2004年 7月21日
11時ごろに昨日のお巡りさんから電話がかかってきた。
「あー金丸君?あのねー、昨日の罰金なんだけどねー、あれ1万円にできるみたいだから、もう一度盛岡これる?」
まだそんなに離れてなかったので、戻って東警察署にやってきた。
「ああ、ごめんねー、手間取らせちゃって。ちょっと待ってて。書き直してくるから。何か飲もうか。はい、どれか押しな。」
自販機に100円を入れてくれるお巡りさん。
こんなに俺のこと考えてくれて、もうめっちゃ優しい…………
耳ギョーザなのに…………
そしてしばらくして書類を作り直してくれ、2000円を返金してくれた。
「頑張ってな。いずれ、シートベルトひとつも気をつけて。」
お巡りさん、ありがとうございました。
ホント、車の罰金はマジでバカバカしいから気をつけなきゃな。
あー、人間の皮をかぶった親切、それが岩手県民。
せっかく盛岡に戻ってきたので、出発する前に昨日の曹洞宗のお爺さんのところに行ってみた。
盛岡って北山地区と寺町地区に寺院が固まってるので、なんでなのか聞いてみた。
その昔、市内で大火事があった際に寺院をこの2ヶ所に移したんだそう。
建物疎開ってやつだ。
「人間の素晴らしさはいくつ物差しを持っているかです。」
うーん、よくわかんないな。
わかんないけど、きっとすごい言葉なんだろうな。
物差しか。
歳取ったら理解できるようになるかな。
お巡りさんに買ってもらった缶コーヒーを飲みながら、455号線で4回目の山越えをしていく。
山奥にはそそる光景が満載だ。
林の中の廃屋、ダム湖の中島にある鳥居、早坂高原は1000メートル近くある高原。
ひとりぼっちで車のハンドルを切る。
寂しげな風景の中にいたらもっと寂しくなりたくなってきて、車を止めて草原を歩いた。
人の気配なんてまったくないあぜ道が空に続いてる。
連なる山々、緑一面の草原にポツンポツンと高山植物が背を伸ばしている。
穏やかな風。
きらめく光。
ただ1人、空の下、有刺鉄線をくぐって草原を歩く。
倒れた巨木の写真を撮っていると、後ろに牛の群れがいた。
30頭くらいがジーーーっとこっちを見ている。
こっち来るなよーーって思いつつ写真を撮り続け、ふと振り向くと仔牛が1頭近づいてきた。
それ以上来るなよってまた写真を撮り、振り向くと2頭になってる。
また振り返ると今度は3頭に。
子供は好奇心旺盛だ。
後ろでは大きい牛たちが心配そうにこっちを見ている。
頭を撫でると驚いて後ろに下がり、また近寄ってくる。
可愛いなぁ。
しばらくすると群れに戻って行き、草をムシャムシャ食べながらゆっくりと移動していった。
光の中、とても幻想的な風景だった。
龍泉洞は日本3大鍾乳洞のひとつらしいけど入場料1000円。
かなり見どころ満載みたいで迷ったけど、今の俺には1000円は痛すぎるのでパス。
罰金なかったら入ってたかな…………
ようやく海沿いの45号線に抜け、まずは田野畑村の鵜の巣断崖にやってきた。
岩手三陸リアス式海岸の屈指の名所であるこの岬。
ああ、久しぶりの海だなぁ。
先端に立つとはるか200メートル真下に、かなり透明度の高い海と荒々しい巨岩、奇石。
そして5層に連なる断崖絶壁。
こりゃすごいわ。
ここから20キロくらい北上したところに北山崎という岩手三陸の最大の名所があるんだけど、この2つを繋ぐ遊歩道の途中にタガネで掘ったトンネルがあるらしく、どうしても見たくて机浜から北山浜へ向かって歩いた。
軽い気持ちで行ってみたんだけど、いやいや、半端じゃないやんこの山道…………
リアス式海岸なので浜から次の浜まで山が突き出していて、結構ハードな山越えをしないといけない。
きつすぎるぞ…………
汗だくになりながらやっとのことで1つ目の山を越え向こうの浜に出てきた。
すると、2つ目の断崖の下にポッカリと穴が開いていた。
おいおいマジかよ。
これがタガネで掘ったトンネルか。
軽く足を踏み入れてみたけど、光がなかったらとてもじゃないけど怖くて進めない。
こりゃ無理だ。
諦めて車に戻った。
暗くなってきたのでダッシュで北山崎に向かった。
猛ダッシュで走ったんだけど、もうかなり暗くなってしまって全然満喫できなかった。
んー、しょうがないか。
ペースを上げるって決めたし、先に進むことにした。
久慈市に入りお風呂を探したけど、閉まってて入れなかった。
これで断風呂4日目。
毎日汗だくになってるのに4日も風呂無しはさすがにキツい。
ラジオでは首都圏が39℃に達したと話している。
季節の変わり目のことを思い浮かべる。
あー、孤独ではないけど、女の人の肌が恋しい。
まぁこんな汚い体じゃ抱きしめることもできんけど。
ファントムのエンジンを切り、汗をかきながら日記を書いた。
翌日。
朝イチで小袖海岸にやってきた。
ラジオでは梅雨明けを嬉しそうにつげる声。
長く空を覆っていた厚い雲はちぎれとび、久しぶりに青い空が顔を出した。
空気も澄み、水平線がくっきりと空に線をひき、小袖のごつごつした巨岩が白い波を受け気持ちよさそうだ。
少し冷えた風。
東京は相変わらず40℃近い暑さらしい。
小袖は海女の地区。
海女の北限といわれ、夏場には観光客に獲れたてのウニやツブ貝を振舞ってくれるらしい。
そんな町にある海女センターというところに行ってみた。
「~~~~予約が~~~~~~~80歳~~~~~~だぁ。」
同じ国ですか?ってくらいほぼ何言っているかわからんかったけど、海女の素もぐりを見るには事前予約が必要で、古い人では80歳で潜っている婆ちゃんもいるよ的なことだったと思う。
ちなみに久慈は空気投げを発明した柔聖、三船久蔵の生まれた町。
さぁ北上するかー、とハンドルを握ったんだけど、今日って良い天気だよなぁ。
こんな良い天気だったら昨日の北山崎、綺麗だろうなぁ…………
……………………………………………
ああああ!!!戻ろう!!!!
どうしても気になってしまい、40キロひき返して昨日の北山崎にやってきた。
海のアルプス、北山崎に到着。
展望デッキに立つと、岩手三陸海岸のギザギザとした地形が青い海にどこまで伸びていくのを観ることが出来た。
あー、なんてきれいなんだ。
戻ってきて良かったな。
ちょっと歩くけどここは第2展望台まで行くべし。
やり残したことを済ませたら5回目の、そして岩手最後の山越え。
岩手は四国とほぼ同じ大きさで、しかも山だらけだから移動だけでだいぶ時間くってしまったな。
野田から25号線で平庭高原へ登っていく。
白樺の美しい森を駆け抜け周りを見渡すと、広大な樹海にプカプカ浮かんだ雲の影が落ちている。
茅葺きの曲り屋、豪雪地特有のおかっぱ頭の屋根。
家を囲うハセの骨組み。
日本の原風景を通り抜け、途中トウフ田楽を食べ、やっとこさ二戸市に降りてきた頃にはもう17時だった。
二戸市は岩手最北の都市。
この辺りには一戸から十戸までの数えの地名が分布しているようだ。
駅で情報収集しがてら、腹ごしらえすることにして教えてもらった蕎麦屋さんに向かう。
メインストリートから細い路地に入ると、ものすごくわかりにくいところに暖簾がかかってるだけのただの古い民家がある。
ここがそば・うどん屋さん『小野屋』。
婆ちゃんちの居間のような、長机が置いてあるだけの座敷。
小さいテレビ、障子、扇風機。
450円の天そばが感動的にうまい。
「こんな婆ちゃんの写真撮ったってしょうがねぇよぉぉぉ。」
横になってくつろいでたらそのまま寝そうだった。
思わず、婆ちゃん風呂入るわー、って言ってしまいそうなくらい落ち着けるお店だった。
それから座敷童子のいる温泉地、金田一温泉へ。
小さいひなびた温泉地だけど、ここにある緑風荘という宿には、座敷童子がよく出るという部屋があり、平日では半年先、週末だと2年先くらいまで予約がいっぱい入ってるんだそうだ。
座敷童子は古い家に住み着く子供の妖怪で、寝てる人の枕をひっくり返したりいたずらをするらしいが、その姿を見た人には幸運が訪れるという。
んー、見てみたい。
妖怪って絶対いるよな。
先を急ぎたいところだけど、今週の土曜が金田一温泉の祭り、日曜が二戸の祭りという情報をゲットしている。
ちょっとここで足を止めるとしよう。
それにしても飲み屋街がない!!!
ここで稼ぐつもりだったのに!!!!
あと7000円か…………
いけるかな…………
安い共同浴場に入り、今日はここでストップ。
あー、今週からずっと祭りラッシュだなー。
全部制覇してやるぞ。
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