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新しいバイトはホテルのベルボーイ







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12月13日 【富良野ベルボーイ編】





お昼前、11時半に社員寮に到着した。



広い駐車場にたくさんの車が止まっており、ここから従業員たちが専用のバスに乗って職場に向かうということ。


今日から新しいバイトが始まるんだけどめちゃくちゃドキドキするなぁ。


上手くできるかな。







ゾロゾロと大勢で送迎バスに乗り込み、森を抜けて山手のほうに走っていく。


木々のトンネルを抜けると、そこに現れたのは巨大なホテル。



そう、これから始まるのは富良野で1番豪華なホテル、新プリンスホテルのベルボーイ。



いやいや、俺がこんなホテルでベルボーイ?



ベルボーイってドア開けたり荷物持ったりして1番お客さんと接するところだよな?


めっちゃスマートに案内しないといけない仕事を俺みたいなただの旅人がやっていいのか?




ちなみにユウキはホテルの中の売店に配置されている。


売店のほうが気楽そうでいいよなぁ………




バイト代は時給700円。

月22~23日の出勤で12~13万円くらいか。



富良野は夏のラベンダーも有名だけど、冬のスキーリゾートが超有名で、町中スキー客で溢れかえるらしく、おかげでホテルも冬のシーズンになると繁忙期ってことで臨時のスタッフを増員するというのが昔からの通例。


富良野の地元の人たちも冬になるとそうした仕事を副業でやったりするし、山田親方も夏の間は大工さんだけど冬になったらスキーのインストラクターをやったりしてるそうだ。



にしても時給700円は安すぎ………


このバイトのために長かった髪の毛をバッサリ切って、中学生以来のカリアゲ君になってるし。










緊張しながら受付に行くと、まずは先輩と一緒に制服を選んでもらうことに。


緑色の詰襟ジャケットに金色の装飾、コックさんみたいな帽子をカポッかぶるとまるで軍人さんだ。





そして説明を受けながら館内全てを見て回る。


うん、広すぎる。


十数階建て、数百室、レストラン、ゲームコーナー、サウナ、プール、裏手の広大なスキー場のコースからリフトの位置まで。


壁の中にある社員通路なんてマジで迷路だ。



さらに何種類もあるバスの発着時刻と行き先、各種料金、富良野の観光スポット…………


マジで覚えることありすぎて途方に暮れる。


これ研修とかどんくらいあるんだろ。




「はい、じゃあここ立ってて。わからないことはすぐ聞いてね。」




えっ!?



えええ!!もう!?





いきなりエントランスの脇に棒立ち。




いやいやいやいや!!!!


こんななんもわからんアホを客前に立たせたらいかんやろ!!!



「すみません、タクシー呼んでもらえます?」



ほ、ホラァ!!!来たやん!!!

やべぇ!!


どうしよう!!!



「は、はい………あ………少々お待ちく、」



「お客様、10分ほどお待ちいただけますか?1台でよろしいですか?お名前は?はい、承知いたしました。」



すかさずやってきて華麗に対応する先輩。


すげえええ…………



こんなこと俺にできるのか?







下手なことはできないので緊張でハラハラしながら立っていると、向こうの売店コーナーにいるユウキが見えた。


棚の陰から田中邦衛の顔真似をして笑わせてきてめっちゃ吹き出しそうになって下を向いて肩を震わせる。


やめろバカ!!

面白すぎるやろが!!






もーー!!とにかくわからん!!!


何聞かれても知らんもんは知らん!!!


レンタカー?知らん!!!


麻雀したいんですけど?知らん!!!


今日覚えたことといえば荷物の預かりかた、そして入り口に車がついたらすぐに外に出て、ドアを開けて荷物を持つこと。


早く色々覚えてスマートに接客できるようにしないとな。


社員食堂の300円のご飯美味しかった。








なんとか1日目を終え外に出ると凍てつく空気に喉が痛くなった。


すでに−10℃。

最高気温も−2℃。


これじゃ雪も解けんわな。


水気のないパウダースノーの上を歩くとギュッギュッと音がして、まるで片栗粉の上を歩いてるみたいだ。







荷物が届いてるからおいでーと中田のおばちゃんから電話が来た。


わざわざ仕事終わりを狙ってかけてくれるなんて本当優しいよなぁ。


ユウキのお母さんが宮崎の鳥串セットを中田さんに送ってくれたようで、それをみんなでいただいた。



焼き鳥が大好きな中田のおじちゃんが大喜びしてるのがすごく嬉しかった。



「やー!!何その頭ー!!」



カリアゲの俺を見てヒロちゃんが大笑いしている。


賑やかな食卓がすごく落ち着く。


















ホテルバイト2日目はクロークっていうシフトだった。


俺のポジションにはベルボーイ、2階のトランクルームのクローク、あと室内温水プールの監視という3種類のローテーションがある。


クロークってのはスキーに行く人たちの荷物を預かる場所なんだけど、ここはめっちゃ楽勝だった。


ただ単に荷物を預かって札を渡すだけ。


でもちょっと複雑なことを言われると伝家の宝刀、「少々お待ちください。」



これ1日に何回言ってるかな。



あー、それにしても今日は朝イチから酒蔵「金滴」のもろみ仕込みの見学に行って、それから砂川の義士祭ってものに行く予定だったんだけど、バイトだからしょうがないか。







仕事終わりにいきなり富良野の町の中にあるバーのマスターから電話がかかってきて年越しライブやるから出演してくれとか、FM富良野のパーソナリティーさんから連絡があってラジオに出て旅の話と生演奏やってくれとか言われ、なんか不思議な感じだ。


富良野に入ってから色んなことがとんとん拍子に進んで怖いくらい。


調子がいい時と悪い時は波でやってくる。

そのうち悪いのがドーンとやってこないか心配だ。




毎日のバイト、休みの日には春までに仕上げないといけない旅人バス、酒蔵の見学、ライブ、ラジオ、片道6時間かけてオホーツクに流氷も見に行かないといけない。


あ!!タンチョウも!!


休む暇なんてどこにもないけど、全部クリアして北海道から出発しないとな。










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