2005年12月19日【関東後半】
元住吉。
光ちゃんの部屋でタカフミとビールを飲んでいる。
テレビでは監禁王子の裁判が報道されている。
出会い系で知り合った女を自分の部屋に住まわせ、ご主人様と呼ばせ、殴ったり蹴ったり色々と命令したり、そんな生活を送っていたんだそう。
顔がよかったから監禁王子なんて呼ばれているらしい。
被害者は何人かいたようで、その1人が顔をふせてインタビューに応えていた。
顔が見えなくても、アニメ声のアキバ系の女の子。
アキバの女はアニメの世界に自分をシンクロさせて進んでメイドを楽しんでいる。
命令されて尽くすことに快感を覚えるのかな。
この事件はちょっと度が過ぎたんだろうが、世の中こんな性癖で楽しんでいるやつらなんか腐るほどいる。
王子は女の扱いがちょっと下手だったんだな。
耐震偽装問題のニュースもやっていた。
鉄筋量のほかに、生コンも薄めるコスト削減が行われていたという。
危険ということでマンションを出ることになった住民は新しい住居との二重ローンで首が回らなくなっているし、二重ローンということで不動産屋が貸し渋り、部屋が決まらないと嘆く家族。
ひどい話だ。
しかし、日本は宇宙から見るとその全土が隙間なく明かりで埋め尽くされ、地図と同じ形で浮かび上がっているというほどに建物の多い国。
こうやって手抜きで作られた建造物なんていくらでもあるだろうな。
実際今テレビを見ているこの光ちゃんの部屋もびっくりするくらい傾いていて、玄関のドアなんてフルパワーで押さないと開かない。
関東大地震の日も近のかもな。
さて、群馬・山梨が一旦終わり、さっさと先に進もうかというところなんだけど、なんだかんだ色々と用事があってまだ関東から出ることができなかった。
ボーダフォンのショップでケータイの充電を復活させ美香に電話をかける。
「ていうか今年はもう動かんちゃろ?ならそっちで稼いでもこっちで稼いでも一緒やん。帰ってきてよー。」
楽しそうに話す美香。
再会が近くなり最近は昔の甘えん坊に戻ってる。
テディーさんの結婚式は年が明けてから。
1月の頭に宮崎に戻ろうと思っていたのだが、考えればもう正月は2年帰っていない。
去年の正月なんてお父さんお母さん、実家の岡山に帰ろうとしたが雪による交通規制で急遽帰ることができなくなり、宮崎に戻ってありあわせでご飯作って、何とも味気ない正月を過ごしたと言っていた。
たまには一緒に過ごさんとな。
あああ、年越しから帰ろうかなぁ……………
「よし!!キまった!!年末で安い飛行機チケット探しとくから。はい、決定。今夜も頑張って稼いでください。」
うれしそうな美香。
んー…………本当はあんまりちょくちょく地元に帰るのは嫌なんだよなぁ。
日本一周するって言ってまだ終わる前からゴールを行ったり来たりするなんてやっぱりちょっと違うよなぁ。
だから、今回の結婚式みたいにどうしても帰らないといけない時は、なるべく知り合いに会わないように短期間だけ帰るようにしている。
でもやっぱり親や友達や美香には会いたいんだよな。
年末にむけ、少しずつ特番が増えてきた。
テレビをつけてもラジオをつけてもクリスマスクリスマス……………
街はサンタクロースの格好のピザ配達や店員、華やかな飾り付けで大盛り上がり。
俺もなんかしなきゃな。
そうそう、そんな俺にもクリスマスらしい予定は入っていた。
前回千葉を回った時にお世話になった館山市のメンズパブ『モンシェリー』。
あそこのマスターに24日にライブ用意するから歌いに来な!!ばっちり人集めとくから!!と言われていたんだけど、酒の席での話だったのでかなり怪しい。
一応確認しておこうと電話してみたら案の定こういう内容。
「うーん、金丸君どうする?来る?おそらく通常どおりの営業になるだろうし、せっかくのクリスマスだし、他に予定があったらそっち優先してもらってもいいよ?」
「他行きます。」
こんなこったろうと思った。
よくある話だ。
群馬のわんずほうむからもライブの誘いが来ていたし、千葉行きは中止で群馬だな。
というわけで群馬に向け走る。
木曜に群馬に入って月曜に川崎に戻るというパターンがもう何週も続いている。
おそらくこれが今年の歌い収めになるだろう。
気合い入れていくぞ。
たどりついた前橋の街。
明日から3連休ということで車も人の数もハンパじゃない。
ネオン街のいつものケンタッキー前に行くと、サンタの格好をしたミニスカートの夜の女の子が目立つ。
いつもの呼び込みの兄さんにコーヒーをおごってもらい、路上開始。
いやー、いつも特に書いてないけどほんっと寒いから!!
マイナスだから!!
体が硬直し歯を食いしばりすぎて顎が痛い。
指が感覚を失い声が震える。
おかげで変な発声になってしまい声が枯れてしまうんだよな。
あまりにも寒いので、他の路上やってるやつで指先だけ空いてる手袋をしてギター弾いてるやつも結構いる。
それダメだろ?って思ってたら、中には指も空いてない普通の軍手で弾いてるやつもいるみたいだ。
音出らんやん。
いくら寒くてもそれはナシだ。
ブルブル震えながらも根性で歌い続けなんとか12000円。
ギターを片付けていると、わんずほーむから遊びに来なよーと電話が入る。
もうほとんど友達のとこに遊びに行くような感覚だ。
お金はあんまりないんだけど、わんずほーむでは今までどんなに飲みまくってもなぜか1600円以上払ったことがない。
「1600円ね!!」
「1600円でいいよ!!」
マスター1600円って数字が好きなんだろうな。
翌日。
昼くらいに目を覚まし、県道2号線沿いにあるラーメンショップ『ふらの』に寄ってみた。
大好きな大好きな富良野の名前のラーメン屋だもん。
ずっと気になってたんだよな。
「大将、富良野の出身なんですか?」
「いや、違うよ。北海道にも行ったことないな。」
がっくり。
味も全然。
あー、千石食堂の味噌ラーメン食べたい。
前橋の銭湯『松の湯』は町場の銭湯の面影を残した古いお店。
360円でさっぱりしたら、さぁ今日も極寒の路上。
いつもの場所で歌うんだけど、この日はまったくダメだった。
やっぱりクリスマスイブイブ。
パーティーでもやってるんだろうか。
おかげでチップも伸びず2000円止まり。
日付が変わり、路上で24歳を路上で向かえ、今時な若者のゆうたん・けいたんコンビに祝ってもらった。
そんなクリスマスイブ。
車に戻りぶ厚いスキーウェアを着込む。
最初は氷みたいに冷たくなっているウェアも、フードをかぶって服の内側に吐息を吐いて毛布にくるまればなんとか寝れそうな温度になる。
いつも路上に出る前に貼るホッカイロが腰のあたりで熱をもっている。
横になるとリアガラス越しに星空が見える。
うん、これも悪くない誕生日だ。
翌日。
目を覚まし、スキーウェアのまま17時まで車の中でギターを弾きまくった。
これから新島湯に入ってわんずほうむでライブ。
時間があればそのまま路上。
歌い尽くしのバースデイだ。
準備万端でわんずほうむのドアを開ける。
早速おっぱじまってる。
飲みが。
ライブじゃなく。
すでに泥酔して半ケツになってるわんずマスターが奥に入って行ったかと思うと、ロウソクに火を点したケーキを持ってきた。
ケーキには『ふみたけ』のチョコ文字。
えええええ!!!噓おおおおおおお!!!!
「ハッピーバースデートゥーユー!!」
「げはあああああ!!」
まさかこんなことしてくれるなんて!!
火を吹き消してシャンパンで乾杯。
嬉しいけど、とても今からライブが始まるような雰囲気ではない!!!!
たたの飲み会!!!
でもそれがわんずほーむ!!!
さぁ、飲めや歌えやの狂乱の夜の幕開けだ。
まずは堀口空元気さんのフォーキーなステージ。
すでに酔っ払ってるみんなは、いてもたってもいられなくなりそれぞれ演奏に参加していく。
その中でも一際グデングデンなのが、今日のライブのメインであるとんび晴之信さん。
詳しくは聞いてないが、あの前橋『クールフール』のマスターと以前『ばちかぶり』というパンクバンドをやっていたという経歴を持つこの人。
フラフラとステージに上がり空元気さんの横でギターをかき鳴らす。
かき鳴らすだけならまだよかったんだけど、曲が終わってもとんびさんだけ弾くのを止めない。
戸惑いながらもみんなそのペースに合わせようとするが、チューニングも合ってないしキーもメチャクチャで、よろけてマイクスタンドを倒し、暴れてアンプをひっくり返した。
次のアブノーマルジェネレーションのステージになってもそんな調子でずっとステージに居座ってギターを弾くのを止めない。
1人だけ完全にトリップしてる。
いくら言っても何も言うことを聞かないので、ついにあの何でもアリのわんずマスターが、ハサミを持ってきてとんびさんのギターの弦を1本だけ残してぶち切った。
が!!!!
それでも止めない!!
弦1本なのにトリップして手を動かしまくっている。
この人ヤバすぎるだろ……………
マスターが残りの1本もハサミでちょん切り、やっとこさとんびさんをかつぎ上げてステージから引きずりおろして一段落。
このやりにくい状況を打ち破ってくれたのがロータスさん。
さすが!!
1曲で自分のペースに引き込み店内がピシッと引き締まった。
ソファーで死んだようになってるとんびさんもこの演奏に体を動かしている。
「…………いいよ…………いい…………………ロータスー!!!!!おめーすげぇよおおお!!!うーん………………」
またヨロヨロとステージに上がり、今度はドラムを合わせだしたとんびさん。
これがめちゃくちゃうまい。
ロータスさんの気迫に合わせて少し控えめな、でもバッチリきまってるアレンジ。
やっぱこの人、すごい人なんだ。
そして次が俺。
ステージの目の前に美香との電話を繋ぎっぱなしにしたケータイを置いて、あいつの好きな曲をたくさん歌った。
「どうだった?」
「最高のプレゼントやったよ。」
「おらぁぁぁぁぁああああ!!!!!金丸うううええ!!!!いちゃいちゃしてねーで早くアンコールだよぉぉぉぉおおおおお!!!!!!!げはああああ!!!」
チカラさん、ロックギター弾きのセイカさんの演奏が終わり、ついに大トリのとんび晴之信さんの番になった。
なのだが、すでに精根尽き果てており、ヨロヨロとステージに上がる足元がおぼつかない。
演奏は全て即興。
ていうかもはや演奏というレベルじゃない。
延々と不協和音と絶叫…………
「ばかやろおおおお!!!!俺の……………俺のばかやろおおおおお!!!!……………自分を責めるなよ……………」
何時間そんな演奏が続いただろう……………
客席のみんなも疲れ果ててきた深夜2時。
最後の最後に自分の歌を歌ってくれた。
さっきまで泥酔して物ひっくり返しまくってた人がピタッと、なんともきれいにギターを構えた。
優しい言葉、メロディー、弱々しさ……………
やばい。ほんとに泣きそうになった。
一瞬で虜になってしまった。
この胸に迫る本物のオーラ。
やっぱこの人すごい。
なんてカッコいいんだ……………
そんなとんびさんのライブも終わり、それからみんなでまったりと飲んだ。
ミュージシャンたちがゾンビのようにフラフラ歩いてる店内。
ソファーで寝てる人もいれば、パンツ1枚で叫んでる人もいる。
「金丸、俺はなぁ、金丸に結構夢見ちゃってるんだよ。最初にお前のステージ見たとき、『ギラッ!!』ってもんを感じた。いろんなやつを見てきたけど、この『ギラッ!!』を持ってるやつはなかなかいないんだよ。金丸、今度から立ちでやってみろよ。座って歌うスタイルじゃないよお前は。お前はロックやってるよ。」
そう言ってくれるタマキチさん。
もう朝の5時。
俺は今どんどん成長している。
すさまじい勢いで道が拓けていく。
24歳、きっとすごい年になる。
いや、してみせる。
音楽が楽しい。
ライブが楽しい。
胸が高鳴ってしょうがなくて外に出た。
明けていく夜の空。
まるで閉じ込められていた箱がゆっくり開いていくようだった。
Singin’ to the rainbow and clouds will be gone。
夜はもう開けたはずさ。
リアルタイムの双子との日常はこちらから