2005年 2月 【富良野新プリバイト】
プールの監視室で1人、ドストエフスキーの罪と罰を読む。
マジで意味がわからん。
ま、じ、で、意味がわからん。
どんなに集中して読んでも理解できない。
理解できなさすぎて一瞬で眠くなってしまってウトウトして、ハッと起きてまた読むんだけど2行でウトウト…………
いやー…………名作だからと思って買ってみたけど、ただの睡眠薬だわこれ。
するとそこに電話がかかってきた。
知らない番号だ。
「あ、もしもし。」
「あ、金丸君?僕ゆうふれ音楽祭の者だけど、3月13日出れる?」
え?なに?
いきなりなに?
ドストエフスキーくらい意味がわからない。
「え…………?どういうことですか………?どちらさまですか?」
「あのねー、島さんから聞いてね、出てもらおうと思って電話したんだわ。で、明日青少年ホームで会合するから。よろしくね。」
「え、ちょ、ちょっと待ってください。わ、わかりました、出させていただきます。それで、明日は何を持っていけばいいですか?」
「んー、別にないよ。強いて言えば気合いかな。よろしく!!」
マジで意味がわからん展開だけど、どうやらライブのオファーみたいなので、とりあえず出させてもらおう。
なんか豪快な感じの人だったけど大丈夫かな…………
というわけで翌日。
この日は休みなので朝からバスで木屑にまみれて作業し、それから夜19時に例の青少年ホームという市民会館みたいなところに向かった。
キョロキョロしながら建物に入るとおじさんがいて、会議室に通された。
そこには10人くらいのおじさんたちがいてみんなで打ち合わせをしてるところだった。
「文化ホールはステージ上で低音が回るからベース大き目でね!!」
「自分の演奏終わったからって外にタバコ吸いに行くようなことはすんなよ!!」
激しい口調でガヤガヤと言い合いしているおじさんたち。
めっちゃロン毛の人がいたり、革ジャン着てる人がいたり、12バンドほど出るようで、ほとんどがハードロックやメタルらしい。
この穏やかな富良野でロックとメタル。
んー、似合わない。
でも話ではかなり昔から、それこそ北の国からの撮影をやってるころから富良野ではメタルのムーブメントがあったらしく、このライブの主催者のおじさんが若い頃にその先駆けとして富良野にロックを根付かせたんだそうだ。
「チケットは1人ノルマ5枚ね!!ちゃんと呼べよ!!あ、金丸君はよそから来てて知り合い少ないだろうから無理しなくていいから。」
「いや、30枚くらいもらっていきます。」
「え!?ホント!?」
「いやー、さすがは島さんの懐刀だわ。」
青少年ホームを後にして中田さんの家に行くと早くも15枚売れた。
中田さんのお友達やヒロちゃんの同級生たちみんなで見に行くからね!!と言ってくれる。
んー、今や富良野に知り合いめっちゃいるから30枚くらいすぐさばけそうだな。
来てくれるみんなのためにもいいライブしなきゃな。
それにアコースティックだからってあのメタルおじさんたちに舐められないようにガツンと気合い入った歌を歌おう。
曲作り、練習、旅人バス、やることは無限にあるけど、北海道で絶対やりたかったことリストもコンプリートしないといけない。
北海道で絶対にやりたかったことのひとつ、それはワカサギ釣り!!!!
そう、凍った湖に穴開けてそこに釣り糸垂らして氷の下の魚を釣るアレだ。
これぞ北国って感じだよなぁ。
アレどうしてもやってみたかったんだよな。
というわけでいつもの仲良しメンバー、みゆきさん、カミデさん、ユウキのみんなで夜中にウチに集まって飲んだくれて雑魚寝し、朝から4人でワカサギ釣りに出発!!!
雪深い山道を走るワゴンRの中でビール飲んで朝からグデグデになりつつ大盛り上がりでかっ飛ばし、1時間かけて到着したのは、秋に1人で紅葉を見にやって来た桂沢湖だ。
完全に凍り付いていて、山の谷間に突如真っ白な雪原が現れた。
売店らしきボロボロの小屋の戸を開けると、中にいたのは五郎さんそっくりのモミアゲおじさん。
あ!!この人か!!
桂沢の主は女の人に弱いからワガママを言ってもいいという情報を入手している。
きっとこの人のことだ。
でもまぁ余計なことは期待せず普通にレンタル。
餌、竿、仕掛け、氷をすくうおタマ、これで1人1000円だから悪くない。
雪モサモサの坂を転げ落ちながらポイントに到着。
すでに穴の開いている釣り場が出来ていて、おじさんたちが糸を垂れている。
「早く!!マジデイソイデ!!」
時間はいくらでもあるのに、俺・みゆきチーム、ユウキ・カミデチームに分かれたもんだから、もう競争心に火がついてソッコーで釣りスタート!!!
ワカサギ用の餌(ウジムシ…………)をものすごい小さな針につけていく。
そのままつけるのではだめ。
カミソリで半分に切って汁を出さないと食いつかないらしく、かじかむ手をウジムシの汁まみれにしてやっとこさみゆきさんのと自分のにつけてスタート。
うん!!マジデキモイ!!!!
そして開始1分!!
「きゃあああああああああ!!!」
カミデさんの絶叫が静かな湖に響き渡る。
見ると、針にニボシみたいのがくっついてる!!
「すげぇ!!」
「写真!!写真!!」
浮かれあがってわめきまくりで、周りの人に迷惑なことこの上ない…………
しかし、次々と釣れていく中、俺だけうんともすんともいわん。
すでに2匹釣り上げているみゆきさんが慰めてくれる。
寒いし悔しいし…………もう嫌だあああああ!!!
なんで俺だけ釣れねぇんだあああああああ!!!
もう辞めてビール飲んだくれてやる!!!と竿をあげると……………
ええええ!!!
ついてる!!ニボシがついてる!
そこからはもう止まらなかった。
面白いように俺だけ釣れまくり。
結果発表
★4位………ゆうき(2匹)
★3位………カミデさん(6匹)
★2位………みゆきさん(13匹)
★1位………俺(15匹)
「くそ!!なんで俺だけ釣れんとか!!」
「ユウキ君、まずワカサギの気持ちになることが大事やね。」
売店に戻り、ストーブで温まりながら喋っていると、さっきのモミアゲ五郎さんが重装備で戻ってきた。
手には恐ろしい量のワカサギが入ったビニール袋。
「だめだっただろ?昼は釣れねぇんだぁ。やるなら朝だ。ん?これか?まぁ100匹くらかな。こんなの30分だぁ。やるよ。天ぷらにでもしな。」
五郎さんすげすぎる…………
俺たち何時間もやってたのに、全員の合わせても五郎さんの30分にはるか負けてる。
そして女に弱いという情報通り、とっても優しいおじさんだった。
帰りの車の中はみんなクタクタになってぐったりし、富良野に戻ったらいつもの千石食堂にやってきた。
「あらぁー、釣りたてかいぃー、今揚げてあげるからねぇー。」
大好きな千石ばあちゃんに天ぷらにしてもらい、カツカレー食べる。
ああああ!!!カツカレー死ぬほどうまい!!
そしてワカサギの天ぷらもサイコーー!!!
お婆ちゃんありがとう!!
さらにそのままスノーボードへ。
みんなホテルの従業員なので全部タダだ。
パウダースノーがナイター照明にブワッと舞い上がり、キラキラときらめく。
あー、ワカサギ釣って食堂で天ぷらにしてもらって、 スノーボードして。
富良野、なんていいとこなんだろう。
「うおーーーーー!!」
ものすごいスピードで直滑降していくユウキ。
さすがに疲れ果てて、もう帰ろうかということになって女の子を送って俺とユウキは山部の家へ。
さっさとシャワー浴びて寝ようというところに玄関チャイムが鳴った。
おい、誰だこんな時間に…………
「ほらー!!まだ寝させないよー!!」
ドアを開けるとコンビニでビールをしこたま買い込んできてるみゆきさんとカミデさん。
まだ飲むのかよ!!!
結局この夜も朝方まで飲んだくれて気絶するみたいにみんなで雑魚寝した。
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