2005年12月25日 【関東後半】
今日は、先週の日曜にズタボロの惨敗をした前橋クールフールで、汚名を挽回するため飛び入りで歌わせてもらうことになっている。
緊張する……………
前回の恐怖が蘇って胸がキューってなる。
またあんなことになったら立ち直れんよ。
でもそれを乗り越えてみんないいミュージシャンになっていってるんだもんな。
ビビって逃げてたら成長はない。
キツい環境を恐れたらいけない。
夕方、いつもの新島湯に入り、前橋に出発しようとしたところで、わんずほうむに忘れ物をしていることに気づいた。
もうそろそろお店開いてるかな?と行ってみた。
わんずほーむの中に入ると、あれ?
ロータスさんが歌ってる。
あれ?
とんびさんもいる。
「何やってるんですか?」
「ネテナインデス……………げはああああ…………」
ゆうべあれからカラオケ大会やったり表の公園でキャッチボールしたりして一睡もせずに遊んでたそうだ。
イカれてる…………
みんなグッタリ肩を落としている。
まだちょっと時間があったのでライブ見ていくかなとソファーに座ると、ロータスさんの次にとんびさんがステージに上がった。
憔悴しきってはいるものの酒は入っていないようで喋ってることがまともだ。
ここにきてやっとしらふの演奏が始まった。
………………つーかギターうますぎ!!!
ヴォーカルは高音部が出ないけど声を枯らしながらのシャウト。
『この大きな木を守りたい』ってバラード。
なんていい曲なんだ。
弾き語りで、音楽で泣きそうになったの初めてだったかもしれない。
男の弱さ、人間臭さ、優しさが滲んでて、じんわりと心に沁みこんでくる。
とんびさん大好きだ。
「おい!!クール行くんだろ!?勢いつけていけよ!!」
ということで俺も3曲ほど歌わせてもらった。
ゆうべのタマキチさんのアドバイス通り、初めて立って演奏してみる。
全身が客席にさらされてなんだか落ち着かない。
でもこの落ち着かなさこそがいい味になってるのかもしれないな。
車を走らせ前橋に到着。
いつもの雑居ビルに入ってクールフールの前に着くと、中からガヤガヤと賑やかな音が聞こえてくる。
ふうううう、と深呼吸。
よし、意を決してクールフールのドアを開けた。
「おう、ここ座んな。」
声をかけてくれたのはあのゴリゴリの弾き語りシンガー、浜田正さんだった。
カウンターの自分の横に呼んでくれる。
すでに演奏が始まっていて、ステージでは無精ひげにハンチングの男の人がヤバいブルースギターを弾いていた。
横浜から来ているという故倉ヤスヒロさんというかただ。
マジでセンス良すぎ!!
こんなネイティブでかっちょいいブルースの弾き語り、今まででトップだ。
こんな小さな店なのに、なんでクールフールに来るミュージシャンってみんなとんでもない腕前の人ばっかなんだろう?
次に浜田さん登場。
やっぱり彼の骨太なフォークは最高だ。
最後の曲ではお約束の弦ぶち切りフィニッシュ!!!
かと思いきや弦4本でもう1曲。
いやーーー、浜田さんカッコよすぎ!!
そんな浜田さんの熱いライブで会場がめちゃくちゃ盛り上がったところで………………
そうです、俺の番………………
恐る恐るステージに立つと、やはりお客さんの品定めするような視線。
この前の惨敗の苦い思いが蘇って手に汗が滲む。
でも今日の俺はこの前の俺じゃねぇ。
全部さらけ出す。
全部ぶつけるんだ。
思いっきり1曲目を歌い終えた。
「金丸君、2曲じゃなくて3曲いいよ。」
マスターがカウンターから言ってくれた。
やった!!
手ごたえありだ!!
なんとか3曲歌いきり、拍手の中カウンターに座った。
「うまい。うまいよ。でも何か足りないんだよな。10年後が楽しみだわ。」
辛口で評判のクールマスターに、どんな形でも「楽しみ」と言われたことがたまらなくうれしかった。
今日のライブのトリはMAMAという女の人。
その名の通りスナック『子猫』のママさん。
胸を強調した服を着たセクシーなお姉さんで、色っぽい大人の女の歌を聞かせてくれた。
晴れ晴れとした気分で川崎に向かった。
部屋には光ちゃんが1人でいた。
富良野の中田のおばちゃんから届いていたクリスマスケーキを、ユウキとタカフミの分を残して2人で食べた。
「うまいね、光ちゃん……………光ちゃん?」
「ぐーぐーぐー。」
「ええええ………………」
食って一瞬で寝てしまった。
まぁ疲れてたんだろうな。
たかふみは相変わらず上司に連れまわされていて、すでに2日間部屋に帰らず麻布あたりの飲み屋と店の往復をしているようだ。
起こさないようにそっと部屋を出て車で日記を書く。
2005年、今年の全てのライブが終わり24歳になった。
この1年で何曲歌うんだろうな。
いい年のとり方が出来たと思う。
来年もこう思えるといいな。
わんずほうむのみんな、中田のおばちゃん、祝ってくれたみんな、本当にありがとう。
年の瀬が近づく27日。
この日、俺は横浜の日本大通駅にいた。
駅の出口である人を待っていると、しばらくして髪ボサボサでヒゲ伸び放題のなんともオフィスビル街が似合わない男の人が歩いてきた。
似顔絵描きの黒田さんだ。
「それじゃあ行こうか。」
黒田さんについて、近くの居酒屋に入った。
忘年会で賑わう店内はそこら中で3本締めの嵐が起きてて、この上なくやかましい。
「あー、黒田さんお疲れ様でーす。」
「あー!!黒田さーん!!」
たどりついた席は、この前まで開催していたアートイベント『横浜トリエンナーレ』のサポータースタッフの打ち上げ席だった。
みんな黒田さんには挨拶するが、俺には、「誰?」っていう視線。
そりゃそうだ。
黒田さんに誘われて来てみたものの、俺みたいななんの関係もないやつがこんなとこ来ていいのか?
気まずすぎるんですけど……………
なんとか黒田さんの隣に座って乾杯したんだけど、アートやってるやつらってなんかとっつきにくいんだよなぁ。
なんとなく色眼鏡で見てくるし、どう?すごいでしょ?的な上から目線な雰囲気。
いーからとりあえず飲もうぜー!!なんてのはとてもじゃないが望めない。
まぁあまり気にしないでメシ食って飲みまくる。
え?誰?みたいな目で見られているけど知ったこっちゃない。
この時期、都会の居酒屋は回転のために2時間制になっていて、時間が来たらとっとと店から締め出された。
みんなでゾロゾロと場所を移動し、みなとみらいの岸壁にある、倉庫を改装したカフェバーでの2次会にも図々しく参加。
酒の力で打ち解けて輪の中に…………ということもなく、やっぱりここでも気まずいまま。
なんか馴染めないなぁ。
電車の最終が近づいてきたので帰ろうとすると、黒田さんが駅まで送ってくれた。
日本大通駅の構内のベンチに座り、ひと気のない静かな中、2人座って缶コーヒーを飲んだ。
「人間には振れ幅ってのがある。高いところで振れてる人もいればすごく低いところで振れてる人もいる。それぞれで感じ方って違うんだよね。俺はそれをその人に合わせて絵を描くことができる。歌も同じことだろうね。」
黒田さんはこれからバングラディシュに旅に行き、帰ってきてからはロボットを造るというプロジェクトに参加するらしい。
すごい人だ。
すごい生き方だ。
俺はまだまだアイデアが乏しい。
もっともっと新しい角度のアイデアを生み出したい。
そのためにはどんどん新しいことに挑戦しないとな。
黒田さんに手を振って改札をくぐった。
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