2005年10月28日 【関東後半 千葉県】
『お江戸見たけりゃ佐原へござれ 佐原本町江戸まさり』
昔からそういわれてきた利根川の岸に栄える町、佐原。
利根川の支流である小野川が町に流れており、その水運により大いに賑わい、今もその当時の古い町並みが残っているんだそう。
今日はこの周辺を巡るぞ。
まずは香取神宮へ。
さすが神宮レベルは規模が違う。
広大で整然とした境内、風格の本殿、まったく日常とはかけはなれた神域だ。
佐原市内はもうごちゃごちゃ。
道は狭いのに人も車もごった返していてろくに進まない。
かなりの観光地だなぁと思いながら結構離れたところにある駐車場に車をとめ、歩いて山車会館にやってきた。
日本有数の山車祭り、佐原の山車運行は、夏に10台、秋に14台と、計24台ある。
400円払って中に入るといきなり実物のおでまし。
人形山車は各地あるがここの人形はやたらでかい。
五所川原立ねぶたを連想させるでかさだ。
300年の歴史がある祭りで、佐原の古い町並みをこいつが練り歩くのを想像するととても風情がある。
中心部に流れる小野川の両岸には、賑わっていた当時の面影をそのままに残した白壁の蔵や木造の古い土産物屋が並んでいる。
倉敷の美観地区みたいだな。
ジャージャー橋という木造の橋は、一定の時間ごとに水を吐き出すことで有名。
放水を見られたらいいことあるんだそうだ。
宮城県の酒蔵『浦霞』の伝説の南部杜氏、神とまでいわれた平野佐五郎杜氏の指導を受けた数少ない弟子の1人である及川恒男さんが杜氏を努める蔵、『東薫』の東薫酒造株式会社へ。
酒好きの間では結構有名な酒だ。
アポは入れていないが、見学歓迎の文字があったので入ってみた。
ツアーのジジババがひしめきあっていて店内は東京の満員電車状態になっている。
そんなジジババをかき分けて店員さんに声をかける。
「次の見学は15時からです。」
合同案内か…………
いやだなぁ…………と思っていると、ちょうど15時前にジジババたちが帰っていったので運良く俺1人になった。
ラッキー。
それでもキッチリ15時まで待たされ、愛想の悪いおばちゃんの後について蔵の中へ。
「ハイ、えー本日はお越しいただき誠にありがとうございます。えーこちらに並んでおりますのが今までに受賞しました……………」
1対1なのに信じられないくらいマニュアル通りの案内で、質問をはさむ隙もない。
そしてわずか3分で終了。
しょうもねぇ……………
目覚ましテレビの今日のワンコに出た看板犬のしずかがかわいかったってくらいやな。
伊能忠敬は50歳までこの佐原で暮らしていたそうだ。
伊能家はこの辺りの有数の商家だったらしく、50歳まで仕事に精を出し、隠居の身になり自由になってからは東京に天文学を学びに出、55歳の時に公務で北海道に測量に行く。
それからというものの71歳まで10回にわたり全国を測量に飛びまわり、73歳で死去。
志半ばではあったが、その3年後に弟子たちが完成させた日本地図は、宇宙衛星の写真で作った地図と重ね合わせてもほぼ合致するという正確さ。
人夫たちを海岸沿いに手をつないで並ばせて長さを測っていた時代に、よくもこんな正確な地図が作れたもんだ。
ほんと頭よかったんだろうなぁ。
当時の日本なんて人口も少なくて町もほとんどなくて、田舎のほうなんてマジの原野しかなかったはず。
そんな中で海岸沿いを測量して行くなんて根性ありすぎだわ。
伊能忠敬記念館の中には、彼の身の回りの品や昔の測量道具、11世紀のヨーロッパの世界地図など、様々なものが展示してありロマンをかきたてられる。
昔の海の男はこんなお伽話のような地図を片手に海に漕ぎ出していたんだよな。
夕闇迫る佐原を後にし、柏市までやってきた。
今日はここで歌うぞー!!!
が………………
全然ダメ………………
飲み屋街っていう飲み屋街がなくて、大手チェーンの居酒屋とカラオケ屋がオフィス街に点在しているだけの味気ない通りばかりだ。
都会の衛星都市ってこんなのばっかりなんだよなぁ。
もっと昔ながらの風情ある飲み屋街で歌いたいよ。
この日は歌うのはやめてすごすごと車に戻った。
翌日。
ごちゃごちゃした車の中で目を覚ます。
うーん、最近は涼しいからゆっくり寝られることは寝られるんだけど、狭っ苦しいことこの上ない。
荷物が多すぎてどうやったら上手いこと整理できるんだろう。
ホームセンターに行き、とりあえずクリアケースを買い、散らかってたものを全部中に押し込んだ。
うん、だいぶスッキリしたな。
リフォームの匠だったらこの車の中をどう整理するんだろう。
関東を走る車によく『成田山』と書いたステッカーが貼ってあるのをいつも見ていて、アレってどこにあるんだろうと気になっていた。
千葉に来て初めて知ったけど、あれはどうやらお寺の名前みたい。
そして今いる柏からすぐ近くだ。
というわけで勇んで成田に向かって車を走らせる。
成田市内に入ると、駅前のメインストリートがすでに参道になっていた。
道の両側に土産物屋が並び、どんどん人ごみの数も増えてきた。
車をとめてゆっくりと賑やかな参道を歩いて山門まで向かう。
成田山新勝寺は940年に開かれた真言宗のお山。
でも正直これくらいのお寺ならどこにでもあるよな。
天下のお不動さん、と呼ばれ年間1300万人もの参詣者が訪れる理由は一体なんなんだろう。
立派な山門をくぐりひととおり境内を見て回る。
かなり広い敷地にいくつもの新しい建物があって、相当稼いでるんだろうなって雰囲気。
これでもかってくらいどこそこに賽銭箱が設置されている。
霊光館という博物館でおじさんにお話をうかがう。
「仏教の中にいくつもの宗派があり、その宗派の中の1つである真言宗の中にさらにいくつもの派があります。うちは真言宗の智山派になるんですが、この派の寺は全国に2800ヵ寺あります。1番の元締めみたいなところが派の総本山、京都の智積院。その下に大本山、別格本山、本山、末寺、とねずみ講のように広がっていくんですね。そして真言宗の1番偉い方は高野山におられる座主という方です。」
完全にヤクザの世界だな。
そして成田山が有名になったいくつかの理由はこう。
江戸中期、寺格が昇格し布教活動が活発になった成田山。
本尊を江戸の町に持って行き、出張ご開帳という荒技で稼ぎまくる。
そこで認知度があがる。
民衆の生活もそこそこ豊かになり始めると、寺社を詣でる『遊山』が流行。
お伊勢参りは遠いから近場の成田山てことで大いに賑わう。
そんでお参りついでの色町通いも大人気に。
遊山はだいたいが男が行くものだったので、でかい名所の近くには古くからの色町が残っていることが多く、関東三大風俗街の千葉栄町がその名残りだという。
その後、歌舞伎役者の初代市川団十郎が成田山を題材とした演目を披露し、人気爆発。
そんなこんなで観光地として成田山は不動の地位を確立したってわけだ。
大人気のお寺があれば、荒廃して廃寺になるところもある。
お寺ビジネスも生き馬の目を抜く世界なのかな。
伝統の成田山詣でをばっちり済ませ、シールを買わずに車に戻った。
さてー、成田山も終わって千葉もそろそろ完了だなー、というところなんだけど、実は千葉のメインに考えていた場所が最後にもう1ヶ所ある。
富良野のヒロちゃんに、絶対行ってね!!と言われていたとある場所に行くため、佐倉市へ向かう。
タクシーの運ちゃんに聞いてやってきたのは、ちょっと町外れの場所にポツンと建っている飲み屋さん。
ここか?と恐る恐る入り口に近づいてみると、ドアに例のバンドのマスコットキャラクターが描いてあった。
ここだ。
間違いない。
「いらっしゃーい。」
出迎えてくれたマスターの顔。
なるほどそっくりだわ。
ここはヒロちゃんの大好きなバンド、バンプオブチキンのベーシストのご両親がやっているお店。
店内にはバンドのポスターがたくさん並んでいて、ファンの女の子たちが大はしゃぎしていた。
「はい!!ビールね!!うちの息子のファンかい!?」
い、いや、そうでもないんですけど……………と思いながら一応「はい。」と答える。
ここに来るやつのほとんどがバンプファンなんだろうな。
「おーーーー!!覚えてる覚えてる!!北海道からバイクで1人で来たのがいたよ!!約束を果たしに来たって言ってな!!お前もそうかい!!」
そう、ユウキのことだ。
北海道からのバイク縦断の時にわざわざ寄っていたようだ。
つーかマスター、いきなりお前呼ばわり。
よくいる熱血おじさんってタイプでちょっと戸惑う。
店の中は熱狂的なファンで盛り上がっており、みんなで前回のバンプのライブの曲順通りにカラオケをしている。
俺1人。
マジ1人ぼっち。
そりゃそうだ、別にファンというわけでもないし、ヒロちゃんから絶対行ってね!!って言われてたから来ただけだもん。
所在無くカウンターでジュースを飲む。
あまりの居心地の悪さにもう帰ろうかなってところでマスターが話しかけてきた。
「何?歌うたってんのか!?おー!!みんなー!!今からこのお兄ちゃんが生演奏してくれるよー!!」
「すごーーーーーーーーい!!!」
「きゃーーーーーーーーー!!!」
え!?えええ!?!?
マジですか?!!
う、うん、でもこういう展開はうれしいっちゃうれしい。
外はすごい雨だしな。
「これで飯食ってるって実力見せてもらおうじゃないの。ウチの客はみんな耳肥えてるからね。」
マスターがエグいプレッシャーのかけかたカマしてくる。
ギターを抱える俺を、みんながイスを持ってきてグルリと取り囲んだ。
キラキラした目で旅の歌うたいを見つめる若い女の子たち。
ふー、と深呼吸。
俺はバンプオブチキンじゃない。
俺は俺だ。
そして5曲。
歌い終わるとシーンと静まり返る店内。
や、ヤバ…………
せめてバンプの曲やったほうがよかったか……………
「……………………」
「………………………」
「…………………え?何?プロ?」
「こんないい歌、久しぶりに聴いたー……………」
よかったああああ…………
気に入ってもらえたようで飲み代全部タダになった。
「おう、こっち来な。」
マスターに連れられ店の奥のほうにあったドアを開けた。
そこはガレージなのだが、中にドラムセットや洋服やマンガ、どこの高校生の部屋にでもあるようなグッズが並べられていた。
どうやらここはバンプのメンバーが昔使っていたものをかき集めたギャラリー。
床に書きなぐられているのはファンたちからのメッセージだ。
「バンプのファンってのは変わった子が多いんだよな。考えすぎっていうかさ。あのフジが理屈っぽいヤローだからな。俺はその真逆。もっとシンプルに生きようや!カッカッカッカ!!!」
この店にやってきて、マスターの人柄に惚れた、心が軽くなりましたというファンが多いという。
確かにバンプが好きな人って鬱系・純粋系の子たちが多いだろうからマスターが神のように魅力的に見えるんだろうな。
そんなこんなで店を出た。
タダにしてもらった上、おひねりが3000円くらい出た。
雨は止んでいる。
さぁ、今日はどの町で歌おうか。
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