2005年11月27日 【関東後半 群馬県】
太田に『群馬泉』という山廃仕込みが有名な蔵がある。
しかし空気中の微生物から酒母を造るという繊細な作業をメインにしているため、山廃の蔵はなかなか見学をさせてもらえないんだよなぁ。
電話してみると案の定、見学は受けてなかった。
関東の酒蔵のメインと思っていた『神亀』にも電話してみたがここもダメ。
一升瓶の首に、「35歳以上の人生の機微がわかる人しか飲んだらいけません」みたいなことを書いたラベルを引っかけてるというかなり攻めた酒蔵なので、見学したかったんだけどなぁ。
はぁ…………最近蔵行ってないなぁ。
もう今年の造りは始まってるってのに。
ウッドストックという名前の楽器店で弦を購入し、久しぶりに弦を張り替えた。
最近、弦代をケチってしばらく張り替えてなかったからな。
2・3・4弦はもう何度切れて何度結びなおしたかわからんくらい。
ゆうべついに2弦がネックの真ん中くらいでブチ切れてしまい、再生不可能になったんだが、それを無理やり結んで弾くという荒技通り越して反則行為で凌いでみた。
さすがにもういい加減限界だ。
山形から使っていた500円の安物のカポタストもこれまで。
2500円の上等なやつを購入。
弦を張り替えたら別モンのギターじゃないのか?っていうくらい綺麗に鳴り響いた。
それもこれも、今夜のためだ。
久しぶりのライブ。
気合充分。
いきなりだといい声が出ないので、太田の駅前でしばらく歌い、喉を暖めてからわんずほーむに向かった。
「おー!!来たねー!!今日は何があっても帰さないからなぁ…………!!げはぁぁぁぁ!!」
店内ではすでに数人が楽器を触っており、ライブ前の緊張感が漂っていた。
今夜のライブの出演者は5組。
みんなこの辺りでは名の知れたミュージシャンなんだそう。
ぼちぼちお客さんが集まってきたところでライブがスタートし、いきなり1発目で俺が歌うことになった。
めちゃくちゃ緊張しながらも、気合で4曲、アンコールで2曲、さらにアンコールでみんなバックに加わってくれスタンドバイミー。
飛び入りなのに7曲もやらせてもらった。
ああああああああ!!!!!
緊張から解き放たれて嬉しいいいいいいいい!!!!
このライブ後の感覚気持ちいいいいいいい!!!!
さぁこっからライブの本番スタート!!!!
1番手 『LOTUS』
前橋から来てるロータスさん。
ギターにハーモニカのスタイルで、1曲目にディランの『アイシャルビーリリースト』の日本語カバーをやってくるちょー渋い人。
空気感持ってたなぁ。
ステージの上の空気をしっかり自分の色に染めてた。
『林さん』
路上ミュージシャン。
ハスキーな声で力強い歌だった。レベル高い。
『浜田正』
この人すごかった。
ギンギンのギターにシャウト気味のヴォーカル。
楽曲の完成度もすごく高い。
こんなに熱くなる演奏久しぶりだった。
一気に客席のボルテージも上がり、最後は弦ぶち切って終了。
この人すごいわ。
ソッコーでCD買ってしまった。
『今井洋一』
ギター弾き語りの兄さんとソルティーさんというドラマーとのコンビ。
ビートルズファンの公認ライブコンテストでグランプリを獲るほどの実力者で、爽やかなポップス、ブルース、バラードと飽きさせないセンス。
めちゃくちゃ上手え……………
痺れるわ………………
『アブノーマルジェネレーション』
その名の通りど変態な歌詞をファンキーに歌い上げるバンド。
バンドといっても固定メンバーは2人。
どういうことかというと、毎回その場にいるミュージシャンに入ってもらって打ち合わせ無しでセッションみたいに演奏するという綱渡りバンドなんだそう。
「よっしゃ!!次はB♭のエジプトっぽい感じで!!カモン!!」
店内にいた楽器弾きたちがテキトーにステージに上がり、ただそれだけの情報でばっちりキメてくる。
みんなすげーうまい!!
ライブが終わり、そのままのテンションで打ち上げスタート。
アコースティック専門のライブハウスって珍しいのかと思っていたら、前橋にもこういった弾き語り系の『クールフール』というライブハウスがあるらしい。
今度紹介してやるとのこと。
いろいろ情報ゲット。
「弾き語りやってるんなら遠藤ミチロウのライブは見なきゃいかんな!!」
遠藤ミチロウ…………
今まで色んなライブハウスで耳にしてきたこの名前。
一体どんな人なんだろう?
いつか会える日が来るのかな。
みんな帰っていき、今井さんたちもソファーで爆睡し、マスターと2人静かな店の中で飲んだ。
いい出会いがあった。
来てよかった。
胸の中にフツフツと熱いものがこみ上げてくる。
俺も捨てたもんじゃない。
もっと上達したい。
火照った体で外に出た。
冷たい冷気が体を包むが、全然寒さを感じない。
何だこの感覚。
今まで弾き語りやってきたのに、今日のライブで弾き語りってものがまるで別モンに見えるようになった。
俺今まで何やってたんだ。
全然音楽の深いところに顔を突っ込んでなかった。
弾き語りってすげぇ。
音楽ってすげぇ。
音楽で身を焼きたい!!
俺はもっといける。
こんな熱い気持ち初めてだ。
明け方の空。
何か新しい扉が開いたようなとてつもない興奮を感じながら、明るくなる空を見つめた。
翌日。
嬬恋方面に走るファントムの車内にかかっているのは浜田正さんのCD。
ゆうべの興奮はまだ冷めていない。
どうしたもんか手汗が止まらない。
もっといい曲を作りたい、もっとかっこいいライブをしたい、もうずっとそのことが頭の中をぐるぐるまわってる。
ドキドキが収まらないまま今日1発目の目的地、吾妻渓谷に着いた。
この吾妻渓谷は関東の耶馬溪といわれる紅葉の美しい景勝地。
しかしあと数年でダムが出来、峡谷の半分が水没してしまうそうだ。
少し上流にある、これまた水没の運命にある川原湯温泉へ。
森の中にある聖天様露天風呂に浸かりながら、地元のじいさんとお喋りした。
趣味で狩猟をやっているというこのじいさん。
かなりのツワモノで、3ヶ月間の狩猟解禁期間に雪山を駆け回り、猪をシーズン10頭は仕留めるらしい。
猪はその場で解体。
だいたい20キロごとに切り分けて持って降りるんだそうだ。
雪山を20キロ担いで降りる?
すごい体力だ。
「オヤジ(猟犬に対しての自分)が逃げ腰だと犬は全然働かないからな。こんなやつとはやっとれん、って愛想つかされちまうんだ。それに仕留めるときは1発でキメねぇといけねぇ。犬は撃った瞬間に獲物に飛びかかるからな。不十分だとまだ暴れて牙で犬が殺されちまうんだよ。」
仕留めた猪はキロ4000円くらいで売れるらしい。
1頭しとめれば結構な額だ。
猟犬にもやはりブランドがあるらしく、宮崎には日向犬って種があり、有名どころでは屋久島犬ってのがその道の高級犬なんだそうだ。
「あー、ここらに見えてる家はぜーんぶ沈んじめぇよ。考えさせられるよなぁ。いくら補償金出たところでなぁ。金で買えるもんじゃねぇよ。」
この温泉街、民家はもちろん老舗旅館も食堂も森もみんな湖底に沈んでしまう運命。
信じられないよなぁ。
歴史のつまった故郷がダム湖の底になるなんて。
ここで生きてきた人たちからしたら人生が消されるようなもんだよ。
話では、ダム計画が出てから街に移ったがやっぱりここがいいって戻ってきた老夫婦もいるという。
俺も美々津がこんなことになったらやっぱり力の限り反対するだろうな。
そんな消えゆく温泉街の食堂で腹ごしらえして今日はストップ。
ところで今日は美香の誕生日。
今日を指定日にしてプレゼントを郵送しているので、無事受け取ったかなとウキウキで電話したら、なんのことはない、仕事の帰りが遅くなって不在届け。
感動もへったくれもない。
話していても味気ない会話。
「何度も言ってるけど文武とは一緒になる気はないよ?じゃあ寝るから。おやすみ。」
プツ………プープープー………
へこまされるだけへこまされてフィニッシュ。
はぁ…………曲作ろ。
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