2006年2月14日 【愛知県】
「………………さん………………金丸さん…………………………………金丸さん、出ますよ。」
はっ!!
目覚ましかけてたのにまったく気付かなかった。
酔いもまださめていない寝ぼけた頭を振り起こして外に出るとまだ朝の4時30分。
凍てつく山の冷気で一瞬で眠気が吹っ飛んだ。
真っ暗闇のグラウンドにボボボボとエンジンのかかったトラックが止まっていて、みんなそれに乗り込んでいく。
これから今日の公演先に向かうんだそうだ。
ゆうべ寝たの2時ごろだよなぁ。
2時間くらいしか寝てないやん。
吉田君、タケ君、今日の演奏大丈夫かな……………
車の中でもう一眠りして、8時に稽古場に顔を出すと、公演に行かない留守番組のみんながいた。
すでに用意されている朝ご飯。
気持ちのいい朝のはずが二日酔いでくらくらする。
マジで吉田君、タケ君、バチ落とさないかなぁ……………
まぁめっちゃプロなんだからそんな心配いらないか。
9時30分くらいになり、留守番組のメンバーと一緒に地元の幼稚園に行くことになった。
なにやら人形劇の方が来るらしい。
車で少し走ってやってきたのは、山に囲まれたのどかな小さい幼稚園。
幼稚園に入ったのなんて、マジで俺が当事者だったころ以来。
すべてがミニサイズでガリバー状態だ。
教室の中には豆のような子供たちがワラワラ。
ちょっと前まで俺も実際こんなミニサイズだったんだよなぁ。
「はーい、それではねぇー、今日は人形劇でねぇー、名古屋から『むすび座』のお兄さんお姉さんに来てもらいましたからぁー、みんなでお願いしましょうー。はい!」
「おぉねぇがぁいいいいいい!!しぃまぁーすうううううあううう!!!!!」
声の限りに体をよじらせて叫ぶ子供たち。
かわいすぎる!!
「はああああああああああい!!みんな!!」
「はじめましてええええええええ!!」
出てきたオッサンとオバサン。
教育テレビのお兄さんお姉さんような喋り方と、ディズニーランドのミッキーのような動きで、わかりやすく、かつリズミカルに進行していく。
1つ目のお話は、『だんごどっこいしょ』。
手に人形を持ち、たくさんの小道具を器用に操りながら足でペダルを踏み、場面に合わせてBGMを入れてくる。
遠近法で小さい人形を使ったり、スクロールで背景が流れたりと、単純な仕掛けなのに人間の視覚効果が計算された演出でつい引きこまれる。
昔、俺も観たよなぁ。
小さいころに観たことのない人の方が少ないはず。
今こうしてみると子供相手でもすごく質の高いことをやっていたんだなと感心する。
大人でも十分楽しめる内容だ。
2つ目の『どうぞのイス』も子供の純粋な気持ちが表現されたとってもいいお話だった。
紙芝居が終わったら父兄全員で後片付け。
ものすごいたくさんの道具があり、これをすべて駆使するのは大変なことだ。
子供たちはワラワラと外に出ていって遊んでいる。
誰にだって少年時代はあった。
けがれていないって本当によくわかる。
「あぁぁあああああああああ!!!!さっきのおじさんだぁああー!!」
「そうだよぉー!!ベロベロベロー!!」
「わーーー!!キャッキャッ!!」
小さい頃、知らないところから来た人を見ると、まるで宇宙人みたいな別世界の人に思えたもんだ。
ただの24歳の人間なんだけどな。
ちなみに『むすび座』はかなりでかい人形劇集団のようだ。
メンバーは2人1組となり全国に飛ばされ様々な施設で人形劇を披露している。
今日来ているこのおじさんおばさんも、これから午後も仕事が入っているので、といそいそと帰って行った。
子供に夢を与えに行くんだな。
いい仕事だ。
『志多ら』の稽古場に戻ったらお昼ご飯までご馳走になってしまった。
うん、いつまでものんびりしているわけにはいかない。
ここらで出発することに。
「金丸君、色んなところ行ってウチの宣伝しといてね!!」
「じゃーねー!!」
「またきなよーーー!!!」
全員で外に出てチョー笑顔で手を振ってくれたメンバーたち。
坂を降りていくときもフェンスのところから顔を出してずっと見送ってくれた。
なんていい人たちなんだろう。
特にチャボさん、素敵な人だったな。
よーし、富良野あたりに公演の話ふってみようかな!!
英気も養えたことだし、一気に愛知県攻略だ!!
翌日。
さあああ!!今日も元気に動くぞー!!
と思ったら朝からとんでもない恐怖の出来事があった。
コンビニの駐車場の端っこで車中泊していたんだけど、布団の中でなんか車が揺れてることに気付いた。
何だ………………?
風が強いのかな………………
そのうち止むだろうと寝続けようとしたが、なかなか揺れがおさまらない。
なんだ?と思い、目を開けた。
その瞬間、身の毛がよだった。
えっ!?
知らない男が運転席側のドアを開けようとしている!!
ガバッ!!と体を起こして中に人がいることをアピールした。
男と目が合った。
20代後半くらいのストリート系の兄ちゃん。
髪は短く、ヒゲ面、なにより完全に目がイッてる。
な、なんだこの人!!!!!
ご、強盗!?!?
だったら車の中に人がいることが分かったなら止めるはず。
なのに目が合いながらずっとガチャガチャ!!とドアノブを引き続けている!!
「な、な、何やってるんですか!?ねぇ!!何!?」
ガラス越しに叫ぶと、ドアノブを引くのをピタッとやめたその男。
しかし今度は助手席側に回りまたグイグイとドアノブを引っ張りだした!!!
うわああ!!!
なんだよおおおおおおお!!!!
「ちょっと何やってんの!?おい!!」
そんな恐怖の時間が3分くらいも続いたか。
しばらくすると諦めてどっか歩いて行った。
何なんだよ……………怖すぎだよ……………
ていうか1番後ろのドアのロックはかけてなかったので後ろに回られてたらマジでヤバかった……………
おかげで早朝から死ぬほどびっくりしてばっちり目が覚めた。
さて、今日も1日の始まりだ。
尾張三河と信州を結ぶ伊奈街道は、江戸のころ塩の運搬でたくさんの人々が往来し、街道沿いには宿場が点在し賑わいをみせていた。
今日まずやってきたのはその伊奈街道の要地として栄えた山間の町、足助。
江戸時代の宿場町の面影を色濃く残した町だ。
観光地らしく、パーキングはたくさんある。
自宅の空きスペース3~4台分とかを小遣い稼ぎに貸しているのか、お婆ちゃんが道路の脇で通りがかる車に向かって手招きをしている。
そんな中、安めの300円の場所に車を止め、いざ散策開始。
まずは紅葉の名所として知られる香嵐渓へ。
シーズンには日本中から観光客が訪れるようで、パーキングに秋料金なるものがあるほどの大変な賑わいらしい。
巴川沿いに1キロにわたり山が赤と黄色に染め上げられ、日本の美しい自然と歴史を存分に堪能できるこの場所。
まぁ、今時期はなんにもないのでチョチョイと回って、今度は町の中に入っていく。
白漆喰と黒板壁の住宅が並ぶなんとも風情のある足助の町並み。
ちょうどお雛祭りをやっており、各家ごとに雛壇が飾られ、古いものでは明治時代の雛壇なんてものも見ることができた。
真赤な色が町に彩りを添える。
こいつは心和むいい町だ。
今度は一気に近代的な建物が立ち並ぶ、車メーカー『トヨタ』の本社工場のある街、豊田市にやってきた。
街の中を走っていると、どこもかしこも工場やビルだらけ。
もち全部トヨタのものだ。
さらにこの中心部の地名は豊田市トヨタ町というから面白い。
豊田市の町の人はほぼ全員がトヨタの職員。
だからトヨタの車しか見かけない。
地方自治体で豊田市は相当潤ってる市だと誰かが言ってたよな。
街によって土地によって、色んな文化や歴史がある。
というわけでトヨタ会館にやってきた。
企業のPR用の建物で、自由に見学することができる。
中に入ると広々とした近未来的な空間にいきなりロボットのお出迎え。
会社の説明や現在の方向性などのパネルを見ながら進んでいく。
最近の車って燃費よすぎだなぁ。
1回の給油45リットルで1500キロも走るんだって。
ファントムもそれくらい燃費よかったら助かるんだけどなぁ。
車旅はホントガソリン代が半端じゃない。
現在地球上に存在する石油はあと40年で底をつくといわれている。
そうなった時、街を走っている車は水素カーになるんだそう。
人工的に水素を作りそれを燃料に走るという。
安全性、機能性を高めながら車はどこまで進化するんだろうな。
1番驚いたのは、工場での車が出来上がるまでの映像。
何十本もの巨大な機械のアームが、ウイーン、ウイーン
とすごいスピードで正確に超細かいパーツの溶接をしていく。
まるでエイリアンの動きだ。
こうやって1日に何百台、何千台と生産され、世界中の町に運ばれて行ってるんだなぁ。
豊田市には他にはキューピーマヨネーズの工場もあり、マヨラーの俺としては見学したいところだったが、予約がいっぱいで今日はもう無理だった。
あー、マヨが作られる過程とか見たかったな。
そんなこんなで目一杯動いて今日は岡崎市まで進んでストップ。
小雨がぱらついている。
つーか昨日ってバレンタインデーだったんだよな。
はぁ……………ラジオをつけりゃチョコチョコチョコ……………
コンビニ行ってもチョコチョコチョコ……………
俺もひとつくらい欲しいよ。
こんな誰も知らない街じゃもらいようがないけど。
1人寂しく車の中で日記を書いていたら富良野のヒロちゃんからチョコの写メールが送られてきた。
美香からは何もなし。
はぁあ。
寝よ寝よ。
明日はイカれた人が車こじ開けようとしてこないでくれよと、ちょっとトラウマになりながら布団にもぐりこんだ。
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