2005年9月1日 【秋田県】
はい、今日で旅3周年。
めでたくない…………
旅してると色んな人に、どれくらい旅してるの?って聞かれるんだけど、最近はこの質問に答えるのが結構億劫。
「日本一周!?すごいねー。で、何日目?…………ん?あ、何週間?……………え?何ヶ月目なの?」
「3年です。」
「………………3年?」
普通の旅人は長くても1ヶ月くらいのもんだ。
それが3年て…………
しかもあと2年て……………
恥ずかしいわけではないし批判を恐れているわけでもないが、3年です、と言うのが最近では少し面倒くさい。
みんなめちゃくちゃ驚くので、俺そんな変なのかなって思ってしまう。
俺自身、今まで社会のレールを無視し続けてきたことに不安を抱き始めているのかなぁ。
これまで人生、変わり者といわれてきた俺だけど、実は結構マニュアル的な平凡な男なんだって自分では思ってる。
歳を重ねるにつれ、それを切々と感じる。
世の中には常識の外にいる変わった人なんていくらでもいるもんだ。
それを実感すると、俺ってこんなもんなのかなぁって思ってしまう。
こうやって人は自分に天井を作って生きていくのかな。
いや、まだまだこんなもんじゃない。
絶対なにかでかいことやってみせる。
さぁ、旅4年目スタートだ。
山形県と秋田県にまたがる鳥海山は、秋田富士とまで呼ばれる名山。
裾野には伸びやかな丘陵地帯が広がり、豊かな伏流水で数多くの湖や清流が存在する。
鳥海マリモというモコモコの苔が群生して作り上げた獅子ヵ鼻湿原は結構見たかったんだが、相当歩かないといけないのでパス。
鳥海高原、仁賀保高原の山の奥を走っていたら、ほんの数軒くらいしかないような寂しい集落に、不自然なほど巨大なお屋敷を見つけた。
やけに立派な屋敷だなぁと好奇心がうずき、近くの婆ちゃんに聞いてみた。
するとどうやらこれは、あの映画俳優の三船敏郎のお父さんの生家だった。
昔、この家に三船さん本人が来た時、村人みんなで見に行ったんだぁって懐かしそうに語るお婆ちゃん。
そしてこの集落、みんな苗字が三船さんだ。
矢島町の中華料理屋『九龍』で安くてうまくて量が多いお昼ご飯を食べ、大満足で車を走らせて雄勝町へ。
東洋一の銀山、小野小町のふるさと、などなど見所はたくさんあるが、この町は秋田県を抜ける際の最後の町。
ここはラストにとっておいて森に突入していく。
深い山がどこまでも広がる中をしばらくクネクネと走っていると、緑の向こうに煙りが見え始めた。
この辺りは森のいたるところから湯気が噴出する温泉地帯となっており、その中でも有名な川原毛地獄を探検。
荒涼とした岩場を汗だくになりながら歩きつづける。
日本三大霊山のひとつと書いているが、それって恐山、高野山、比叡山じゃなかったっけ?
日本三大◯◯ってほんとどこにでもあるもんだ。
三途川という怖い名前の川沿いに走ってくと、森の中、ふと視界に湖が入った。
なんか雰囲気のある湖だなと思わずハンドルを切ると、どうやら湖岸がキャンプ場になっており、静まり返った姿がクリスタルレイク(ジェイソン)を思わせる。
湖というより沼といったほうがいい感じ。
静かな湖面にはたくさんの葉が浮かんでいたんだけど、なにやらこれはジュンサイという食材らしく、パシャパシャ写真を撮っていると、どこから現れたのか管理人のおばちゃんが話しかけてきた。
「何だハー?ちょっと採っでみるがイ?あー!!もう閉めるどごだっだのにィー!!つがれるつがれる!!」
お、面白そうな展開。
ハイテンションなおばちゃんと一緒に、一寸法師みたいな桶を湖面に浮かべ、それに乗り込み、卓球ラケットみたいなオールで湖面を進んでいく。
そして腕を肘くらいまで突っ込んで、浮かんでる小さな葉っぱをプチリとちぎる。
葉っぱのまわりがこんにゃく畑みたいなヌルヌルのゼリーで覆われている不思議な植物。
これって結構な高級品らしく割烹料理によく使われるらしい。
「あー、いやー、もう濡れっつまっだべさァー。あーやだやだ。もう早く閉めんだっだギャー。」
しばらくやってから管理棟に戻ると、そのジュンサイを茹で特性の酢味噌をかけて食べさせてくれるおばちゃん。
他にも海苔巻きやお菓子やらを出してくれ、これ食えこれ食え状態。
さらには今日はここの非難小屋で寝ていきなさいということになった。
うおおおお…………
優しすぎる…………
案内してくれたのはとてもきれいな畳の部屋。
なにより明るい電気の下で日記を書けることがうれしい。
広い空間も開放的で落ち着く。
おばちゃんも帰り、1人ケータイの電波も入らない山奥でひたすら日記を書き続ける。
あまりにも静寂で、辺りは完璧なほどの暗闇で、横には草に覆われた湖があるし、さすがにちょっと怖くなる。
するとその時、遠くから車の音が近づいてきた。
「おーい、起ぎでっがー?飲むか?」
帰ったはずのおばちゃんがわざわざビールを持って戻ってきてくれた。
手作りの煮付けやババロアを食べながら色んな話をした。
「いやー、1年に1人ぐらいこうやっで旅の人がくるんダァ。だはんでこうやっデ食べさせんダァ。お節介ババだがらぁ。ハハハ!!」
おばちゃんが再び帰ると、キャンプ場はコンサートホールに変身した。
虫たちのオーケストラが響き渡り、その中でポツンと夜に同化する。
風が冷たい。もう秋だ。
これが旅立ち3周年の夜。
人と会い、話し、思いもかけない展開に身を任せて、旅らしい1日を送れたと思う。
あー、美香を抱きたい。
美香はやっぱりまだ俺のこと許してくれてはいないけれど、とにかく進むんだ。
1日でも早く美香のもとに帰ることが今出来る全てだと思う。
翌日。
ドタドタと騒がしい足音で目を覚ますと、管理人のおばちゃんが忙しそうに歩き回っていた。
「あああ…………おはようございます…………」
「おはよう!!朝ご飯食べようか!!」
おばちゃんが家から持ってきてくれた卵焼きやら赤飯やらがテーブルに並び、ものすごく久しぶりの健康的な朝ごはんを頬張った。
そこにゴミ収集のおじちゃん2人もやってきて、お茶を飲みながら4人でおしゃべりした。
しかし、秋田弁がハンパなさすぎて何言ってるかマジで理解不能。
「また遊びに来るんだでヤァ。」
持ちきれないほどのお菓子やらおにぎりやらをもらって車に乗りこむ。
あー、最高に暖かいキャンプ場だったな。
静かだしひと気はまったくなかったし。
森の中で1人になるのが大好きな俺には最高の場所だった。
おばちゃん、もうきっと2度と会わないんだろうな。
おばちゃんがいつも誰かに食べさせてる手料理を俺も食べられて、本当に嬉しかった。
どうか、どうかお元気で。
暖かい気持ちで森の中を走っていき、やってきたのは川原毛大湯滝。
ひゃっほーーーー!!!!
パンツ1枚で滝つぼに飛び込んだ。
ここは温泉マニアくらいしか知らない滝つぼ温泉で、自然に削られたなめらかな岩肌が気持ちいい。
知床のカムイワッカ湯の滝よりはるかに大迫力だ。
ちょっと試しに20メートル上から流れ落ちる滝の下に入ってみる。
「ウゴッ!!!…………ガボガボッ!!!……………死…………………ああばああ!!!!!」
20メートルを舐めたらいけない。
袋叩きにあってるような衝撃だ。
マジで抜け出せんなりそうだった。
この河原毛大湯滝は夏季(7月~9月)のみ入ることができる。
アルカリなのか酸性なのかわからんが、とにかく相当刺激の強い泉質で、目に入ると痛くて目が開けられないほど。
水虫なんかの殺菌効果はバツグンなんだろうな。
なんにせよ秘湯っぷりと混浴度はかなりのもんだ。
次に子安峡の大墳湯へ。
かなり急な階段をくだり、切り立った渓谷の底に降りていくと、そこらじゅうから湯気が立ち上っており、よく見ると岩の裂け目からものすごい勢いで熱湯が吹き出している。
このあたりはもう山全体が温泉が入った風船みたいな感じだ。
ちょこっと掘ればどこでも湯が湧く。
日本は温泉天国!!
そこから山を登って岩手・宮城、3県の県境にある須川温泉の栗駒山荘へ。
600円とちょっと高めだが、ここの露天風呂の展望にはそれだけの価値あり。
湯船の目の前が雄大な高原と山並みになっており、天気がよければ鳥海山まで望める。
空に溶け込むようだった。
仙人が住んでいそうな村、東成瀬村から十文字町に出て横手市までやってきた。
楽しみにしていた横手!!!
俺はヤキソバと天領うどんが何より好きなんだけど、この横手はヤキソバの町というキャッチフレーズで市内に50軒ほどのヤキソバ屋さんがあるらしい。
鉄板ヤキソバって、これまでの人生で普通に食べてきたけど、実はこの町が発祥の地らしい。
早速、駅横にあるまいど食堂ってとこで実食!!!
注文したのはホルモンヤキソバ600円。
ホルモンがどっさり入っており、かなりこってりでボリューム満点。
しかし…………これは油がきつい…………
これがたまんねーんだーっていう人もいるだろうが、胸焼けおこしそうだわ。
オエッてなりながら今日はここで路上だ。
馬口労町っていう飲み屋街でギターを鳴らす。
が、なかなか反応が悪い。
マジかよー…………全然ダメだー…………とげんなりしていたら、そこにお兄さんたちグループが声をかけてくれた。
「うおっ!!すったげうめぇ!!すったげすぎゃー!!」
その人たちとさんざん盛りあがって7000円ほどになった。
よっしゃー!!この調子で1万いくぞー!!と勢いに乗ってきたところで近所のおっさん登場。
「住宅あんだがら、もうやめねが。」
苦情がきてしまい終了。
路上は苦情が出てしまったらやめないと仕方ない。
やべー…………
6日までに早く稼がないとケータイ代が……………
仕方なく車に戻っていつもの作業をした。
今日1日で撮った写真の削りだ。
要領がいっぱいになってきたので、これいらない、お、これいいねぇと楽しみながら写真を選別していく作業。
これで削るものがなくなって完全に満タンになったらカメラ屋さんでCD-Rに落とすという流れだ。
ふんふん、今回もなかなかいい写真が撮れてるなぁ。
なまはげ、大曲花火、秋田は結構面白い出来事が多いから見応えあるぞ。
と、いつもの調子で写真を消していたら、ミスって全消去ボタンを押してしまった。
「あっ!!あああぁぁあ!!!!」
パニクりながらキャンセルしたものの、時すでに遅し。
70枚もの秋田の記録が風に消える。
うあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!
うそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
な、なんとか、なんとか復元!!!!!
復元んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!!
ギエエエエエエエエエエエエ!!!!!
車の中で発狂して暴れ回る野人1人。
…………………とうぶん立ち直れそうにない。
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