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旅ラストの年、スタート







リアルタイムの双子との日常はこちらから






2006年1月1日 【関東後半】







































お雑煮を食べ、つまらん正月番組を見て、お墓参りして初詣。


そんな当たり前の元日を過ごし、次の日の1月2日には爺ちゃん婆ちゃんに別れを言って宮崎に向けて帰った。



 


帰り道、高速道路で少し運転を手伝った。


俺がハンドルをにぎって親父が助手席!?



ものすごい違和感。


いつも後ろの席で親父に「なんか怖い話してよー。」とねだっていた子供のころ。


移動が長くて長くて、暇でたまらなくて車の中で兄貴と暴れまくってたよな。



親父、俺は親父の知らないところにたくさん行ってきたよ。









美々津町の実家に到着したのは17時頃だった。


結構大きくなっている雑種犬のシンゴが大きな鳴き声でお迎えしてくれる。


何も変わっていない家の中でご飯を食べる。





米にみそ汁、シャケときんぴらゴボウ。


連日の豪勢なメニューには落ちるが、こういうご飯が1番落ち着く。





荷物を整理し、落ち着いてからタカフミの家に行った。


いつもたまり場だったタカフミの部屋に、今日もいろんなやつがやってきていた。


小中学校のころの友達、懐かしい顔ぶれと酒を飲んだ。


みんな老けたなぁ。






















宮崎に帰ってきて、まずソッコーで天領うどんに行き、美味すぎるやん何これ?なんでこれが日本3大うどんに入ってないんだ?って思いながらうどんを食べ、それから宮崎市の美香のところに向かった。


大分から引っ越して宮崎にある大手の会社に再就職した美香。


市内にある美香のアパートの部屋はめちゃくちゃ広かった。


パソコンも最新だしテレビは薄型ワイド画面の巨大なやつ。


良い生活してるなぁ。








夜になってから2人でご飯を食べに行った。


別れてから数ヶ月。


確執、和解、無視…………


色んな流れがあり、でも久しぶりに会える日が近づくにつれ、最後には早く会いたいと明るく言えるまでになっていた。


しかし美香としては俺たちはもう別れたことになっている。






自転車に2人乗りして宮崎の繁華街に向かった。


こいでいるのは美香。


なんで俺が後ろに乗っているのか、それには訳がある。


手の中に握りこんでいたものを後ろからスッと美香の首に回した。




「えっ!!何!!何!!えーーーー!!」



ちょっと奮発して買ったティファニーのネックレス。


まだ美香は何をつけられたのか分かってない様子。





そのまま昔からの馴染みの居酒屋『吐夢想屋』に入ると、バタバタとトイレに駆け込んでいった美香。


少しすると泣きそうな顔で席に戻って来た。



「文武からティファニーなんてお洒落なものがもらえるなんて夢にも思ってなかった……………」



確かに今までロクなもんプレゼントしてなかったよね……………

ごめんね。






プレゼント作戦大成功で仲良くビールで乾杯した。


大好きなこの店のカニクリームコロッケでさらにゴキゲン。


マスターにデザートまでサービスしてもらい店を出た。





もちろん帰りは俺がこぐ。


ビールで力が入らず、足がピクピクして自転車ごとひっくり返ってアスファルトに倒れこんだ。


2人で息も絶え絶え大笑いした。












それから数日が経ち、今回の帰郷のメインだったテディーさんの結婚式の日がやってきた。




待ちに待ったあのテディーさんの結婚式。


ずっとお世話になってきたテディーさんが今日結婚だなんて今でもなんか実感ないな。



ていうか、それにしても女の身支度って時間かかりすぎ!!!


美香の化粧時間、1時間半。


でもそれは鏡の前に座ってからで、その前にシャワーを浴びる。


顔に色んな物を吹きかけ、塗りたくり、何層にも重ねる。

まるで十二単だ。



それからドレスを着込み、髪の毛を巻きにかかる。


ここまでくるともう別人。


仕上げに髪にラックスを吹きかけてさっそうとコートをはおる。


シルバーのミュールをつっかけていざ出陣。








会場に到着するとすでにたくさんの人が集まっていて談話している。


テディーさんの結婚式だ。

たいていの人は顔見知り。


挨拶してまわり、ご祝儀を出す。







式も披露宴も、とても感動的なものだった。





さすがテディーさんの結婚式。


余興の生ライブの演奏がレベルめちゃくちゃ高くてすごく盛り上がっていたな。



そんな中で俺も歌わせてもらった。


喜んでもらえてよかった。










2次会会場のライブハウス『シークレットギグ』では、もう飲めや歌えやのライブ三昧。


テディーズさんのバンド『スピードウェイ』のノリノリのカントリーロック、ピアノバー『ジャダ』のマスターたちのジャズバンドによる上品な演奏。



俺も、もちろんここでも歌わせてもらった。


歌ったのはキャロルキングの『君の友達』。



茨城のつくばにいた時に何度か一緒に歌ったあの歌うま由ちゃんとのデュエットだ。



由ちゃんもこんな大舞台でのライブにかなり緊張していていつもの伸びはなかったし俺のハモリも怪しかったがまぁ、まずまずの出来だった。



予想以上の拍手。



するとテディーさんがステージに上がってきた。



「よし文武、一緒にやるぞ。えー、3年前、プロになるとかじゃなく自分のスタイルでメッセージを伝えたいと生意気なこと言って日本一周の旅に出たガキがいました。でも今の歌を聴いたらもうガキとは言えないな。俺の良きライバルです。文武、ありがとうな。」



テディーさんの代表曲『Waiting for the train』を歌った。




あの音楽の師匠であるテディーさんにそんなことを言われ、そして一緒に演奏できて、俺も少しは成長したかなってすごく嬉しかった。





























結婚式が終わり、やるべきことが終わったらすぐに旅の続きに戻らないといけない。


旅はまだもう少し続く。


大事な運転免許証の更新をし、色々と用事を済まし、出発の日がやってきた。





朝、いつものように美香を会社に送っていく。


暗い空、しとしと雨。


冬の冷たい雨の中、旅中最後になる別れをした。


今日、出発だ。






この数ヵ月、あんなにズタボロになっていた美香との関係。

しかし今回の帰省で、完璧とは言えないが相当修復できたと思う。


プレゼント、結婚式、一緒にいられる時間。


気持ちを確かめ合うには、やはり2人そばにいなければ難しい。



美香、苦労と心配と寂しい思いさせっぱなしでごめん。


だけどもう旅も終盤だよ。


あと1年。あと1年だ。


帰ってきたらずっとそばにいるから。















飛行機の中、窓の外の夜景を眺めながら、映画『夜叉』の高倉健さんの言葉を思い返している。



「目標があって出ていったんやろが。男やったら出たり入ったりすんな。」



日本一周の旅に出て、今まで何度か宮崎に帰省した。


もちろん、寂しいからとか英気を養うためなんかじゃない。


いつも何かしらの外せない理由があったからだ。


帰らずに済んだなら帰りたくはなかった。



待ってくれている人がいるという安心感は、ハングリー精神に大きな打撃を与えてきたと思う。


いくら強がっていてもだ。


あと1年。

次に宮崎の土を踏む時は日本一周が終わる時だ。





と、物思いにふけっていると、あっという間に夜の羽田に着陸した。


飛行機ってすごいもんだ。









………………そして今、埼玉の南栗橋駅にいる。


とりあえず群馬に1番近いところまで行こうと東京から電車に乗り、終着の駅までやってきたんだけど、マジでここがどこなのか全然わからん。


コンビニもない真っ暗の田舎に1人ぼっち。


地図上で今どこなのかもわからない。


何でこんなとこいるんだろ……………





今日は『わんずほうむ』のマスターが迎えに来てくれることになっている。


しかしマスターはケータイを持っていない。


なんとか知り合いのミュージシャン伝いに南栗橋の駅にいると伝言してもらうようにはしたんだけど、ちゃんと伝わってるかな……………


太田から結構離れてるし、道もかなり複雑。


南栗橋じゃなくて栗橋のほうと勘違いしてはいないだろうか。




俺のケータイもさっき電池が切れて今何時なのかもわからなくなった。


ものすごい寒さ。


階段で縮こまってブルブル震えながら、来るかどうかもわからないマスターを待ち続けた。












何十分経っただろう。


猫の足音も聞こえそうなほどの静寂の向こうから、何か普通の車とは明らかに異なったエンジン音が近づいてきた。




「…………カネマルウウウ………………カネマルウウウウウウウウ…………………金ちゃああああああああんんん………………」




寝静まった真夜中の町。



遠くから街宣カー並みの大声が聞こえる……………



あの人しかいねぇ……………



頭おかしすぎるやろ………………




しばらくすると、闇の向こうから爆音を轟かせながらヘッドライトが近づいてきた!!


立ちあがって両手を振った!!



「マスター!!」



目の前に止まったのはジープ!!


て、ていうか何でホロ全開なんですか!?!?







「よし!!これ着ろ!!!」



リュックサックから引きずり出されたのは大量の防寒着。


スキーウェアを2重に着込み、ゴーグルをかけて顔中にマフラーをグルグル巻きにする。



「行くぞおおおおおおおお!!!!!!ウヒャヒャヒャアアアアアア!!!!」



エンジンがものすごい音でうなり声を上げ、いたるところから飛び出た煙突が煙を吐き出した。



夜の闇の中を突っ走るジープ。


風除けとかまったくついてないから予想通り顔が一瞬にして凍りつき、全身激痛でひび割れそうだ!!



「イエエエエエエエエエエエエエエイイ!!!気持ちいいいいいいいいいいい!!!!ウヒョオオオオオオオオオオオ!!!!!」



「………………し……死ぬ……………」



「うひゃひゃひゃあああああああああ!!!!そんな気持ちいいかあああああああ!!!!しっかりつかまってろよおおおおお!!!ゲハァァァ!!!」



サナギみたいに服をグルグルに着込んでる俺がこんなに死にそうになってるのに、マスター普段着。


完全にイカれてる……………


この人痛覚がないんだろうか……………?






激痛に気を失いそうになりながらも、向かうべきところははっきり見えている。


来年の誕生日、すなわちクリスマスイブに再会しようと美香とかわした約束。


リミットはあと1年。


宮崎に到着したとき、黄色いハンカチは結んであるかな。




2006年、旅最後の年だ。





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