにノリ弁をお接待しているようだ。
しかもお店の裏にはお遍路さん用の善根宿があり、歩き遍路にはこの上なくありがたいポイント。
俺はこういうポイントをまったく知らないで歩いていたが、ほかの遍路さんたちが持っていた豪華な遍路地図にはこういったお接待情報なんかも詳しく載っていた。
あれあったら便利だったろうなぁ。
この日は番外霊場延命寺の公園にある東屋に寝床を決めた。
ベンチに向かって歩いていくと、真っ暗な中で黒い影がむくりと動いた。
「あ、ご一緒していいですか?」
「あー、どうぞー。」
闇に目が慣れると、ヒゲにラスタカラーのわかりやすいヒッピーのお兄さんだった。
自然回帰。
ナチュラルでスピリチュアルが好きなヒッピーさんにはこのお遍路はたまらないんだろうな。
37日目。
パンパンいくぞー!!
朝起きてヒッピーの兄さんに別れを告げ先に出発。
俺も含め普通の人はだいたい1日25キロ~30キロ歩くが、ヒッピーの彼は10キロも歩かず飯もそこらへんのフキやなんかの草を食べながら歩いてると言っていたな。
「急いだってしょうがないよー。のんびり行こうー。」
周り方はみんなそれぞれだ。
最近は昼間が結構暑くなってきたので、1番暑い日中はだいたいジョイフルに逃げ込んで、ご飯を食べながら日記を書き、夕方になってから歩くというルーティンになっている。
俺は御朱印を書いてもらってないので17時の時間制限がなく、何時でも歩くことができる。
暗闇の中、静寂のお寺の中を歩き、燭台に蝋燭を立てると、汚れた顔がフワッと浮かび上がる。
心を無にしてお経を唱えていると、闇に同化するような感覚になり体が溶けていく。
人間らしさってなんだろうな。
この日は65番・三角寺を打ってストップ。
歩いて、メシ食べて、疲れたらそのままそこらへんで眠る。
毎日汗かきまくりで、雨に濡れては着たまま乾かし、泥まみれ垢まみれでさすがに汚い俺。
いい感じに修行っぽくなってきた。