2006年1月31日 【静岡県】
今日は三浦半島をぐるっと一周してみた。
このあたりはどこに行ってもレストランとマリンスポーツショップと別荘ばかりだ。
都心で結構稼ぐ人たちが、眺めのいいこの辺りに家や別荘を持つんだろうな。
この前観た映画『狂った果実』の舞台もこの辺だろう。
数々の映画や歌に登場する江ノ島を眺めながら海岸線をアクセルを踏む。
狭っ苦しい住宅地の間を民家すれすれに走っていく江ノ電。
玄関を開けたら鼻先をかすめるようなところを電車が走るなんて恐ろしい生活だ。
長かった関東を出て、ついに旅が再開し、これからしばらくは知り合いのいない1人の道が続く。
ていうかどう考えても今のペースじゃ今年中にゴールするなんて無理なんだよなぁ……………
計算すると1年とあと2ヶ月あればなんとかいけそうなんだけど、その2ヶ月分をどうにか短縮しないことには目標の12月24日のゴールは不可能。
そのためにはかなりのスピードアップが必要だ。
似たり寄ったりのような場所はなるべくとばして先に進み、1県10日前後の配分でいかないといけない。
でも絶対トラブルとかあって思い通りにいかないんだよなぁ。
というわけで、この辺りにある七沢温泉、日向薬師、大山不動尊はスルー。
神奈川の海岸線を飛ばし、一気に静岡県に入った。
茶と富士山の静岡。
久しぶりの新しい県。
まずは伊豆半島からスタートだ。
神奈川県、湯河原温泉を抜け、海沿いの崖にはりついたようなミカン畑の石垣の間を走っていく。
左側に広がる相模湾はどしゃ降り雨で一切見えない。
そんな中、日本の名湯、熱海温泉に到着。
駅に車を止め、傘をさして街の中をぶらついてみた。
山の温泉地と違い普通の街の景観だな。
商店街の中に旅館が並んでいて、あまり風情があるとは言えない。
やはり温泉地はひなびてるに限る。
志賀直也、谷崎潤一郎など文人たちが愛用していたという名旅館『起雲閣』は、今は文化遺産として一般開放されているが、運悪く今日は定休日。
伊豆には腐るほど温泉街があり、文人墨客が長逗留して執筆をしていた宿が多い。
もちろん川端康成のあの名作もそうだ。
どしゃ降りでしっかり回る気がおきないのでチャチャっと動こうと、数々の温泉地の間を走り抜けていく。
伊東温泉、浮山温泉、赤沢温泉、大川温泉、磯の湯、北川、熱川、片瀬、白田、稲取………………
あー!!知るか!!
こんなに密集してたら個性もなにもねぇ!!
それらをほぼ無視で一気に伊豆半島の南部、下田市まですべりおりた。
ふうう、もう18時か。
下田のささやかな町中を走っていると、なにやらごちゃごちゃとした、いかにもアウトローって感じのお店を発見した。
どう見てもヤバいオーラを発している。
店先にライブって文字もある。
よし、ここで晩飯にしよう。
「どーもー。」
中に入ると店内には万国旗が飾ってあり、いろいろなライブの告知チラシが貼ってあり、これぞライブバーの雰囲気だ。
店の隅には演奏できるスペースもある。
他に客はおらず、カウンターに座った。
「いらっしゃい。」
店にいたのは1人のおじさんマスター。
鼻ヒゲをはやし、モヒカンを結んでいるという、今まで2万回くらい職務質問受けてきましたみたいな見た目のおじさん。
や、ヤバいところ入ったかな……………
「あ、あの、ライブ、よくやってるんですか?」
「あぁ………まぁ、ちょくちょくね。」
「………………」
「………………」
会話が続かない。
気まずすぎてトイレに入ったら、壁中にマスターの写真が貼ってある。
顔にインディアンのようなペイントを塗り、裸でジャンベ叩きながらトランペットを狂ったように吹いている。
路上で。
うん、イカれてる。
こ、こりゃ3万回だな、職務質問………と思いながら横を見るとライブの募集チラシも貼ってある。
『アーティスト求む。ただし即興のみ。人生は即興だ!!』
こ、怖え……………
その後も無言の気まずい空気が続く中、根性でオムライスを食べ終わる。
さっきからずっと忙しそうにどこかに電話しているマスター。
「すみません。私今から急用で東京に行かなきゃいけなくて。ほんとバタバタしてすみません。」
何か大変なことが起きたらしく、めっちゃ慌てていたのですぐに店を出た。
んー、ヤバいお店だったけど完全に面白い人なので何か展開あるかなと思ったが残念ながら収穫なし。
ちなみに店名は『チェシャーキャット』。
きっとこの町の有名人なんだろな。
変わりもんで。
下田公園に車を止め、日記を書きながら神亀を飲む。
日本酒は『0℃で暗所に保管し、開栓したら早目に飲む。』というのが定説だが、しっかりとした純米は開栓して日にちをおくと味がのるという人もいる。
神亀純米も、なるほど、古酒くささがやわらぎ、まったりと口当たりのいい感じになったように思える。
酒を飲みながらさっきの言葉を思い返してる。
人生は即興。
強烈な言葉だな。
なんかすごく心に残ってる。
でもそんな即興なんて俺には怖くてできないな。
こんな行き当たりばったりの人生送ってるけど、実はそれなりに怖がりながら道を選んでると自分では思ってる。
即興で生きていくのってどういうことなんだろ。
そんなことを考えながらエアコンの熱風で燗をつけ、どしゃ降りの夜に乾杯した。
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