2005年 2月 【富良野新プリバイト】
早番のバイトを終えて山田親方のところにやってきた。
自由に使っていいぞと言ってくれていた中古の木を色々分けてもらって車に積んでいく。
「夏場とか、俺が行って壊れたところ直したりしてやるから。俺もこういう旅とか好きだしな。今度佐藤さんと一緒に飲みたいな。」
そう言ってくれる山田親方。
いつもアドバイスをしてくれ、わからないところ教えてもらったり、木材分けてもらったり、工具を貸してもらったり、その恩はもう返しきれないほどだ。
この旅人バス計画に協力してくれてる人たちに俺ができる恩返しってなんだろう。
今は感謝することしかできんよ。
ホーマックに行ってベンチの材料を買い込み、それから千石食堂に行っていつもの味噌ラーメンを食べる。
ここのおじちゃんもプロ並みの大工の腕を持ってるんだけど、これ使え!!とインパクトドライバーを貸してくれた。
「いつでもなんでも言えばいいしょや!!頑張ってる若者は応援したくなるんだぁ!!ハッハッハ!!あ、そういえば新聞見たぞ。」
フクシカメラにもデータ落としに行ったんだけど、みんなこの前の北海道新聞の記事を見てくれたみたいだ。
マジで頑張らないとな。
よし!!
気合いを入れてバスに到着!!!
さあああ!!気合い入れてベンチ作るぞーー!!っていうか埋もれすぎ!!!!
うおらあああああああああああああ!!!!
雪かきの文武とは俺のことだコノヤロオオオオオオオ!!!!
気合いでバスの入り口までの一本道を掘りまくった。
はぁはぁはぁ…………
作業始める前からめっちゃ疲れるし…………
寸法を測りながらベニヤを切り込み、骨組みを作っていく。
バス自体が傾いているので水平器が使えなくてかなり難しい。
それでもなんとか下手なりにビスを打ち込んでいく。
ベンチが終わったら床張って、棚とかも置かないといけないし、雪が溶けたら最後に重機を使ってバスを動かして水平に設置しなおす。
トイレもどっかから手に入れないといけないし、まだまだ完成には程遠い。
頑張らないと。
夜になって中田さんから電話が来て、この日も晩ご飯を食べさせてもらった。
富良野に入ってから何回中田さんちでご馳走になっただろう。
週3~4日は来てるよな。
「お父さん………お願いがあるんですけど…………」
「何だぁ?」
「髪染めていいですか?」
「だめ。」
「ヒロ子、そんなことお父さんに言わないでこっそりやればいいしょやー。」
「だって先輩も染めてるし、◯◯ちゃんがヒロ子は栗毛色が似合うって言ったんだもん!!」
「じゃあ条件を出すぞ。成績10番内をキープして好き嫌い言わないでご飯食べたら染めてもいいぞ。」
「いやー!!そんなの絶対無理しょやー!!親のあなたが1番よく知ってるじゃないですかー!横暴だー!!ファシズムだー!!」
この春、中学を卒業するヒロちゃん。
進学する富良野高校はスポーツの盛んな学校なんだけど、『自由を我らに!!』とか言って私服登校を認められているそう。
俺たち世代からすると信じられないことだけど、髪をいじるのも許されていて、中には青い髪でピアスして化粧ぬたくったキャバ嬢みたいのもいる。
うーん………当時は俺も嫌で、作務衣に下駄で学校行ったりしてたけど、今思えば制服っていいもんだよな。
3年間着た制服は思い出の塊になる。
「あー!!私服登校とか嫌だー!!1週間も服もたないしょー!!服買わなきゃー!!」
わーわー言ってるヒロちゃんとみんなでご飯を食べながらドラマ『優しい時間』を見る。
今もまさにこの富良野で撮影が続いている優しい時間。
もうすぐ撮影も終わって、あの喫茶店は一般公開されてカフェとして営業が始まる。
北の国からに続いて、また富良野にドラマのロケ地が増えるな。
こんなに全国的に有名な観光地ではあるけど、俺にとっては富良野は素朴な人たちの生活が息づくただの小さな田舎の町だ。
この町の一員になれてることが誇らしくなるよ。
さてさて、やることはいっぱいあるんだけど、冬の北海道探検っていうのも大事なミッション。
冬にしか見られない光景がこの北海道にはたくさんある。
というわけで明日からの2連休でユウキと2人、気合いを入れて北海道・冬のメインである流氷探しツアーに行くことにした。
その日、バイトを終えたら、家に帰って軽く準備をして、いざファントムに乗り込む。
帯広を抜けて釧路周りで網走というルートだ。
流氷は道東のオホーツク海側で見られるとのこと。
たった2日間しかないので夜のうちに出発して、できる限り走ってどっかで車中泊して、明日から本格的に回っていくぞ。
ヨッシャ行くぜええええええ!!!!とテンションマックスで出発して夜の雪道を爆走!!!!
オラアアアア!!!
流氷待ってろコノヤロオオオオオオオ!!!!
そして1時間でガソリンがないこと気づく!!!!
キエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!
アホすぎるうううううううううう!!!!!
「どっか24時間のスタンドあるやろ!!」
という希望を抱いて走るが、予想通り富良野から下の田舎にそんなナイスなものがあるはずもなく、幾寅の町でガス欠寸前に。
「はぁ…………進む?」
「………さらに山奥で止まることになるね…………」
ここから帯広まであと1時間半はかかる上にその道中は北海道屈指の難所、狩勝峠越え。
ガソリンスタンドなんかあるわけねぇ。
進むことも出来ず、富良野まで戻ることも出来ない。
夜に出てきた意味皆無!!!!
仕方なく灯りの消えた小さなガソリンスタンドを見つけて、そこの給油所の前に車を停めた。
シートを倒し、いも虫のように毛布にくるまるが、何を考えていたのかこの真冬の北海道で毛布を1枚ずつしか持ってきていないという暴挙。
計画立てるの下手すぎ!!!!
冬の北海道舐めすぎ!!!
「死ぬなよ。」
「おう、おやすみ。」
エンジンを切ると温かかった車内が秒単位で冷たくなっていく。
しばらくすると顔が痛くなってきて毛布の中に引っ込んだ。
さぁ、2日間のむちゃくちゃな流氷ツアー、どうなることやら。
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