2006年5月31日 【高知県】
17日目。
朝起きると、足の痛みがほとんどなくなっていた。
恐る恐る足の裏を見てみて驚いた。
昨日までベロベロに皮が剥げて赤い肉が見えていたのに、わずか数時間で完全に硬化してカチカチの新しい皮に覆われていた。
す、すげぇ!!!
人体すげえ!!!!
薬すげぇ!!!!
マジで針を刺しても通らないくらいにカッチカチ。
プラスチックみたい。
たった一晩でとんでもねぇ自然治癒の力だ。
幽遊白書にこんなキャラいたよな。
ダメージ負ったらソッコーでめっちゃ硬く回復するやつ。
もう無敵だ。
体が完全にお遍路仕様にアップグレードしたぞ。
それにしてもゆうべのジジイ……………
何をあんなに親の仇みたいに怒り狂っていたのか。
暴力までふるいやがって。
しかしまぁ自分の店の中で汚い奴が寝てたらいい気がしないのは当然か。
うん。
だとしても弁当投げつけたり頭叩いたりしたらいかんよ。
これまで地元の人たちの優しさに甘えてきたから俺も少し横柄になってたのかもしれん。
これからはもうちょっと気を引き締めよう。
昨日お世話になった人たちに挨拶して出発。
36番・青龍寺にお参りを済ませたころにはすでに辺りは暗くなり始めていた。
トボトボ歩いていると後ろから来た軽トラのおじさんが話しかけてきた。
「この先10キロくらい何もないからうちに泊まっていきな。」
ま、マジですか!!!!
おじさんはこの近くにある国民宿舎の支配人だという。
歩いてただけなのに超立派な国民宿舎にタダで泊めていただけるなんて!!!
もうさ、良いことと嫌なことの振れ幅がデカすぎだよ、昨日の今日で。
海の上に浮いているような露天風呂に入り、激安のコインランドリーでずっと着っぱなしだった服をお遍路に出て初めて洗濯。
しかもパソコンでネットまで出来た。
部屋で日記を書いてるところに、支配人か料理とワインを持ってやってきた。
元バッグパッカーで世界中を旅し、人食い族の村にも行ったことがあるという彼。
「ははは、このホテルもお遍路さんの接待の延長でやってるようなもんだよ。」
こういう、旅人を快く迎えてくれる方なので遍路の間ではこの国民宿舎は結構有名な場所みたいだ。
でも、ここってタダで泊めてもらえるんですよね?ってハナから接待を求めてやってくるようなやつには絶対に接待しないとも言っていた。
夜遅くまで2人で大いに飲み語った夜。
あー、昨日のゲロみたいな夜が嘘みたいだ。
遍路中、最も印象に残っている出来事の1つだ。
18日目。
「2~3日泊まっていっていいんだよ?」
支配人のお言葉に甘えるわけにはいかない。
お遍路が終わったらすぐに関西に戻ってオファーをもらってる結婚式の余興で歌わないといけない。
さらにそこで2次会の司会まで仰せつかっている。
早く歩かないと。
支配人ありがとうございました!!
この日はボチボチと歩き、須崎市のさびれきった飲み屋街に行き、スナック『卑弥呼』で歌わせてもらってだいぶ稼ぐことができた。
ありがたい。
さぁ、明日も頑張って歩くぞ。
19日目。
この日はそんなに歩かず37番・岩本寺でストップ。
窪川の町にて路上。
この日もイカすおじさん、哲一さんにお世話になった。
20日目。
ひたすら歩くだけの毎日。
足の調子は順調だ。
皮が剥げまくってた傷口はプラスチックのように爪もたたない皮膚に進化している。
荷物が肩に食い込むのにもだいぶ慣れてきた。
汚れきった服、油まみれの髪とヒゲ。
最近よく道ゆく人から写真を撮らせてください、と言われる。
ギター担いでる遍路がよっぽど珍しく、宗教心を理解してない現代の遍路、なんていういい素材なのかな。
この日は土佐佐賀の町までやってきた。
カップラーメンを探して『カワウチ』という小さな酒屋さんに入ると、旦那さんにこっち来いと言われ、奥に上がらせてもらうとそこではおじさんたちが宴会をしていた。
真っ黒なたくましい漁師さんたちが笑顔で迎えてくれ、久しぶりに焼肉を食べさせてもらった。
うますぎる!!!!!
肉なんて久しぶりでほっぺが落ちそうだった。
それからおじさんたちの全盛期のころの漁武勇伝で大盛り上がり。
昔はこの辺りでもものすごく魚が取れて金になったんだそうだ。
この夜は港の公園の東屋で寝たんだけど、強く心に誓ったことがあった。
うん、蚊取り線香を買おう。
暗闇の中、目をつぶると蚊のボケどものあの、
プ~ゥゥン
というオーケストラ。
いつも雨カッパをかぶってカプセルみたいにして包まって寝てるんだけど、どうやってもどっからか侵入してきてチクリ。
愚地独歩並みの正拳突きで2~3匹始末してもすぐまたチクリ。
発狂しそうになりながらも根性で眠りにつき、目が覚めると50箇所以上刺されてる。
があああああああ!!!!
絶対に蚊取り線香買う!!!!!