2005年11月4日 【関東後半】
昨日の鎌倉攻めで金がまったくなくなってしまった。
これでケータイ代を収めたらもうほんとにすっからかんだ。
というわけで歌いに行かないといけないんだけど、今回は北の秩父方面を攻めてみることにした。
環状8号線から4号線で所沢市、そして秩父に到着。
よっしゃ歌うぞーと張り切って飲み屋街を探して回ったんだけど、飲み屋街があまりにも小さい。
人も全然歩いてない。
これはまずい…………
つーわけで秩父はすぐに諦め、近くの大きな街を探してやってきたのは熊谷市。
おー、あるある!!
いい感じのネオン街!!!
早速路上開始!!!
が……………入らない。
おかしい。
なんでこんなにみんな無反応なんだろう。
おかしい……………
結局2時間やってみたんだけど、成果は1000円のみ。
こんなもんじゃ終われない!!と場所を移動してみるがいい場所がない。
衛星都市、ベッドタウンは駅前に飲み屋街が集中していて、路上で練習している高校生たちくらいしかいなくて迷惑者扱いだ。
あえなく撃沈。
トボトボと車に戻った。
翌日。
車を走らせて飯能市にやってきた。
今日は夜にこの町でお祭りがあるということで、それまでちょっとドライブに出かけることに。
市内から入間川を遡っていく。
紅葉にはちょっと早いが、結構山も色づいて柿もオレンジ色に熟れている。
田舎の紅葉はまさに日本の原風景だ。
山を登っていくと、正丸峠ってとこにたどり着いた。
このあたりは山が連なっており、尾根づたいに森の中を歩くハイキングコースがあるようで、車を止めて森の中に入ってみた。
風が木々を揺らす音と鳥のさえずりだけしか聞こえない。
こいつはいい場所だ。
この山の中を歩きつづけたらどこまで行けるんだろうな。
夜に飯能の町に戻り、祭りのメインである底抜け屋台の曳き合わせが行われる銀座通りへ向かって歩く。
浴衣と綿菓子、出店の列。
しかし夏とは違い肌寒い。
民家の前を通るとストーブの灯油の臭いがした。
夜の闇もどことなく澄んでいて、賑やかだけど夏のような弾けた雰囲気ではない。
秋祭りは寂しげだ。
銀座通りはすごい人でごった返していた。
ろくに歩くこともできないほどの人混み。
底の抜けた曳き屋台の中で太鼓を叩く男衆、それを取り囲みリズミカルなステップで体を動かす女衆。
あまりの盛り上がりとそのステップにのせられて一緒に踊っている観客もいる。
女性が華となっている華麗なお祭りだった。
祭りを堪能したら今夜は所沢で歌うことにした。
ここもやはり駅前繁華街で、路上で歌っているやつらがわんさかいる。
しかもどいつもこいつもアンプに頼って大掛かりな割にはもっとちゃんと演奏しろよ?って内容。
地面に歌謡曲集みたいなのを置いて、うつむいてボソボソ歌っている奴とか何がしたくて路上に出てるんだって感じだ。
そんなやつらに混じって俺もギターを鳴らす。
しかし今日も反応はイマイチ。
みんな結構聴いていってくれるものの金が入らない。
駅前路上って人は聴いてくれるけど金は入らないんだよなぁ…………
ホームページ載せてくださいよー!!って兄ちゃん、
まだ中学生のプチ家出少女たち、
最後には通り掛かりのバンドマンと1曲セッション。
俺は、路上での出会いを大事にしようぜ!!的なピースな兄ちゃんたちとはほとんどつるまないんだが、まぁこれはこれで楽しいっちゃ楽しい。
でもなぁ…………
やっぱ稼げないとキツい……………
あああ、ガソリン代くらい稼がないと……………
翌日。
なんとか稼がないとマジでガソリン代がヤバい。
衛星都市圏内はあまり期待できないので、今日はちょっと足を伸ばして山梨県まで行ってみることにした。
16号線で橋本、相模湖岸を通って富士吉田市に向かう。
地図で見る限り山梨には甲府市以外目立った街がない。
今夜は吉田で歌って明日はこの富士山北側の一大観光地をグルッと回ることにしよう。
巨大な観覧車と大蛇みたいなジェットコースターがある富士急ハイランドを通り過ぎ、夜になったころに富士吉田に到着。
ここの飲み屋街はかなり見つけにくかった。
人に道を聞きながら2時間くらい町をさまよったな。
ようやく見つけたのはほんとにささやかなネオン通り。
月曜というのもあるだろうが、ほとんどの店の看板に明かりがついておらず、廃墟のように静まり返っている。
こんなとこで歌っていいのか?と思いつつも雑居ビルの前に腰かけ、民家から苦情のこないよう声を殺して歌い始める。
いや……………人まったく通らねーし!!!!
5曲やってやっと1人見かけた。
それでも数人が歌を聴いてくれ結構チップもたまってきたぞ。
よかったあああ…………
これで明日飯が食える。
「あのねー、音楽やってるやつはメジャーになることが1番幸せなの!!それが全て!!メジャーでやらないやつは遊び!!ダメなの!!わかる!?ほらほら、歌って歌って!!休んだらダメだよ!!」
酔っ払ったオッサンが目の前に座り込んでワーワー言ってる。
なんでメジャーにならなきゃ音楽やったらダメなんだよ。
好きでやってたらダメなのかよ。
クソムカつくが我慢して歌う。
まぁ、確かに俺に休む暇なんてない。
気合いで歌って今日1日のあがりを3000円から3100円にしなきゃ。
翌日!!!
ゆうべは路上を終え、7500円のあがりをポケットに入れ、夜中に車を走らせて富士山展望の雄、三つ峠山の登山口までやってきた。
真っ暗な駐車場には他にもたくさんの車が止まっていて、みんな朝を待ち構えていた。
3時間の睡眠をとり、まだ暗い早朝に起き、凍える山中に入った。
真っ暗闇の山の中、落ち葉を踏みしめながら登っていく。
寒さに凍えながらも坂を登る体は熱をはらみ、白い吐息が足元を照らすケータイのかすかな明かりに染まっては消える。
葉の色がしだいに識別できるようになり、木々の隙間から見える山の稜線が蒼い空に波打っている。
朝、6時前。
30~40分も登っただろうか。
すでに空はだいぶ明るくなり、ケータイのライトも必要なくなった頃、展望台に到着。
3人のカメラマンがすでに三脚で立てたカメラを覗き込んでいた。
……………言葉にならない。
……………マジで声が出なかった。
白みがかった雲一つない空にそびえる日本一の山。
蝦夷富士でも出羽富士でもない、正真正銘の日本一の富士山。
先っぽだけ雪をかぶり、惜しげもなくその姿をさらしている。
何も言わない、身動き一つしない、
ただそこにある。
すごすぎる。日本一だ。
日本一の風景だと思う。
地球ってすごい。
マジで生きてる。
「ほら、あそこの山、そこの山、あっちの山、反対側でも湖のとこでも、たった今富士山を囲んで何百人もの人間がカメラを構えてるよ。富士山ってのはカメラマンにとってステイタスであり憧れであり、永遠のテーマなんだよなぁ。」
日本一の風景を目の前に、ガスで湯を沸かしカップラーメンを食べてるおじさんに話を聞いてみた。
もう10年以上も富士山を撮り続けているらしい。
「ぷるるる………ぷるるる…………はいもしもし、あー今日干さないって?わかったわかったー。そろそろ降りるから。」
どうやら他のカメラマンたちと情報交換している様子で、干さないっていうのは今がシーズンの桜海老のことらしい。
静岡の漁港とかで桜海老を干すのが風物詩みたいで、このピンク色のバックに富士山を入れるというのが旬な写真なんだそうだ。
本栖湖、田貫湖などの有名なビュースポットでは都心並みにカメラマンの密度が濃くなり、肩をくっつけ合いながら写真を撮るんだって。
「私が見た1番の富士山はねぇ、2月だったかな、全部雲海に閉ざされていて木々は樹氷で真っ白。富士の先っぽだけが雲からちょこんと出ていてね、あの時はフィルム何本あっても足りなかったよ。」
オジサンはでっかいカメラを担いで笑顔で山の中に消えていった。
俺がオギャーオギャー言ってた時も、三輪車に乗ってた時も、人生についてモヤモヤ悩んでた時も、飲み明かした朝も、こうしてカメラマンたちは毎日毎日富士山を狙ってきたんだ。
今、街のホストクラブでは盛り上がり最高潮。
恋も生まれてる。
寝てる奴、パソコンいじってるやつ、戦争も起きている。
この山は何も言わないぞ。
全てを承知の上なんだ。
1日は誰にだって平等に訪れるんだ。
朝日に燃え上がる紅葉の中を走り河口湖まで降りてきた。
河口湖の湖岸には巨大ホテルがどこまでも並び、湖にはボートやスワンが大量に浮いている。
早起きしてきた観光客たちが道路際やホテルの前で同じ方向にカメラを構えている。
山中湖、西湖、精進湖、本栖湖、そしてここ河口湖がいわゆる富士五湖。
どこからでもきれいに富士山が映り込むのだが、よっぽど風のない日でなければ有名な逆さ富士は現れない。
今日も湖面は揺れているので見ることは出来ないが、もう普通にきれいすぎるからどうでもいい!!
富士山最高!!
カッコつけてセルフタイマー!!!
富士山周辺には名所がちょくちょくあるんだけど、気になっているのは3つ。
ひとつ目は上九一色村の第7サティアン。
まぁ探したけどもちろん見つけられないわな。
次が氷穴。
まぁまぁ面白かった。
そんでもうひとつが、
青木ヵ原樹海。
いわずと知れた自殺のメッカ。
日本中から絶望に打ちひしがれた人間がこの森に入り、人知れず命を絶つ。
衣類や遺書が転がり、吊りたてホヤホヤの自殺体がブドウのようにそこら中にぶら下がってるという風の噂。
いたるところに、
『家族のことを考えてください。』
『思いとどまってください。』
という自殺防止の看板が立っているともいう。
怖いもの見たさの虫が疼く。
自殺志願者の気持ちになってフラリと入っていきそうなポイントを探して樹海の周りを走っていく。
このあたりかなぁ、でももうちょい奥のほうかなぁ、なんて思っていたら、そこにユウキから電話が入った。
「えー!!なにそれめっちゃ面白そうやん!!俺も行くて!!」
というわけで、寝不足だったのもありちょっと仮眠を取ってるうちに横浜から3時間バイク飛ばしてやってきたユウキ。
そんなユウキと森の入り口にやってきて、いざ突入だ。
ていうか森の入り口に旭川ナンバーの車と、宮崎ナンバーのバイクが止まってるとか怪しすぎるやろ。
ネットの自殺志願者サイトで意気投合したみたいだ。
森に入ってしばらく歩きつづけると、それまではかろうじて道みたいになっていたのが、完全に見分けがつかなくなってきた。
それでも木々をくぐり、草むらを乗り越え、ずんずん進んでいく。
目の前に広がる果てしない森。
「えーっと、こっちから来た……………よね?」
「え?こっちやろ?」
「……………………」
「……………………」
波打つ谷を乗り越え乗り越え、台風で倒れた大木の橋をサーカスのように渡り、ひたすら奥地を目指す。
岩場の影を見るのが怖い。
マジで白骨死体とかあったらションベンちびるぞ?
2時間くらいさまよっただろうか。
運がいいのか悪いのか、別に何にも見つからない。
ただの森だ。
もう16時。
このままだと陽が沈んでしまう。
そろそろ戻ろうかと振り返る。
……………………
うん、まったくわかんねぇ。
「太陽背にして歩いてたから、太陽に向かっていけば出られるやろ。」
意味不明なことを言ってるユウキ。
太陽動くやん!!
必死で歩いた。
死体見に入って死体になってたら洒落にならんぞ。
やがて太陽が沈み、森の中が真っ暗闇になり、足元もほとんど見えなくなってきた。
結構半泣きで歩き続ける2人。
「こ、これやべぇっちゃねぇ?……………ねぇ?」
「………………シッ!!……………車の音がする……………………ホラ!!!!」
音のするほうに歩いてたら木々の向こうにフェンスが見えた!!
助かったああああ!!とダッシュ!!
そして勢いよくフェンスに手をかける!!
ぐええええ!!!!
危ねぇ!!!!
そこは10メートルはある崖の上だった。
下を覗くと、ビュンビュン車が走っている車道になっている。
どこだよここ…………?
根性で崖をよじ降りて車道に立つが、どっちに車があるかわからない。
走り抜ける車にはねられそうになりながらヤマカンで歩いていたら、しばらくして車とバイクが見えた。
はああああああああああ………………
よかったああああああああああああ!!!!!!
助かったああああああああああああああ!!!!!
そんなこんなありながら、なんとか富士吉田の町に戻ってきた。
凍えた体を銭湯で温め、気を取り直して路上開始。
昨日と同じ場所に座り、ギターを鳴らして歌い始めた瞬間、怖いおじさんが目の前に立った。
「ゴラァ!!どこで歌っとんじゃボゲェ!!うちの事務所の前でぇ!!」
「ヒイイイ!!!!スミマセンッ!!!」
ギターと楽譜を抱えてコケそうになりながらダッシュでトンズラ。
はぁ…………0円…………
そんなに怒んなくても……………
山でも町でも死体になりかけてしまった。
「ネェ、モウ帰ル?」
ん?
どこからか声が聞こえ、ふと上を見ると、ゆうべ歌を聴いてくれた韓国人の女の子がビルの窓から顔を出していた。
ゆうべも俺が帰るとき、名残惜しそうにしていた。
おいおい、困ったもんだぜ。
こんな旅のギター弾きに惚れちゃいけないぜ。
でもこんな寒くなってきた夜は人肌が恋しくなるもんだよね、わかるよ。
よし、じゃあこれから2人で河口湖にドライブ行って僕の逆さ富士を、
「ネェ、モウ帰ル?オミセ来テ。エ?オカネナイ?ジャネ。」
パタン。
窓が閉まる。
キエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!
金ないいいいいいいいいいいいい!!!!!
ふん、夜の女なんてこんなもんさ…………
はあああ、稼がないとマジでやばい。
まだ23時30分!!!
まだいける!!!
近くで栄えてそうな街は甲府市くらいしかないので、1時間かけてかっとばして甲府に到着して結構栄えてるネオン街の真ん中に行ったら長渕のモノマネしてるオッサンの弾き語りの人がいてそこから離れてヨッシャいくぞ!!と気合いで歌ってなんと1000円でフィニッシュ!!!!
マジで関東稼げねえええええええええええ!!!!!
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