2005年 6月10日 【北海道一周】
日高は樹海の町というだけあって、どこまでもどこまでも深い森の海が広がっている。
その中を快調に泳ぐファントム。
さぁ今日もガンガンいくぞ。
まずやってきたのは夕張。
夕張といえばメロンしか知らなかったが、実は炭鉱の町として一時代を築いた山奥の町でもある。
最盛期のにぎわいの面影を残す昭和の古い町並みを通り、夕張の観光のメイン、歴史村にやってきた。
駐車場で400円?
入場料が1000~3500円?
高すぎだよ…………
たくさんのテーマ館があって、それぞれ別で入場料がかかるというシステムだ。
まずは石炭博物館へ。
石炭とはまず、あけぼの杉といわれる2億年ほども前に存在していた太古の木が、倒れ、地層となり、凝縮されてできたもの。
あけぼの杉は絶滅したといわれていたが、近年存在が確認され、種子から繁殖させ今では相当な本数にまで育っているそうだが、それが石炭になるまで何千年もかかるのでそんな未来のことなんてどうでもいいわ。
石炭はまだたくさん地球に存在しています、っていうけど、このペースで採掘していると190年くらいしかもたないらしい。
石油にいたっては40年後には底をつく。
こんなに世界中で車が走り回って、工場の機械とか動きまくってるのに、石油なくなったら大変なことやん。
今現在も、新しいエネルギーを生み出す手法がたくさんの科学者によって研究されてるんだろうな。
資源は大切に使わないと。
通路を進んでいくとエレベーターがあり、地下500メートルまで一気に降りると、そこは実際に使われていた坑道になっていた。
ひんやりとした空気。
夕張の炭鉱は全部で24ヶ所あったそうで、最後の坑道、真地谷炭鉱が閉鎖されたのが平成4年。
なので、昭和に閉山した鉱山に比べると採掘機械が近代的だ。
ドリルやベルトコンベヤーが実際に動くところを見ることができる。
そこから先はほぼ真っ暗闇の中をライトのついたヘルメットをかぶって進むというインディージョーンズ状態で、かなり怖い。
こんな地下深くで仕事なんて生きた心地がしないな。
さっき見た鉱山夫の作業風景の写真はかなりインパクトがあった。
黒人のように真っ黒になって風呂に入ってる人たち。
石炭の壁に向かって弁当を食べている作業員。
坑内でメシを食べる時は、石炭の屑が上から落ちてくるから弁当箱のフタをほんのちょっとしか開けられず、コソコソ食べないといけないので、こんなみじめなところ家族には見せられないと語っていたらしい。
ガス爆発が起きれば毎回100人以上の人間が死ぬ。
そんな危険な仕事をしながら、モグラのように岩を削り続けながら一体何を思っていたのか。
そんなこと考えながらトンネルを抜け太陽の下に出てきたとき、解き放たれたような気分だった。
「いやー、今で言ったら1日3~5万円はもらってたべよ。いつ死ぬかわからんかったからなぁ。だからみんなその日のうちに給料全部使うんだぁ。24の炭鉱があったんだけどそれぞれに盛り場があって、芸者も遊女もいっぱいいたんだぁ。」
石炭村のはっぴを着たおじいちゃんが懐かしそうに語ってくれる。
「それ、そこの山もこっちの山も、今はただの森だけど、昔は見える限りずーーーーーーっと長屋だらけだったんだぁ。会社が家賃だしてくれるから給料は全部使えてなぁ。全国から労働者が来てたし、ヤクザもんもいっぱい流れて来てた。すごい賑わいだったんだぞー。昔は函館なんかより夕張の炭住の夜景のほうがずっときれいだったぁ。」
お爺さんにお礼を言って歴史村を後にし、町の中を走ってみた。
最盛期には12万人もいたというこの町の人口も、今では12000人。
寂れた商店街、飲み屋街の残骸。
古い映画看板。
『幸せの黄色いハンカチ』のロケ地には今も鮮やかな黄色いハンカチが、過ぎ去った古き良き時代を偲ぶように風にはためいている。
細い道をのぼり、山の中の炭住長屋の廃屋と朽ち果てた小さな公園を眺め、夕張を背にした。
東追分から一気に南下して苫小牧の町にやって来た。
道幅がやけに広くなり、トラックやトレーラーがたくさん走っている。
どでかい工場やコンテナの山、火力発電所は鉄のジャングルだ。
ここは北海道の海の玄関口。
とりあえず風呂に入らないとそろそろ体からキノコが生えるので、たまたま見つけた銭湯『松の湯』に入り、3日分の垢を洗い落とす。
お風呂から上がって、人のよさそうな番台のおばちゃんに、繁華街で車を止められそうな場所をたずねてみた。
「んー、そうだねぇ…………あ、信ちゃんいいとこ来た!!」
入ってきたのは仕事帰りのお兄さん。
「あー、そうだねー、フクシのとこがいいかなぁ。金はかかるけどねぇ。…………よし、俺ンとこ止めてけばいいよ。」
そんなわけでお兄さんがお風呂から上がってくるのを待ってる間、おばちゃんとお喋り。
牛乳をご馳走になる。
「お兄ちゃん、このコップあげるわ。この辺の服もいいのあったら持ってっていいよ。いやー、うちの息子と同い年だぁ。私、若い子に弱いんだぁ。」
ここ『松の湯』は、家から着なくなった服を持ってきてお客さんに無料で持って帰ってもらっているようだ。
おばちゃん、とっても暖かい人。
そしてお風呂から上がったお兄さんに吉野家へ連れて行ってもらい、豚丼とみそ汁をご馳走になった。
ベテラントラック運ちゃんのお兄さん。
北海道の冬にトレーラーだけは乗るもんじゃないって言ってた。
お兄さんの家に車を停めさせてもらい、さぁ久しぶりの路上だ。
苫小牧の繁華街、錦町は花の金曜。
似合わないドレスを着た呼び込みの女。
大笑いしながら歩くサラリーマン。
酒と危険な臭い。
あ、向こうで喧嘩が始まった。
懐かしいこの空気。
うわーーー、路上やるの約9ヵ月ぶりだよ。
富良野ではライブばっかりやってたもんなぁ。
久しぶりすぎて不安に思いつつギターを抱えた。
うおー!!もうバリバリ声出る!!!
めっちゃ調子いい!!!!
たくさんの人たちが聴いてくれ、千葉さんっていう豪快な兄さんがコンビニで大量のビールを買ってきてくれて、聞いていた人たちも交えて路上宴会スタート!!!
そこにいる人たち、もちろんみんな初対面!!!
「おい!!遠慮すんなよ!!!何?小便?おう、そこでしろ!!遠慮すんな!!」
「千葉さんって何してる人なんですか?」
「俺か?アイスホッケーの日本代表。」
「マジー!!?」
「すげぇえええ!!!」
さっきからごつい集団が歩いてくるたびに千葉さんに声をかけてるなと思ってたら、みんなここ苫小牧にある王子製紙のアイスホッケー選手だったよう。
中には長野オリンピックに出た人もいた。
「よっしゃ!!お前ら今日俺んち泊まれよ!」
と言いつつ、しばらくしたらどっか消えていた千葉さん。
他のみんなも帰っていき、よし、第2ラウンドスタート。
次にやってきたのがスーツの富永君。
やたら美人のお姉さんを連れてきたと思ったら、今日はそのお姉さんの結婚式ということでお祝いの歌をやってくれとのこと。
お姉さん、ちょー美人だったな。
路上。
やっぱりこんなに楽しくて刺激的なことないよ。
あー苫小牧、いきなり良い人ばっかりでめっちゃ楽しい。
久しぶりにいっぱい歌って指と喉がジンジンしながら車に戻った。
翌日。
ゆうべは16000円も入った。
んー、やっぱり路上は最高だな。
この調子で歌って稼ぎながらまわっていくぞ!!
今日はまず支笏湖へ。
原生林に囲まれた静かな湖にたくさんの観光客の姿がある。
湖の南側の森の中にある苔の洞門は、沢の水が気の遠くなるような歳月をかけて溶岩の地層を削った場所。
苔に覆われた割れ目の向こうから冷たい風が吹きぬけてくる。
神秘的な場所だ。
453号線で大滝に向かい、道の駅でトイレ休憩。
キノコが有名というこの村ならではのキノコ汁やマイタケ天丼とか、めっちゃくちゃ食べたかったけど節約だ。
我慢して次!!!
北湯沢や蟠渓、日本三大美人の湯なんかの秘湯温泉地をくぐり抜け、景色最高のオロフレ峠を降りると、あの有名な登別カルルス温泉。
そしてさらに進むと、大温泉郷、登別。
山奥の森の中にいきなり巨大な旅館群がひしめきあっていて、相当な規模だ。
でも公衆浴場もないし日帰り入浴も高い。
別に目を引くものはないのでさっさと次へ。
虎杖浜、白老などの海岸線の道もひっきりなしに温泉だらけ。
夕べお風呂に入ったから今日は我慢しようと思っていたんだけど、こんだけあるんだしせっかくだから温泉入るか!!!
と見せかけて、昨日と同じ苫小牧の『松の湯』。
あれほど腐るほど温泉があったのにわざわざ銭湯…………
「あらー!!金丸君いいとこ来たわー。これ持ってって。ジージャン!!もう息子着ないんだわ!!」
ジージャンはお断りして、でも牛乳はご馳走になる。
うん、やっぱり知らん温泉より優しいおばちゃんのいるお風呂のほうがいいわ。
今日も苫小牧の繁華街、錦町で歌った。
9000円ゲット。
いやー苫小牧大好き!!
歌い終わってラーメンを食べ、車に戻るころにはもう外はほのかに明るくなってきている。
今日も差し入れのビールをたらふく飲んだので結構気持ち悪い。
あぁー、ここんとこずっと1日1食。
肉たらふく食いてぇー。
次の日。
車を走らせて札幌の街にやってきた。
大都会の街中、いたるところで派手なハッピの若衆が爆音とともに踊りまくっている。
札幌ヨサコイ祭りだ。
市内27会場で300以上のチームが水曜日からしのぎを削り、その内の16チームが今日の夕方から行われるファイナルコンテストに進出できるという。
早く見てまわりたいんだけど、やはり中心部の駐車場はバカ高い。
ぐるぐる探し回り、ようやく札幌駅北口に40分100円のパーキングを発見し、大通公園まで歩いた。
遠すぎ…………
さてさて、ヨサコイとはなんぞや?
俺が見る限りソーラン節・チアリーディングバージョンといったところ。
爆音のダンスミュージック風ソーラン節は各チームそれぞれに製作されたもので、1チーム40~50人編成の若者たちが楽曲に合わせて一糸乱れぬソーラン節を引きつった笑顔で踊っている。
ヨサコイってのはもとは高知県のお祭り。
高地のよさこい踊りと北海道のソーラン節が融合して出来たのがこの『ヨサコイ』らしい。
それにしても人多すぎ!!
メインステージは有料の特設席からしかほとんど見えないようなつくりになってやがるし、人多すぎて立ち止まって見ることもできん。
そんな中、特別ゲストになんとつんくが登場。
お祭りのオフィシャルソングを作ったんだそうだ。
審査員には倉本聡や長澤まさみの姿もあったが、遠すぎてほとんど見えず。
かろうじてギリギリ見えそうなところがあったんだけど、警備員が立ち止まらせてくれなくて全然見えず。
まぁ踊りのほうはなんとか見ることができ、21時半に優勝チームが決定した。
優勝したチームだけでなく、ベスト16に選ばれたチームはどこも素晴らしい踊りだったな。
音楽、衣装、振り付け、全部のクオリティーがすごく高くて、めっちゃエンターテイメント。
街自体が躍動するようなすごい熱気だった。
このヨサコイに人生ささげてる人とかいるんだろうな。
仲間とみんなで一生懸命踊って、楽しいんだろなぁ…………
祭りの熱気に痺れたまま、札幌駅に止めた車に戻る。
そしてギターをとったら、いざススキノへ。
だから遠すぎ!!!!
東京以北最大の歓楽街ススキノ。
そのど真ん中で路上を開始した。
んー、金入らん…………
っていうか久しぶりの路上3連チャンで喉が枯れてて声もほとんど出ていない。
ニッカウィスキーのオジサンが、なんだこいつ?みたいな目で俺を見下ろしている。
全然ダメなのでもうそろそろやめようと思っていると、そこに1人の兄ちゃんが話しかけてきた。
「宮崎からですか。俺のじいちゃんも佐賀なんすよ。」
「おっ、いいですねー。」
「いくつですか?俺23歳。」
「マジ!?タメやん。」
「おっ!!ちょ、今から俺んちで飲むべや!!」
とんとん拍子で仲良くなり、彼のアパートに転がり込んで乾杯した。
名前はシンジ。
出会ったばかりの2人。
なんだか気が合って、たくさん語り合い、ジャーに体を撫でられながら明かりを消した頃には窓の外は青白くなっていた。
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