2006年4月26日 【三重県】
広いベッドで目を覚まし、階段を降りると、わざわざ休みをとってくれていた剛さんがテレビを見ていた。
すでにいそいそと洗濯物を干している奥さん。
俺たちに気付いてパンを焼いてくれた。
剛さんが路上で歌っている時に出会ったという奥さん。
記念に残すためテレビの企画に応募して極楽トンボの2人と仕組んで、この錦の港で剛さんはドッキリプロポーズをキメたらしい。
子供を3人こさえた今も2人はラブラブ。
剛さんと2人でちょっとドライブした。
すごい山道を走り、やってきたのは山奥の宮川村という集落。
何年か前に台風で大雨が降った時、このあたりの山々が土砂崩れを起こし、消防隊員をしている剛さんは豪雨と土砂崩れの中、救助活動を行ったという。
その時、橋の上で打ち合わせをしていたら、いきなり目の前の山の斜面が崩れてきて、必死で走って逃げたが橋がぐわんぐわんとたわんでいくら走っても前に進めなかったんだそうだ。
あの時ばかりは殉職を覚悟したという。
今も見渡せばあたりの山々、いたるところに山肌がむきだしになっている部分がある。
いやー、恐ろしい。
奥さんと結婚する時、相手のご両親には結婚を反対されたという。
自分の娘が未亡人になる可能性があるからだ。
それくらい消防士というのは死と隣り合わせの職業なんだな。
それにしても剛さんの車の中に流れているのは弾き語り界の大御所、三上寛のCD。
マジでハンパじゃねぇ……………
もうテクニックうんぬんなんて考えが吹き飛ばされる内容。
切り傷をパクッと開けた中の赤い部分。
そんな痛々しいまでの剥き出しの人間をさらけだしている。
群馬の『わんずほうむ』、『クールフール』、そして先日の岐阜での独唱パンクメンバー、キヨマロさんのライブを見てからというもの、ミュージシャンというものは皮をかぶっていては何も伝えることはできない、さらけだすことを実践していきたいと考えている今日この頃。
普段、日常では見ることのできない人間の生身の姿にこそ感動があり、それが芸術だ。
独唱パンク、いつか絶対くいこんでやる。
「えっ?!届いた!?わかったー!!」
奥さんからの電話に興奮して声が大きくなった剛さん。
どうやら注文していた遠藤ミチロウさんの新しいDVDが家に届いたようだ。
急いで家に戻り、ワクワクしながらみんなでテレビに釘づけ。
カッコイイ!!
やっぱカッコイイわ、遠藤ミチロウ。
55歳、5夜連続ライブのDVDなんだけど、とても55歳には見えないパワフルな演奏。
とりつかれたように言葉を吐き出す姿は同じ人間とは思えない迫力がある。
『カレーライス』の遠藤賢治をはじめとするゲストミュージシャン陣もすごい顔ぶれ。
メジャーを嫌い、アンダーグラウンドで年間150本のライブをこなすミチロウさんは、たくさんのメジャーのミュージシャンに崇拝されている。
ライブの激しさとは打って変わった普段の優しすぎるといわれる人柄もまたたまらない。
ミチロウさんが三重に来た時にいつも前座を務めている剛さんとも、打ち上げの時はほんとにフレンドリーに話してくれるそうだ。
まさに日本アングラ界の帝王。
いつかきっと日本のどこかのライブハウスで会える時が来るはず。
どんな話しよう。
あー!!早くライブ観たい!!
レン君、カレンちゃんが保育園から飛び帰ってきて、今夜も晩ご飯をごちそうになった。
「ちょっと歌いにでも行かへん?」
今日1日音楽を聴きまくったせいで剛さんウズウズしちゃって、どっか外に歌いに行こうということに。
夜の山道を走り、隣町の紀伊長島にやってきた。
どうせ歌うなら観客は多い方がいい。
地元の音楽好きが集まるという洒落た喫茶店へ。
「ギター持って行こや。」
ギターを持って入ればきっと食いついてきて、何か歌ってよー、みたいな状況になるだろうと企み、2人してギターケースを抱えてドアを開けた。
え?何?みたいな目で俺たちを見てくる店員の女の子。
カウンターでコーヒーを飲みながら音楽の話をなるべく大きな声でする。
しかし………………誰も食いついてこない。
「あの、すみません、ここって地元の音楽好きが集まるって聞いたんだけど。」
「………………はぁ。」
めっちゃ無反応な店員さん。
「……………長島で歌えそうなお店ってあるかな。」
「……………いや、知らない………………」
すっごい無反応。
結局1時間半くらい歌いたいビームを出し続けたんだけど、見事に一言も話しかけられないまま店を出るという悲しい結末に。
「こんなもんさー、県南はー。はははー。はぁ………………」
剛さんもガックリ。
しょうがなく全くひと気のない道の駅の駐車場で、2人でギターをかき鳴らした。
翌日。
ゆうべも剛さんちにお泊りしてしまった。
ちょうどレン君・カレンちゃんが保育園に行くところで、一緒にお迎えバスを見送り、家に戻り朝ご飯をご馳走になり、いざ出発。
「寂しいわー。今度は俺たちが宮崎行くもんでー。」
剛さんハウスは本当に落ち着く。
まるで昔からの古い友達のようだ。
奥さん本当にありがとうございました!!
さっさと先に進もうと思いつつも、このところ人とずっといたので日記がたまっており、近くの町でひたすら日記書きにふける。
やっとこさ日記を書き終えたころにはいい時間になっており、そういえば剛さん今日も休みって言ってたなぁと思い電話してみる。
「いいよー!!一緒に歌おうよー!!」
今夜もどこか歌える店を探しに行こうということになり、昨日と同じ戦法で紀伊長島の喫茶店へ。
が、やはり「おー!歌ってよ!!」という言葉は微塵も出ない。
悔しい!!
というわけで思いきって県南で1番大きな尾鷲市の町まで下ってきた。
さすがにここまで来りゃなんかあるだろうと探し回ると、ビートルズ好きのマスターがやっているラーメン屋があるという情報をゲット!!!
よっしゃあ!!と勇んで行ってみると定休日!!!
剛さんのいとこの情報で今夜ライブをやっているバーがあるということでさらに勇んでドアを開けたが、今歌うのはちょっと…………みたいな雰囲気でやはりダメ。
「こんなもんさぁ…………県南は………………」
そのセリフ昨日も聞いた気が……………
へこむ剛さんと今夜もひと気のない道の駅で歌う。
くそー!!剛さん!!
いつかこの道の駅ででかいイベントかましてやりましょう!!
翌日。
目が覚めるとムワッと暑い車内。
ゆうべは虫がミンミン鳴いてたな。
もうすぐ車中泊にはきつい夏がくる。
奈良県に戻ろうと思ったのだが、奈良の県南には町がない。
ケータイ代を稼がないといけないので今週末は和歌山の田辺市に行くことにした。
田辺といえばあの『ミキさんマユミさん事件』の現場。
もうあのメンバーに会うつもりはない。
本宮の山の中をアクセルを踏む。
あーー!!!
三重から田辺、遠い!!!!
前回も行った白浜温泉の『牟婁の湯』300円に入り、田辺のネオン街に到着。
いつもの場所で歌い始めたんだけど、んー、やっぱりいい!!!
やっぱり田辺の街は反応もチップの入りもいいわ!!!
みんな音楽とかこういう娯楽が好きなんだろうなぁ。
ちゃんと聴いていってくれるので常に10人くらいが俺の周りに群がっている。
しかしあまり集まりすぎるのもいけなかった。
美人親子の2人やヤンチャそうなお兄ちゃんたちとワイワイしていたら、すぐ後ろのバー『クロスロード』のお客さんが出てきた。
「悪いけどここじゃやめてくれへんか。店の人に挨拶してへんやろ?」
やば!!
さすがにこれだけの人数が店の入り口近くでたむろってたら入りにくいのは当たり前。
うわー、なんで気付かなかったんだ。
すぐに店に入って謝った。
「俺すごい好きなんやで、自分のやってること。うまいしなぁ。でもここは俺の家の玄関みたいなもんや。一言言ってくれればいくらでも応援してやるんやで。前回もここでやってたよなぁ。その時俺が千円入れたん覚えとるか?」
「………………すみません、覚えてません……………」
「ふぅ……………」
30歳くらいのしっかりしてそうなマスター。
厳しく、でも優しく叱られる。
「どの街行ってもそうやからな。気をつけろよ。頑張れ。」
最後に握手して店を出る。
自分たちが騒ぎすぎたせいで、と心配して外で待ってくれていた俺のお客さんたちが、大丈夫やったか?と言ってくれる。
こんないい人たちに迷惑かけて……………
すみませんでした。
場所を変えて深夜2時まで歌い、なんと24000円。
田辺最高だよ。
みんな本当にありがとう。