2005年12月28日 【関東後半】
さて、明日から高速バスで東京を離れることになるんだけど、この大都会には何日間も車を置いておける隙間なんてどこにもない。
コインパーキングなんてもってのほか。
何万円かかるかわかったもんじゃない。
んんんん……………関東で頼れる人って誰かなぁ………………
「イイヨオオオオオオオ!!!何年でも置いてってイイヨオオオオオオオ!!!!げはあああああ!!」
うん、ここなら大丈夫と思いました。
太田『わんずほうむ』のマスターに電話して、店の駐車場に車を置かせてもらえませんか?とお願いしたら2つ返事でOK。
さすがマスター。
というわけでこの日は車を走らせて太田市に向かい、夜に今年最後の路上をした。
翌日。
わんずほうむのソファーで目を覚ました。
テーブルにはゆうべの焼酎のボトルとグラスが散乱している。
夜の店で寝て朝に起きると、なんかまるで違う空間にいるような不思議な感覚になるんだよな。
車の中をひっくり返して荷物をまとめた。
服とかはほとんど持って行かないんだが土産物やらが多くてバッグが肩に食い込む。
さらに両手にギターと手さげバッグ。
30キロはあるぞ……………
きつい移動になりそうだ。
ありがたいことにわんずマスターがファントムを運転して東京駅まで送ってくれた。
赤レンガの東京駅。
周りは丸の内のオフィスビル街が広がっている。
東京のど真ん中ってのはわかるんだけど、それにしてもなんだか異常に人が多い。
警備員さんに話しかけてみた。
「ああ、東京ミレナリオってイルミネーションのイベントがあるんだよ。17時に点灯だから。毎年初日だけで30万人も来るもんだから大変だよ。」
お、そりゃ面白そうだ。
ちょっと見ていきましょうか?とマスターを誘うと、
「綺麗なものには興味ない。げはぁぁぁ!!」
とファントムに乗って群馬に戻っていった。
年末の人混みに揉まれながらミレナリオを見て周り、時間になってバスに乗り込む。
走り出し、静かな車内で日記を書いているとすぐに電気が消えた。
寝ろ、ということらしい。
東京の明かりが窓から消え、山の中の高速道路をすごいスピードで走っていくバスの中、無理やり眠りについた。
翌日。
9時間の移動を終えバスを降りると、狭い座席のおかげで体がバキバキに凝り固まっていた。
寝不足の体にクソ重い荷物を担がせる。
肩が痛い。
背骨がきしんでいる。
ここは岡山駅。
ここからお母さんの実家、川上町まではヒッチハイクで行かなければいけない。
朝っぱらの町を歩き車を止められそうな場所を探す。
昨日宮崎県を出発したお父さんたちは、すでに川上町のお婆ちゃんの家に着いているはずだ。
1発目の車で倉敷まで進む。
乗せてくれたのは保険調査員のおじさん。
怪我していないのに怪我していると嘘をついて保険手当てにありついている人の嘘をあばくのが仕事だなんそうだ。
「体調悪くて酒を飲んだらいけんって医者から言われてるスナックのママがいてのぉ、酒飲んどったら保険おりんのじゃあ。そんで客の振りしてそのスナック行ってなぁ、したら普通に飲んどるんじゃあ。それを写メールで撮るんじゃ。ぼっけぇおもれぇで。」
2台目に止まってくれた車に乗りこむと、ゴールデンレトリバーが飛びかかってきた。
めちゃくちゃかわいい!!
岡山ではちょっと有名な犬というラッキー君。
飼い主の姉妹と楽しい会話をし、目的地の井原駅に到着した。
ここから先お婆ちゃんちまではものすごい山奥に入っていくことになり、車がほとんど通らないので、お父さんたちがスーパーに買い物ついでに迎えに来てくれることになっている。
待ち合わせは17時。
まだ昼の12時。
相当早く着いてしまったな。
俺のヒッチハイクの腕もなかなかのもんだ。
「ラッキーと遊ぶ?」
時間があると言うと、お姉さんたちが近くの公園に連れて行ってくれた。
芝生の上でラッキーとたわむれ、しばらくしてお姉さんたちは帰って行った。
えー、時間は…………13時半。
まだ時間ありすぎ……………
仕方ないので駅の待合所のベンチで眠った。
ああああ、肩痛い…………荷物重すぎ………………
17時になり、時間通りにお父さんお母さんが駅にやってきた。
これが1年1ヵ月ぶりの再会。
不思議な感覚だ。
一瞬、誰だろう?って感覚におちいってしまった。
まぎれもなく俺の親だ。
うれしそうな2人と一緒にスーパーで買い物をした。
久しぶりのお父さんとお母さんの空気。
西日本の空気。
年末の空気。
歳が朽ちて終わり、新たに生まれそうなこの1年の端っこの空気。
懐かしいな。
山に入り、お婆ちゃんちに到着した。
荷物を背中から降ろし、早速コタツに入る。
炬燵なんてのも久しぶりだな。
なんにもしなくても風呂が沸き、風呂からあがればタオルと寝巻きが用意されていて、なんにもしなくても料理が目の前に並び、なんにも言わなくても茶が出てきて、当然のようにふかふかな布団が敷いてある。
子供ってのはいい身分だ。
守られまくっているのをこれでもかと実感する。
そして毎日接している知らない大人たちと違って、親は自分の子供の扱いを全てわかっている。
心地よい距離感。
富良野の中田のおじちゃんにいただいた新潟の甕酒を親父と酌み交わし、ほろ酔いでおでんと焼肉を食べ、年末の特番を見る。
偉そうな男衆、ばたばたと動くのは女衆だけ。
これが田舎、これが里帰り。
お母さんはいつもこうして家族のために頑張ってきたんだ。
みんな早々と寝床につき、俺1人テレビを見ながら茶を飲む。
夜中の4時くらいまでぼんやりして、俺もお父さんたちの眠っている部屋に入る。
兄貴は帰ってきていないので3人並んで川の字だ。
至れり尽せりでふかふかの布団。
ほーんと子供はいい身分。
つーかもう子供じゃないんだけどね。
親からすれば子はいつまでも子だ。
ここがお母さんの実家なんだよなぁ、ってしみじみ思いながら目を閉じた。
翌日、昼に目を覚ますと、家の中はすでに賑やかな声が飛び交っていた。
のそのそと起きあがり、炬燵に入り茶をすする。
しばらくするとお母さんの弟、シゲ叔父さんが家族でやってきた。
2年前にバイトでお世話になって以来だ。
叔父さんが持ってきてくれた大量の新鮮なウニ、エビ、ホタテ、牡蠣を炭で焼く。
汁が噴き出しパカッと口を開けたら食べごろだ。
しょっぱい磯の香りとトロリとした食感。
みんなでワイワイとほおばりながら明るいうちからビールを飲む。
岡山の山の中なので風が冷たく、日陰には雪がある。
みんな寒いと縮こまっているが、俺は別にどうということはない。
極寒の北海道での旅話に驚くみんな。
家の中に入り、今度はすき焼きを食べながらレコード大賞、紅白、格闘技、お笑い、色んな番組を見る。
今ごろ都心のマンションはすっからかん、逆に日本中の過疎の村で賑やかな宴が開かれているんだろうな。
今まで訪れた小さな町の風景が頭に浮かぶ。
ボロボロの集落、温泉地、離れ小島、今年もたくさんのところに行った。
そしてそれらの全てが誰かの故郷だった。
みんなこうして家族が集まって紅白見てるんだろうな。
行く年来る年が始まった。
雪の中、おごそかに寺や神社に詣でる人々。
何百年も続いてきた日本人の風習。
日本中の人々が今、夜の闇の中を歩いている。
かと思えば、でかいスタジアムやライブハウスでライブが大盛り上がり。
どっかの砂浜、小さなスナックでカウントダウンコール。
1人ぼっちの部屋の中、冷たい路上、1億人分のさまざまな時間が流れている。
ホラ、除夜の鐘が鳴った。
歳神様がすべての人に歳を配って回り、2006年が始まった。
最高にうまいお婆ちゃんの年越しそばを食べて酒を飲む。
今夜もまたみんな先に寝てしまい、俺1人でテレビを眺める。
寝静まった家の中。
みんな戸を挟んだすぐそこにいるのに、あまりにも静かで、取り残されたような寂しさを感じてしまう。
いい正月だ。
旅のことも音楽のことも、ここにいると忘れてしまう。
いい正月だ。
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