2005年8月26日 【秋田県】
奥羽山脈の山奥にひっそりとたたずむ茅葺き屋根の湯治宿、乳頭温泉郷『鶴の湯』。
500円で2つの内湯と混浴露天に入れ、湯はあの有名な乳白色。
普通、混浴の温泉には若い女の人はあまり来ないが、こういう有名どころだと結構いるんだよな。
チンチン丸出しでウロウロしても文句を言われないから変態にはたまらない。
女の人が恥ずかしそうに俺の裸をチラと見る。
ニヤニヤ。
変態!!!
さてさて、なぜかモンモンと気分で温泉を後にし、昨日おばちゃんとお喋りしたあの食堂に行ってみた。
「人多かっただやぁ?明日の花火さ見に来てんだやぁ。」
花火。
そう、北海道にいるときからこの『花火』に日程に合わせて下ってきた。
竿灯祭りは見逃しても、これだけは絶対に外せない。
東北後半のメイン!!!
その花火とは!!
知ってる人は知っている!!
『大曲花火大会』!!
日本一の呼び声高いこの花火大会は、日本全国の花火師たちによる技のコンテスト。
どこよりも早い最新作のお披露目からオーソドックスなものまで全ての次元が桁違いで、それぞれ数分間の花火でひとつの物語を描き出すという。
会場は大曲市。
普段は静かな人口4万人のこの田舎町に、その数時間のために70万人以上の人が押し寄せて町は完全にパンク。
車はピクリとも動かず、観光バスが到着する前に花火は終わり、市内に駐車したもんなら出られるのは翌朝、とおばちゃんに脅される。
んー、こいつは楽しみだ。
とりあえずこの周辺の観光地を回ることにして、角館市の武家屋敷群へ。
久保田藩最大の城下町として栄えたこの角館。
今でも町民町と武家町がはっきりと分かれていて、市役所を過ぎたところから一気に江戸時代にタイムスリップする。
鬱蒼としげる木々の間に、茅葺きや木端葺きの立派な屋敷と黒板塀が整然と続いている。
東北の武士は結構暇だったんだろうか。
それとも貧乏だったからだろうか。
内職をたくさんしていたようで、その内職品が伝統工芸として現代に伝えられている。
中でも目に留まったのが樺細工。
山桜の樹皮を様々な木工製品に巻きつけているんだけど、山桜の樹皮ってのは締まっていく特性がありモノを長持ちさせるそうだ。
通気性もよく、茶葉入れなんかによく施されているのもそのせい。
見た目も美しいし桜の皮というのも風情がある。
んー、樺細工欲しいな。
でも高すぎてとても手出せないけど。
今夜は角館で歌うつもりだったんだけど、飲み屋街が小さすぎてこれでは無理そう。
いい町だからやりたかったんだけどな。
よし!!!
もうこのまま大曲市に行っちまうか!!!
車を走らせて大曲に突入すると、明日の花火大会に向け市内のいたるところに臨時の駐車場が設けられていた。
高すぎる!!!!!!
マジで4000円とかする!!!!
東京じゃねぇか!!!!
いや、ホント、とてつもない数の観光客がやってくるんだから町の人たちからしたら1年で最大のかき入れどきなんだろうな。
なんとか安いところをと探し回った。
中心部から遠くなるにつれ4000円、3000円、2000円と安くなっていき、かなりはずれまで行けばタダのとこもあった。
もーーーーーーーすごい。
市内中に交通規制がかけられ、駐車場となっている河川敷に行くとキャンピングカーとテントでアリの巣状態。
なんとかタダのとこまでたどり着いたが、すでにほとんど埋まっている。
もういや……………
めちゃくちゃ離れてるやん…………
抜け出せなくなるから市内に止めたらダメよ!!と言っていた食堂のおばちゃんの忠告を無視して市内で止められる場所を探した。
グルグルグルグル、ひたすら町の中を走り回り、やっとのことでいい隠し場所を発見。
よーし、ここなら大丈夫だろう。
車の置き場を確保したら駅横の飲み屋街で路上開始。
お兄さんに連れられスナック『酒香』で歌わせてもらった。
セイジさん、タカシナさん、サユリにスミエ。
みんな元気いっぱいだ。
「明日、花火すったげすごいがらー!」
さぁ!!!!翌日!!!!
やってきたぞ花火当日!!!!
準備万端!!
ファントムは思いっきり青空駐車!!!
ばれないことを祈る!!
ていうかこの辺りの写真が1枚もないのは後日やらかしてしまったせいです!!!
ギャアアアア!!
写真んんんん!!!
朝っぱらからウジャウジャと人がなだれ出てくる大曲駅。
花火会場へ向け川のように流れる人垣。
商店という商店が店先に露店を出して大売出し。
話では今日1日で1年分の売り上げを得るらしい。
商売人でなくても、普段自分たちが駐車している自宅の小さな庭を1日4000円、5000円の有料駐車場にしてる一軒家の人たち。
そこの子供だろうか、小学生くらいの男の子がかったるそうに、まだ空いてますよー、と看板を持って立っている。
これも大曲の子供たちの毎年の小遣い稼ぎなんだろうな。
人生で最高にまずいミソラーメンを食べ、キレながら銭湯へ。
「い、いらっしゃいませー!!」
中学生くらいの男の子が番台の横で忙しそうに料金を受け取ってまわっている。
これもまたお小遣い稼ぎなんだろう。
花火はこの田舎のすべての人たちにとって一大イベントだ。
この日だけでとてつもない金が大曲の町に落ちるんだろうな。
全国からやってきているおっさんたちでイモ洗い状態の風呂に入り、全然さっぱりしないまま商店街を歩いていたら、花火資料館なるものを発見。
中に入ってみると原寸大の花火の模型や、大曲花火の歴史資料などが展示されており、これから花火を鑑賞するにあたりとても良い予習になる。
大曲の花火は全国の花火師たちによるコンテスト。
全国の花火会社が社運をかけた作品を発表する場だ。
さて、ではその審査基準とは一体どういうものなのか?
【きれいな花火とは丸くあること!!】
花火は和紙を何枚も張り合わせて作ってるんだけど、その重ね方がちょっとでも偏っていると、きれいな丸に咲かないのだ!!
【座った時に咲くこと!!】
打ち上げられて上昇し、重力により上昇が止まるその頂点で爆発するのが最高。
上昇中だと縦に楕円になり、下降中だと横に広がってしまうんだそう。
打ち上げ用の火薬量と、導火線の長さ調節が花火師の腕の見せ所とのこと。
【粒が揃っていること!!】
破裂した際に丸からピョコンとはみ出してる粒があったり、いつまでも消えない粒なんかがあると減点対象になってしまう。
消えないまま地面についたりしたら最悪なんだって。
大曲花火は今年で79回目の開催。
全国の腕自慢30業者が競い合う。
優勝チームには総理大臣賞なんてのもあるらしいからそりゃ燃えるわな。
「花火ってのはどんなにすごくったってやっぱり地元の花火が1番ですよ。地元の花火と大曲の花火、好きな花火が2つあってもいいじゃないですか!!」
観光客に向け、花火評論家さんが大きい声で語っていた。
ツアーのジジババたちの濁流にもまれながら会場の河川敷に到着すると、そこには信じられない光景が広がっていた。
なんだこりゃ………………
見渡す限りひとひとひとひと!!!!!
ブルーシート、パラソル、ひとひとひとひとひとひとひとひと!!!!!
昔、映画で観たウッドストック状態!!!!
難民キャンプか!?
なんとか突撃して座れる場所を探して歩き回るが、すでにブルーシートやビニールテープで寸分の隙間もないほどに場所取りされていて足の裏ほどのスペースもねぇ。
みんなそれぞれに弁当を広げたり、ビールかっくらったり、ゆうべから宴会を続けているらしきグループもある。
そんな中、まだ明るい空で何かが破裂した。
航空ショーの煙幕のようなカラフルな煙りが広がる。
なるほど、これが昼花火というやつか!!
初めて見た!!!
でもたいしたことはない!!!
河川敷の外も少し歩き回ってみたんだけど、あっちの道路にも向こうの道路にもずーっと離れたところにも無数の人だかりが見える。
花火は球状。
どこから見ても同じなんだよな。
しかしやはりメイン会場からが一番きれいに見えるように打ち上げられるはず。
ここは会場で見るべきだ。
地元の人なら穴場スポットとか知ってるだろうけど。
そしてついにその時がきた。
夕闇迫る19時。
数十万人の期待が渦巻く会場に、スピーカーから詩吟のような声が鳴り渡った。
「いぃぃ~ちぃぃ~ごぉぉぉぉーー!!」
…………………ドーーーーーーン!!!!!
夜空に超巨大な花火が咲いたかと思うと、遅れてほっぺの肉が揺れるほどの破裂音。
堰を切ったように湧き上がる大観客!!
うおおおおおお!!!!すっげえ!!!!
500メートルのナイアガラ、
音楽に合わせてストーリーを描くスターマイン(連発であげる花火)、
始まったその瞬間からよその花火大会のフィナーレのあの勢い!!!!
「ここは通路ですーーーーー!!!!立ち止まらないでくださいーーーーーー!!!!!!」
大曲の花火を満喫するために必要なもの。
それは図太さ!!!
警備員さんがすぐ横で絶叫しているが完全無視を決め込む!!!
有料の観覧席よりもはるかにナイスポジションの土手の上で夜空を見上げた。
次から次へと繰り広げられる新作花火のオンパレード。
見たこともないやつが夜空に舞い、もはやアートとも言える演出で1ミリも飽きないどころか夜空に釘付けだ。
今まで見てきた花火はなんだったんだ!?っていう芸術性とクオリティ。
連発のスターマインもいいんだけど、それより凄まじいのは1発だけの審査。
各会社それぞれ創作花火の部と10号玉の部の審査があって、この10号玉1発がマジでヤバい。
とてつもなくデカいやつが夜空に一撃だけ爆発する。
このシンプルさ。
乱れ打ちじゃない潔さ。
純粋に1発の花火の美しさの審査って、ホント腕の見せ所なんだろうなぁ。
「たい~~か~い~~てい~~~きょ~~~~!!!」
そしてしばらくして、この大曲花火のメインである大会提供花火の時間になった。
途端にざわつき始める観客たち。
どうやらみんなこの大会提供花火を見るためにここに来てるくらいの感じらしく、河川敷のボルテージは最高潮に。
ぬおおおおおおおおおお!!!!!
始まったああああああああああああああああ!!!!!
もうわけがわかりません……………
視界に収まりきりません…………
上空で、地上で、それも1ヶ所じゃなく同時に5、6ヶ所から上がる狂気の乱れ咲きが3分くらい続く。
マジで視界全部花火。
なんじゃこりゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
花火の概念がぶっ壊される!!
数時間に渡る怒涛の花火も終わりがやってきた。
『川の流れのように』に合わせて最後の花火が上がる。
あまりにも感動的なフィナーレに、いつまでもそこにいたかった。
まさに川の流れのようにゾロゾロと帰っていく人の列を照らし出す特大の花火。
タンクトップではちょっと寒くなってきたな。
これで今年の俺の夏は終わった。
美空ひばりの声がなんとも心地よかった。
大曲花火、人生に1度は必ず見るべきだ。
会場を抜け、人波にもまれながらなんとか歩き、車に戻ってこれたのはそれから1時間後だった。
すぐにギターを手に取り、祭りの後の寂しさが漂う大曲のネオン街に行って今夜も歌を歌った。
花火の名残りで、それなりに人も出ている。
あああ、いい花火だったなぁ。
あんな美しいもん見たら、もうなんでも許せるような平和な気持ちになるわ。
あああ、平和な気分だなぁ。
「オッラァアアアアアアアアアア!!」
「ブチ殺すぞおおおおおおお!!!!」
真横で乱闘が始まる。
へ、平和な気分……………
怖いおじさんたちが馬乗りでボコボコに殴りまくってアスファルトに血が飛び散って、後から警察来て歌ってた俺、事情聴取。
うん、まだまだ秋田の夜はアツいなぁ。
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