2006年5月27日 【高知県】
13日目。
ゆうべ眠らせてもらった事務所を出て、ヒッチハイクで昨日のバス停まで戻ったら、さぁスタートだ。
四国には色んな人がいる。
空海は今も遍路道を歩いているとマジで説いてくる人。
ある程度徳を積むと寺の仏像と会話が出来るようになるとマジで語ってくる人。
ビニールで編んだ飾り物のワラジを、マジで道ゆくお遍路に来る日も来る日も配っている人。
お遍路の足にできたマメをえぐることがマジで生き甲斐の爺さん。
ホント色んな人がいる。
この家の人も相当マジだなぁ。
この日も安芸で路上をし、楽しいおばさんたちに飲みに連れて行ってもらい、タクシーのおじさんに家に泊めていただいた。
マジで布団気持ちいい。
ありがとうございます!!!
14日目。
歩いていると通りすがりの人が色んなものをくれる。
ありがたいことなんだけど、あんまり続けざまにもらうと荷が重くなって辛いんだよな。
マジでミカン1個の重さですらズシリと肩にくる。
それくらい歩いていると重さに過敏になっている。
そういうときはほんとに申し訳ないが道端のお地蔵さんや無縁仏の石碑にお供えさせてもらっている。
遍路道の道端には、身寄りもなく遍路中に野たれ死んだ無縁仏の石碑がたくさん立っている。
飢饉の年には食べ物を分けてもらえなかったようで、石碑に刻まれた年号がその年のものが多い。
昔は業病や肺病を患ったり、間引きで村にいられなくなった人が主に遍路に来ていたそうだ。
体が歪んだ人、体中包帯グルグル巻きの人、戦後は片足とかがない傷痍軍人なんかが往く、悲しくも恐ろしい業の道だったのだ。
「ヘンドに出すぞ!!」
と子供の時分、悪いことしたら脅かされたもんだよ、と語っていた地元の古老。
ヘンドというのはそういうお遍路さんに対する蔑称なんだそう。
28番・大日寺を終え、日が暮れて真っ暗闇になった田んぼのあぜ道を歩いていると1匹のホタルが先導してくれた。
あみだのようなあぜ道で足元も見えない道だったが、迷わずに歩けた。
不思議なホタルだった。
15日目。
この辺りで、般若心経を含む3分間ほどの一連のお経をソラで唱えられるようになった。
こんだけ毎日毎日唱えてたらそりゃ覚えるよな。
29番・国分寺、30番・善楽寺、31番・竹林寺、そして32番の近くまで行ったところで今日もバスに乗って高知市内にやってきた。
路上で稼がないと日々の飯が食えない。
最近、バスで少しスキップして、次の日に元の位置に戻ってまた歩くというのをやってるけど、他のお遍路さんの中には、「貯金・借金」ってのをやってる人もいた。
17時になってお寺が閉まってからその日の予約していた宿に思ったより早く着いてしまって時間と体力があまっていた時、この方法が発動。
どういうことかというと、宿にチェックインして荷物を置いて晩飯まで周りを散歩するのだ。
そしてその歩いた距離、2キロなら2キロを『貯金』しておく。
後日、17時までに次のお寺に間に合いそうにない時などに『引き出し』。
貯金分をバスやタクシーに乗るという荒技。
逆もあり、『借金』していた分を散歩で『返済』したりする。
めっちゃ都合のいい自分ルール……………
まぁ俺がやってるバスに乗って先に進んで、後から戻って続きを歩くってのもズルっちゃズルだけどね。
雨とかの天候との闘い、時間との闘い、ルート読みの力、色んな要素が絡み合って今そのシチュエーションにいるんだから、それをスキップするのは自然ではない。
まぁみんなそれぞれ、自分に厳しくしたり甘くしたり、色んなことを言い聞かせて納得したふりをしたりして、そんな感じで歩いてる。
1人1人、お遍路の形は違う。
自分が納得すればそれでいい。
だから後悔しないように全力で回ろう。
この夜は高知市の飲み屋街、はりまや橋のネオン街で路上。
この日はほとんど実入りはなかったが、高知新聞の記者さんと知り合いになった。
一緒に寝る場所を探してくれたやさしい兄さん。
都会のオフィス街の中、どでかいビルのエントランスでコンクリートの上に寝っころがった。
16日目。
バスで昨日の続きの場所まで戻ってきて、スタート。
32番・禅師峰寺を参り、歩いていくと川に突き当たった。
どうやら次の33番へは渡し舟に乗るらしい。
ここもまた正規の遍路道だ。
33番・雪渓寺、34番・種間寺を参り、土佐の町に入った頃、足の裏がいよいよ限界に痛くなってきた、
このところ、ずっと痛いのを我慢して歩いていたけど、さすがに耐えられない。
マメが出来ては潰れ出来ては潰れで、マジでオカルト状態になってるはず。
恐ろしくて靴下の中身を見る気にならない。
あまりの痛さに1歩1歩倒れそうになる。
それでも気力で歩き続けた。
ヒョコヒョコとビッコをひき、気を失いそうな激痛に耐えながら35番・清滝寺の長い階段を登る。
境内に着いた瞬間、ドサリと倒れこんだ。
もう歩けん……………
寺の人が病院連れて行くきに!!と言ってくれたが、気を静めるように読経したら少しだけ痛みが和らいだ感じがした。
完歩を諦めるなんて冗談じゃない!!
階段を降り、足をひきずりながら土佐の町に降り、商店街にあるくだもの屋さんにフラフラと入った。
もう限界すぎて、怖かったがさすがに靴下を脱いでみた。
マジで目を疑った。
べろべろに皮がめくれかえり、汗と汁と汚れが混ざりあった緑色のヘドロみたいな液体に覆われていて、まるでピッコロの血液!!!!
汚すぎる!!!
あまりの状態に慌てふためく店のおばちゃん。
手を引かれて目の前のスーパーの薬局に連れて行ってもらう。
「うわっ!!こんながで歩きゆーがか!!もう今日は歩いたらいかんぜよ!!」
歩き遍路さんを何人か手当てしてきたけどこんなひどいの始めてだという薬局の人たち。
無償で完璧に手当てしてくれた。
弁当や上等な靴下を買ってくれたくだもの屋のおばさん。
マジで皆さんありがとうございます………………
金がないので、ついでにスーパーの入り口でギターを出して歌うと、たくさんの人たちが差し入れをしてくれた。
土佐の人ってなんて優しいんだろうと、胸がいっぱいになった。
が…………………
その思いはこの夜に木っ端微塵になった。
みんなにお礼を言って別れ、少しだけ歩いて近くのコインランドリーに入った。
今日の寝床はここにしよう。
もらった弁当を食べ、食べ切れなかった分は蓋をして明日の朝ご飯用にとっといて床に寝転がった。
疲れ切った体ですぐに眠りに着いた。
それからどれくらい経ったか。
体を揺さぶられて目を覚ました。
「………………おい!!……………おい!!コラ!!」
目を開けると鬼の形相をした爺さんがいた。
「何しゆーがか!!早く出ていけ!!」
一瞬なんのことか理解できなかったが、寝ぼけまなこで体を起こす。
で、出て行けって、ここをか?
とにかく出て行こうと荷物をまとめてると、その間も真横で怒鳴り続けているジジイ。
「早くしろおおおおおおお!!!!」
残しておいた食べかけの弁当をバッグの中に投げつけてきた。
中身が飛び出して散乱した。
そして頭を叩いてきた時にはさすがに我慢できんかった。
「食べ物に何するんだ!!」
「なんだとおおおおおおおおお!!!ケーサツヨブゾオオオオオオオ!!!!」
「呼べや!!早く呼べや!!」
「うおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
怒りに顔を真っ赤にして震えていたジジイはどうやらこのランドリーの管理人。
何をそこまで怒り狂わないといけないんだと思いつつ外に出た。
「早くどっか行けええええ!!」
「あ?ここは公道やろうが?」
「この町にお前なんかが寝るとこなんてないきのおおお!!次のとこ行けええええ!!!」
ビッコひきながら近くの公園のベンチで眠った。