2005年 10月 【関東後半】
「おつかれー!!久しぶりやなー!!」
この声の主は……………
ユウキ!!!!
寝袋も着替えもなんもなしのバイク野宿で日本を縦断すると北海道を出発したユウキ。
あれから無事宮崎まで走破し、その後はオーシャンドームでライフセーバーのバイトをやっていたのだが、この前の台風で車がおじゃん。
宮崎では車がなければ仕事にならないということで東京にやってきたのだ。
これからは横浜の親戚の家に居候しながら仕事をするという。
ユウキ久しぶりー!!!!
というわけで富良野以来の再会ということで、2人でぷらぷらと遊びに行った。
オシャレな人だらけの表参道。
奇抜なファッション。
高そうなブランドショップ。
街路樹さえも気取って見える。
竹下通りにはこれが高校生!?って大人びたカップルがわんさか。
クレープ屋に行列を作っているのはいかにもおのぼりさんって感じの斜にかまえた女の子達。
裏路地に入るとさらにコアな服屋が散ばっていて見飽きることがない。
これが原宿かー。
夜になったら青山にやってきた。
もう見るからに金持ちばかりが歩いている青山で、その金持ちをターゲットにしているタカフミの働いている高級レストランに到着。
どう考えても場違い極まりない高級店に、半魚人くらい港町育ちの田舎者2人でキョドリながら入店。
きらびやかなガラス張りのビルの中、バーカウンターに白いシャツのボタンを2つはずしたカッコつけたタカフミがいた。
「どーせ食うんやったらこれ食え。大丈夫やから。」
1人12000円のコース料理を知人値段で出してやるというタカフミ。
うん、安くしてもらえなかったらダッシュで逃げるしかない。
まー、そりゃ12000円のコースだもん。
人生でこんなの食べたことないっていうもののオンパレード。
ホタテの貝柱。
アボガドサーモン巻き。
シイタケの炒め物。
うますぎて皿舐める勢いでがっつく。
ほうほう、これがフォアグラのソテーですか。
金丸文武23歳、フォアグラ初めてでございます!!
フォアグラさんはじめまして!!!!
きゃあああ!!美味しい!!!
次にオマールエビとアワビ!!
アワビは北海道で死ぬほど食べました!!!
そしてメイン!!
サーロインとシャトーブリアン!!
ほっぺが落ちる!!
そして最後にジャコ飯と味噌汁!!
笑える美味さ!!!
でもこれで12000円は高い!!!!
青山怖い!!!!
それから屋上の洒落たテラスに上がり、東京のビル群の灯りと夜風を堪能しながらデザートを食べた。
テレビドラマに憧れているような女の子ここに連れてきたらイチコロだろうなぁ。
そんなデートしてみたいなぁ。
俺の経済力では果てしなく無理だけど。
ハマショー好きすぎ。
そしてお会計……………
これだけ飲み食いして………………
2人で1万円。
もつべきものは友!!!!!
いえええええい!!!タカフミありがとう!!!!
良いもん食わせていただきました!!!!
さてさて、そんなこんなで東京に来てからすぐに1週間が経ち、お金もヤバくなってきたのでプラっと北関東に出稼ぎに行くことにした。
1年半くらい前、CDを作っていた時に何度も走っていた国道6号を飛ばす。
懐かしい茨城の町。
数ヶ月過ごしたつくばの無機質な学園都市、鳶のバイトをしてた時に走った見覚えのある道。
美香、ユイちゃん、楽しかったよな。
学園祭とか、ささやかなクリスマスイルミネーションとか、全部が懐かしい。
水戸まで走り、町の中を歩いた。
レトロな商店街、宮下銀座は水戸東照宮の表参道ということで歴史を感じさせてくれるアーケード。
メインストリートから路地に入ると、とても古い建物が並んでいる。
昭和の遺物そのままだ。
水戸も歴史あるいい町だ。
今夜はここで歌うとして、道行く人に水戸の繁華街の場所を聞いてみた。
「え?…………いや…………知らないです。」
「繁華街?この辺だっぺよ。あ?飲み屋街?この辺だっぺ。」
いやいや、この辺りって、ここはただの商店街やん。
え?どういうこと?
なぜだかみんな飲み屋街の場所を知らない。
こんな県庁所在地なんだから飲み屋街がないわけない。
でもみんな知らない。
飲み屋街、盛り場ってのがつくづく興味のない人には別世界なんだなと気付かされる。
夜になり、町の中を走り回ってなんとか自力で飲み屋街を見つけ出した。
立派な飲み屋街、大工町は駅から結構離れたところにあり分かりにくかったが、さすがに規模はでかい。
なかなかの賑わいだ。
よっしゃー!!稼ぐぞーー!!
とギター持って路上に出ようとした瞬間どしゃ降り。
もうこれでもかってくらいのどしゃ降り。
金がやばい…………
うー、やばすぎるー……………
いくら待っても雨が止む気配はなく、ガックリと肩を落としてこの日は終了。
焦りながら、ファントムの中、布団にくるまって眠った。
翌日。
気持ち悪くて目を覚ました。
「ウボオオオオオオオ……………ベチャベチャ……………オエッ!!!」
う、ウソだろ…………なんだこれ…………
朝からゲロが止まらない。サイアクの気分だ。
なんだろう。
金がないので昨日はカップラーメンしか食べていない。
食あたりなんて考えられないのに。
うぅ…………きつい…………
水分をとったらとっただけまた全部戻してしまう。
さらに下痢。
コンビニのトイレにこもって上から下から体の中のものを全部垂れ流す。
死にそう……………
今日は楽しみにしていた鹿沼のお祭り。
センジ君が栃木で俺の到着を待ってくれている。
何としても栃木まで行かなければいけないと瀕死で車を走らせるが、すぐに気持ち悪くなりまた脇に寄せてゲボ。
ゲボ吐いてポカリ買って少し走ってまたコンビニで下痢して、牛乳とかいいんじゃないか?と牛乳買って飲んで走ってたら今度はトイレで白いゲロ。
うぅ、きつい、なんの病気だ…………
もうダメだと、限界に達して道の駅で仮眠をとることにした。
夕方までにつけばなんとか間に合う……………
「はっ!!」
目が覚めると外が暗い。
時計を見ると20時。
終わったあああああああああああ!!!!
「センジ君……………ごめん!!」
「あー、いいよいいよ。体調悪いなら仕方ないよ。無理せんほうがいいって。でも……………僕は行きたかった死体写真のイベントを蹴って待ってました。」
マジでごめん………センジ君…………
あー、天下の大祭を目前で見逃してしまうなんて……………
まだフラフラしながらコンビニに寄り、カップラーメンを食べる。
気持ち悪い……………いつになったら治るんだよ…………
雨がまた俺を車の中に閉じ込める。
力尽きて横になった。
翌日。
朝、もう1発ゲロったらだいぶ気分もよくなってきた。
風呂にも入っていないので体が気持ち悪い。
天気は曇りだが、なんとか雨は降らなそうだ。
今夜こそ何とか稼がないと生きていけない。
結局、昨日出発した水戸まで戻ってきた。
夜になるのを待ってネオン街の大工町へ。
さぁ、今日はいくら稼げるだろうか。
せめて明日の食費くらいは…………
しかし今日は3連休明けの月曜の夜。
1番人が少ない日だ。
しかもさっきまで小雨が降っていた。
おかげでネオンも3分の1くらいは灯りが消えていて静まり返っている。
マジかよ…………終わってる…………
でもやらないとマジでなんにもできなくなる。
早速飲み屋街のど真ん中、大沢歯科の玄関先で歌っていると、ディスコの黒服みたいなスマートでニヒルなお兄さんが近づいてきた。
クラブ『スレイブ』のオサム店長。
にこやかに笑ってジュースを差し入れてくれた。
あー、ジュース1本でめちゃくちゃ嬉しい。
いけるぞ!!!
そこに黒ずくめでオールバックのちょっと怖そうなおじさんがやってきた。
「お兄サン、イツモいくら稼ぐ?」
「あ、はい、まぁ1万円いけばいいくらいです。」
「わかりマシタ。」
財布から1万を抜き取り俺のポケットに入れたおじさん。
うおおおおおおおおおお!!!!!
文無しから1万円んんんんんんんんんん!!!!!
神降臨んんんんんんんんんんんんんん!!!!!!
「さぁ、飲みに行こう。」
韓国人のこのおじさん。
水戸の韓国料理店のオーナーらしく、社長の横にはボディーガードなのかなってくらい筋肉隆々のお兄さんがいる。
「さ、たくさん飲んで食べて歌ってネ。」
居酒屋に行き、ご飯をご馳走していただいた。
一見優しいんだけど、なんか殺し屋みたいなオーラがほとばしっている社長さん。
筋肉お兄さんも元暴走族の頭で水戸では知らない人がいないワルだったそう。
2人とも優しいが怒らせたら死人が出るな。
色んなお話を聞かせてもらい、最後にラーメン屋にまで連れて行ってくれたお2人。
「フミちゃんは絶対いいとこイケルヨ!!すごくイイ声!!ほんと応援するカラ!!」
狭くて騒々しい店内。
まぁ夜中のラーメン屋なんてみんな酔っ払いだからこんなもんだ。
その時、元気に喋ってる社長の後ろの席から変な会話が聞こえてきた。
「イケルヨー!!」
「ぎゃはは!!」
「バカじゃねぇか?こいつら。」
ゴンゴンゴン!!!
な、なんだ!?
見てみると、ついたてを挟んだ後ろの席で酔っ払った馬鹿サラリーマンたちがこっちを冷やかしてきていた。
すぐに気づいた筋肉兄さん。
すーーっと顔色が変わっていく。
や、ヤバい顔から血の気が引いてる!!!
社長は気にも留めずに喋ってる。
「だからフミちゃんはいい声してるカラネ、もっともっとガンバッテ、」
「ガンバッテ~!!」
「ひゃははは!!」
「あーあ!!うるせーなー!!」
ガンガンガン!!!
どんどんヒドくなる冷やかし。
社長の韓国なまりの言葉を真似してバカにしてきている。
こ、これはヤバいぞ…………と乱闘を覚悟して俺も指輪を外す。
このプロレスラーみたいな筋肉兄さんが暴れだしたらこいつらマジで死ぬぞ。
社長なんて上着からピストルとか出てきそうだし…………
覚悟を決めて、臨戦態勢を整えた。
「いやー、いつ立ち上がるかビクビクでした。」
「うん、まぁ立ち上がるのは手を出されてからだから。」
「あんなの気にシナイ!!」
ラーメンを食べ終わったらさっさと店を出て行ったサラリーマンたち。
直接こっちに喧嘩を売ってくることもなく。
まったく、酔っ払いサラリーマンとかマジでみっともないわ。
あー、それにしてもホントひやひやした。
社長も筋肉兄さんも2人とも大人だ。
色んな修羅場くぐってきた人だからこその大人の余裕だな。
それから2人と別れ、ファントムに戻った。
車内灯をつけて日記を書きながら社長に言われた言葉を思い返している。
「フミちゃんはもっと喋らナイト!!面白みが足りないヨ!!」
最近結構悩んでることをズバッと言われてしまった。
これってコンプレックだよな。
いつも周りの賑やかなノリについていけない自分に負い目を感じていた。
周りがギャハハハー!!と笑ってても、なんか苦笑いして周りに合わせる。
ノリが悪いと思われたくなくて、何でもやりまくってた10代。
でもほんとの俺は無口だ。
無理して周りに合わせて、でも合わせきれなくてつまらんやつって思われてしまう。
それがすごく嫌だ。
人格を受け入れるのは容易な事ではない。
かといって変えるのはもっと難しい。
どうあっても自分は自分。
このままの俺で生きていくしかないんだよな。
ともあれ一気に1万円の大富豪!!!
こんな悪いコンディションの中、絶対やばいと思ってたのに…………
なんとか生き延びたあああああ……………
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